増井淳 教授

「仕事」に関する選択は人生の一大事!

 私は、「労働経済論」「ミクロ経済学」「マクロ経済学中級」という授業を担当しています。ここでは、労働経済論がどういう学問かを説明したいと思います。

 「労働」という言葉を聞くと、どんなことを思い浮かべるでしょうか?アルバイト、就職活動、残業、給料、正規・非正規社員、転職、結婚、家事・子育て、ワーク・ライフ・バランスなど、ざっと思い付くワードを挙げてみましたが、これらは全て「労働」に関連するトピックです。

 労働経済論では、働き手が利用可能な時間を何にどのくらい配分するかに注目します。仕事は忙しいけど高い報酬を好む人がいれば、収入はそこそこで良く自分の趣味(余暇)に多くの時間を割きたい人もいるはずです。

 仕事に大きなウエートを置くか、プライベートを重視するかは人によって異なりますし、自分がライフステージのどの段階にいるかによっても、直面する問題や選択の結果が変わってきます。若いうちは仕事一筋という人も、結婚して子供ができると家事や育児に時間を費やすことになるでしょう。

 労働経済論では、働き方についての自分の考えと他者の考えを照らし合わせながら、自らにとって望ましい働き方とそれを実現する社会の姿についてイメージを膨らませてもらいます。

 経済学の知識を用いて法律や制度が現在の社会で果たす機能を学びながら、理想とする社会の実現に向けた手がかりを探り出してください。

研究の原点は、労働サービスは「生身のヒト」により提供されるという事実

海外に行くと、食文化や働き方など、現地の生活を体感できます(写真はシンガポールのオーチャード)
 大学時代の私は、2年次まで興味をひかれるテーマを見つけられず、何となく勉強していた状態が続きました。大学院に行きたいという希望はあったものの、周囲の友人のほとんどは就職希望であり、将来自分がしたいことは何なのかを見つけられずにいました。

 その状況が変わったのは、たまたま目を通していた経済学系の書籍の中で、あるトピックに関心を持ったためです。それは「効率賃金仮説」と呼ばれる理論で、働き手は高い賃金を得ることで仕事に取り組む意欲が増すことに注目したものでした。それまで授業では、賃金は企業にとってコストであり、できる限り下げることが望ましいと教えられていましたが、賃金を上げることで高い労働意欲を引き出し、企業の業績アップにつながる可能性があるという点に面白みを感じました。

 よく考えれば当たり前にも思えることですが、この時、労働サービスは生身のヒトが提供するものであり、その量や質は職場での待遇や人間関係、健康状態から影響を受けると気づけたのです。

 私たちは、人生で多くの時間を仕事に費やしますし、働き手のパフォーマンスは自身の感情やその時々の身の回りの環境から影響を受けます。働き手の行動やそれに影響を与える制度について学ぶ労働経済学は、より良い人生を過ごすために欠かせない学問だと言えるのではないでしょうか。

「格差」を解消し、社会全体を豊かにするにはどうしたらよいか

 自分がどんなことに関心を持っているか、あらためて聞かれると答えにくいかもしれません。そんな時は、自分が何に喜怒哀楽の感情を感じるかを考えてみてください。ちなみに、私が憤り(「怒」の感情)を感じるのは働く場において存在する格差であり、それが現在の研究テーマにもつながっています。特に、正規雇用者・非正規雇用者間の格差や職場でのジェンダー間格差に関心があります。

 何をもって格差と見なすかは難しい問題ですが、例えば、正規雇用者・非正規雇用者間では企業が行う職業訓練の機会に明確な差があります。非正規雇用者は、そうした訓練を受けられる可能性がかなり低いのです。

 皆さんも、人工知能(AI)関連の技術が急速に進歩していることはご存知かと思います。新しい技術の登場は私たちの生活を便利にしてくれますが、働き手の視点からすると良い影響ばかりではありません。例えば、自動運転技術がさらに進歩すれば、タクシーやバス、トラックの運転士は仕事を失う可能性があります。

 機械に仕事を奪われないためには、今あるスキルをアップデートさせたり、新しいスキルを身に付けたりする必要があります。しかし、非正規形態で働いている人ほどそうした職業訓練の機会を得にくい状況となっているのです。

 そうした格差をなくすことは大事ですが、それが政策を通じて実行するからには、社会全体の豊かさにつながらなければ国民の理解を得られません。政策を実施する際の費用は、税金で賄われるからです。どうすれば格差を解消し、かつ社会全体の豊かさの度合いを高められるのか、今後も追求していきたいと考えています。

「自分を磨く成長環境」「自分の居場所」としてのゼミ作り

 少人数で専門的な内容を学ぶゼミは、私が教員として最も力を入れている活動の一つです。私の専門分野は労働経済学ですが、ゼミでは自分自身が強い関心を持っている「行動経済学」を扱っています。人間の行動について心理・感情面から分析できる行動経済学の知識は、働き手や採用側である企業の意思決定を考える上で新たな視点を与えてくれます。

 例えば、夏休みの宿題を計画より後回しにしていた人ほど就職してから長時間労働や深夜労働に従事する可能性が高いことが分かっています。こうした個人の特性がもたらす影響を知ることで、新たな方向から施策を考え出すことができる点が面白いですよね。
 私のゼミでは、経済学の知識を深めるだけでなく、社会人の方々と一緒に創造的思考力を鍛える勉強会を実施したり、現役生と卒業生との交流会を開催したりしています。大学で経済学を学ぶと、論理的思考力やデータ分析力といった力は鍛えられますが、ゼロから画期的なアイデアを生み出す力(創造的思考力)を身に付けるには工夫が必要です。

 民間企業で働いた経験がない私が独力でこれらの能力を養成することは難しく、だからこそ社会人の方々(卒業生を含む)との協働が必要となります。幸い、学外での協力者に恵まれ、学部の授業では体験できない面白い企画を定期的に実施することができています。
 ゼミでの活動は大学を卒業したらそれで終了、というわけではありません。大学に来る機会は限られてしまいますが、現役生の活動のアドバイザーとなってもらったり、時にはゼミの勉強会に参加して現役生と共に学んだりします。そうすることで、現役生と卒業生との間に新たな繋がりが生まれますし、また卒業生同士が集まれる場があることで横の連携も保たれます。

 昔の写真を見ながら当時の活動を思い出し、現役生とゼミでの思い出を共有している様子は、微笑ましいものがあります。多様な学びの機会を通じて自らの能力を磨きつつ、一人一人が安心して個性を発揮でき、ゼミを居心地の良い場所だと感じてもらうことが私の理想です。



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