西田哲史 教授

「経済史」とは? ―― 未来を志向する学問

 現在、私が経済学部で担当してる主な授業は、「西洋経済史」と「現代経済史」という2つになります。そもそも経済史とはどのような学問なのでしょう。経済史とは、文字通り経済の歴史を研究する学問分野であり、それが研究対象とするのは、広く経済現象や経済活動の歴史であります。

 この経済現象や経済活動というのは、たとえば、ある国の内部で営まれる一国経済の問題として扱われる場合もあれば、貿易、移民(労働力移動)、資本取引といった国をまたいだ国際経済の問題として扱われる場合もあります。

 そしてグローバリゼーションという言葉で象徴される現在の緊密な国際経済関係が形成される歴史の研究もまた、経済史の重要な課題であります。さらに、いまだ「未完のプロセス」といってよいヨーロッパ連合(EU)のような複数の国家にまたがる地域経済圏と各国経済あるいは国際経済との関わりの歴史も経済史の研究対象といえます。

 経済学は、現代の経済問題を解決することを目標にしています。経済史もその点では例外ではありません。しかしながら、そのアプローチの仕方に違いがあります。こんにち、私たちが直面しているさまざまな経済問題 ―― たとえば、貿易摩擦、経済格差・貧困、開発と環境破壊、地球温暖化など ―― は、どれをとってみても、過去の時代の達成を遺産として継承し、また、過去の時代の失敗を負の遺産、つまり重荷として背負っています。

 その意味では、現代の諸問題はすべて過去の歴史の延長上に起こったもので、そこには過去の歴史が深く影を落としているといえます。ですから、現代の諸問題を解決する場合にも広い歴史的な視野が必要になるわけです。

 私たちは、過去の歴史を学ぶことを通して自分たちの現在の立ち位置を知り、そしてそこから今後をどうしていくかを考えることができるのです。その意味で、歴史は未来を志向した学問でもあるといえます。

想像力を鍛える

 2020年に突如として起こった新型コロナウイルスの感染拡大は、私たちの生活様式を大きく変えるとともに、行動制限により世界各国で工場が操業を停止し、サプライチェーンが一時的に停滞するなど、グローバル化した世界経済にも影響を与えました。

 歴史を振り返ってみると、古くはペスト(黒死病)や20世紀初頭のスペイン風邪など、私たちは幾度となく世界的なパンデミックと対峙してきました。実は、こうした歴史的出来事がのちの世界の経済・社会に多大な影響を与えているんです。「西洋経済史」の授業でも、歴史の道筋を左右する「決定的な岐路」となった実例として、14世紀中頃の中世ヨーロッパで大流行したペストを取り上げ解説しています。

 でも実際のところ、中世ヨーロッパと聞くと、多くの学生は、日本人の自分とはまったく関係ないどこか遠い時代・世界の話と思うかもしれません。しかし、それは私たちの歴史に対する向き合い方次第です。

 経済史に限らず、歴史を学ぶうえで大切なのは、自分とは異なる人々の経験に思いを馳せながら「他者」に対する「想像力」を持つことです。過去の人々の経験や生きざまを通して、私たちは、どう前に進むべきかを考える場合の「素材・材料」を得ることができるのです。

歴史と向き合う

 私自身の専門は、ドイツ社会・経済史で、近年は、第二次世界大戦後のドイツの占領期・復興期のさまざまな問題に関心を寄せています。そもそも私がドイツに興味を持ったきっかけは、中学生のころ、ドイツのテクノバンド「クラフトワーク(Kraftwerk)」の電子音楽の世界に魅了されたことでした。

 以来、ドイツに対する興味は尽きず、大学でもドイツ経済について深く知りたいとの思いから、西洋経済史の専門ゼミに入り、4年生の時には当時の西ドイツの首都ボンに留学をしました。この留学中にさまざまな人たちや興味深い書籍との出会いがありました。

 さらに西ドイツ政府が主催するセミナーに参加するため1週間ほど滞在していた当時の西ベルリンで、1989年11月9日の「ベルリンの壁崩壊」という歴史的事件の現場に立ち会うという幸運にも恵まれました。

 このドイツ留学が大きな転機となり、今まで以上にドイツの歴史について知りたいという気持ちが強くなり、大学院への進学を決意しました。創価大学大学院に進学後、やはりドイツで勉強したいとの想いから再び渡独し、社会史・経済史の分野ではとりわけ有名なビーレフェルト大学で博士号(歴史学)を取得しました。

 余談ですが、私の指導教官となったのは、私がボン大学留学中に興味深く読破した書籍の著者で、当時から「この先生のもとで学べたら良いのになぁ」と思っていた先生でした。

(私自身についてさらに興味がある方は、「創大Lab」に掲載された私のインタビュー記事を読んでいただけると幸いです。)

専門ゼミでの学び

 (西洋)経済史の専門ゼミを開講していますが、ゼミに集ってくる学生の興味関心は千差万別です。特定の国や地域に興味があるゼミ生もいれば、宗教と経済・社会の発展や資本主義や社会主義といったイデオロギーの対立に関心を持っているゼミ生もいます。

 中には、「フランスの食文化の歴史について極めたい」「イタリアで日本文化(着物)を広めたい」「コーヒーやチョコレートのルーツに興味がある」など、ピンポイントなテーマに興味を持っているゼミ生もいます。

 このように多種多様なテーマに興味・関心のあるゼミ生たちですが、最初の演習Ⅰでは、「なぜ世界には『豊かな国』と『貧しい国』が厳然として存在するのか」といったテーマについて、歴史的視座からアプローチしていきます。

 資料や書物を通して過去の歴史と向き合うことは、一見すると地味な作業かも知れません。しかし、そうした作業を繰り返すことにより、物事を俯瞰する力が付くようになります。

 また春休みと夏休みに行うゼミ合宿は、勉強だけでなく、ゼミ生同士の横の繋がりを深める役割も担っています。とにかく、ゼミは皆が切磋琢磨し、学問上の知見を広げるだけでなく、それぞれが仲間意識を持って成長し合える場にしていきたいと思っています。皆で一緒に楽しく勉強していきましょう!




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