創大Lab

2022年01月28日

脳科学と世界市民教育

創大Lab編集部

川井 秀樹 教授 理工学部共生創造理工学科
(広報誌「SUN」2022年1月号:「学問探訪」の掲載記事より)

脳治療の新しい可能性発見の原動力は、 研究を通して人類に貢献しようとする志。

ー コロナ禍に苦しんだこの2年は、ワクチンや治療薬についての話題が盛んに報じられ、生命科学の発展が社会の礎になっているという事実を、改めて実感した期間でした。それは同時に、多くの若者の胸に「生命科学を究めて社会を支えたい」という志を育む時間にもなった可能性があるのではないでしょうか。創価大学の理工学部では、そうした志に応える最先端の生命科学が研究されています。なかでも機能神経生物学研究室が発見した「大脳皮質のオリゴデンドロサイト前駆細胞の盲目による変化」は、世界中の研究者が閲覧する権威ある研究誌『PLOS ONE』に論文が掲載され、注目を集める研究です。今回の学問探訪では、機能神経生物学研究室を指導する理工学部の川井秀樹教授に、その研究内容を解説していただくとともに、創価大学の研究力”についてお話を聞きました。

「大脳皮質は視覚や聴覚などの感覚情報を処理し、知覚や認知を担う脳部位です。感覚情報がある期間で変化すると、それに応じて大脳も変化します。例えば、ある時期に片目を遮蔽すると、開いているほうの目の情報を処理する神経細胞が増え、遮蔽したほうの目に応答する神経細胞が減少することがわかっています。こうした大脳皮質の特性に関する基礎研究は、脳のさまざまな病気の理解と治療法の開発にも寄与すると考えています。我々が注目しているオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)の神経活動の解明は、神経細胞死をもたらす脳卒中や神経変性疾患であるアルツハイマー病などの再生医療の可能性を秘めているのです」

生命科学以外にも、環境、機械工学、情報システムといった多岐にわたる分野で世界をリードする研究が理工学部で行われています。なぜ、こういった先進的な研究が盛んなのでしょうか。川井教授は、研究費などの大学からのサポートが手厚いこととともに、理由の一つとして「人類に貢献したいと思うモチベーション」をあげます。

「研究とは、それが病気のことにせよ、根本的な原理にせよ、人類共通の原理を発見し、発表することです。言ってみれば科学の研究に取り組むことそのものが『世界市民教育』になります。どんな研究者も根本的には人類に貢献したいという思いを持っています。本学ではそうしたモチベーションが一層高いことが、研究力の高さにつながっているのではないでしょうか。私は、科学をもっと開かれた学問にしていかなければならないと思っています。私たちの発見は、研究者のみならず、可能であれば一般の方々にも理解できるメッセージとして広めていくことが必要です」
今回、機能神経生物学研究室が論文を発表した『PLOS ONE』誌は、研究誌のオンライン化の先駆け的な役割を担っています。こうしたオンライン環境を活用し、最先端の研究成果に誰もが自由にアクセスできるようにすることが、川井教授の考える「科学者の人類への貢献」の一つです。

「学生には、興味を深掘りしてほしいと思います。自分の興味に真摯に向き合って取り組む勉強は、試験のための勉強ではなく、自分、そして人類の未来につながる学びになります。私の場合、それが脳でした。研究を通して、教科書を書き換えるような、脳の働きに関する新たな発見をして、人類の知見や教育に貢献するとともに、脳の病で困っている人々に、一日も早く治療法を提供したいと考えています」

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ページ公開日:2022年01月28日


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