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  • 糖鎖関連オミクスデータを網羅的に統合した世界初の糖鎖科学ポータルGlyCosmosを開発(理工学部共生創造理工学科 木下聖子教授)

2020年06月23日

糖鎖関連オミクスデータを網羅的に統合した世界初の糖鎖科学ポータルGlyCosmosを開発(理工学部共生創造理工学科 木下聖子教授)

成果のポイント

  • 糖鎖に関連する遺伝子、タンパク質、脂質、疾患、パスウェイなどのオミクスデータを網羅的に統合しアクセス可能にした世界初の糖鎖科学ポータルGlyCosmosを開発しました。
  • 国際糖鎖構造リポジトリおよびグライコミクス・グライコプロテオミクスの質量分析データのリポジトリも開発しました。
  • GlySpace Allianceのメンバーとして日本を代表する糖鎖科学ポータルです。
  • 日本糖質学会の 公認ポータルです。

創価大学理工学部糖鎖生命システム融合センター副センター長木下聖子教授を代表とし、公益財団法人野口研究所山田一作プロジェクトリーダー、新潟大学大学院医歯学総合研究科奥田修二郎准教授、国立研究開発法人 産業技術総合研究所 細胞分子工学研究部門 梶裕之 上級主任研究員らで構成される研究グループは、糖鎖科学研究を推進するための糖鎖科学ポータルGlyCosmosを公開し、ゲノミクス、プロテオミクス、疾患やパスウェイなどのオミクスデータを網羅的に統合したポータルを世界で初めて開発しました。
本研究成果は2020年6月22日(英国夏時間)、科学雑誌「Nature Methods」7月号に掲載されました。

本研究は国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)バイオサイエンスデータベースセンター(NBDC)のライフサイエンスデータベース統合推進事業(統合化推進プログラム)による研究開発課題「糖鎖科学ポータルの構築」(研究代表者:木下聖子)の支援を受けて実施されました。

糖鎖科学ポータルGlyCosmosの概要

1つのウェブサイトから様々な糖鎖関連のリソースにアクセスできるGlyCosmosには、以下の特徴があります。
  1. ユーザーフレンドリーなウェブインターフェースにより、糖鎖関連遺伝子、タンパク質、脂質、糖質、パスウェイ、疾患など、利用可能な情報を容易に閲覧することができます。
  2. GlyCosmosでは、リポジトリとして 国際糖鎖構造リポジトリGlyTouCanとグライコプロテオミクスのためのリポジトリGlycoPOSTが利用可能です。
  3. 統合された様々な糖鎖関連のデータベースとデータセットを含むデータリソースを提供しています。

研究の背景

糖鎖はDNA、タンパク質に次ぐ第3の生命鎖とされており、神経、感染、免疫、発生等の様々な生命現象に関与しています。しかし、その複雑な構造や生合成過程により、ゲノム研究と比べると、その機能解明は困難です。一方、近年様々な実験データの蓄積によるビッグデータが注目されており、それを活用するデータサイエンスが重要となってきています。糖鎖データベースの歴史は、1990年代半ばに米国でCarbBankが開発されたことに始まり、その後様々なデータベースが開発されました。これらの活動が世界各地で行われているため、研究者は多くのリソースにアクセスできますが、それらのリソースを見つけるのは困難でした。そのために、GlyCosmosが開発されました。GlyCosmosは2018年10月にβ版を公開し、2019年4月1日に正式公開に伴い日本糖質学会のポータルとして公認されました。その後、関連研究者からの意見を踏まえながら、2019年8月と2020年4月の2回アップデートを行い、収録データの種類や数の拡充、機能拡充やインターフェイスの改善を行ってきました。

研究の成果

糖鎖を中心に、糖鎖関連遺伝子、糖タンパク質、これらに関連する疾患や病原体の情報など、あらゆる情報が一つのポータルから検索や閲覧できるようにした本ポータルは、ユーザーに使いやすいウェブインターフェースを通して無償で利用可能になっています。糖鎖構造を登録して識別番号を割り当てる国際糖鎖構造リポジトリGlyTouCan(※1)や糖鎖関連の質量分析実験により得られた生データを登録できるGlycoPOST(※2)へのアクセスも可能です。また、これまで糖鎖科学研究者により開発されてきたJCGGDB ACGG-DB(※3)やGlycoNAVI(※4)に加え、国内外のデータベースを統合した。これにより、GlyCosmosは糖鎖関連データを一元的に閲覧できるようになり、より多様な情報が容易に見つけられるようになっています。また、米国GlyGen、欧州Glycomics@ExPASyとともに糖鎖科学データベースの国際的な枠組み「GlySpace Alliance」を構成するなど、海外の同様なプロジェクトと連携し、国際的なデータの交流・共有を行っています。

今後の展開

本ポータルをはじめ、様々な解析ツールやソフトウェアも開発し、糖鎖生物学者のサポートをできるように研究開発をさらに発展させていき、生命現象の理解とその応用に取り組んでいく予定です。その中でも、近年注目されているマイクロバイオーム、メタボローム、植物ゲノム等と糖鎖の関連を解析できるデータベース・ツールの開発も進める予定です。

論文掲載の情報

  • 掲載誌:科学雑誌「Nature Methods」(7月号)DOI: 10.1038/s41592-020-0879-8
  • 論文タイトル:The GlyCosmos Portal: a unified and comprehensive web resource for the glycosciences
  • 著者:Issaku Yamada, Masaaki Shiota, Daisuke Shinmachi, Tamiko Ono, Shinichiro Tsuchiya, Masae Hosoda, Akihiro Fujita, Nobuyuki P. Aoki, Yu Watanabe, Noriaki Fujita, Kiyohiko Angata, Hiroyuki Kaji, Hisashi Narimatsu, Shujiro Okuda, Kiyoko F. Aoki-Kinoshita

用語解説

(※1)GlyTouCan:糖鎖構造データを収録した国際糖鎖構造リポジトリです。単糖類組成からグリコシド結合形状などの明確な構造まで、互いに異なる構造の一つ一つにIDを付けて登録することができます。
(※2)GlycoPOST:糖鎖および糖タンパク質の質量分析データのリポジトリです。論文発表に際し、当該論文に関する実験データを実験条件などとともに登録・公開することができます。
(※3)JCGGDB、ACGG-DB:産業技術総合研究所が開発する主に糖鎖遺伝子、関連する疾患、糖鎖に結合するタンパク質であるレクチンや糖タンパク質のデータが収載された糖鎖関連データベースです。
(※4)GlycoNAVI:野口研究所が開発・運営する糖鎖関連データベースです。主に糖鎖化学合成法、タンパク質認識糖鎖部位、糖鎖立体構造、疾患関連糖鎖構造のデータが収録されています。

教員情報

ページ公開日:2020年06月23日