パイオニア ~聴覚障害を乗り越えて~
教員採用試験 合格体験記09
私は先天性の聴覚障害がありましたが、読唇など視覚情報のみで普通の学校で学びました。成人後、両耳人工内耳埋込手術により、初めていろんな音が聴こえるようになりました。
家庭も経済的に厳しかったため、高校卒業後IT企業に勤務し、学費を貯めて憧れのアメリカに留学。帰国後に結婚し、外資系企業に再就職し、4人の子供を育てるワーキングマザーとして慌ただしい日々を送っていました。
それでも、小さいころから描いていた教師になる夢と、「耳で聴いて授業を受けてみたい」「学び直しがしたい」との思いを諦めきれず、2004年に創価大学通信教育課程教育学部に入学。小さい子供達を夫に見てもらい、創価大学の門戸をたたいたその日は、キャンパスがとても清々しい空気に溢れていたのを覚えています。初めてのスクーリングは、耳から入ってくる先生の声にこぼれ落ちそうな涙を堪えました。
しかし、育児と仕事、地域活動と通教の勉強を両立することは予想以上に大変で、気がつけば10年以上経過。このままでは、教育実習を受けることなど難しいことがわかり、一旦退学し2021年に教育学部児童教育学科に3年次編入学をして再スタートを切ることになりました。
小学生のころ出会った特別支援学級の先生の温かさに触れ、憧れるようになった教師という職業。しかし、聴覚障害があることと50代で教師になることは、現実には難しいのではないかと悩んでいました。そんな時、夏期スクーリングで開催される「教職生大会」に参加しました。現職の先生がいきいきと語る体験に、教育者とはなんと素晴らしい職業なのかと、電撃が走るほど感動し、「絶対に教師になるんだ」と腹が決まりました。
私の仕事は、多い時は月100時間の残業にもなる激務に加え、業務上の資格試験があります。そこに4人の子育て、PTAなどの地域活動に、夫と二人三脚で奮闘しながらの通教での学修。少しずつテキストを読み、スマートフォンやノートパソコンに細切れに入力した内容をまとめて貼り付けてレポートを作成するなど、時間のない中で工夫をしながら、1つ1つの単位を取っていきました。また、メディア授業に字幕がある科目が増えたことは、本当に助かりました。
2021年には、勤続20年のリフレッシュ休暇で3週間お休みをいただき、「自分を変えよう!」と夏期スクーリング全期に参加しました。教職キャリアセンターの先生が声をかけてくださり、「やっぱり教師になりたいんです!」と相談したところ、社会人経験枠で受験資格があることを教えていただきました。また、ある先生は、聴覚障害のある教師は前例がなく、「平尾さんはパイオニア」だと激励してくださり、本当に勇気をいただきました。
最初はこんなチャレンジは無謀だと思っていましたが、スクーリングを通して、同年代の同じ志を持った多くの学友と出会え、切磋琢磨しあえたことも、生涯の宝となりました。
人工内耳の手術をしたとはいえ、マスクで口元が見えず、騒がしいところでは聞き取りは難しい状況です。教育実習は、口元が見えないマスクの児童の発言も聞き取りにくいことが考えられました。そのため「手話」を活用できる都立特別支援学校のろう学校で実習ができるよう、紹介していただきました。「ろう学校」という世界に足を踏み入れたのは初めてでしたが、出会った子どもたちは、我が子とは違う愛おしさがあり、新たな感動と深い学びの4週間となりました。また、視覚優位の子どもたちの教育に情熱を注ぎ、仕事と人格が一致している多くの先生方の姿に、ろう学校の教師になりたいと決意が固まりました。
1次試験対策は、過去問を5周ほど繰り返し解くとともに、業務の合間にオンライン対策講座は全て参加しました。苦手な科目は、電子書籍で、中学受験レベルの参考書をダウンロードし、寝る前のベッドの中で勉強しました。論作文は、オンライン相談を活用し、教職の先生に何度も添削していただきました。
2次試験に向けても、全てのオンライン対策講座に参加し、オンラインで有志を募って、集団討論の練習をするなど、通教の教採対策をフル活用。
また、教職の先生が、地元葛飾区の元教職の先生と繋げてくださり、先生宅で個人面接の練習を行っていただきました。創価大学の先生は通教生を「創立者からお預かりした大切な皆さん」との思いで、励ましてくださり、採用試験当日まで毎日のようにサポートしてくださいました。このような温かい絆に満ちた世界は他にありません。私のチャレンジをこれほどまでに応援してくださる方が大勢現れたことに、感謝するとともに感動でいっぱいです。
2022年、初挑戦した教員採用試験の合格を勝ち取ることができ、来年春に教員免許状取得・卒業予定です。通教に飛び込んで18年。教壇に立つという追い続けていた夢がやっと見えてきました。
ここまで支えてくれた夫と、大切な4人の子どもたちに心からの感謝を伝えたいです。
今年も、創価大学通教の多くの学友が教員採用試験に合格しました。大変なことも苦しいことも共に乗り越えてきた同期と、来年4月からも教育者として使命の舞台に立てることが嬉しいです。今後の人生も、悪戦苦闘しながら、人間教育の実践者として成長しつづけていきます。
恩師が繰り返し伝えてくださった教師に望む子どもたちへの5つの関わりの言葉があります。
・一人ひとりの可能性を徹して「信じぬく」―
・すべての子どもたちを「ありのまま受け容れる」―
・何があっても笑顔で「励まし続ける」―
・たとえ一時は反発されようとも「どこまでも支える」―
・子どもたちと「心をつなぐ」―
世界が混迷する今こそ、創価教育の実践者として報恩感謝の道を歩んでまいる決意です。
ひらお じゅんこ Hirao Jyunko
[出身地]
東京都
[合格地域]
東京都
[一日の勉強時間]
平日2時間 休日8時間
[おすすめ対策講座]
すべての対策講義(教職懇談会、2次対策講座、オンライン講座(スタート講座、方面別対策講座、論作文講座など)
親身になってアドバイスをいただいたことと、情報を取得できることで、勉強のモチベーションを保った。また、初めての教員採用試験で、受験の内容も把握してなかったが、細かくご教示いただき、見通しを持つことができた。
[おすすめ参考書]