ゼミの意義

1.はじめに

大崎 洋 名誉教授
大崎 洋 名誉教授
皆さんにとって就職はまだ先のことですが、大学で何をしたか、なかでもゼミでどんなことを学んだかを面接で聞かれることが多いと思います。
それは面接の担当者が大学のゼミで実際勉強した体験があるからでしょう。
また、大学案内のパンフレットをみると、かならずゼミの紹介があり、ゼミで学んだことが仕事にも生かされているという卒業生の記事が掲載されています。
私の大学生活(もう45年前のことですが)をふりかえっても、ゼミは大学生活の大半を占めていました。
そこで今日のガイダンスではゼミの意義を中心に、ゼミとはどういうものなのか、そのあり方や問題点などについて私の体験談にふれながら皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

2.ゼミナールとは

授業の形式からみると、ゼミとは指導教授と少人数の学生から構成され、テーマを決めて質疑応答を中心に報告・発表や討論などによる授業をいいます。

ゼミの指導方法は学問の性質、学年、学部、学科、指導教授の指導方針によってさまざまです。演習形式の授業としては、1年次の基礎演習と2年次以降の専門ゼミ、それに共通科目を対象とした教養演習があります。

基礎ゼミは新入生に対する導入科目であり、おもに勉学への動機づけと学習に対する姿勢やスキルを習得させることを目標にしています。これに対して専門ゼミでは、2・3年次で専門分野における基礎的な知識と学習能力を身につけさせ、4年次で学習成果の集大成としての卒論を作成させることによって職業人として社会で通用する人材を育成することを目標にしています。なお、ゼミによっては正規の演習のほかにサブ・ゼミという形で授業が行われることがあります。私の場合には英語で書かれた経済学の教科書をサブ・ゼミで講読しました。

授業のやり方には、ひとつのテキストを分担して読んで報告・討論する輪読、問題を質疑応答する口頭試問、グループごとにテーマを決め、学習成果を報告し討論するグループ学習、現地調査(フィールドワーク)、事例研究などがあります。

授業科目としての講義と演習との相違点は、講義が先生から生徒への知識の一方向的な伝達で生徒が受動的にしか参加できないところにあります。これに対して、演習では教師と学生間、それにゼミ生同士のあいだで双方向的なコミュニケーションが交わされ、相互学習と理解が生まれます。また、「3人よれば文殊の知恵」という諺が示すように、多くの意見や考えを出し合えばより良い解決策がうみだされます。つまり、1+1=2以上になる相互啓発効果が発揮されます。それだけに学生の能動的な参加がもとめられます。実際、ゼミが充実するか否かは参加する学生の意欲と能動性にかかっています。

なお、ゼミ活動にはゼミ員相互の親睦を図るコンパ、学びと親睦をかねたゼミ合宿、ゼミの結束と実力と試すゼミ対抗試合やゼミ発表大会などがあります。「良く学び良く遊べ」というスローガンをかかげるゼミが多くみられます。

ゼミが共に学ぶ者の組織である以上、責任ある行動がもとめられます。約束を守り、自分が書いたものや発言に責任をもち、挨拶や連絡を取るといった最低限の礼儀作法は守ってもらいたいものです。つぎにゼミの選択について触れてみたいと思います。

3.ゼミの選択

ゼミには選択制と必修制があります。後者の場合、基礎演習のように全員が履修できますが、前者の場合選考が行われます。選考の基準はいろいろありますが、試験、小論文、面接、先着順などが採用されています。一般に成績がよい学生ほど問題意識も勉学意欲も高いと推定されますから、採用する教師側は当然成績がよい志望学生を選考したがります。

他方、学生側は人気のあるゼミに殺到しますから、成績優秀者ほど希望するゼミに入れることになります。しかし、成績の良くない学生は希望するゼミを断られ、ゼミ探しに苦労することになります。「やっぱりもっと真面目に勉強しておけばこんな苦労はしなくてもすんだのに」と後悔することでしょう。彼(または彼女)は競争社会の厳しさと因果の恐ろしさを就職活動のまえに味わうことになります。

皆さんがゼミを選択するさいには、いったん決めたらあとで変更ができないのですから、まずゼミナールの内容、性格をよく調べえたうえで判断してください。選択の基準としては、研究テーマ、指導教授、ゼミの雰囲気など考えられます。

研究テーマは多様ですが、今日の経済の仕組みは複雑にできていますからどの視点あるいはどの入り口から対象にアプローチするかの違いだと思います。たとえば、生活経済論ならば家族ないし家計の立場から経済を捉えています。それからどういう分析手法を採用するのかも調べておく必要があります。

つぎに指導教授については、その人柄、学識すなわち知識と見識、考え方、指導方針などが考慮すべき点でしょう。これから身近に接する先生なのですからどういう性格でどういうことを研究されてこられたのか、どういう教育方針を持っておられるのかなどを知っておくべきでしょう。

ゼミの雰囲気とはゼミ室にただよう空気のようなものですから言葉で表現することは難しいです。ゼミは本来教師と学生が学問をともに学び討論し「英知」を磨くところだと思いますから楽しく賑やかというだけでなく知的でアカデミックな雰囲気があってほしいですね。

4.私のゼミ体験

私の父は脱サラで小さい販売代理店を起業し経営していましたが、商学部を出でいたので私もあまり迷わずに商学部に入学しました。授業は流通論、販売促進、マーケティング、保険論、金融論など個別的・実務的な科目が多くありました。そこで経済制度や一国経済全体を理論的に勉強したいと思い理論経済学のゼミを選択しました。

指導教授は本学の経済学部長を歴任された大野信三先生でした。なぜ選択したのかをはっきり思い出せませんが、多分、学識の豊かさ、学問に対する情熱と真摯な姿勢、エネルギッシュで自信に満ちた講義など当時まったく専門知識のない大学3年生にとっても他の先生とは何かちがう強い印象をうけていたのではないかと思います。ただ、私にとっては先生の顔は厳しく近寄りがたく見えたのでちょっと迷いました。それというのも以前先生の講義を一番前で聞いていた時に、「君の姿勢は良くありません」と厳しく注意され、怖い先生だなという印象をもっていたからです。まあ怖さ半分ありましたが、このゼミに入れば軟弱な自分が鍛えられるのではないかと考えました。

たしかに学生生活はゼミに入って大きく変わりました。大学に入った当初は大教室の講義で遠くに先生を眺めているような状況で話し相手になる友人もいなく孤独で心細く感じました。そしてなんとか自立するために自分の道をみつけようと模索していたのですが、生来気が弱く人づきあいも苦手で酒も飲めないようじゃビジネスの仕事もやっていけそうにもないと不安に思い、生き方に関する本を手当たりしだい読み漁っていました。それだけにゼミに入った時には自分の居場所がみつかり暗いトンネルから出てようやく先が見え始めたような感じがしました。

ところで、ゼミの授業は毎回20問近い演習問題を回答するという口頭試問形式で進められました。報告者があらかじめ指定されていないで誰が当てられるか全くわからない状況でしたからゼミ生は全員入念に下調べし準備しなくてはなりませんでした。実際、ゼミの授業がある金曜日の前日には図書館で夜遅くまでゼミ生は励ましあいながら準備したものです。授業の当日はいつ当てられるか、そのときはどう答えていいかたえず緊張の連続でした。私は生意気にも先生に反論しようとしましたが、先生の博識に歯が立ちませんでしたし、生半可な回答をすれば逆に突こまれてしまうのが落ちでした。ともかく金曜の授業が無事すんでやれやれ1週間がおわったという感じでした。

ゼミでは先生・学問・友人と出会い、経済学の学習や体験をつうじていろいろなことを学んだような気がします。そのうちのいくつかをあげると、学問や仕事に真剣に取り組むこと、人は各自の持ち前の性格どおりに成長して、それだけの実績を残すものです、したがって、他人と比較するのではなく自分の持てるものを精一杯発揮するように生きること、学問の習得や経験からえた英知を磨くことによって各人の性能と性格を大きく変えることができること、自己に誠実に生き各方面のエキスパートとして一生涯自己教育を怠らないこと、問題解決のためにはとことん頭を使い、神経を煩わせないように努めること、そして忘れてはならないことは決して外見だけで人を判断してはならないこと、などです。先生は本当に心温かい人でした。いずれの指針も私のような中途半端な性格の持ち主には容易に達成できない努力目標なのです。

5.ゼミと就職

最近、格差社会がマスコミで取り上げられているように、いつたん社会に出れば企業も個人も厳しい競争に勝ち残っていかねばならない状況にたたされています。現在は大学を出ても3人に1人は正社員になれません。かつてのように大卒で入社すれば終身雇用と年功賃金制度のもとで昇給・昇進によって安定した地位と収入が約束されていた時代は過去のものになりつつあります。成果主義の導入と雇用の流動化にともなって正社員が減り、それに替わって非正社員が増大し、所得の2極化が進んでいます。

本学の卒業生の知識や実力は一流大学の卒業生に決してひけをとらないのですが、世間では一段低くみられているかもしれません。そんなときは黙々と仕事に精をだし確かな実績を残してもらいたいと思います。そうすれば世間の見る眼は変わってくるでしょう。見ている人は必ずどこにもいて公平に評価してくれるものです。努力が報われない不公平な社会は変えていかねばなりません。どんな困難に遭遇してもくじけずに自分の道を切り開いていく精神的な支え(バックボーン)は大学での模索やゼミ・サークル活動で培われるものと信じています。

6.ゼミの現状と問題点

大学教育では少人数教育のゼミが重要な位置づけがなされているにもかかわらず、活発でないゼミの例は多いようです。活発なゼミもありますが自分のゼミをみてもゼミ運営でいつも悩んでいます。

まず出席率を見ても、1年次の基礎演習から2・3年次の専門演習、4年次の卒論研究と年次があがるにつれて出席率は下がっていきます。私はこれを出席率低減の法則といっています。また、従来からゼミを選択しない学生も2割ほどいます。

ゼミ運営がうまくいかない背景・理由としては、以下のような事情が考えられます。就職活動の早期化、進学率(大学の大衆化)に伴う学生の多様化、個人主義化、学力低下と勉学意欲の低下、教員と学生間ならびに学生間における人間関係の希薄化、それに討論技術の未熟さ、などがあげられます。いずれにせよ教員側は「学生が出席もしないし、下調べもしてこない」、「目標もなく自分で考え積極的に発言しない学生が多い」と不満をのべていますが、学生側は「ゼミでやっている内容が役に立たそうにないのでおもしろくない」とか「先生が一方的に発言してしまうので討論ができない」といって噛み合いません。

たしかに学問は知的好奇心を満足させるためにあると多くの教師が考えているのに対して、学生はゼミに人間的なふれあいを求め勉強するにしても実際に役に立つといった実利的なものがなければ興味や関心を示さない食わず嫌いの面があり、両者の期待がなかなか噛み合いそうにありません。

いずれにせよゲーム感覚で楽しく学ばせる工夫を凝らせば学生がついてくるかもしれませんが、出席もしない、準備もしてこない、発言もしない、といったやる気が乏しい学生を相手にしてはいかに優秀な先生でもゼミを運営することはおぼつかないでしょう。

最近、趣味を共にするクラブやサークル活動に学生生活の楽しみを求める傾向が増大しゼミから遠ざかる学生が多く見られるのは残念です。また、学業の集大成とも言うべき卒業論文を書かない学生も多くみられます。

私は自ら問題を設定し、なぜそうなるのかの解答を論文に仕上げた成果は大学生の学力を証明するいわば「品質保証書」の役目を果たすものと考えています。どれだけの実力を身につけたかは卒論を作成してみればただちに判明します。テーマの選定から資料の収集、アウトラインと構成の決定、論文の執筆、中間報告の発表、討論、先生の指導、論文の手直しと推敲という卒論作成の過程で身につけた技能や苦労は将来どんな仕事についてもきっと役に立つにちがいありません。それだけにゼミに入っても労を惜しんで卒論にチャレンジしようとしない学生が出てくることは大変残念です。

7.学生諸君に望むこと

たとえ希望したゼミには入れなかったり期待したとおりのものでなかったとしてもそこであきらめたりしないで、どうしたら自分たちのゼミを活性化することができるのか、先生やゼミ生仲間と運営方法に関して真剣に討論し改善案を提案してもらいたいです。「英知を磨く場所はここにしかない」という気持ちをゼミ生一人一人が持ってもらいたいものです。

つぎに先生や図書館をもっと活用してもらいたいです。各先生は専門分野に関して豊富な専門知識をもっており、教えることが本職ですから相談にくればどの先生も快く応じてくれると思います。また、図書館やインターネットには豊富な情報がありますから、いろいろ違った考え方があることを知って視野を広げてもらいたいです。そうすれば討論もより活発になるでしょう。

8.まとめ

私の学生生活やゼミ体験を中心にゼミのあり方や意義についてお話してきましたが、私が主張したかった点をまとめれば、以下のように要約されます。
 
  • どこの大学を出たかよりも4年間で何を学び体験したかの中身こそが重要です。
  • 大学は自分の道を模索するところであり、それは他から与えられるものでなく自分で見つけるものです。
  • ゼミは先生・学問・友人と出会い、互いに切磋琢磨し英知をみがくところであり、そこでの学習と体験は人間形成に大きな影響をもたらします。
  • なお、ゼミナーレの語源は種をまく、あるいは苗床を意味します。文字どおり、播いた種が大きく実を結んで成長する姿を目にすることほど教師にとっては大きな喜びはありません。
  • ゼミ運営の質(充実度)は教師の指導とゼミ生の意欲次第であり、それは大学における教育の充実度を反映します。
  • ゼミの活性化は教師と学生の双方にとって取り組まねばならない大きな課題です。



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