掛川三千代 准教授

持続可能な社会構築を目指す学問

 私の専門は、環境経済学、開発経済学、国際開発協力です。環境経済学は、「環境」と「経済学」が一緒になった言葉で、この言葉を聞いて、矛盾するのではと考える人もいることでしょう。確かに「環境を保護する」ことと、「経済」を動かしていくことは、矛盾する行動のように感じるかもしれません。

「環境経済学」という学問自体が人類の進歩の証でしょう。なぜなら、人類は、より豊かな生活を目指し、経済学の理論をベースに経済発展をしてきましたが、同時に、環境への負荷も増え、結果的には自然破壊や公害も引き起こしました。よって、環境と経済の関係を見直し、環境問題を引き起こさないように、また、環境問題自体を経済学の考え方を使って解決して行こうとするのが「環境経済学」と言えるでしょう。

 また、開発経済学は、開発途上国での貧困、就学率の低さ、安全な飲料水へのアクセスがないことなどの課題を、経済学のアプローチを使って、どのように解決していくのかを考える学問です。私自身は、開発途上国における経済開発が環境や社会に与える影響を、どのように避けることができるか、また負の影響を最小にしていけるのかということに強い関心を持ち、研究を続けてきましたが、どちらの学問も、最終的には、持続可能な社会づくりを目指しています。

国際社会に目を向ける

 高校時代は、「平和」ということに強い関心を持ち、どうすれば「戦争のない世界が作れるのか」と考えることが多かったです。振り返ると、私の小・中学、高校時代には、ベトナム戦争、ベトナムのカンボジア侵攻、ソ連のアフガニスタン侵攻と、アジア地域での戦争のニュースが流れており、学校でもクラスの担当教員が、これらの戦争を話題にすることが何度かありました。

 「第二次世界大戦が最後の戦争」と学校では教えてもらっていたはずですが、「なぜ、その後も戦争が続くのか」、「私たち、連合国の人民は」で始まる国連憲章で謳われていること(「(略)寛容を実行し、且つ善良な隣人として互いに平和に生活し、国際平和及び安全を維持する為に、私たちの力を合わせ。。。」は、なぜ、実践されていないのか、との疑問を持っていました。

 そのようなことを考える中で、自分としては、考えは単純でしたが、「世界の平和を構築するために、国連で働きたい」と考えるようになりました。そのような目標があり、大学では、国際関係論、社会学などを学びました。

 当時の世界は、米国を中心とする資本主義、自由経済圏の諸国と、ソ連や中国を中心とする社会主義国の諸国に分かれており、その様な世界情勢や、軍事力や経済力で進む「パワー政治」について学びました。同時に、「人間主義」、「経済だけではなく、人間のための開発」という言葉も強調され始めた時期でしたので、大学で学ぶ中で、「人間に焦点を当てた開発」とは、具体的に、どのようなものだろうかと、途上国での開発問題にも関心を持ち始めました。

専門を考える

 皆さんも、大学のどの学部で学ぶべきか、また、「自分の専門は何にしようか」と考えたりしているかもしれません。まずは、自分が、何に一番興味を持っているかを考え、追求していくと良いと思います。本を読むことも一つですし、友人をはじめ、少し歳上の人など、色々な人と話をしていくと、自分が学びたいことが、少しずつ見えていくかもしれません。

 同時に、焦ることもないと思います。私は、世界のことに関心を持ち、「国際関係論」、「国際政治」を学び始めました。同時に、社会の構成や人の行動を研究する「社会学」にも関心があり、それも学びました。現在、私は経済学部で教えていますが、経済学を学ぶと、社会での出来事全般を理解し、分析できる基礎力がつくと感じます。

 さて、私自身の話に戻りますと、本当の意味での専門を考え始めたのは、大学院修士課程に入る際です。先ほども述べた通り、高校時代、大学時代は、「平和構築に貢献するため、国連で働きたい」と思っていましたが、では、一体、何の分野で、どのように平和構築に貢献するかをあらためて考えたのは、大学院を受ける前でした。

 また、国連に勤務することが念頭にあったので、国連での「空席情報」(募集情報)なども参考にし、どのポストだと、どのような学歴や経験、スキルを持つ人を求めているのかなども調べました。結果的に、自分は環境分野で貢献したいと思い、環境を専門にすることに決めました。勿論、環境と言っても非常に分野は広いです。

 子供の頃から自然の中で遊ぶことが好きだったり、周囲に咲いていた草花などに関心があったことも影響していると思います。更には、日本としての貢献を考えた際、やはり公害問題を乗り越えようと努力し、状況を改善してきた経験は、日本人としての強みではないかとも考えるようになりました。

 修士課程はロンドンの大学院で学び、環境管理・計画をはじめ、環境経済学、経済開発学などを含めて包括的に学びました。世界から集まる学生たちとの討議を中心とした授業には、最初はついていくのが大変でしたが、私の英語力と討議力を高めてくれたと思います。また、今でも、その時の授業での討議を良い思い出の一つとしてよく覚えています。

開発途上国との仕事:持続可能な社会のために

 大学院卒業後は、日本での仕事を経て、国連開発計画(UNDP)ニューヨーク本部、タイ地域事務所、在ラオス日本国大使館、外務省、国際協力機構(JICA)ベトナム事務所、環境省と、様々な機関で、持続可能な開発や社会づくりを目指して仕事をしてきました。

 政策レベルでの仕事、プロジェクトの企画や実施、モニタリング、人材育成事業など多くの業務経験を積みました。国際機関での協力も経験しましたし、日本の政府開発援助(ODA)の仕事もしてきました。職場は変えていますが、自分としては、「途上国の人々のため」、「持続可能な社会づくりのため」と一貫した信念で仕事をしてきています。

 最近は、「SDGs達成を目指して」ということが主流ですが、「持続可能な開発」という概念は、1970年代から醸成されてきた概念であると、私は思っています。その大きな流れの中で、その仕事の僅か一部を自分もさせて頂いていると感じています。

多彩な人材を育成して、持続可能な社会を作る協働作業(ゼミでの学び)

 上述した仕事経験を経て、私は大学教員になりました。大学で教鞭をとっているのは、若い人たちに自分の経験を教える中で、学生と共に学び、一緒になってより良い社会、持続可能な社会づくりをしていきたいと思うからです。

 私は、ゼミの他、「国際開発協力論」、「Development and the Environment」(英語での授業)、「共通基礎演習(持続可能な社会を目指して)」(英語での授業)などを担当しています。
ゼミは、「持続可能な社会を目指した経済学」との副題をつけ、主に環境経済学、開発経済学を学ぶゼミです。

 最近では、気候変動を念頭に、いかに脱炭素社会を作るかが大きな課題になっていますので、気候変動のことや循環型経済を中心に学んでいきます。環境問題全般、途上国の貧困問題、開発協力に関心がある学生が多く履修しており、環境政策、市場を活用した施策のアプローチなどを学んでいき、実際にこれらのアプローチを社会実装していくには、どのような政策が必要なのか、また人々や企業が環境にやさしい行動を取るには、どのような条件や国による施策が必要なのかなども討議しながら考えていきます。学生の皆さんが卒業するまでには、国際的な動向を含め、環境対策の基本的な仕組や、持続性を念頭にした施策の仕組がわかるようになっています。

 加えて、フィールド研修も重視しており、各セメスターに1回ほどですが、SDGs達成に向けて努力している企業などを訪問し、現場を見せて頂いたり、企業スタッフの方と直接、意見交換する時間を作っています。

 大学での授業や討議は、理想論に目を向けてしまうというリスクもありますので、授業での学びを踏まえ、現場ではどのような状況なのか、現場での課題は何かなどを学ぶ機会を作っています。また、学生にとっては、その企業をよく知る機会にもなっており、「企業説明会ではわからないことが、今日は学べて良かったです」と言ってくれた学生もいました。
 
 もう一つの特色は、ゼミ合宿では、屋内での勉強の他に、自然体験ができる国立公園に行き、皆でハイキングなどを楽しみ、自然を満喫することです。自然の美しさ、不思議さ、魅力をゼミ仲間と体験することも重要な活動の一つとしています。
 このようなゼミ活動を通じて、学生にとっては、それぞれの関心があることを伸ばし、得意分野を通じて、どのように社会に貢献していくか、その力を修得できるよう工夫しています。私も、随所で学生たちをサポートし、アドバイスもしています。経済学部の学位を持つ学生として、ここまで環境のこと、気候変動対策のことを理解している学生は、一般的にはそれほど多くないため、とても貴重な人材と自負しています。学生たちの就職先は様々ですが、世界のどこかで、環境や一般庶民に配慮しながら、ビジネス活動を進めていると確信しています。

 毎年、新学期に新しい学生たちが入学してくると、私は新しい出会いに胸がワクワクします。「SDGs達成のために貢献したい」、「脱炭素社会は、どうやって作れるのか、学んでみたい」という人がいらっしゃれば、是非、創価大学、経済学部にお越しください。SDGsの達成に向けて努力しつつ、世界の平和構築に向けて、共に協働して行きたいと思います。



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