小島健 准教授

このページにたどり着いた高校生のみなさん

 このページを見に来る学生さんはどのような学生さんなのでしょうか。書きながらこう思うのも変ですが、ホームページの正面から訪れると、このページはなかなか深いところにありますので、訪れる人は限定的だと考えています。

 経済学や行動経済学に相当な興味があるか、気になるキーワードで検索を書けたら、たまたま引っかかったのか、はたまた私の知り合いでしょうか。もしかすると学生でさえないかもしれません。そんな方々に送る情報は、ありきたりな内容ではいけないだろうというのを念頭に、思いつくままこのページを作りたいと思います。

経済学に関心のある方へ

経済学を学ぶとどんな力が身につくのか?

 千変万化な現代に対応し続けるのが経済学です。そのため、経済学は様々な場面に応用することができます。言い換えれば、あれも経済学、これも経済学、となるために、その輪郭をつかみづらいのものまた経済学です。

 しかし、あえて私の主観で形作りましょう。本気で経済学を学ぶと、人間や社会の課題に対する「解決力」が身に付きます。経済学を学んで身につく課題解決力とは、個人や社会の課題が明確に与えられるのであれば、データを集め、解決策を提案し、その策を評価し、そして改善していくという、一連の力、という意味になります。それが経済学を学んだ私の経済学に対する印象です。

ゼロから経済学を教えるとするならば?

 私が経済学の教育プログラムをゼロから組んでいいと言われたなら、課題解決力を身に着けるために、まず因果関係と相関関係の違いについて徹底的に学ぶことから始めます。例えば、暴力的なゲームをする人ほど、現実でも暴力的である、という事実があったとしましょう。これは相関関係であり、因果関係とは限りません。

 暴力的なゲームをするから、現実でも暴力的になるのか、暴力的な個人が暴力的なゲームを好んでするのか、もしくは、どちらも結果として生み出す共通の原因があるのか。これだけの情報では、何が原因で、何が結果なのかはわかりません。そしてこれが重要なのです。

 仮に、暴力的な人を減らすために暴力的なゲームを禁じたとしましょう。暴力的なゲームをすることが原因で、現実でも暴力的になるのが結果なら、原因を禁じたので、暴力的な人が減ります。しかし、暴力的な個人が暴力的なゲームを好んでするだけなら、暴力的なゲームを禁じたところで暴力的な人は減りません。単に、ゲームを作る仕事を奪っただけになります。

 そのため、相関関係と因果関係を見極めることは大変に重要です。そのため、次に因果関係を明らかにする手法を学びます。例えば、ランダム化比較試験などですね。詳しく知りたい方はアセモグル・レイブソン・リストのミクロ経済学(東洋経済新報社)や中室先生と津川先生の「原因と結果の経済学」(ダイヤモンド社)を読んでみてください。

 このような信念を持っていますので、私の講義は、まずここから始めます。そして、次に問に答えを与える練習をしていきます。最近わかってきたのは、「答えを与える」練習と同様に「問」を形作る練習もまた大事だということです。

 おそらく、多くの学生は問の全容が全て与えられ、それにぴったり当てはまる答えを解答していく訓練に比重を置いてきたのでしょう。それも重要な力なのですが、多くの学生がグループディスカッションの問でさえ、問の前提条件に不備があると感じると私のところへ質問に来ます。決まって、不備は自分たちで埋めなさいと私は回答します。

 現実において、問を解くのに必要な前提条件が全て事前に整えられていることの方が、珍しいからです。「問」に何が足りないのか、何が不明瞭で、何を調べ、何を明らかにすることで、課題解決へとたどり着けるのか、これら課題設定力を身に着けることが、課題解決力の基礎になります。

 課題が設定できたら、次はデータを集め、分析し、答えを与えるという訓練に続きます。

最終的にどうなるのか

 さきほどまで、現実とデータと介入案(原因にアプローチして結果を変化させる政策案など)の話ばかりをしてきましたが、私の専門は理論です。現実の分析に対して、理論は地図のようなものです。

 みなさんは地図アプリを使ったことがありますか。地図は2次元で書かれることが一般的です。地図が3次元で現実と同じように書かれてあったらどうでしょうか。近くのことを調べたり、曲がる道の目印を見つけたりするには有用ですが、現在地から到着地までの大まかな道筋を知るのには不便です。

 理論も同じで、現実を形作る重要な骨組みを浮き彫りにして、現実に対する理解を深めようとしています。目的に沿った綺麗な地図を書こうとするのが理論です。そのため、理論を学ぶと「将来に対する予測」ができます。介入案の「評価」もできます。

 ですから、理論も現実の分析もどちらも重要になります。したがって、経済学を本気で学ぼうとすると、最終的には理論も学び、現実を分析するための手法も学び、現実の課題を設定する力も身に着けることになります。それら一連の力が相互作用するようになって、切れ味のある課題解決力が身につくことになります。

行動経済学に関心のある方へ

研究テーマ

 今は不正とその抑制方法について研究しています。不正といっても、現在実験の対象にしているのは周りに迷惑のかからないズルといった程度です。しかし、この行動が現実の無銭乗車や無断欠勤と相関しているという研究結果があるので、現実に応用が可能な研究になります。

 年齢が上がるほどズルをしなくなったり、合理性によってズルが促進されたり、倫理観は抑制に効果が薄いけれども自尊心が抑制に効果があったりなどとても興味深い結果ばかりです。ちなみに、抑制にはコミットメントが効果的でした。でもズルを繰り返すと、このコミットメントの効果は弱まっていきます。これは、論文にまとめている最中ですので、公開されたら、このページも更新しますね。

 上記のような研究をしてきたわけですが、私は、理論の分析ばかりをしてきました。一つは、計画したことを計画通りに実行できない個人が、高い金利でお金を借りてしまい、返済がうまくできずに、自己破産してしまうという理論です。

 もう一つは、誘惑的で贅沢な商品を消費せずにいるのには意志力が必要であり、意志力が弱まるような自制疲労が蓄積されると、誘惑的で贅沢な商品の消費が我慢できないといった理論です。でも、心のどこかに、現実を分析できるようにならなければいけない、という焦燥感というか、使命感がありました。そのため、ここ数年で実証分析の力も身に着けはじめたのです。

ゼミのテーマ

 グループで問題解決ができるように実践しようというのがゼミのテーマです。ゼミでは、問をつくり、答えを与えて、発信をする訓練をしています。

 問を形作るにはフレームワークに則る訓練と、形に当てはまらないほどの刺激を受ける経験が必要ですので、授業期間中の演習ではグループワークを徹底し、授業期間外の合宿ではフィールドワークに行きました。実践的なゼミだと、ゼミ生からは一定の評価を得ています。(まぁ、ゼミ生はそういうのが好きで入ってきているので、因果関係の特定はこれだけの情報からはできませんけどね。)

 また、私の専門性から、主に行動経済学を応用することが多いです。そのため、行動経済学を用いた分析力と発信力を鍛えながら、行動経済学会の学部生ポスターの部に参加することが目標になります。私が受け持ってきた学生には、学部生ポスターの部で奨励賞を受賞した人もいます。毎年受賞できることを目標に頑張っていきたいと思います。

私の知り合いの方へ

 私の大学生の日々について紹介したいと思います。

創価大学経済学部に入った理由と創価大学1年生の日々

 小学生の頃から教師を目指していました。創価大学は教育者を多く輩出していましたので、創価大学”児童教育学部”を目指しました。高校からの内部進学が有利だろうと考えて、創価高校に入学したのです。

 ですが、創価高校から児童教育学部への内部進学は競争が激しく、私は児童教育学部に落ち、第二志望の経済学部に入りました。ちなみに第三志望は経営学部です。なぜか?当時はどちらも人気がなく、滑り止めだったのです。経済学部を第二志望にした理由は、経済学部の方が得意な数学が役立つからという理由だけでした。
 
 そんな消極的な理由で入学したものですから、大学1年生に入ってから苦労しました。経済学部に入ったことも意味があることにしてみせると意気込んで、色々なことに挑戦したものの、空回りしてばかりでした。ある朝、寮の共有スペースで立ちながら眠り、気づいたら授業が終わった時間になっていたのを経験して、全てを見直そうと決意したのを今でも覚えています。
 
 そこで、がむしゃらに挑戦していたものを、一端全てやめました。区切りをつけたのです。そして、読書に励みました。変化がはじまったのは、1年生の後期でした。
 
 友人と読書会を開こうと企画しました。数人で1冊の本を読んで議論しようとしたのです。では、その本を何にしようかと考え、その時にミクロ経済学を教えてくれていた高橋一郎先生にお勧めの本について尋ねたのです。フリードマンらの”Free to Choose”を紹介されました。友人と読んでも読んでも本当にわからなかった。「わからない」に体当たりする。高橋一郎先生との日々はいつもそうでした。

 ある日、高橋先生が言いました。「君たちが、ハーバードやオックスフォードに行くと創立者も喜ばれるんだよ」と。友人たちと、どうすればハーバードやオックスフォードに行けるのだろかと疑問に思い、軽い気持ちで高橋先生に尋ねました。

「どうすれば、ハーバードやオックスフォードに行けるのでしょうか。」
高橋先生は答えました。
「君たちはハーバードやオックスフォードに行きたいのかい?」
私の”友人”が答えました。
「はい。私たち”全員”行きたいです。」

 寝耳に水です。全員にはもちろん私も含まれています。そうか、私はハーバードやオックスフォードに行きたかったのか。いやいや、そんなこと一言も言っていない。そんな逡巡が髙橋先生に伝わるはずもありません。きっと私たちは決意に溢れた学生だったのでしょう。

「そうか、じゃあ君たちに基礎から数学を英語で教えてあげるよ。」
その一言に心が躍りました。不思議と、挑戦したい気持ちに溢れていたのです。

 数学はε―δ論法から始まりました。”open ball”と言われて、ちんぷんかんぷんでした。「基礎から」とは、大学数学の基礎からだったのです。図書館に通い、関連するキーワードから何冊も本を借りては読み漁り、他学部の友人にも尋ね、先生にも尋ねました。それでもわかりませんでした。

 宿題には1つも正解できません。集まった友人が一人、また一人と辞めていきました。別の目標が見つかったのです。私も何度も、もうここまでではないかと思い、でも進み続けました。

 1年生が終わる頃です。初めて×ではなく△をもらえました。わからないとことばかりだった問に、光明が見え、一度見えると、今まで不正解ばかりだった問もわかるようになりました。知らぬ間に自己教育力、「わからないことをわかるようにする力」が身についたのです。
 
 単なる暗記や技法ではなく、何に自分が躓いているのかを明らかにし、その内容を知ることができる情報源にたどり着き、わからない内容に対して多面的にアプローチすることで理解を深め、わからない内容がわかる形として輪郭が見え、直感が働く形として自分の血肉とする、その道筋がみえるようになっていました。
 
 最終的に、髙橋先生との勉強会のメンバーは私一人になっていました。私の夢は、小学校の先生ではなく、大学教員になることに定まっていました。創価大学1期生である高橋先生は、創価大学を更に発展させるために博士号を取得して、創価大学に帰ってきた教授でした。

 私も一流の経済学者になって、創価大学に帰りたい。私もまた、同じ熱意を抱きました。髙橋先生は、一人になった私に今度は論文を渡してくれました。進化論的ゲーム論の論文です。中級ミクロを受けていない学生を対象とした、ゲーム理論の勉強会が、つまり、ちんぷんかんぷんがまた始まりました。私は早速図書館で、Fudenberg and Tiroleの”Game Theory”を借りました。

創価大学2年生の日々

 髙橋先生との勉強会では、色々なことに挑戦しました。1つは、Shimer(2007, AER)の”Mismatch”です。確率過程どころか、測度論も知りませんでしたから、そこから必死に勉強しました。もう1つは Kiyotaki and Moore(1997, JPE)の”Credit cycles”ですね。初めて最後まで理解して読み切れた論文でした。他にもニューケインジアンモデルを学習したり、くりこみ群を学習したり、当時はわからないことばかりでしたが、今でも宝の思い出です。

 一方で、大学2年生の前期に受けていた中級ミクロ経済学のSA(Student assistant)の方と仲良くなりました。まさかε-δ論法から話が通じる先輩が何人もいるなんて、予想だにしませんでした。全員が独立して学習してきたものですから、お互いに補いあう箇所があります。

 先輩たちとの勉強会は互いに刺激的でした。そんな先輩たちと一緒に、実力試しに経済学大学対抗戦に挑みました。結果は優勝、私は個人成績でも一番をとりました。これをきっかけに大学対抗戦に挑戦したグループを先輩たちと共に経済学理論同好会という組織にしました。10年もてばいいなと考えた組織でしたが、嬉しいことに今でも創価大学経済学部に残っている組織です。

それ以降

 多くの挑戦と失敗と成功を繰り返しました。何度も行き詰っては、不思議と道が拓けていきました。それについても記述すると、今まで書いた量の何倍もの量になってしまうので割愛します。結果として、大阪大学経済学研究科において博士号を取得し、国立大学で任期付き特任助教、講師を務め、また地方の国立大学で准教授を務め、創価大学に帰りました。

 まだまだ一流の経済学者には程遠いです。謙遜ではなく、事実です。一流と呼ばれる人たちは、形容できぬほど、実力に満ちあふれています。仕事が早く、価値が次々と生まれ、世界を開拓していっています。卒業してから12年で、創価大学に帰る約束は果たしました。次は一流を目指すことです。1点だけでもいい。自分もそのメンバーに食らいついてやるんだ、ということです。

 結局のところ、変わらず、16年間ちんぷんかんぷんの連続でした。苦労と苦難に押しつぶされたことは数え切れません。ただ、自由な友人たちと共に、歩む先に希望があり、歩む道のりに浪漫を感じ続けられるというのが幸いである、というのが私の結論です。

 高校生のみなさんにも、そんな苦難と浪漫の青春が満ち溢れていることを祈っています。最後のしめくくりに、きっとみなさんもご存知である創立者の言葉をつづりましょう。

「最後の一歩まで断じて退くな。幸福は前にあるからだ。」
「機会(チャンス)がないことを嘆くな。実力をつければ機会はおのずとやってくる。」



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