2024年度学修支援だより

学修支援だより【2024年4月号】

Foreword 1

新入生歓迎挨拶

学長 鈴木 将史

自律した学習者として充実の日々を

創価大学通信教育部の新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。心から歓迎いたします。皆さんは、これから出会う新しい学問の世界への期待に、胸を大きく膨らませていることと思います。創立者池田先生は、1969年に創価大学設立構想を発表されたときから「年齢、職業、居住地等に関係なく、あらゆる人が勉学にいそしむことができる」場として、通信教育部の設置を切望しておられました。創立者は昨年11月に残念ながらご逝去されましたが、皆さんは「新たなる1期生」との自覚で、創立者の思いを胸に勉学に取り組んでください。

さて、創立者は1994年の『学光』第100号に寄せてくださった記念特別寄稿において、通信教育での学びを「並々ならぬ忍耐と努力を要するものである」とされた上で、大学を大きな船に、そして通信教育を小さなボートに例えて、次のように激励されています。

皆さまはそのボートに乗り、一人で懸命にオールを動かし、対岸をめざしゆくのであります。その労作業は四年制の大学生活とは比較にならぬほど、自律の心を必要とします。しかし、そうして培われた自律心は、身につけた知識や学問にもまして、皆さま方のこれからの人生をささえるバックボーンとなりゆくことを、信じてやみません。

皆さんのこれからの通教生としての学生生活には、数々の困難が伴うことと思います。諦めようと思うときも来るかもしれません。しかし皆さんは、一人ぼっちでボートを漕ぎ続けるのではありません。ぜひ夏期スクーリングに参加して、全国の通教生の仲間と出会い、励まし合ってください。また各都道府県の光友会の方々も皆さんの応援団です。もちろん創価大学の教職員も、一人でも多くの通教生が卒業の栄冠を勝ち取れるよう全力を尽くします。
皆さん一人ひとりが、創大通教部で自律した学習者としてかけがえのない勉学の日々を過ごされ、自身の尊い「学修の歴史」を綴られることを願ってやみません。

Foreword 2

新入生歓迎挨拶

通信教育部長 吉川 成司

光り輝く学びの道で価値創造の人生を

新入生の皆さん、創価大学通信教育部へのご入学、誠におめでとうございます。教職員一同、心から歓迎しお祝い申し上げます。
2026年にわが通教は開設50周年を迎えます。これまでの労苦と使命の礎に立ち、更なる高みを目指して共々に前進を開始してまいりましょう。
2024年度からは、通教での学びを円滑にスタートするための「初年次セミナー」、同じく、これまでの「自立学習入門」を発展的に引き継ぐ「学術文章作法」、有名企業の経営者の理念等を学ぶ「トップに学ぶ現代経営」が開講されます。ほかにも環境問題、データサイエンス、人生100年時代など現代的な教養に関する科目も開講されます。加えて、教員を目指す方、FP、簿記、日本語教師などの資格取得を目指す方のためのコースが設けられています。そして、このような豊かな学びが自宅でできる、オンラインでの学修環境が整っています。
さて、2023年度の夏期スクーリング期間に開催された、伝統の学光祭に際して、創立者・池田先生は、メッセージを送ってくださり、その中で創価教育の父・牧口先生も敬愛された、デンマークの民衆教育の父・グルントヴィの詩を紹介してくださいました。
「啓発の光こそが我々の熱望であるべきだ(中略)ありふれた場所であったとしても/その光が終始民衆の声でなされれば/必ず生命の啓発となる」
グルントヴィが謳った「生命の啓発」とは、内から湧き出ずる「生そのものの光」であり、「生そのものの意味の啓発」なのです。これは、わが通教の永遠の指針「学は光」にほかなりません。この点、創立者は、かつて「学ぶのは充電であり、役立てるのは発電であります。一生、この充電、発電を絶やさずに繰り返していけるようになったならば、その人は必ず人生の勝利者になっていくことは間違いないでありましょう」と語られました(創価大学第1回卒業式での祝辞、1975年3月)。充電と発電を繰り返し、光り輝く学びの道を歩み進めてまいりましょう。

学修支援推進室コーナー 1

学修支援のための年間スケジュール

学修支援推進室 室長・文学部 教授 髙橋 正

新年度を迎え、春の陽光に誘われて、花々が咲き始める季節となりました。 通教生の皆さんも単位の花をたくさん咲かせるべく決意を新たにして、勉学への準備を進めていることと思います。 履修登録の仕方や科目試験やスクーリングの申込など手続きは大丈夫でしょうか? 「通教学生ポータルサイト利用マニュアル2024」や「履修登録の手引き2024」さらに「スタディハンドブック2024」に必要な手続きが掲載されています。学修支援推進室では、皆さんの学修への情熱に応えるべく、今年度も充実した支援をおこなって参りますのでよろしくお願いします。

レポート作成講義を開催

通教生が学修を進めていく際にまずつまずいてしまうのが、レポートの提出です。 レポートとは何か、1200字以上も書けるのだろうか、どのように書いたら合格できるのか? そのような不安を少しでも解消するためにも、レポート作成講義をぜひ受講してください。 この講義には、入門・A・B・Cの4つのタイプがあります。 開催時期や講義タイプは次の通りです。

  1. 入門タイプの講義は、3月31日に創価大で行われる新入生ガイダンスをかわきりに、4-5月の新入生ガイダンスの終了後に対面で開催されます。 新入生でなくても参加できます。
  2. 科目試験実施日の前日の土曜日午前にA~Cタイプの講義がリアルタイムのオンラインで行われます。 実施日によって講義タイプが違うので、希望する講義タイプをチェックして受講してください。 リアルタイムなので、教員に直接に質問することもできます。
  3. 夏期スクーリングの期間中に3回、各4タイプの講義を対面で開きます。 事前の申し込みが必要ですので、学光ポータルの「学修サポート」のメニュー内にある「各種ガイダンス・レポート講義・個別相談・懇談会申込」の「レポート講義」から申し込んでください。
Webレポート作成講義の利用も

上記の4タイプのレポート作成講義はWeb上の映像でも24時間いつでも学習できます。 対面で行われる講義の時間が合わないので参加できない場合や会場までの移動が大変という場合にはご利用をお勧めします。 講義内容で分からない箇所があれば理解できるまで何度でも視聴が可能です。 学光ポータルの「学修サポート」メニューの中の「WEBレポート作成講義映像」からタイプ別を選んで受講してください。 

「学修支援室だより」を見ましょう

昨年度に引き続き、毎月、学光ポータルに「学修支援室だより」を掲載していきます。 学光ポータルの上方にメニューがありますのでそこをクリックしてください。 このメニューの中に、「自立学習入門講座」のコーナーがあります。 大学で効率よく学ぶにはどのようにしたらよいのか、学びのスキルや意欲を高める記事を毎月掲載していきます。 
「支援室コーナー」 の5・9・12月号では、各学部で開いている「オンデマンドスクーリング」についての記事を掲載します。 オンデマンドスクーリングはどのように行われるのか、どのように学習したらよいのか。 そのような不安を持っている方はぜひ読んでみましょう。
さらには、担当者による「レポート作成講義」を6月(入門)・9月(Bタイプ)・12月(Cタイプ)の順で掲載する予定です。 レポート作成に困っている方はぜひ参考にしてください。

機関誌『学光』の活用を

今年度も 3回、春・夏号、秋号、冬号を冊子で発刊します。 春・夏号では、鈴木学長と吉川通信教育部長の新入生への挨拶を掲載します。 また、夏期スクーリングに備えて注意する点や夏期スクーリングのイベントや学修支援についてお知らせします。
秋号では、夏期スクーリングの開講式での学長挨拶や学光祭の様子をお伝えします。 冬号では、来年度のカリキュラム変更点などを詳しくお伝えする予定です。
さらに、各号では、これまで行ってきた自立学習入門講座の中から、特に重要な講座の簡略版を、「自立学習入門セレクション」として掲載していきます。

「教員による学修相談」の実施

今年度も、オンラインで、通信教育部専任教員による学修相談を行います。 上半期は4月から7月に、下半期は、9月から1月に、月に原則2回行います。 毎月の始めに、学光ポータル内の「教員による学修相談」で、翌月の担当教員や相談日時・質問内容をお知らせしますので、それぞれ確認のうえご予約してください。 一人30分以内という時間の制限はありますが、教員と直接に話しができる機会をぜひご利用ください。

デジタル副教材『レポート学習のための自立学習入門講座』の活用を

学光ポータルの「デジタル副教材」の中に、これまで機関誌『学光』に掲載されてきた、「自立学習入門講座」のバック・ナンバーが収納されています。 レポートを書く過程で、困ったことや分からないことがすぐに解決できるように内容項目ごとに整理されており、大変に学びやすくなりました。 レポート作成やテキスト学習のときにぜひご利用してください。

学修支援推進室では、今年度も、皆さんの学修が大きく進展し、一人一人が実力をつけることができるように、全力で支援に取り組んで参りますのでよろしくお願いします。

学修支援推進室コーナー 2

4タイプの「レポート作成講義」の概要

通信教育部 教授 有里 典三

序 レポート作成講義の年間実施計画

自学自習が中心の通信教育では、学生の皆さんが一人でレポートを作成できるようになることが卒業あるいはそれぞれの目標達成を達成するために重要となります。そのための具体的な学習支援プログラムが、全学生を対象に実施される「レポート作成講義」です。レポート作成講義は卒業に必要な科目ではありません。しかし、通信教育部での学習量のおよそ75%をレポート学習が占めています。レポート学習を攻略できなければ、事実上、卒業ができないことも自明の理です。そのために2015年の4月から、レポート学習の全過程を時系列ごとにまとめ、それぞれの段階で必要となるアカデミック・スキルを習得することめざすレポート作成講義がスタートしました。
レポート作成講義では、通信教育部の専任教員が講義資料(冊子)を用いて、わかりやすくレポート学習のポイントを解説し指導します。講義内容には4つのタイプがあり、「入門タイプ」「Aタイプ」「Bタイプ」「Cタイプ」に区分されています。それぞれのタイプごとの内容については以下で説明しますので、ご自分の弱点がどこにあるかをしっかりと見極めたうえで、その弱点を克服するために必要なスキルを「レポート作成講義」で重点的に補強してください。ここでは最初に、2024年度の「レポート作成講義の年間実施計画」を示しておきますので、皆さんのレポート学習の水先案内として活用していただければ幸いです。

1 入門タイプのレポート作成講義

・【講義ポイント】…入門タイプの講義ポイントは、①レポート学習の進め方と留意点、②レポート学習の前半と後半の学習課題、③それぞれの作業工程において、「読む・書く・考える」能力を高める基本的なアカデミック・スキルについて概説することです。
① では、「学術的なレポートと作文、エッセイ、小説との違い」、「レポート学習の心得」、「不正レポートと罰則」について言及します。
② では、レポート学習の前半(1週間・15時間程度の学習量)の重点課題が、「レポート課題の意味を的確に理解するスキル」と「テキストの内容を正確に読み取るためのスキル」の2点にあることを示します。それに対して、レポート学習の後半(同じく1週間・15時間程度の学習量)の課題が、「論理的なレポートを執筆するためのスキル」と「下書きを見直してレポートを完成させるためのスキル」を習得する点にあることを示します。
③ では、レポート学習の全工程で「読む・書く・考える」際に必要となる代表的なアカデミック・スキルを通り上げて紹介します。入門タイプでは、レポート学習全体の工程を時系列的に総攬することに力点を置き、個々の具体的なアカデミック・スキルについてはA・B・Cタイプでより詳しく扱うことになります。

▪【開催時期と形式】…3月・4月・5月の新入生ガイダンス当日の13:30~【対面】
夏期スクーリング期間中の8/11、8/16、8/21の18:30~【対面】

▪【参加申込方法】…学光ポータルの「学修サポート」メニュー内「各種ガイダンス・レポート講義・個別相談・懇談会申込」の「レポート作成講義」から申し込んでください。

2 Aタイプのレポート作成講義

▪【講義ポイント】…Aタイプの講義ポイントは、①レポート課題の意味を的確に把握するためのスキルと、②テキストの内容を正確に読み取るためのスキルをわかりやすく説明することに置かれています。
 ① については、レポート課題のゴールをピンポイントで予測するために、「出題の意図」や「要求されている解答の種類」を読み取るためのコツ、「関連情報」をテキストの中から見つけ出すためのコツ、「考察条件」と「考察の種類」を正確に把握するためのコツ、などを具体例を踏まえながら解説します。
 ② については、テキストの全体像をつかむための「トップダウン的な読書術」、内容を正確に読み取るための「パラグラフ単位の精読術」、レポート課題(問い)に対応した解答を探し出すための「探索型の読書術」、思考を深めるための「批判的な読書術」など、4種類の学術的な読書術について説明します。また、こうした読書術と密接に関連する「読書メモ」の取り方や「情報カード」の作り方の技法についても解説します。

▪【開催時期と形式】…科目試験前日の6/8(土)と9/7(土)の10:30~【オンライン】
夏期スクーリング期間中の8/11、8/16、8/21の18:30~【対面】 

▪【参加申込方法】…学光ポータルの「学修サポート」メニュー内「各種ガイダンス・レポート講義・個別相談・懇談会申込」の「レポート作成講義」から申し込んでください。

3 Bタイプのレポート作成講義

▪【講義ポイント】…Bタイプの講義ポイントは、レポート全体を明確な論理に基づいて執筆するためのスキルをわかりやすく説明することです。すなわち、レポート全体のアウトライン(思考の見取り図)を作成するコツ、全体(2,000字)を「序論・本論・結論」の3つのパートに区分して構造的に組み立てるコツ、レポートの基本単位となる「パラグラフ」の要件や、わかりやすいパラグラフを作るための「叙述パターン」の特徴、などに焦点を当てます。この執筆段階の学習は学生の皆さんがもっとも苦手とする内容だと思いますが、ここで紹介するアカデミック・スキルをどこまで習得し使いこなせるようになるかが、レポートの完成度を左右することになります。

▪【開催時期と形式】…科目試験前日の7/13(土)と11/23(土)の10:30~【オンライン】
夏期スクーリング期間中の8/11、8/16、8/21の18:30~【対面】

▪【参加申込方法】…学光ポータルの「学修サポート」メニュー内「各種ガイダンス・レポート講義・個別相談・懇談会申込」の「レポート作成講義」から申し込んでください。

4 Cタイプのレポート作成講義

▪【講義ポイント】…Cタイプの講義では、①下書きしたレポートを見直して磨きをかけ完成品にするまでのスキルを体系的に説明することと、②レポートの説得力を高めるための代表的な「論証形式」についての知識を教授する点にポイントが置かれています。
すなわち、①については、論理構成面からの推敲、文章作法に則った推敲、原稿作法とルールに則った推敲の3つの観点から、推敲作業のポイントと具体的なスキルを体系的に説明する予定です。
② の論証形式については、論理的な観点からみた「妥当な論証形式」とダメ論証の違い、「分類と定義」、「敷衍的な説明や例示」、「因果関係」、「比較・対照」といった頻繁に使用されるパラグラフ・ライティングの技法について具体的に説明します。

▪【開催時期と形式】…科目試験前日の10/19(土)の10:30~【オンライン】
夏期スクーリング期間中の8/11、8/16、8/21の18:30~【対面】

▪【参加申込方法】…学光ポータルの「学修サポート」メニュー内「各種ガイダンス・レポート講義・個別相談・懇談会申込」の「レポート作成講義」から申し込んでください。

5 WEBレポート作成講義(全学生対象)

 以上に示した4タイプのレポート作成講義は、365日24時間いつでも視聴できるように、学光ポータルの「学修サポート」メニュー内に「WEBレポート作成講義映像」として用意されています。WEBレポート作成講義では学生の皆さんからの個別の質問にはお答えできませんが、申し込みは不要で何度でも繰り返して視聴できますので積極的にご活用下さい。

自立学習入門講座

「自立学習入門講座72~77」の概要

通信教育部 教授 有里 典三

2024年度「自立学習入門講座72~77」の概要

学習支援推進室は、2015年4月から「レポート作成講義」のための副教材として「自立学習入門講座」の連載を始めました。2024年3月までに累計71回のラインナップがそろいました。どの講座内容も学生の皆さんからの要望にこたえて具体例を数多く盛り込み、演習形式を採用するなど、レポート学習にすぐに役立つ有益な情報が掲載されています。これまでの講座内容は、①読書論、②文章論、③情報検索の方法、④情報の整理方法、⑤論理構成の方法、⑥パラグラフ論、⑦推敲の技術、⑧直接引用・間接引用の方法、⑨経済学・法律学・教育学・人文学など分野別にみたレポート作成のポイントなどに分類できるでしょう。過去71回分の連載記事については、学光ポータルのデジタル副教材「レポート学習のための自立学習入門講座」として閲覧できますので積極的にご活用ください。
さて、2024年の新学期からは「学修支援だより」に年間6回にわたって「自立学習入門講座72~77」の連載が始まります。ここでは、新年度のスタートに当たって、72回から77回でとりあげるコンテンツの概要について紹介しますので、皆さんのレポート学習に役立てていただければ幸いです。

学修支援だより5月号「自立学習入門講座72」…【平和学】のレポートのまとめ方と注意点

平和学関係のレポートをまとめるときのコツ、留意点、論証形式、陥りやすい誤りなど、この分野で必要とされる特有のアカデミック・スキルについて解説します。仮のレポート課題を設定して、それに答える形で模範解答を示し、2,000字程度の模範的なレポート文例を紹介します。A評価が得られる模範的なレポートと皆さんが作成した実際のレポートを詳細に比較して、利用できる具体的なアカデミック・スキルを学び取ってください。自学自習の際に活用しやすいように「演習問題」と「解答・解説」を付けます。4,000字程度。

学修支援だより7月号「自立学習入門講座73」…【物件法】のレポートのまとめ方と注意点

物件法関係のレポートをまとめるときのコツ、留意点、論証形式、陥りやすい誤りなど、この分野で必要とされる特有のアカデミック・スキルについて解説します。仮のレポート課題を設定して、それに答える形で模範解答を示し、2,000字程度の模範的なレポート文例を紹介します。A評価が得られる模範的なレポートと皆さんが作成した実際のレポートを詳細に比較して、利用できる具体的なアカデミック・スキルを学び取ってください。自学自習の際に活用しやすいように「演習問題」と「解答・解説」を付けます。4,000字程度。

学修支援だより9月号「自立学習入門講座74」…レポート作成講義「Aタイプ」のまとめ方と注意点

レポート作成講義Aタイプのポイントは、①効率的にテキストを理解するための読み方と、②探し当てた情報の適切な整理の仕方にあります。そのために、「トップダウン式の読み方、パラグラフ単位の精読の仕方、テキストの批判的な読み方」の要点について教授します。また、効率的な「情報カードの作り方」と活用の仕方について説明します。自学自習の際に活用しやすいように「演習問題」と「解答・解説」を付けます。4,000字程度。

学修支援だより11月号「自立学習入門講座75」…レポート作成講義「Bタイプ」のまとめ方と注意点

レポート作成講義Bタイプのポイントは、①全体を「序論・本論・結論」の3つのパートを意識して論理的に構成すること、②パラグラフ・ライティングの技法を身に着けてわかりやすいパラグラフを作成する文章力を身に着けること、が主な課題になります。特に後者のパラグラフ・ライティングの技法については、「1パラグラフ・1主題」、「題目文と補足文の役割関係」、「パラグラフの統一性・連関性・展開」など、論理的なパラグラフを作成するためのアカデミック・スキルに習熟することが不可欠となります。そのために複数の例題を使って具体的に説明します。この場合も、自学自習の際に活用しやすいように「演習問題」と「解答・解説」を付けます。4,000字程度。

学修支援だより1月号「自立学習入門講座76」…レポート作成講義「Cタイプ」のまとめ方と注意点

レポート作成講義Cタイプのポイントは、①推敲の技法、②直接引用・間接引用の方法、③正しい論証形式についての理解、が主な課題になります。特に推敲の技法については、全体の論理構成の面からの推敲、文章作法の面からの推敲、原稿作法の面からの推敲のそれぞれについて正しく理解しておくことが必要です。そのために複数の例題を使って具体的に説明します。この場合も、自学自習の際に活用しやすいように「演習問題」「解答・解説」を付けます。4,000字程度。

学修支援だより3月号「自立学習入門講座77」…新設科目【初年次セミナー】の学修報告書のまとめ方と注意点

新設科目の初年次セミナーの学修報告書をまとめるときのコツ、留意点、論証形式、陥りやすい誤りなど、この分野で必要とされる特有のアカデミック・スキルについて教授します。仮の学修報告書の課題を設定して、それに答える形で模範解答を示し、2,000字程度の模範的なレポート文例を紹介します。A評価が得られる模範的な報告書と皆さんが作成した実際の報告書を詳細に比較して、利用できる具体的なアカデミック・スキルを学び取ってください。自学自習の際に活用しやすいように「演習問題」と「解答・解説」を付けます。4,000字程度。

教職指導講座

「教職の道」実現のために

通信教育部 講師 宗像 武彦

むなかた たけひこ
通信教育部 教職指導講師
[ 職  歴 ] 東京都小学校校長
[専門分野] 教育学
[担当科目] 教職概論、教職実践演習

「教職の道」を目指す通教生の皆さん。
今年度は、各都道府県の教員採用試験の試験日や受験資格が変更しているところがあります。その状況を踏まえて「教職の道」を目指していきましょう。

―教育実習の日程をもとに対策を―
◎春に教育実習予定の方
春に教育実習予定の方は、教育実習後に各都道府県の1次試験があります。教育実習で学校現場を知ることは、2次等の試験に生かされますが、1次試験の準備が難しい状況があります。その状況を踏まえた取り組みが大切です。
◎秋に教育実習予定の方
秋に教育実習の予定の方は、6・7月に採用試験なので1次試験突破のための準備は進められますが、学校現場を知る機会がなくなる面があります。2次試験等の面接では、現場力を見ていくことが多くあります。それをカバーする具体的な取り組みが必要です。

―教育実習をもとに卒業と単位取得のための計画を―
「卒業と教員免許取得」は、「教職の道」の実現のための大前提です。そのためには
〇教育実習の日程をもとにして、卒業・免許取得と教員採用試験の準備の計画を立てていくことが大切です。

このような状況を踏まえて、以下のアドバイスをさせていただきます。

一次の筆記試験突破のために

(1)各受験する都道府県の過去問対策をする
教職教養や社会常識、専門教養の1次試験は、教師としての学力をみていきます。その1次試験を突破するためには、都道府県の過去問対策が大切です。過去問を繰り返し取り組むことで、その都道府県の問題の傾向や自分の弱点も見えてきます。また最近の出題傾向は、暗記式から活用型の問題が見られます。そのための知識をつけ考える対策がポイントです。

  • 都道府県の問題の傾向の把握と傾向を知り具体的な対策をする。
  • 問題傾向からの自分の弱点の把握をもとに具体的な対策をする。

その中で教育法規は必須です。大事な法規は学習指導要領にまとめられています。学習指導要領を読み込むことも視野に入れてください。

(2)論作文の対策をする
論作文は、東京は1次ですが、他の道府県は2次などです。その論作文の課題を見ると、教師としての対応や考え方を問うことが多くあります。その課題に沿って適切に書くことが必要になります。そのためには、

  • その都道府県の過去の問題をもとに論作文を何度も書いていく。
  • 論作文を書いたら、各都道府県の知人の校長先生や教職キャリアセンター講師の先生方に見ていただき何度も書いていく。
  • 受験する都道府県教育委員会のホームページの教育情報から、どのような教育施策や教員の採用を進めているかを把握する。

論作文は、具体的な教師としての取り組みを問う問題が多く、受験地区の情報をもとに何度も書くことで自分の考えがまとまっていきます。

一次試験の突破は、個人の日々の努力、やはり勉強量がものを言います。合格を勝ち取るという強い精神力と体力、身近にいる先輩や教職キャリアセンターの先生方との相談も1次試験の突破力になります。

二次試験突破のために

(1) 集団面接・個人面接の対策ができていますか?

①集団面接は
集団面接には、集団討論や集団面接があります。その都道府県の状況を把握することが大事です。この集団の面接は、主にテーマが出され、そのテーマごとに自分の考えを伝えていく面接と討論する面接などです。
通教生の皆さんは、個人での学びで集団面接の準備が難しいところがあります。そのために教職キャリアセンターのHPをチェックして「教員採用試験対策」の「対策講座」を積極的に申し込んでいくことです。
また通教では、夏期スクーリングのある8月に対策講座等を設定しています。ぜひとも参加してください。
〇集団面接では、課題やテーマが出されることが多くありますが、「現場」を踏まえた考えが求められています。「現場」を想定しノートに書いて考えをまとめていくことが集団面接対策になります。

②個人面接は
各都道府県で提出する「面接表」「自己PR表」などをしっかりとまとめておくことが大事です。この「面接表」などから、面接官がいろいろと聞いてきます。そのためには、「面接表」などに書くことは、
*聞かれても答えられることを書いておくこと。
*答えるときは、短くまとめて答え、そこから深堀されていく答え方を考えてまとめておく。

このようなことは、なかなか個人では難しいので、やはり近くの知人の校長先生や教職キャリアセンターの対策講座と相談が大切になります。

③その他
各都道府県によって実技試験や模擬授業、場面指導などがあり、現場力が必要になっています。その都道府県にあった取り組みと対策が決め手です。

教員の道実現のために

今採用試験で、どんな教師を各都道府県の教育委員会は必要としているか?
それは、すぐにでも学校で子供たちの教育を任せられる「現場力」です。
働きながら仕事をされ学んでいる通教生の皆さん方には、困難さがあると思います。でも、教職の道実現のためには、「現場力」がポイントになります。

  • そのためには、現在の仕事を工夫し学校現場や子どもたちとかかわるところに自分の身を置ようにすることです。
  • 現場の状況や悩みを教職キャリアセンターの先生方とつながり、何度も相談して行くことが「現場力」につながります。

この取り組みを進めることは、面接試験などで現場の対応を具体的に話すことができ、教職の実現に近づいていきます。

通教生の皆さんが、現場力をつけ創価の人間教育の道へ、「教職の道」を切り拓らかれていくことを強く期待しております。

ブック・スクウェア

『この国の「壁」』

通信教育部 准教授 加納 直幸

この著者は、30代で諏訪中央病院の院長に就任し、その再建に尽力した。また「地方包括ケア」の先駆けをつくり、長野県を長寿で医療費の安い地域へと導いた著名な医師である。さらに、1986年に旧ソビエト連邦のウクライナのチェルノブイリ村で発生した原子力発電所の事故をうけて1991年から100回以上の医師団の派遣と約14億円の医療品の支援、東日本大震災での災害支援等々、国内外に渡って活躍してきた著名な医師でもある。日本で最も影響力のある医師の一人でもあるといえよう。

本著で、第1章から第5章まで、まさに著者自身が、信念を抱き、数々の困難に立ち向かいながらも最後には勝利してきた道程を各界の識者との出会いや対談形式で書き上げたものである。
各章のテーマを見れば、この著書の内容が推測できるが、もう少し詳しくみてみたい。まず第1章の「未来を閉じる壁を打ち崩すイノベーション』では、「皆が幸せになるお金」をつくるために“腐るお金”について述べ、「お金に消費期限が付くなら、お金が腐る前に使うことになるから、あるところにだけ必要以上にお金が貯まらないし、格差が生まれなくなる。」(主旨)と主張している(P.4)。また、「投資は難しい。でも世代を超える投資や未来を信じる投資となれば、自分の為だけではなく、この国の為を思って投資を考えられるようになるのではないだろうか。…」(P.4)等々と本質を突いた論を述べている。さらに「日本には見て見ぬふり」という言葉があり、この冷たくて厚い壁を、日本の遅れている寄付文化を可視化することによって変えていくこともできるのではと主張している。

「生と死の境界線にある壁を崩して」とのタイトルの第2章においては、壁を壊す新しい動きを取り上げ、がんステージ4の緩和ケア医が紹介されている。生命が脅かされている状況の患者の苦痛についてWHO(世界保健機関)が定義しているものとして、➀身体的苦痛、➁心理的苦痛、③社会的苦痛、そして④スピリチュアルペインの4つがあるが、このスピリチュアルペイン(魂の痛み)をどのように理解し、患者の最期と向き合っていくかについて、自ら末期がん患者である一人の医師とその患者さんのエピソードを紹介しながら、そこに存在する挑むべき「標準治療という壁」を浮き彫りにしている。
そして次には、生命研究者の中村桂子氏と山梨県で4千人以上の命に寄り添ってきた在宅ホスピス医の内藤いずみ氏との対談の中で、“医療にもゆったりした時間が必要”、“生と死は一体となっている”などと展開しながら、「『死』は、生きることに組み込まれている。」と主張している。
さらに「生まれてこない方が良かった」とか「苦しみがあるこの世には子供は生まない方が良い」といった「反出生主義」に論究していく。それは、「生者と死者を繋げるのか!?」、「脳死している子 ― 『この子はまだ生きている』」、・・・そして「自分は死んだらどうなるのだろう」、・・「自身の人生を肯定するために」などと進み、最後に「大切なことは『哲学を学ぶ』のではなく『哲学をする』こと」であるとする結論は、まさに「人生を肯定すること」につながっているという強い説得力をもって迫ってくる。
「『いろんな生き方』を実践する『壁壊し名人』」と銘打った第3章では、まさに様々な分野の多種多彩な人々と壁が紹介されている。「世界最高齢DJ・名店餃子店ムロのオバサン」、「高齢社会の誤解の壁」、「佐賀県を日本一の健康長寿のまちにと実践してきた鎌田氏(著者)」の実際の話が展開されている。まさに生きた教科書である。
第4章では、「今までどおりの壁を壊し、命を土俵際で守る」というテーマで語られていく。ここではコロナ渦で医療に従事された医師の方々の奮闘記である。医師であられる著者の視点も十分に反映されている。“お医者様”という言葉があるが、日本には「真の医者」といえるお医者様がたくさんいらっしゃることに素直に感謝の念が湧いてくる。「『絵本の強い力』が大人と子供の壁を突破する」の中で、“絵本が教えてくれる死生観”や“戦争で世界を征服できるか”ということを述べて、“壁を壊すには感性が大事”と訴えている。まさに絵本に、親子、人と人、そして世の中の壁を崩していく力があるとの主張に目から鱗が落ちていく感覚に襲われてしまう。
最期となる第5章の「この国の『壁』の突破法」である。ここでは、「人口減少の壁」、「人口減少を招いてきた三つの壁」についての説明がなされ、様々な観点から著者の説得力のある意見が述べられていく。
2024年の元日には震度7の能登半島地震が発生し、さらに翌日の1月2日には羽田空港での日航機と海上保安庁機の衝突事故が発生した。コロナの大渦も完全に収まらず、世界的にはロシアによるウクライナ侵攻など、国内外に様々な『壁』が立ちはだかっているといえます。
本著は、こんな時代だからこそ、自分自身や地域社会、国、そして世界に存在する様々な問題である『壁』を真正面から見据え、打ち破っていける知恵とヒントに溢れる一書といえよう。

『この国の「壁」』

著者:鎌田 實
出版社:潮出版社 (2023年4月20日初版)
ISBN:978-4-267-02389-7
価格:900円+税

鎌田 實 著
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学修支援だより【2024年5月号】

Foreword

創造的人生こそ健康人生

看護学部長・教授 佐々木 諭

内閣府が毎年実施している「国民生活の世論調査」には、「あなたは、今後の生活において、特にどのような側面に力を入れたいと思いますか?」との質問があります。この問いには約7割の人が健康と答え、人生100年時代を迎え、多くの国民が健康を重視して生活していることが示されています。

それでは、健康とは何を指しているのでしょうか? 1946年に制定された世界保健機関憲章では、健康を「病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態(ウェルビーイング)」と定義しています。健康は、病気のない心身ともに良好な状態にとどまらず、より広い概念として、家族や友人、職場の同僚との人間関係など社会的にも満たされた良好(ウェル)な状態(ビーイング)であるとしています。

近年の健康意識の高まりとともに、ウェルビーイングの概念も注目されるようになり、「ポジティブ心理学」を提唱したマーティン・セリグマン博士は、ウェルビーイングを高め、健康で幸福を実感するための次の5つの要素を示しています。それらは、第一に、嬉しい、楽しい、感動するなどといった前向きな感情であること、第二に、何かに夢中になり没頭、時間や悩みを忘れて打ち込んでいること、第三に、周りの人と仲良く協力し、心が満たされていること、第四に、社会貢献や他利的な行動を通して人生の意義を感じられていること、そして最後に、目標を達成したり、成果をあげることで満足感を得られていることであるとしています。

本学の創立者池田先生は、『健康の智慧』の中で、「『病気がない』だけが『健康』なのではない。一生涯、何かに挑戦する。何かを創造する。前へ前へと自分の世界を広げていく―この“創造的人生”こそ、真の“健康人生”ではないだろうか。その推進力となるのが、不屈の精神力です」と語られています。

通信教育部で生涯学びに挑戦されている通教生の皆さんは、勉学をとおして創造的人生の日々を過ごされており、その生き方のなかにウェルビーイングの健康人生の基盤があることでしょう。これからの皆さんの不屈の挑戦を応援しています。

学修支援推進室コーナー

なぜ経済学部で歴史を学ぶのか?

経済学部 教授 寺西 宏友

経済学部にご入学いただいた方々に、必修の授業として「ミクロ経済学」「マクロ経済学」という経済理論の授業と並んで、「経済と歴史」という授業を履修していただいています。経済学部なので、経済理論の授業が必修というのは、誰も疑問に思わないのですが、なぜ経済学部で歴史を学ぶのかは、少し分かりにくいと思います。

「経済史」という科目は、日本の大学に経済学部という学部が生まれてからずっと存在してきているということをまず申し上げたいと思います。日本の大学の歴史の中で、はじめて「経済学部」という名前で学部が設置されたのは、1919年(大正8年)東京大学と京都大学でした。翌年、私立大学としては慶應大学が一番早く「経済学部」を設置しています。この頃すでに、経済学部としてのカリキュラムに「西洋経済史」や「日本経済史」という科目が必ず含まれていました。

では、何のために経済学部で歴史を学ぶ必要があったのでしょうか?その頃に使われていた教科書を見ると、中心的なテーマは資本主義の形成・発展の歴史でした。1920年頃というと、日本は、日清・日露戦争を経て産業革命を遂行し、世界の列強国の仲間入りを果たしていました。さらに1914~19年の第一次世界大戦では、欧州がまさに戦場となり、世界初の総力戦を戦い抜いていた欧州の列強諸国は、生産能力を激的に低下させ、壊滅的な経済的ダメージに見舞われました。その一方で莫大な利益を上げていたのが、参戦はしたものの戦火に見舞われることのなかった日本でありアメリカでした。特にアメリカはすさまじいばかりの経済発展を遂げていました。こうした歴史的背景の中で、経済学部で教えられた「歴史」関連の講義が、資本主義システムの形成過程ならびに発展の歴史にフォーカスしたのは当然のことであったと思います。特に日本では、明治維新以来の近代国家建設の最中にあったのですから、資本主義を前提とした経済発展が念頭に置かれていたのはごく自然なことでもありました。

もちろん、中には資本主義が万能ではなく、そのシステムのもたらす問題性に着目する学者もいました。第1次世界大戦の最中の1917年に、ロシア革命が起こり、史上初の社会主義国家・ソビエト連邦が誕生していました。これは、「資本主義」を批判したマルクスの提唱した労働階級による生産手段の独占を実現したものでした。マルクスは「資本論」という書物の中で、資本が生産過程に投入され、新たな付加価値を伴う商品を生産することで利潤が実現するということを明らかにしました。そして、その新たな商品の付加価値というのは、原材料に人間労働が働きかけることによって生まれるものなので、突き詰めていうと、利潤の源泉は人間の労働ということになると結論付けました。つまり、資本家が手にする利潤というのは、本来は労働者に賃金として支払われるべきものだということです。このことは、現在日本でも賃上げを実現することが経済の低迷を脱却する上で、喫緊の課題だと言われていることにも通じます。資本主義を語るうえで、こうしたマルクスによる批判的視点は、忘れられてはなりません。

しかし、大学の経済史の中で資本主義の発展を取り上げる場合は、往々にして肯定的にとらえられてきました。それは、その時代その時代の状況に規定されてのことでもありました。特に、1990年代に東西冷戦が終結し、多くの旧社会主義諸国が、自由主義市場経済を取り入れていくことになった時には、「市場メカニズム」を基礎に据えた経済運営こそが、正しいとする価値観から歴史を振り返ることがなされていたように思います。

では、現在の時点では、資本主義というシステムはどのように捉えられているでしょうか?人類の存続を脅かすほどの劇的な気候変動を、私たちは強く実感しています。そのことが引き起こされているのは、人間の経済活動が自然環境の許容範囲をこえて負荷をかけているからです。また、世界での先進国と発展途上国の間の格差、さらには先進諸国の社会内部での行き過ぎた自由競争がもたらす所得格差というものが、見過ごすことが出来ないほどの事態に立ち至っています。こうした問題意識は、現在多くの人に共有されているのではないでしょうか?とするならば、今私たちが、この「経済史」という学問の中で学ぶべきことは、環境問題ならびに格差の問題を資本主義というシステムに内在する問題性ととらえ、歴史的にどのように形成されてきたのかということになると思います。

そもそも経済学という学問は、18世紀にアダム・スミスによって生み出されましたが、現在にいたるまで、社会・時代が大きな転換点を迎えるごとに、そのパラダイム(命題)を大きく変え続けてきています。自由な競争か平等性か、経済活動への政府の関わりは大きい方が良いのか小さい方が良いのか、自由貿易か保護貿易かといういくつもの対立軸自体が時代によって大きく変遷をしてきています。

結論として申し上げると、この「経済と歴史」という科目では、歴史の大きな転換点で新たな経済学が生まれてきたことをまず学びます。そして、現在の私たちの抱える問題意識に立って、そうした問題をもたらす資本主義の歴史的発展過程を学ぶことに重点を置きたいと思います。

受講生の皆さんと一緒に現在の資本主義がもたらす様々な問題を克服していくために、私たち一人一人がどうすれば良いのかということも議論をしていければと楽しみにしています。

自立学習入門講座<72>

自律学習と平和学

文学部長・教授 玉井 秀樹

平和学に限らず学問の追究にはいろいろなスタイルがあります。ここでは、私自身の経験に基づく平和学の学び方を紹介させていただきますが、これが皆さんの「平和」についての学びの参考になれば幸いです。
今回は「戦争と平和」についての理解を深めること、その学びの方法としての「文献講読」について述べていきたいと思います。

1.戦争と平和について考える

平和学は20世紀半ばに生み出された学問です。第一次、第二次と世界戦争が続き、ホロコーストや重慶、ゲルニカへの無差別爆撃、そして、広島、長崎への原爆投下という激烈な破壊と殺戮であった20世紀の戦争。そして、それほどの殺戮を経験したにもかかわらず、アメリカとソ連は世界を東西に分断して対立を深め、核兵器を向け合って相手を牽制するという「冷戦」を戦う。そのような時代でした。
この20世紀の戦争の<進化>は、核戦争の危機、すなわち人類存亡の危機をもたらしました。この深刻な危機に直面し、世界各地の市民が核戦争の防止、核兵器使用の反対を訴える運動を繰り広げました。このような時代状況の中で、平和学は核戦争を防止するための「戦争の研究」として始まったといえると思います。
ところで、「戦争の研究」自体は20世紀に始まったわけではありません。「人類の歴史は戦争の歴史である」と格言のように語る人もいますが、実際には私たち人類=ホモサピエンスが現れてから約20万年といわれる長い歴史の中で考えれば、「戦争」状態にあった時間はそれほど長くはありません。しかしながら、同族が殺し合う「戦争」はかなり異常な行為であり、だからこそ特異な出来事として記録されてきたともいえます。ヨーロッパで「歴史の父」とされる古代ギリシアのヘロドトスが著わした『歴史』が、ペルシア戦争の記録でもあることなどは、人類史とは「戦争の歴史」であるとする考え方を生み出す一因となっているかもしれません。
このように人間は古代から「戦争」を記録し、考察してきたわけですので、戦争をしない世界としての平和を理解するために、戦争と平和に関する古典的文献を読み解くという主体的な学びは有用であると思います。例えば、反戦・平和の思想のなかでヨーロッパにおける初めての体系的平和論とも紹介されるエラスムスの『平和の訴え』は熟読に値する古典であると思います。

2.エラスムス『平和の訴え』(1517)を読む

ルネサンス期最高の人文学者と評されるエラスムスは戦争をどのように評価していたのでしょうか。『平和の訴え』には以下のような記述が見られます。

なんという恥ずかしさ! ユダヤ人よりも、異教徒よりも、野獣よりも、一まわりも二まわりも残虐な戦いをキリスト教徒がしているとは! (『平和の訴え』岩波文庫1961年50頁)

この表現には、戦争行為が人として行うべきではない恥ずべき行為であるという倫理が示されていると解されますが、その一方で、キリスト教を最高位とする差別的な考え方もみることもできます。
古典的文献を読むときには、その文献が著された時がどのような時代であったか、著者がどの様な社会に生き、どのような思想を持っていたのか、といったことを知ることがたいへんに有益です。そのような関連情報や知識が、文献の意味内容をより良く理解し、著者の真意を考察する大きな手掛かりとなるのです。
そのためには、該当する時代の歴史・社会についての研究書などを読むことになりますが、こうした古典には文献の翻訳者や研究者による解説が付されていることが多いですので、まずここから始めるのがよいと思います。初めて学ぶ者にとってはその解説を理解すること自体が易しいことではないこともあるかと思います。そうした場合は、初見の語句や概念などを専門の事典等で調べ、しっかりと理解していくことがその後の学びに活かされていきます。なお、こうした「調べもの」はインターネットで検索することが多いと思いますが、その際には<情報源>の信頼度を必ず確認することを怠らないようにしましょう。
『平和の訴え』についても、同書が著された16世紀初頭のヨーロッパがどのような世界であったのか、そこでエラスムスはどのように暮らしていたのかを知ることで、文献の真意、真価がさらに深く理解できるようになります。(ちなみに、岩波文庫版では本文とほぼ同じ分量の訳注と解説が付されています)
エラスムスが語る「平和」が意味することと現代に生きる私たちが想起する「平和」の意味内容との異同を知ることで、私たちが求めるべき平和とはどのようなものなのかをより深く考察することができると思います。
ここで詳述することはしませんが、16世紀のヨーロッパでは、ヴァロワ朝のフランス、神聖ローマ帝国のハプスブルク家、イタリア、ローマ教会などが勢力争いを繰り広げており、それが「戦争」へと発展するという時代でした。『平和の訴え』は、そのような時代に若くしてスペイン国王となったカルロス一世のために著された<キリスト教君主論>(君主として相応しい姿を説くもの)であったとも言われています。そのような特徴が感じられる以下のような記述もあります。

敬虔な君主にとっては、その人民の安全を図ることが何よりも重要な義務だとしたら、まず戦争こそは何よりも憎むべきものとされなければなりませんね。(『平和の訴え』84頁)

戦争は戦争を生み、復讐は復讐を招き寄せます。ところが、好意は好意を生み、善行は善行を招くものなのです。このようにして、自分の権力を放棄すればするほど、その人は一そう王者らしい王者と思われることになるのですよ。(『平和の訴え』97頁)

エラスムスがこのような君主の理想を示した時代のヨーロッパ世界の現実はどうであったか。『平和の訴え』と同時期にイタリアのマキアヴェリが『君主論』を著しています。『平和の訴え』よりはるかによく知られ、現在でもよく読まれています。同書には、「君主たる者は、冷酷だなどの悪評を気に欠けるべきではない」ですとか、「善い行いをすると公言する人間は、よからぬ多数の人々の中にあって破滅せざるをえない」、また、「ある国を奪い取るとき、征服者は当然なすべき加害行為を一気呵成に行うがよい」(『マキアヴェリ君主論』中公クラシックスなどを参照)といったことが述べられています。
16世紀のヨーロッパは、すでに述べたように王族・諸侯の勢力争いに、プロテスタントとカトリックという宗教的正義をめぐる闘争が絡み合う戦乱の時代となっていきます。エラスムスのような一級の知識人が反戦・平和の思想を「訴え」ていたにもかかわらず、なぜ、当時の権力者たちはマキアヴェリの説くような暴力による支配、戦争の勝利の追究という行動を選んだのか。この問題を考えることが平和学の重要な学びの一つであると思います。

3.中江兆民『三酔人経綸問答』(1887)を読む

もう一つお薦めしたいのは中江兆民の『三酔人経綸問答』です。明治期日本が国際社会の中でどう振る舞うべきかが、平和主義者である<洋学紳士>と拡張主義者である<豪傑君>、そして、中庸的な<南海先生>の3人の会話劇の形式で述べられています。
角川ソフィア文庫版には詳細な解説が付されており、19世紀末の状況について、「ヨーロッパは、資本主義とナショナリズムが生み出す課題に直面し、激動期をむかえていた。日本はこの世界的な動向に吞み込まれ開国を促され、多くの留学生を送り込んだ」と紹介されています。
中江兆民はそのような留学生の一人としてフランスに渡ったわけですが、その当時のヨーロッパはまさに激動のなかにあり、フランスでは、1870年の普仏戦争に敗れたナポレオン三世が失脚して臨時政府がつくられたものの、プロイセンに対する抗戦を訴える市民たちによって新政府=パリ・コミューンにとって代わられるという混乱が続いていました。マルクスも注目したこのパリ・コミューンは労働者による初の社会主義政権とも言われますが、約2か月ほどで崩壊します。そして、フランス第三共和政が本格的に機能するまでにはさらに数年を要しました。
このような現実の戦争と政変を目の当たりにした中江兆民によって、日本という国家をそのような混乱に陥らせることなく存続させるためにはどのような政策を取るべきなのかということが語られています。150年ほど前のいわゆる国策論なのですが、米中対立に象徴される<分断>を深める現在の世界情勢を想起させる内容です。自国の利益や正義のために他国の人々を犠牲にして顧みないという時代に平和主義的政策をどう実現するのか。例えば、以下のような会話が展開されています。

豪傑の客が言うには「・・・凶暴な国があって、私たちが撤兵するのに乗じて派兵して襲ってきたときはどうするんですか。」
洋学紳士は、「僕は断じてそうした凶暴な国はないと信じています。・・・彼らがそれでも聞かずに銃砲を装備して突きつけてくるなら、僕らは大声で言うだけのことです。『あなたはなんと無礼で道義がないのだ』と。そして銃弾を受けて死ぬだけのことです・・・」

「豪傑君、僕は心の中で、わが国民が兵力も弾丸もまったく持たず、敵軍の手で殺されるのを望むのは、全国民を一種の道徳的生き物と化して、後々の社会の模範にしようとするためなのです。相手が悪事をなすから、自分もまた悪事をなすというのは、あなたの思想です。なんと低級ではありませんか。」
(『三酔人経綸問答』角川ソフィア文庫2021年61-64頁)

洋学紳士の「暴力を絶対的に否定する」という信念は首尾一貫して<正しい>ように見えますが、私などは「その正しさのゆえに人の命が犠牲になるということは許されるのか」という悩みが生じます。
2022年のロシアによるウクライナ侵攻が契機となって、フィンランドとスウェーデンがNATO(北大西洋条約機構)に加盟するなどヨーロッパの安全保障体制は大きく変わりました。ナポレオン戦争の時代以来、ナチス・ドイツの侵攻に際しても<中立政策>を保持してきたスウェーデンが、200年ぶりに政策転換をしたことの意味は少なくないと思います。近年、日本においても<歴史的転換>と呼ばれる防衛政策等の変更が行われていますが、新しい政策が<非戦>を貫くことにつながるのか否か、その是非を検討するということは、150年前から続く平和主義者と拡張主義者との対論をあらためて考えるということでもあるように思います。

以上、戦争と平和に関する古典的文献からは今日的な平和の課題を理解する大きな手掛かりを得ることになるのではないかということを述べてきました。最後に、自学自習用に推薦したい文献をいくつかお示ししますので参考にしていただければ幸いです。

  • エラスムス『平和の訴え』(翻訳・箕輪三郎/解説・二宮敬)岩波文庫1961年
  • 佐々木毅『マキアヴェッリと「君主論」』講談社学術文庫1994年
  • カント『永遠平和のために/啓蒙とは何か』(翻訳/解説・中山元)光文社古典新訳文庫2006年
  • 萱野稔人『100分de名著カント 永遠平和のために悪を克服する哲学』NHK出版2020年
  • 中江兆民『三酔人経綸問答』(訳/解説・先崎彰容)角川ソフィア文庫2021年
  • 平田オリザ『100分de名著中江兆民三酔人経綸問答』NHK出版2023年
  • E.H.カー『危機の二十年』(翻訳/解説・原彬久)岩波文庫2011年

教職指導講座

今年度の教員採用試験について

教職キャリアセンター指導講師 杉本 信代

すぎもと のぶよ SUGIMOTO Nobuyo
教職キャリアセンター指導講師
[ 職  歴 ] 東京都小学校校長
[専門分野] 国語科、特別支援教育
[担当科目] 教職概論、教職実践演習

教員採用試験が、行政により試験日程や試験内容に大きく変化がみられます。一部試験の前倒し・早期化や、試験内容の見直しがなされているのです。自分が受験する自治体の教育委員会ホームページを丁寧に読んで、しっかりと対策を行いましょう。
皆さんは、教員採用試験合格に向けて、自分が決めた計画はうまく進んでいますか?
教育学者の齋藤孝さんは、『10歳のミッション』の中で「この世の中で生き抜くために、一番大事な力は、優先順位をつける力だと思います。」と語り、優先順位1位に向かって、集中して実行することが大切だと書いています。分かっていてもいろいろな刺激を受けながら生きている私達は、常に優先順位1番を実践していくことが難しいこともありますが、今、自分が一番やるべきことは何かと常に自らに問いながら進んで参りましょう。

では、多くの教採で実施されている試験内容の面接・小論文の書き方の対策について、具体的なアドバイスを以下に書きましたので参考にしてください。

面接試験対策について

● まず、自分の良いところをしっかり捉えましょう。
⇒ 自信をもつと、落ち着いた雰囲気になります。
● 必ず、聞かれたことに応えましょう。
⇒ 質問に正対してください。どんなに深い考えでも、聞かれていないことを話すと質問に対する理解力がないと思われます。
● 論理的に結論を始めに述べましょう。
⇒ その後に、その根拠になる体験や理由を語ってください。
● 志望動機・教育実習の感想・成果を上げた取り組み等は、必ず聞かれます。
⇒ 自分で面接ノートを作り、項目ごとに話す内容をまとめておきましょう。

論文対策について

● 基本的な様式や、文章構成(序論・本論・結論)の書き方を身に付けましょう。
1つの論作文を仕上げるには、2~3週間はかかります。
創価大学で行っている対策講座を活用して、粘り強くチャレンジしましょう。
● 本番は、鉛筆を使って自分の字で書きます。
原稿用紙に、直接書く練習もしてください。
とにかく、字は丁寧に・上手に、時間内に書くトレーニングをしましょう。
● 最後は、決められた時間制限を設けて書いてみることが大事です。
書き方が身に付くと、自信が湧いてきます。

 ポイント 

 

◎ 日頃から、「思考力・判断力・表現力」を身に付けるため、文章を書く習慣を付けましょう。
◎ 見出し力を付けましょう。
書いた文章にはタイトルを付けてみてください。
◎ 推敲力を高めましょう。
自分が書いた文章は、何度も読み直すこと。
・主語と述語が捻じれていないか?(1文が長いと危険‼)
・~たり、~たり・・・の表現には気を付けましょう。
「たり」は1回使うと、続けて一文の中で、もう一回使わなければなりません。
・同じ言葉を繰り返していないか?
・表現は最適か?
・人権的な配慮はしているか?
◎ 書いた文は、時間をおいて、読み返すことが大事です。
気になった部分は書き直しましょう。

参考に、昨年の東京都の論作文の課題に対する例文を本人の了解のもと、紹介します。

各学校では、児童・生徒一人一人のよい点や可能性を引き出し伸ばす教育が求められています。
このことについて、あなたの考えを述べた上で、その考えに立ち、教師としてどのように取り組んでいくか、志望する校種と教科等に即して、26行(960字)を超え、30行(1050字)以内で述べなさい。

Foreword

後半の学習について

通信教育部副部長 望月 雅光

現在、私たちの過ごす社会は情報化の進展やグローバル化の発展等により、予測不可能な時代となった。このような時代を生きる私たちは、お互いを認め合い、人と人が手を取り合って協力していく力が何よりも必要であると考える。私は、児童一人一人のよい点や可能性を引き出し伸ばしていくために、お互いの持つよさや頑張っていることを認め合える学級経営に取り組んでいく。
学習指導では、児童が互いに教え合い学び合う学習活動を行う。これは、各教科の授業の中で演習問題を解く際に、グループ学習を取り入れるようにする。グループ内で、解き方を話し合い、答えまで導き出すやり方である。この経験は、児童がより主体的な学びを獲得できるようになると考える。
生活指導では、互いのよいところ、頑張っていたことを紹介しあう「今週のキラリ賞」の活動を行う。これは、週に1回の学級活動の中で、クラスのために頑張っていた人や良いことをしていた人を紹介する活動である。この活動を通して、紹介してもらえた児童は、自分がクラスや友達のために役に立つことをし、認めてもらえた喜びを実感して、自己肯定感を上げることができる。その際は、どの児童も認めてもらえるような機会が平等にあるような配慮を工夫していく。そして、どの児童にとっても、クラスや友達のためになることは大切なことであるという価値に気が付くように取り組んでいきたい。それには、まずは教師自身が、日頃の学校生活の中での児童一人一人のよさや頑張りをほめる姿を通して、「自分や友達のよさを見つけることは素晴らしいこと」だということを伝えていく。
児童一人一人のよい点や可能性を引き出し伸ばしていくために、まずは教師である私自身が、児童一人一人と積極的に関わり、児童の様子や頑張りを感じ、認めていく。その中で、児童同士もお互いの良さを認め合い、仲良く楽しいという喜びの声が響き合うクラスにしていく決意である。

日常生活の中で、働きながら学ぶことは大変なことだと思いますが、苦労こそが自分の精神を鍛え、人格を磨く宝となります。創立者より頂いた創価大学の指針の一つである「労苦と使命の中にのみ 人生の価値(たから)は生まれる」の言葉は、通教生の皆さんの生き方そのものであると感じています。私達指導講師も、教採対策講座等を通して皆さんを応援していますので、どうぞ大いに活用してください。

最後に、創立者池田大作先生の言葉を紹介します。
人生というのは“絶対にこうしよう”“こうなっていこう”と心を定め、真剣に頑張り抜いていけば、必ず、自分が納得できる結果が得られるものです。大切なのは、毎日毎日の精進です。どんなに辛く苦しくとも、負けないで、懸命に努力を重ねることです。それが人生の根っこをつくることになる。(新・人間革命 大河の章 より)

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学修支援だより【2024年6月号】

Foreword

夏期スクーリングを迎えて

通信教育部長 吉川 成司

~ 学の光で輝く人生の勝利者に ~

 何よりもまず、職場や家庭でさらに地域でお忙しくされながらも、たゆみなく勉学の歩みを進めておられる通教生の皆さんに最大の敬意を表したいと思います。
 さて、昨年度の夏期スクーリングは、新型コロナウィルス感染拡大のため4年ぶりに対面で実施することができました。記録的な猛暑でしたが、参加された通教生の皆さんは、異口同音に、対面での授業や友人との交流に喜びを語っておられました。この人と出会い学び合う意義について、創立者・池田大作先生は、夏期スクーリング中に開催された伝統の学光祭に際して、「桜梅桃李の多彩な人華が交流を結び、未来への誓いを分かち合う、この光友家族の連帯の意義は計り知れません」と激励のメッセージを送ってくださいました。
 対面授業にはオンライン授業にはない臨場感があります。ある時は真剣な知的触発があり、またある時には和気に満ちた雰囲気を直接体験し共有できます。今年も、燦々たる夏空のもと、創価大学の広々としたキャンパスで、日本中、世界各地から集う同学の友と、充実した学び合い、触れ合いの思い出を刻んでいただきたいと思います。
 授業科目についても、現代的な教養に関するものが今年度から新たに開講されています。「初年次セミナー」「環境問題入門」「ライフイベントとキャリア」「データサイエンス入門Ⅰ」「生命科学B(糖鎖入門)」などです。皆様にとって有意義な学びの機会になるものと思いますので、どうぞ楽しみになさってください。
 さて、1975年3月、創立者は、創価大学一期生の卒業式において、生涯教育・生涯学習の重要性について語られました。「自分で自分を教育する生涯教育」においては、「何歳になろうとも、向学心が衰えないこと、これが条件であります」と述べておられます。そして、「学ぶのは充電あり、役立てるのは発電であります。一生、この充電と発電を絶やさずに繰り返していけるようになったならば、その人は必ず人生の勝利者となっていくことは間違いないでありましょう」と祝辞を結ばれました(創価大学第一回卒業式「たくましき福運の青春を」)。そして、その約1年後の1976年5月、創立者が創価大学構想の当初から念願されていた、通信教育部が開設されました。通教での学びは、まさにこの充電と発電の絶え間なき繰り返しであり、人生の勝利者につながる大道でありましょう。
 暑さ厳しき折、参加される皆さんにおかれましては体調管理にくれぐれもご留意ください。お一人お一人の人生においてかけがえのない貴重な学びの機会になりますようにお祈りいたします。

学修支援推進室コーナー

レポート作成講義【入門タイプ】を担当して

通信教育部 教授 有里 典三

 毎年4月~6月に実施する「入門タイプ」は、レポート学習の全体的なプロセスについて時系列的に理解してもらうことに主眼を置いている。今回は、ゴールデンウィークに入ったばかりの4月28日に、大坂の科学技術センターに出張して、以下の3点に焦点を当てて解説を行った。第1は、学術的なレポートと作文やエッセイとの違い、レポート学習の進め方(時間配分)と心得について。第2は、レポート学習を前半と後半に大別し、前半のインプット段階と後半のアウトプット段階の学習課題を明確にすること。第3は、レポート学習の各工程で理解しておきたい代表的なアカデミック・スキルについてである。どれもが通教生にとってはレポート学習を進めるうえで躓きの原因となっている。
 第1の躓きの原因は、レポートとは学習成果の報告書だということが理解できていない点である。レポート学習はテキストを中心に「読み・書き・考える」作業を繰り返すのが原則だ。標準的には、前半に1週間(15時間程度)を、後半にも1週間(15時間程度)を割り当ててほしい。半年間ぐらいでこのペースをキープできるように努力してみよう。他人のレポートを見て書くことも他人に見せることも厳禁。あるいは、テキストの文章を十分に理解せず丸写しすることも厳禁。こうした行為は「剽窃」と呼ばれ、絶対にやってはいけない不正行為である。
 第2の躓きの原因となるのは、レポート学習を継続的に積み上げるための学習環境の確保と時間管理が徹底されていない点である。特に、図書館の利用と早朝2時間の集中学習を是非とも習慣化してほしい。これが実現できればレポート学習は必ず軌道に乗るはずだ。
 第3の躓きの原因は、レポート学習を計画的にしかも効率的に進めるための段階別の目標設定である。すなわち、前半のインプット段階では、①「レポート課題の意味を的確に理解するために」、まず課題文の「キーワード」に注目し、次に『レポート課題解説』を熟読する。その後で「チェックシート」を作成して、何が求められているのか、何を学習すればよいかを的確につかむことが大切である。次に、②「テキストの内容を正確に読み取るためには」、テキストを読むためのアカデミック・スキルが必要になる。読み方のコツだが、最初はテキストの概要をつかむ「トップダウン式の読み」を行う。次に、内容のまとまりを意識してパラグラフごとに精読し、「題目文」を中心に内容を要約してみよう。テキストを読む段階でも、パラグラフを意識して読む「パラグラフ・リーディング」が重要なのだ。これによってテキストの論理構成を理解することができる。読み取った要点は、記入上のルールを守って「情報カード」に記録する。このカードには書誌データを忘れずに記入する。
 後半のアウトプット段階の目標は、③「論理的なレポートを執筆するためにパラグラフ・ライティングの技法を習得すること」と、④「下書きに磨きをかけるために、全体構成と文章作法と原稿作法という3つの観点から推敲を行う技法を習得すること」である。

ブック・スクウェア

『あきない世傳 金と銀』

通信教育部 教授 坂本 幹雄

 経済学徒として、「あきない」と「金と銀」のタイトルに魅かれて本書を読んだ。エピグラフの「ただ金銀が町人の氏系図になるぞかし 井原西鶴著『日本永代蔵』より」も気になるところである。
 各巻のタイトルは以下のとおりである。第一巻「源流篇」、第二巻「早瀬篇」、第三巻「奔流篇」、第四巻「貫流篇」、第五巻「転流篇」、第六巻「本流篇」、第七巻「碧流篇」、第八巻「瀑布篇」、第九巻「淵泉篇」、第十巻「合流篇」、第十一巻「風待ち篇」、第十二巻「出帆篇」、第十三巻「大海篇」、特別巻(上)「契り橋」、特別巻(下)「幾世の鈴」。なお特別巻は、主要登場人物たちの中から主役を選んだ短編集となっている。
 長くならないよう第一巻のみ各章のタイトルをあげてみよう。第一章「幸」、第二章「試練の一年」、第三章「別離」、第四章「五鈴屋」、第五章「丁稚と女衆」、第六章「商売往来」、第七章「火種」、第八章「初めての銀貨」、第九章「ご寮さん」、第十章「軋轢」、第十一章「決別」、第十二章「事の顛末」。
 あらすじをカバーから一部引用してみよう。まずは第一巻から。

物がさっぱり売れない享保期に、摂津の津門(つと)村に学者の子として生を受けた幸(さち)。父から「商は詐(いつわり)なり」と教えられて育ったはずが、享保の大飢饉や家族との別離を経て、齢九つで大阪天満にある呉服商「五鈴屋(いすずや)」に奉公へ出されることになる。慣れない商家で「一生、鍋の底を磨いて過ごす」女衆でありながら、番頭治兵衛(じへえ)に才を認められ、徐々に商いに心を惹かれていく。

 次に舞台が大阪から江戸へと移る第六巻から。

……「五鈴屋(いすずや)」は、天災や大不況など度重なる危機を乗り越え、江戸進出に向けて慎重に準備を進めていた。その最中、六代目店主智蔵が病に倒れてしまう。女房の幸は、智蔵との約束を果たすべく立ち上がった。「女名前禁止」の掟のもと、幸は如何にして五鈴屋の暖簾(のれん)を守り抜くのか。果たして、商習慣(しょうしゅうかん)もひとの気質もまるで違う江戸で「買うての幸い、売っての幸せ」を根付かせたい、との願いは叶えられるのか。

 そして最終巻からはほんの少しだけにしよう。

宝暦元年に浅草田原町に江戸店を開いた五鈴屋(いすずや)……時代は宝暦から明和へ、「買うての幸い、売っての幸せ」を掲げて商いの大海へと漕ぎ進む……

 最終巻の巻末の「作者より御礼」(第十三巻367頁)によれば、本書のきっかけとなったのは「いとう呉服店」(のちの松坂屋)十代目店主の宇多(うた)という女性である。「困難に屈せず、商いを守り育てていく女性を描きたい、と願い、新たに創り上げたのが、本作の主人公」であるという。
 主人公が商いの創意工夫に思い悩む場面が随所で描かれている。次にその典型的な個所を引用しよう。

……無理だと諦(あきら)めてしまう前に、固まってしまった思考を解(ほぐ)そう。柔らかな土壌(どじょう)でなければ、知恵の種は芽が出せない。/その昔、番頭の治兵衛から「知恵は何もないところからは生まれない。盛大に知識を蓄えよ」との助言を受けたことがあった。正しい知識に経験が加わって、知恵の生まれる土壌が出来る。あとはそれを、充分に柔らかく耕すことが大事なのだ。(第七巻53~54頁)

 知識と知恵の関係のよい描写であると思った。
 著者のもう一つの大長編『みおつくし料理帖』が衣食住の「食」を中心とした江戸時代の生活が描かれているのに対して、本書は「衣」を中心として描かれている。本書は衣装の小説であるから、この点をはずすわけにはいかない。次のような一節がある。

色いうんは面白いもので、好きな色と、その人の似合う色とは、必ずしも一緒と違いますのや。おまけに、似合う色は、齢を重ねるごとに変わってきますよってに、工夫のし甲斐もおます(第十二巻319頁)

 私の友人のファッションデザイナーの先生が「自分が好きなカラーが自分に似合うカラーとは限りません」とよく言うところと同じ点である。先生は講座で受講生に対して「あなたにお似合いの基本カラーは、これ!」とズバッといい、ヘアスタイル、顔の形、体型など細々と指摘し、さらに性格分析までして、素敵にコーディネートされる。心理学系の方なら、自分に見えない他人なら見える自分、とジョハリの4つの窓などを持ち出すだろうか。経済学徒としては、美の価値について、主観価値と客観価値に思いめぐらすところである。またAIやメタバース等によりコーデが今後どう進化していくのか気になるが、いま立ち入る余裕はない。
 さて著者の時代小説の特徴を示す、次のようなデビュー当時の著者への編集者からの厳しい指摘がある。

高田さん、売れる時代小説の条件をご存じですか?江戸市中が舞台であること、捕り物などミステリー要素があること、剣豪ものであること。この三つですが、あなたの書くものは全(すべ)て、ことごとく外(はず)していますねぇ(高田郁2012『みをつくし献立帖』11頁、時代小説文庫・ハルキ文庫)

 「三つの条件を踏まえた物が書けなければ、この世界では到底やっていけない……これには心底、参りました」(同12頁)と著者は述べている。本書も『みおつくし料理帖』も主として江戸(と大阪)が舞台となるが、刀の斬り合いはなく、捕り物ミステリーでもない。しかし両作品とも波瀾万丈の物語として一気に読めた。

 

『あきない世傳 金と銀』全13巻+特別巻2巻
著者:高田 郁(たかだ かおる)
出版社:時代小説文庫(ハルキ文庫) 角川春樹事務所
発行年:2016~2024年
ISBN:78-4-7584-3981-7 他
価格:全巻セット7800円+税、各巻580~700円+税

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学修支援だより【2024年7月号】

Foreword

エンデュアランス号漂流記

理工学部長 黒沢 則夫

 アーネスト・シャクルトンというイギリス人の探検家がいました。人類初の南極点到達を目指して1907〜1909年に遠征しますが、あと僅かの距離を残してたどり着くことが出来ませんでした。その2年後の1911年に、ノルウェーの探検家ロワール・アムンセンが南極点到達を成し遂げます。シャクルトンは、目標を“南極点を経由した南極大陸横断”に切り替え、1914年にエンデュアランス号という船で27名の隊員とともに南極に向けて出発します。ところが、南極大陸上陸を前にエンデュアランス号は氷に押し潰されてしまいます。シャクルトンらは船を放棄し6ヶ月にわたって浮氷に乗って漂流した末に、エレファント島という南極の小さな島にたどり着きます。しかし季節は冬に入りかけていて、この島での生存が不可能であることは誰の目にも明らかでした。シャクルトンは1,300 km離れたサウスジョージア島に救援を求めるため、5名の隊員とともに再び海に出ることを決意します。エンデュアランス号を失ってから漂流中もずっと携えていた小さな救命ボートによる航海でした。死を覚悟の航海でしたが、シャクルトンらは奇跡的にサウスジョージア島にたどり着きます。その後、エレファント島に残してきた22名の隊員の救援も困難を極めましたが、それも遂に成し遂げられます。

 今回この話を紹介しようと思いついたのは、本誌4月号に掲載された鈴木学長のForewordを目にしたことによります。この中で学長は、創立者が『学光』第100号に寄稿された次の一文から始まる激励のお言葉を引用されています。「(通信教育部で学ぶ)皆様はそのボートに乗り、一人で懸命にオールを動かし、対岸をめざしゆくのであります」。学長は、「しかし皆さんは、一人ぼっちでボートを漕ぎ続けるのではありません」とも続けられています。凄まじい逆境を乗り越え、仲間全員の救出に成功したシャクルトンの不屈の精神はまた、開学の日に創立者が学生に送られた指針「労苦と使命の中にのみ人生の価値(たから)は生まれる」にも通じていると思います。

 シャクルトンの体験は、彼自身が著した『エンデュアランス号漂流記』(ISBN-13:978-4122042254)という本に詳細に綴られています。私は些細なことでもくよくよしがちな弱い人間ですが、この本を読んで以降、困難や苦労というものの尺度が少し変わりました。いろいろ疲れてしまった時、ちょっと休んでこの本でも読んでみてはいかがでしょうか。少し勇気がわいてくるかもしれません。

学修支援推進室コーナー

夏期スクーリング期間中の学習支援について

学修支援推進室 室長・文学部 教授 高橋 正

 ジメジメとした梅雨がもうすぐ終ろうしております。いよいよ輝く太陽の下で行われる夏期スクーリングが近づいてきました。4年ぶりに対面で行った昨年のスクーリングでは多くの学生が参加して、額に汗をにじませながらも有意義な学びと場となりました。大学のキャンパスで学べること、教員や学友と直接に交流することの喜びを実感した受講生が多くいたことと思います。

レポート作成講義の開催
 学修支援推進室では、夏期スクーリングの期間に3回にわたり、次の日程で、対面でレポート作成講義を行います。講義の開始時間は、スクーリング授業終了後の18:30となります。教室などは夏期スクーリング実施のお知らせの中でポータルサイトなどを通じてお知らせします。また、各期のガイダンスでもお知らせします。

 第1期 8月11日(日)
 第2期 8月16日(金)
 第3期 8月21日(水)

この講義は通教生のレポート作成サポートの一環として実施しており、次のような方針の下で行われます。

  1. 通教生はどなたでも無料で参加できます。つまり、夏期スクーリングに参加していなくても受講できます。 
  2. 講義タイプはどの日程でも入門・A・B・Cタイプの4つを開講します。レポートの書き方がよく分からない方は、入門やAタイプの講義を受けてください。レポートの内容をさらに高めたいとか、より論理的で説得力のあるレポートはどのように作成するのかについてはBやCタイプの講義をお勧めします。受講者からは「レポート作成の構成が理解できた」や「レポートに取り組む気持ちが強くなった」とか、「何回受講しても、気づく点があり、助かります」といった意見が聞かれ好評です。
  3. 事前の申し込みが必要ですので、学光ポータルの「学修サポート」のメニュー内にある「各種ガイダンス・レポート講義・個別相談・懇談会申込」の中の「レポート講義」から申し込んでください。申し込み方がよく分からないという方は、『学光ポータル利用マニュアル2024』のp.84 (ネット版ではp.91)をご覧ください。

オフィス・アワーのご利用を
 夏期スクーリング期間中に、各科目を担当する教員が学修上の質問や相談を受けつける時間・場所を授業時とは別に設けます。授業の中で生じた疑問やよく理解できなかったところなどを気軽に質問できます。事前の予約は不要で、指定された時間帯であれば訪問することができます。ぜひ、ご利用ください。実施する教員や日時・会場などの詳細は、夏期スクーリングの各期のガイダンスで配布します。

自立学習入門講座<73>

「民法総則」から「物権法」へ -勉強の仕方をイメージしよう-

法学部 教授 松田 佳久

1.はじめに

 物権法は、民法という大きな科目の中の一つの科目です。法学部ですと民法は5つの科目に分かれます。5つの科目は、民法総則、物権法(法学部の司法試験コース(GLP)では、物権法は物権法と担保物権法の2つの科目に分かれています)、債権総論、債権各論、親族・相続です。

【図 民法はパンデクテン方式により構成されている】

 以上の図のように、民法はパンデクテン方式という形で構成されています。第1章の民法総則では、民法の全般にわたる定義、原則などが規定されています。

 まずは民法総則でこの民法全般にわたる定義や原則を勉強します。次に具体的な物権法や債権法といった内容に入っていくのですが、そこでも物権法や債権法の中での共通の定義や原則を最初に勉強し、そして、ようやく具体的な内容、たとえば債権法であれば売買契約、賃貸借契約などといった内容に入っていくことになります。

 定義や原則はきわめて抽象的な内容ですので、できるだけ具体例を頭に思い浮かべて学習を進めていくのですが、なかなか具体例が浮かばない場合もあります。テキストでは、わかりやすくするために具体例で説明をしたり、図を用いて解説をしたりして、抽象的な内容を具体化することでより理解できるようにしています

2.法条文の意義

 法律を学ぶに当たり、なぜその規定があるのか、その規定の存在意義をまず学びます。たとえば、民法総則にある取得時効を学ぶ場合です。取得時効は、権利を行使しないまま一定期間が経過した場合に、所有権等の財産的権利を取得する制度を言います。何十年もの間、所有権でないBがAの土地を占有し、勝手に建物を建ててそこに居住する場合、その何十年もの居住によってすでにBを中心に新たな権利関係が醸成されており、Bもそこで安定した居住が得られているわけです。一方、土地所有者Aは、Bの占有の事実の認識がある場合もあるでしょうし、ない場合もあるかと思いますが、いずれにしてもAは自分の所有権をBに対して権利行使をしていません。Aは裁判に訴えてBを追い出すことが可能なのに、そのようなことは一切していないということは、Aは権利の上に眠れる者といえ、そのような者は保護されるべきではありません。むしろ何十年も安定した居住を続けてきたBを保護すべきです。また、Bの保護により、長年の居住によってBを中心に作られてきた法律関係の安定を図ることができます。また、AB間で売買契約があったのか、あるいは賃貸借契約があったのか、そのような証拠は長時間の経過により散逸してしまいます。証拠が散逸してしまい、Bの占有する権原を証明できなくなったことにより、AがBをその土地から追い出すことができることとなった場合(たとえばBの先代CはAよりその土地を購入していたにもかかわらず、売買契約書といった証拠資料がなくなってしまって、Bの所有権を証明できないことから、本来ならば前の所有者であって所有者ではないAがBをその土地から追い出すことになる)、あまりにもBにとって不利益です。そのような場合には、Bが長年にわたってそこに居住してきたことによってBを中心とした多くの権利関係が作られてきたわけですから、Bを保護すべきです。取得時効によってこのようなBを保護することができます。
 時効取得にはこのような意義がありますので、短期間、たとえば5年間のBの占有でBに時効取得を認め、Aの所有権を消滅させるとした場合、はたしてAが権利の上に眠れる者といえるのかが、問題となります。民法162条では5年間ではあまりにも短いとし、10年間あるいは20年間としています。10年間あるいは20年間のBの占有に対しAが所有権を主張しない、という場合には、Aは権利の上に眠れる者であるとしています。
 このように、なぜそのような規定があるのかといったその存在意義を学ぶことがとても重要ですし、様々な具体的な事案にその規定を適用するにあたっての法解釈においてもとても重要です。

3.要件と効果

 条文には、たとえば162条の取得時効であれば、その効果と、それが生ずるためには、どのような要件を具備する必要があるかにつき規定されています。つまり、要件と効果が規定されています。162条1項には、「所有の意思をもって」「平穏に」「公然と」「他人の物を」「20年間占有」といった要件が規定されています。それに対する効果は、「その所有権を取得する」です。
 前述2で条文の意義を勉強することはとても重要だということを示しましたが、その意義に基づき、土地の所有者が権利の上に眠れる者といえるには、20年間の占有が必要だということになり、それが要件として規定されたわけです。つまり、条文の意義が要件を規定する重要な役割を担っているということになります。
 これに対し、162条2項では、1項に規定されている要件(20年間の占有期間の要件は除く)を満たし、さらに「その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは」という要件と「10年間の占有」を満たすと、その効果として「その所有権を取得」します。
 占有者が占有の開始の時に、「善意」(善意とは、自分に所有権がないことを知らないことを言います)、かつ、「無過失」(不注意がないことを言います)である場合(両方を合わせますと、自分が所有者であることを知らないことに不注意はないとなります)は、条文の意義からしますと、そのような占有者の方が所有者よりも保護すべき存在だということが言え、10年間の占有で取得時効が認められています。
 法的効果を規定する条文には、このようにかならず要件が規定されています。どのような要件を満たすと、条文に規定されている効果が得られるか、について勉強をしていきます。

4.物権法その1 不動産物権変動

 民法総則を勉強した後に、物権法の勉強を開始します。まず面食らうのが不動産の二重譲渡です。最高裁判所(最高裁判所の判断を判例と言います)は、不動産の二重譲渡を認めています。でも、よく考えると、二重譲渡は本当にあり得るのか?となってしまいます。
 それは176条と177条の関係から出てきます。176条は、物権の移転は当事者の意思表示だけで効力を生ずるとあり、177条は不動産の場合、登記を具備すると第三者に対抗できるとあります。
 事案は次のものになります。甲地を所有者AがまずBに売ります。所有権移転登記がBに移る前に、AがCに二重に甲地を譲渡します。しかし、物権には、一物一権主義があり、これは、同一物に関する同一内容の物権は一つしか存在しないという原則ですが、それに基づけば、所有権は一つです。当初はAが持っています。その所有権が最初のBへの譲渡で、Bに移転しているはずです(176条)。甲地の所有権はすでにBに移転しているのでAは所有権を有していないはずです。それにもかかわらず、Cに二重に譲渡できるということはどういうことなのか?そして、Aから移転を受けたCが所有権移転登記を具備し対抗要件を得ると完全な所有者になり(177条)、Bの所有権は同時に消滅します。Cの177条に基づく所有権と消滅したBの所有権とは同じ所有権なのか、そうではないのか、といった疑問が生じます。
 また、二重譲渡を判例が有効だとしているわけですが、そうなりますと所有権はBに移転した所有権と、Bに移転してもCに譲渡できる所有権をAが持っていたということになり、2つの所有権が必要になります。これは一物一権主義に反しています。
 これをどのように説明するのか?学説としてさまざまなものが主張されていますが、いずれも誰もが納得するものではありません。どれにも欠陥があって、論証に成功したものはありません。中には、難しい理論的な説明をする必要はなく、そのような法定の制度である、といった学者としての適正な法解釈をするといった使命を放棄するかのような学説が登場する次第です。
 以上のような論理矛盾を抱えながらも、物権法の学問も実務も進んでいっているわけですが、学習者もそのような矛盾はいったんしまっておいて、前に進んでいきます。
 判例や学説が実務の事案で見出した論理を、具体的な事案に基づいて勉強をしていきます。特に実務の事案の中に二重譲渡類似の状況を見出し、それに二重譲渡と同様の処分(先に対抗要件を具備した方が勝つ)を容認する論理が多く存在していますので、それらも含めて理解を進めて行きます。

5.物権法その2 所有権の新たな規定

 物権法を順番に勉強していくのですが、具体的な権利としては、まずは、所有権、占有権、用益物権(地上権、永小作権、地役権、入会権)があり、特に所有権にあっては相隣関係(隣の土地所有者との関係を規律)と共有(一つの物の所有権を複数人で有する)については、所有権不明土地(登記簿や住民票でも所有者が不明である土地)が近時は大いに問題となっていて、民法の規定中にそのような者がいる場合の対処の規定が設けられました。新たな規定ですので、まだ判例や学説もほとんどなく、テキストにはただ単に条文が記載され、それに若干の解説がある程度になっているものと思います。
 これについても頭に具体例を浮かべ、読み進めて行きます。具体例が浮かばない場合には、担当教員に聞いたり、インターネット等で調べたりすることが必要になります。
 所有者不明土地だけではなく、所有者不明建物や管理不全土地・建物などの制度も設けられました。

6.物権法その3 抵当権と立法作業中の譲渡担保

 物権法の最後に担保物権があります。これは抵当権が、特に銀行等によって利用されていて、判例も学説も充実しています。そのため、担保物権は抵当権を中心に勉強することになります。担保物権は誰でも要件を充足すると実行ができる規定になっており、特に、論理というよりも、担保権の実行を適切に行い得るための手続き的な定めになっている条文が多いです。
 これに対し、慣習法上の物権ということで、譲渡担保があります、譲渡担保の規定を民法あるいは民法の特別法に規定するなどといった立法作業が行われています。2024年9月頃には改正案がまとまり、2025年には国会での審議、立法ということになりそうですが、これも民法の、それも物権法の規定ですので、2025年以降については学習することが増えるということになりそうです。
 新しいことを学習するにも、これまでのやり方、つまり、条文の意義を勉強し、その要件および効果を学ぶことについては同じです。そして、実際の事案にその条文を適用するに当たって、裁判例や判例を勉強し、その適用方法を理解することが必要になります。

7.おわりに

 物権法まで勉強をしたら、次のステップとして、債権総論、そして債権各論も勉強していただければと思います。債権各論まで勉強が終わりますと、民法の中の財産法は勉強が終わったということになります。財産法以外の科目として、親族・相続がありますので、ぜひこれも勉強をしていただいて、民法の全体を制覇していただければと思います。
 そして、実生活で民法が実際にどのように適用されているかを常に感じ取るように心がけてみてください。

教職指導講座

教員採用試験の二次試験に向けて

通信教育部 講師 栗本 賢一

はじめに

 教員採用試験(以下「教採」)一次試験お疲れさまでした。残念ながら不合格だった方、ここであきらめずに来年こそ絶対に合格するぞとの決意で、今一度挑戦していただきたいと思います。無事に合格した方、おめでとうございます。しかし喜びも束の間、二次試験(以下「二次」)が目前に迫りました。二次は「最高の準備」をして臨みたいものです。
 今日、教採の試験日が早まっています。また、大学3年生も一次だけは受験できるというシステムになってきました。そこには様々な背景がありますが、各行政県・政令指定都市の「人材を確保したい」との思いが強く感じられます。
 採用選考に当たっては、もちろん教員としての基礎基本である「知識理解」は大事ですが、「人物重視」の流れも強くなっているといえます。
 そこで、二次の本質とは何かを考えた時に、浮かんでくる言葉は「ありのまま」です。すなわち二次とは、これまでの学び、努力や経験、培ってきたもの、身に付け磨いてきたものなど、まさに自分が生きてきた歴史を引っ提げて「ありのまま勝負」だといえましょう。
 かつて二次の「個人面接」の試験官を務めた時のこと。受験者誰もがすごく緊張しているのが伝わってきます。さまざまなやり取りをする中で、その人の持っている教育観や識見、人柄、人間性、力量、あるいは課題などが浮き彫りになっていきます。というよりも「にじみ出てくる」という言葉の方がふさわしいように思います。優れた受験者に出会ったとき、面接官は思います。「この受験者はいい教員になりそうだ。ぜひ、うちの学校で頑張ってほしいものだ…」面接官にそう思わせたら勝ちです。
 昨年の教採で合格したある通教生が、面接に臨んだときの心境を語ってくれました。
 「これまで学校教育とは全く別の世界で生きてきた自分です。『もう、裸になったありのままの私を見てください!でも、子供たちを幸せにしたくて教員を目指した気持ちだけは絶対誰にも負けません!』そんな思いでした。」
 私は深く感動しました。

最高の準備で臨む

 ここからは「個人面接」を中心に述べていきます。
 二次は「個人面接」重視と言っても過言ではありません。結論から言います。自信を持って「強気」で臨んでください。創立者は折々に「人生は強気で」とおっしゃっています。
 何よりも通教生の皆さんは、さまざまな社会人経験、我が子の子育て体験など多様な人生経験をしています。すべてが宝の財産です。自身の歴史に誇りを持って「私が教員になったら、すべての子供を幸せにしてみます!」「私に任せてください!」くらいの満々たる情熱と慈愛の心を持って強気で臨んでください。それでいて謙虚に、堂々と自分の思いを語ってきてください。
 以下は「予想される重要な質問」です。

(1)なぜ、教員を目指したのか。
(2)どのような教員になりたいか。
(3)なぜ、この自治体を受験したのか。
(4)どのような児童生徒を育てたいか。
(5)これまでの経験の中で特に頑張ったことは何か。そこから何を学んだか。
(6)それを教員になったらどのように活かすか。
(7)あなたのよいところ(強み)は何か。(弱みは?)
(8)「いじめ」についてのあなたの考えは。
(9)「いじめ」をなくすために、あなたはどのような取組をするか。
(10)「不登校」についてのあなたの考えは。

 これらは、受験者の教育観、児童観を問うと共に、人柄や人間性もにじみ出るようなものばかりです。もしこう問われたらどのように答えるか、自分なりの回答を用意してください。受験者なりの考えがあってしかるべきであり「これが正解」という答えはないかもしれません。もしあるとすれば「マッチベター」(ずっと良い)な答えだと思います。
 たとえば、(2)「どのような教員になりたいか」との質問について一緒に考えてみましょう。これまでの面接練習で、多くの受験者から次のような答えが聞かれました。

 子供のよさや可能性を信じ抜き、それを引き出して伸ばせる教員になりたいです。

 素晴らしいです。まさに人間教育です。しかし、「それだけですか?」という印象は拭えません。そこで、次のように答えたらいかがでしょうか。

 私がなりたい教員像は2つあります。第一に、子供のよさや可能性を信じ抜き、それを引き出して伸ばせる教員です。第二に、授業の上手な教員です。分かる楽しい授業を通して子供たちに確かな学力をはぐくむことのできる教員になりたいと思います。

 どちらがマッチベターか明確ですね。教員は「専門職」でもあり「授業」は教員の本分です。そこを押さえて目指す教員像をイメージしていることへの評価は高くなります。
 このように、質問をどのように受け止めどのように答えればマッチベターか、しっかりと検討吟味して準備にあたることが重要です。その際、あまり長々とならずに手短に要点を述べるようにしてください。
 ところで、先のように答えると、次のような「切り返し」の質問が来ることが予想されます。それへの回答も用意して「最高の準備」を心がけてください。
 「では、あなたが考える『分かる授業・楽しい授業』とはどのような授業ですか?」
 面接は面接官と受験者の「人間どうしの対話」です。ありのままの自分で面接官の心をつかんでください。

結びに

 教職キャリアセンターの個別相談や通信教育部の二次対策講座などの積極的活用をお勧めします。教採の面接官経験のある指導講師が担当します。自分なりの考え、答えを持って、それを指導講師に聞いてもらい、自分では気づかなかった視点などのアドバイスをもらってよりよきものにする、というのが最高の準備になります。もちろん、「小論文」「場面指導」「模擬授業」などの対策でも積極的に活用してください。
 ご健闘を祈ります。

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学修支援だより【2024年8月号】

Foreword <1>

夏期スクーリング開講式挨拶

学長 鈴木 将史

全国から、また海外からお集まりの通教生の皆さん、おはようございます!いよいよ2024年度の創価大学夏期スクーリングが始まりました。大変お元気な皆さんをお迎えしての開講式の開催、誠におめでとうございます。

私は学長の鈴木将史です。就任3年目を迎えました。本日は開講式に当たりまして、ひとことご挨拶をさせていただきます。
創価大学は2021年に創立50周年を迎え、今年は54年目に当たります。また、開学以来創立者池田先生の念願であった通信教育部が1976年に開設されてから、49年目となります。いよいよ待ちに待った通教開設50周年の佳節が近づいてまいりました。2026年度には通信教育部開設50周年を皆さんと一緒に盛大にお祝いしたいと思います。ただ、学業が順調に進んで卒業できるにもかかわらず、わざわざ50周年まで在籍しようと努力するというようなことはご遠慮願いたいと思います。

さて、コロナ禍を機に、春や秋に行われるスクーリングは、すべてオンラインとなりました。大学教育において、コロナによって一番変化したのが、この「オンライン授業の導入」です。通信教育でも、オンラインによるスクーリングは、多くの方々にとって移動の義務がなくなり、時間的にも、また金銭的にも、利便性が増したものと思います。

ただ、本日お集りの通教生の皆さんは全員が賛同してくださると思いますが、通信教育の最大の魅力は、何といっても対面でのスクーリングです。対面での夏期スクーリングは昨年ようやく4年ぶりに復活し、大勢の通教生の皆さんを創価大学へお迎えすることができました。復活2年目となる今年のスクーリングには、1,694名(延べ3,993名)の方々が参加されます。海外からも18カ国・地域から44名の方々が参加されるとうかがっております。また、80歳以上の方も15名ご参加されるとのことです。大変暑い中ですが、十分に休息・睡眠をとっていただき、健康に留意して充実したスクーリング期間を過ごしていただくようお願いいたします。

さて、私たちすべての創大生が敬愛してやまない創立者池田大作先生は、残念ながら昨年11月にご逝去されましたが、創価大学の創立者は永遠に池田先生です。今年の入学生たちは、「新たなる1期生」の気概に燃えて、大学建設に力を注いでいます。
皆さんも夏期スクーリングのためにせっかく創価大学へおいでいただきましたので、この機会にぜひ創価大学のキャンパスで、創立者の心を深く感じていただきたいと思います。
言うまでもなく、50年以上にわたって創立者と共に歩んできた創価大学のキャンパスには、平和に貢献する世界市民を育てようという池田先生の思いが詰まっています。したがって、どこへ行っても創立者の心を感じることができるのですが、その中から特に3つだけ選んでお話ししますので、スクーリング期間中にぜひ足を運んでください。

まず1つ目は文系A棟の前にある2つのブロンズ像です。これは創価大学が開学した1971年4月2日に、創立者から新入生に贈られたものです。向かって右側が「天使と鍛冶職人」という彫刻で、そこには「労苦と使命の中にのみ 人生の価値(たから)は生まれる」という創立者の指針が刻まれています。また左は「天使と印刷工」という彫刻で、「英知を磨くは何のため 君よそれを忘るるな」という言葉が刻まれています。
創価大学に学ぶ学生たちは、50年以上にわたり皆この言葉を胸に刻み付けてきました。通教生の皆さんもブロンズ像の前に立ち、自らの人生や学びへの挑戦を振り返りつつ、この言葉の意味を考えてみてください。

2つ目は中央教育棟の前にある枝垂れ桜です。この桜の木は1971年2月11日に行われた創価大学の竣工式のときに、池田先生によって植えられたもので、今では「創大桜」と呼ばれています。今はもちろん咲いていませんが、3月にはキャンパスの中で一番早くこの桜が満開となり、卒業生たちを見送ります。周辺は「出発の庭」と呼ばれ、創立者の自筆による3項目の「建学の精神」の石碑も立っています。
ぜひ創大桜の下に立って、池田先生が植樹されているさまを思い浮かべてみてください。

3つ目は本部棟の展示です。
入って左側には、「創立者池田先生の教育・学術交流」と題して、池田先生と世界の超一流の識者との交流や、先生が受章された名誉称号が、数多くの記念の品とともに展示されています。また右側には「創立50周年記念展 創価大学の歴史」として、池田先生と共に歩んだ創価大学の50年を、たくさんの写真や印刷物などとともに知ることができます。「映像で見る『創立者の語らい』」のコーナーでは、創立者の数々の映像を見ることができ、池田先生にお会いすることができます。ぜひ本部棟へ足を運んでください。

実は本部棟の前に、「創価大学原点の地」というマークがあります。それは、創価大学建設の準備として、先生が丘の上から周囲の様子をご覧になった場所で、そのため「原点の地」と呼ばれています。ぜひ足元に注意して、探してみてください。

「それらはもう何度も訪れた」とおっしゃる方もおられると思います。そういった上級者の皆さんは、大学構内に7人いる世界の偉人の銅像をドラゴンボールのように制覇して、そこに書かれた言葉を味わってみられるといいでしょう。また、文学の池のほとりに立つ周桜と、坂を下った平安の庭にある周夫婦桜、そして同じ平安の庭に立つ創大1期生による「草創の誓」の碑、さらに通教10周年を記念して建てられた「光友の誓」の碑などを訪れ、創立者の心を感じてみてください。

以上述べてきました「創立者とのつながり」を大事にするほか、皆さんは「先生方とのつながり」「他の通教生とのつながり」を大きく広げ、対面スクーリングの効果を大いに発揮していただきたいと思います。

創立者池田先生は、最後となった昨年10月の創大祭に寄せられたメッセージの中で、「希望とは試されるものです。困難を越えてこそ強くなる。学び磨いてこそ深くなる。貫き戦ってこそ大きくなる。」と述べられ、「何ものにも屈しない『希望の巌窟王』となって、(中略)『幸福(さち)の大輪』を咲かせ、『平和の大連帯』を広げていってください」と創大生たちを激励してくださいました。

まさに本日集い合った通教生の皆さんこそ、希望を抱いて通教での学業を志し、日々の仕事や生活の中で絞り出すように時間をつくって学習を続けておられるという点で、「希望が試されている」巌窟王の方々です。今回のスクーリングで思う存分時間をかけて学習に打ち込まれ、「学ぶ喜び」を手に入れて、「幸福(さち)の大輪」を見事に咲かせていただきたいと願っています。

創立者はメッセージの結びで「忍耐の今日、希望の明日、そこに栄光勝利の未来が生まれる」と綴られました。スクーリングの授業は密度が濃く、数日間で修得するには大変な忍耐と努力が必要だと思います。この創価大学に滞在されている間、皆さんが夏期スクーリングで学びに学び、希望の明日を毎日実現することで、大いなる勝利の未来を切り開いていってくださることを念願しています。

毎年同じ言葉を繰り返しているように感じますが、今年の猛暑はことのほかすさまじく、ここ八王子でも危険な暑さが続いています。十分な睡眠をとるなど、くれぐれも体調に気をつけて、有意義な学習を進められることをお祈りして、私のご挨拶とさせていただきます。

Foreword <2>

「学は光」の大道を貫く人生の勝利者に

通信教育部長 吉川 成司

何よりもまず、職場や家庭でさらに地域でお忙しくされながらも、たゆみなく勉学の歩みを進めておられる通教生の皆さんに最大の敬意を表します。

さて、昨年度の夏期スクーリングは、4年ぶりに対面で実施することができました。記録的な猛暑でしたが、参加された皆さんは、異口同音に、対面での授業や友人との交流に喜びを語っておられました。この人と出会い学び合う意義について、創立者・池田大作先生は、夏期スクーリング中に開催された伝統の学光祭に際して、「桜梅桃李の多彩な人華が交流を結び、未来への誓いを分かち合う、この光友家族の連帯の意義は計り知れません」と激励のメッセージを送ってくださいました。
対面授業にはオンライン授業にはない臨場感があります。ある時は真剣な知的触発があり、またある時には和気に満ちた雰囲気を直接体験し共有できます。今年も、燦々たる夏空のもと、創価大学の広々としたキャンパスで、日本中、世界各地から集う同学の友と、充実した学び合い、触れ合いの思い出を刻んでいただきたいと思います。

1975年3月、創立者は、創価大学一期生の卒業式において、生涯教育・生涯学習の重要性について語られました。「自分で自分を教育する生涯教育」においては、「何歳になろうとも、向学心が衰えないこと」が条件であると述べておられます。そして、「学ぶのは充電あり、役立てるのは発電であります。一生、この充電と発電を絶やさずに繰り返していけるようになったならば、その人は必ず人生の勝利者となっていくことは間違いないでありましょう」と結ばれました(創価大学第一回卒業式「たくましき福運の青春を」)。通教での学びは、まさにこの充電と発電の絶え間なき繰り返しであり、人生の勝利者につながる大道でありましょう。

そして、その約1年後の1976年5月、創立者が創価大学構想の当初から念願されていた、通信教育部が開設され、創立者は万感こもるメッセージを寄せてくださいました(「初志貫き“第一期生”の誉れを」1976年5月16日)。その中に次の一節があります。

私自身のことを言えば、私は学問の道を途中で断念せざるをえませんでした。そのかわり、恩師戸田先生に、さまざまな学問を教えていただきました。それは文字どおり、人生の師と弟子との間に“信”を通わせた教育でありました。

このように、「“信”を“通”わせた教育」には、恩師戸田先生への深き報恩の一念が込められています。
また、開設40周年を記念した特別寄稿において、創立者は、先師・牧口常三郎先生も、恩師・戸田城聖先生も、そしてご自身も、思うように学べない青春時代を過ごしたことにふれ、次のようにご指導くださいました(「『信』を『通』い合わせ人間教育の大道を」『学光』2016年5月号掲載)。

だからこそ、けなげに学ぶ人々と力強く「信」を「通」い合わせて、「学は光」の大道を開きたいと願ってきたのです。それは、人間生命の持つ尊厳性への「信」であります。自他共の無限の可能性への「信」であります。さらに社会と世界を必ずよりよく変えていける人類の英知の力への「信」であります。

永遠たる人生の師と弟子が「信」を「通」わせる報恩の一念、さらに人間生命の尊厳性、可能性への慈愛深き「信頼」と揺るぎなき「確信」、人類社会とその英知への希望の「信念」――、「信」を「通」い合わせる教育とは、なんと崇高な教育でありましょう。そして今、わが通教で学ぶ皆さんは、この誉れある師弟の系譜に真っすぐ連なっているのです。
暑さ厳しき折、参加される皆さんにおかれましては体調管理にくれぐれもご留意ください。お一人お一人の人生においてかけがえのない貴重な学びの機会になりますようにお祈りいたします。

ブック・スクウェア

『計算する生命』

通信教育部 准教授 堂前 豊

◆背景

 

  森田 真生 著

 数学者アラン・チューリングが、「計算可能性」の概念を体現する仮想的な「チューリング機械」を考案したのは、1936年のことでした。その後、チューリング機械がコンピュータとして実装され、今では、「人間の知能に迫り、ときにそれを圧倒していく」(4頁)ようにさえ感じられます。
 「計算」とは、「あらかじめ決められた規則にしたがって、記号を操作」(3頁)することです。指を使った足し算、数字を並べて行う筆算、数式を操りながら行う微積分などには、計算しているという手応えが伴います。しかし、コンピュータの普及によって「計算が日常に深く染み込み、依存する度合いが高くなればなるほど、逆説的にも、計算は透明化し、意識されることがなくなっていく」(4頁)ようです。

◆著者

 著者の森田真生氏は、1985年生まれの独立研究者です。2022年に、本書で河合隼雄学芸賞を受賞しました。『数学する身体』では小林秀雄賞を最年少で受賞しています。日本経済新聞夕刊「プロムナード」の欄に連載されたエッセイなどを収録した『偶然の散歩』や絵本『アリになった数学者』などの著書もあります。国内外での「数学の演奏会」や「数学ブックトーク」などのライブ活動でも知られています。

◆概要

 本書では、「指を折って数えるところから、知的にデータを処理する機械が遍在する時代まで」(4頁)の計算の歴史をたどり直しています。古代から、ユークリッド(紀元前300頃)、デカルト(1596-1650)、カント(1724-1804)、リーマン(1826-1866)、フレーゲ(1848-1925)、ラッセル(1872-1970)、ウィトゲンシュタイン(1889-1951)、チューリング(1912-1954)といった先人達の足跡を辿り、人工知能や人工生命の洞察へと論を進めています。そうすることで、「決して純粋で透明なだけではない計算という営みの手応え」(4頁)を、少しずつ取り戻そうと試みています。
 その結果、「計算し、計算の帰結に柔軟に応答しながら、現実を新たに編み直し続けてきた計算する生命」(220頁)として、「私たち自身の自画像」(220頁)を、浮かび上がらせています。
 終章では、「計算による認識の大胆な拡張とともに、自律的な思考と行為による意味の生成を、これからも続けていかなければならない(中略)、計算と生命の雑種としての、私たちの本領が試されているのだ。」(220頁)と述べて、本論を締めくくっています。

 目次の内容は、次の通りです。

  • 第1章「『わかる』と『操る』」(「わかる」と「操る」/物から記号へ/算用数字が広がる/図から式へ/0から4を引くと?/数直線の発見/「虚数」の登場/不可解の訪問)
  • 第2章「ユークリッド、デカルト、リーマン」(Ⅰ演繹の形成―古代ギリシャ数学の「原作」に迫る/演繹の代償、Ⅱ幾何学の解放―『原論』とイエズス会/デカルトの企図、Ⅲ概念の時代―直観に訴えない/リーマンの「多様体」/仮説の創造)
  • 第3章「数がつくった言語」(『純粋理性批判』/なぜ「確実」な知識が「増える」のか?/フレーゲの人工言語/概念の形成/心から言語へ/緻密な誤謬/人工知能へ)
  • 第4章「計算する生命」(純粋計算批判としての認知科学/フレーゲとウィトゲンシュタイン/「純粋な言語」の外へ/規則に従う/人工知能の身体/計算から生命へ/人工生命/耳の力学/go with the flow)
  • 終章「計算と生命の雑種(ハイブリッド)」(拡張する現実/ハイパーオブジェクト/生命の自律性/未来へ)
  • あとがき、文庫版あとがき、哲学者の下西風澄氏による解説

◆特徴

 「あとがき」で、著者は、「<心と身体と数学>というキーワードを中心に展開した前作注1の思考の流れの先で、心を形づくる『言語』と、身体を突き動かす『生命』、そして数学の発展を駆動してきた『計算』という営みに、徐々に関心を集中させていった。」(221頁)と述べています。そのために、「心から言語へ、という流れを切り開いた先駆者として、フレーゲの仕事を読み込むことから始めた。」(222頁)ようです。
 本書は、「フレーゲによって切り開かれた、言語と規則についての原理的な考察は、やがて生命の世界へと奔流していく思考の流れの、豊かな源泉なのである。」(222頁)との認識に立脚しています。そして、「ウイットゲンシュタインやブルックス注2らの探求に注目を寄せながら、言語から生命へと溢れ出していく思考の水脈を追った無数の先人の探求が錯綜する、豊饒な学問と思索の網」(222頁)に光を当てようと試みています。

 「文庫版あとがき」で、著者は、大学時代に出会った先輩たちによって、「より賢く、知的であろうとするだけでなく、そもそも生きているとはどういうことかを、科学的に追究する学問があること」(230頁)を教えられ「大きな刺激を受けた」(230頁)、そして、「私がいま立っているのは結局、学問の喜びに出会った最初の場所にほかならないのかもしれないと感じている。」(232頁)と述べています。
 示唆に富んだ、読み応えのある書籍として、推薦したいと思います。

注1)前作とは、「数学を通して人間の『心』に迫った2人の数学者、アラン・チューリングと岡潔を描いた」(221頁)『数学する身体』のことを指している。
注2)ロボット工学者のロドニー・ブルックス(1954-)のこと。「掃除ロボット『ルンバ』の生みの親として知られ、ロボットや人工知能の分野で大きな影響力を持つ」(176頁)。

『計算する生命』
著 者: 森田真生
出版社: 新潮社;文庫版 (2023/11/29)
ISBN : 978-4-10-121367-5
文 庫: 272頁
価 格: 630円+税

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学修支援だより【2024年9月号】

Foreword

学問への挑戦で頭脳と心を鍛える

副学長・法学部長 鈴木 美華

 この夏は、例年にも増して猛暑、酷暑の日々が続いています。数十年前と比べますと、かなり夏の期間の気温が上昇しており、地球温暖化が急速に進んでいることを実感する昨今です。

 さて、夏というと、お盆などで休みの期間があったり、学校では夏休み期間になりますので、一般的にはゆっくりできる時間を取れる時期だと思います。でも、通信教育課程で学ばれている皆様にとっては、休みの期間を活用して勉強やレポート作成に取り組まれたり、夏期スクーリングに参加されたりと、多忙な挑戦の時期になっていることと思います。暑いさなか、勉学に汗を流される皆様方の努力と挑戦は、本当に尊く素晴らしいことであり、心から敬意を表します。

  創立者池田大作先生は、通信教育で学ぶ皆様を念頭に、世界の指導者の中でも南アフリカのマンデラ前大統領など、通信教育で学んだ方々がおられることを紹介されつつ、「通信教育ならば、それぞれの都合に合わせて学んでいける。激しき変化の社会を、生きぬき、勝ちぬいていく英知を身につけられる。働きながら学ぶ。苦労しながら、学問に挑戦する―その人は、人間として強くなる。頭脳も心も鍛えられる。光る人生、勝利の人生を歩んでいけるのである。」(2003年4月3日創価教育協議会「永遠に『創立の精神』を忘れるな」『創立者の語らい』11~16巻23頁)と指導されています。

 皆様の状況は様々で、ご苦労もそれぞれ違っていると思いますが、創立者のご指導通り、勝利の人生を目指し、頭脳と心を鍛えるべく、今いる場で1つ1つの課題に挑戦していってください。卒業を目指し、一緒に頑張りましょう。

自立学習入門講座<74>

レポート課題を把握するための問題意識の形成

通信教育部 教授 劉 継生

1.問題意識の形成とは

 テキスト学習や授業を通じて、自分の知らなかった未知の現象に触れ、そこから刺激を受け、思考を深め、新しい知識を獲得することができます。実はこれだけでは教育の目的ではありません。大学教育は、単純に「何を知っているか」ではなく、その知識を生かして様々な問題に対する思考を掘り下げて解決をはかる「何ができるか」を目指しています。前者は知識のインプットであるのに対し、後者は学んだ知識を問題解決に活用するアウトプットとなります。

 大学教育では問題解決能力を身につけることが求められています。これについて数学や統計学のような科目は分かりやすいです。計算方法や数式を理解するだけでは不十分であり、その数式を使って様々な応用問題が解けるかどうかが評価されます。一方、人文社会分野における問題解決はより複合的になります。すなわち、新しい問題や未知に遭遇したとき、学んだ知識を活用して自分で思考、判断、分析、表現ができるかどうかが問われます。
 通信教育部はかねてから問題解決能力の育成に力を入れています。その代表的な学修は「レポート作成」です。レポート作成については、テキストを読めば何とかできるのではないかとの考えがあります。実は、レポート作成はこのような単純なことでなく、テキストを通読から精読まで何回読んでもうまく書けないこともあります。なぜなら、レポート作成は、文章力のみではなく、読解力、思考力、表現力などを踏まえた複合的な問題解決だからです。この問題解決は、レポート課題を把握することから、論理構成の組立てを経て文章を校正するまでの多様な過程から構成される作業工程です。
 レポート課題をいかに把握するかは極めて重要です。レポート課題を表層的にとらえるだけでは、文章の作成にどんなに工夫しても議論がかみ合わないレポートになってしまいます。このように、レポート作成における最初の関門は、課題を正確に把握することであります。それを突破する切り口は、実は問題意識の形成にあります。「問題意識」とは、レポート課題に取り上げられている現象や事物に対して、「何が問題なのか」、「なぜそれが問題なのか」、「どのように解決すれば良いのか」を洞察するための思考と認識です。簡潔にいうと、問題意識とは、レポート課題をとらえるための思考枠組みです。この思考枠組みを明らかにする過程を「問題意識の形成」と呼びます。

2.問題意識の形成による思考枠組みの明確化

 高い問題意識を持つことは、よいレポートを作成するための前提です。もし問題意識が低ければ、未発見の問題や重要なポイントを見逃し、的外れのレポートを作成してしまいます。問題意識の形成と向上は、レポート課題、課題解説、テキストに対する精読を行った上で、集めた様々な情報や素材を自分の既存知識や経験に照らし、思考を掘り下げたり、つながりを広げたり、アイデアをひらめいたりすることです。この思考過程をサポートするための方法が多様であります。最もシンプルでよく用いられる方法は、自分自身に問い詰めることです。例えば、「伝統文化が損なわれてしまうからグローバル化には反対だ」という考えが思い浮かんだとしたら、「伝統文化が損なわれてしまうのは本当にグローバル化が原因か」、「異文化をシャットアウトすることで自国の伝統文化が守れるか」などを自身に繰り返し問い詰める中で問題意識がしだいに深まって明確になります。
 問題意識の形成はレポート作成の決め手となります。私たちは問題意識に導かれる形で、テキストを精読したり、論理構成を考えたり、アウトラインを構想したりしてレポート作成を進めるようになっています。もし問題意識が形成されなければ、切り口がどこにあるのか、どこから着手すればよいかは漠然となり、先へ進まなくなります。
 問題意識の形成によって思考枠組みも確立されます。思考枠組みが存在することで、私たちはテキストから学んだ知識、インターネットから集めた情報、脳内でひらめいた発想などをどこに位置づけるか、互いにどう関連づけるかが分かるようになります。つまり、思考枠組みは、知識や情報をインプットする場所でもあります。問題意識が形成されず、思考が混沌とした状態では、レポートを書きたくても書けません。なぜなら、テキストを何回も読み、インターネットからたくさんの情報を検索しても、かき集めた知識や情報はバラバラの断片に過ぎず、論理的に組み立てて体系化することはできないからです。

3.問題意識を形成するための方法

(1)レポート課題の文脈を広げる
 レポート課題の多くは、短い文章で抽象的に表現されたため、読む側に不完全な情報を与えてしまいます。このため、問題意識を形成するための第一歩は、レポート課題をとらえる視野を広げることです。狭い視野だと「木を見て森を見ず」のように、書く内容が少なく文字数も足りないという「近視問題」が起こります。視野を広げるには、次のような具体化の作業が必要となります。まずは、課題解説やテキストへの精読から関連する情報や素材を集めることです。つぎに、その情報や素材を自分の既存知識や経験の中でほぐして展開することです。第3に、脳内にレポート課題についてのイメージを形成することです。
 抽象的なものを具体化するとき「連想」のような方法がよく利用されます。「連想」とは、目前の発想からほかの発想を導くことによって思考や文脈を広げる思考法です。例えば、レポート課題にはキーワードが入っています。そのキーワードをもとにすれば関連性のあるフレーズや概念を思い浮かべることができます。また、連想を促すためには接近、類似、対照、因果などのアプローチもあります。「接近」は近くにあるもの、「類似」は似ているもの、「対照」は対立するもの、「因果」は原因と結果を結びつけるものへと思考を広げるアプローチです。

(2)レポート課題を構造化する
 レポート課題を多様な要素のつながりとしてとらえることができます。その多様な要素は、文脈を広げることを通じて課題の深層から見つけ出すことができます。また、要素間のつながりは、次のような作業を通じて明らかにすることができます。つまり、各要素が果たす役割を考えたり、分類を行ったり、要素と要素の相互関係を明確にしたり、複数の要素をつなげて新しい着想を生み出したりすることです。このような作業を通じてレポート課題に関する全体の構造が見えるようになります。
 レポート課題の文脈を広げて多様な要素を見つけ出すことは、抽象から具体化への過程です。一方、要素間の相互関係を解明し、それらをつなげて全体の構造をつくり出すことは、具体から抽象化への過程です。このように、具体化と抽象化の行き来を繰り返していくことで、レポート課題の本質をとらえ、全体の構造を明らかにすることができます。この全体の構造は問題意識の具象化であり、レポート作成の基本となります。

4.問題意識の形成に関する演習問題

(1)演習問題1
 「現代社会における対話の重要性を論じなさい」というレポート課題があるとします。このレポート課題に関する問題意識をどのように形成するかを一緒に考えてみたい。このレポート課題のキーワードは「対話」であり、「対話」に対するとらえ方がポイントとなります。まず、対話は人間同士のコミュニケーションであるとの切り口で論じることが可能です。そうすると、①「対話とは、言葉を投げ合う雰囲気の中で人間同士の意思疎通や情報交換を実現する方法である」と説明することができます。
 つぎに、意思疎通は関係者の相互理解を前提にしなければならないと考えると、②「対話とは、相互の差異を大切にして他者に対する尊重と理解を深める方法である」と説明することができます。さらに、相互理解や意思疎通は調和のとれた社会の実現を促進することができるとの視点から考えると、③「対話とは、異なる価値観やライフスタイルを認め合い、社会や自然との協調と共生を実現する方法である」と説明することができます。
 ①→②→③のような思考の展開は、「現代社会における対話の重要性」に関する問題意識の形成となります。この問題意識は、①→②→③を通して深まったり広がったりして合理性が高まっていきます。それにともない、「対話」は個人間のつながりから社会全体の調和へと重要性が増していきます。これらをまとめると「対話は力なり」という結論が自然に浮き彫りになります。したがって、問題意識はレポート作成の思考枠組みであり、問題意識の形成はレポート全体のシミュレーションであると理解することができます。

(2)演習問題2
 「青年期における友人関係について論述しなさい」という仮のレポート課題があります(平井2022, p.78)。このレポート課題における問題意識の形成とその構造化を一緒に考えてみたい。
 「青年期における友人関係」という課題をざっと読むだけでは、範囲が広すぎたことで漠然とします。このままでは課題をとらえることができません。範囲を絞るためには、まずレポート課題解説(同上pp.78-80)を読む必要があります。それを通じて「青年のアイデンティティ形成に対する友人関係の影響」へと、レポート課題の解像度を高めることができます。
 友人関係は、青年の社会行為や行動変容に深くかかわるだけではなく、性格やアイデンティティといった内面世界の形成にも大きな影響を及ぼします。青年期の友人は、特性が似ている仲間を含めて多様な人がいます。その中に型破りな人、発想が奇抜な人、常識にとらわれたくない人も存在するはずです。また、友人関係の影響を考えるとき、良い影響が多くある中で、よくない影響や負の影響も避けられません。さらには悪影響をもたらす悪友に遭遇することもあり得ます。
 一方、情報社会ではSNSを利用する人が多いため、友人関係やつながりの輪もネット空間に広がっています。自分の意見(書き込み)に対して他者から「いいね」とフォローする可能性があります。これは自分の存在感をアピールすることにもつながります。しかし「いいね」がたくさん集まると、自分の意見は広く認められて人々に共有される正義だと勝手に思い込むようになります。このような誤認や勘違いを引き起こすネット環境のことを「エコーチェンバー」といいます。また、他者から反対を招くこともあり得ます。批判や悪評が殺到すると「炎上」が起こります。このように、ネット上のつながりにも良い影響もあれば悪い影響もあります。
 上述のような考えは、「青年期における友人関係」を論述するための問題意識の形成です。この問題意識を表1のようにまとめることができます。その表はレポート課題の構造であり、レポートを作成するための思考枠組みでもあります。

表1 レポート課題の構造化の例

  良い影響 悪い影響
現実社会 助け合い
茂樹、触発
逸脱行動
煩悩、葛藤
ネット社会 交流の輪の広がり
情報や価値の共有
悪質な情報の拡散
エコーチェンバー


<参考文献>
平井康章編著(2022)『自立学習入門』(第3版)創価大学通信教育部

学修支援推進室コーナー <1>

レポート作成講義【Bタイプ】を担当して

通信教育部 講師 宗像 武彦

 レポート作成講義【Bタイプ】を実施しました。初めて講義を受ける方も多くいたので、Bタイプをポイントにレポートの初歩的な書き方も入れながら講義しました。その概要が以下です。

1 論理的レポートを書き始める前に大切なこと 

①レポート課題をしっかりと把握
 
・・・レポート課題の把握のために、シラバスやレポート課題解説書などを読んで、レポート課題を理解し把握していきましょう。
②レポート課題解決のためには教科書のポイントの熟読
 ・・・レポート課題を把握し、レポート課題にかかわる範囲を特に熟読していくと、どのようにレポートを書くかが見えるようになります。
③レポート課題解決のためには関係する図書や資料などを見ておく
 
・・・教科書などを熟読していくと、関係する図書や資料の必要性が見え、その関係の図書や資料を読んでいくことで、自分の考えが深く広くなっていきます。

◎教科書や関係資料などのインプットが大事なことを話しました。

2 Bタイプ― 論理的にレポートを書いていくために 

論理的なレポートためには、「アウトライン」、「序論・本論・結論」・「パラグラフ」をもとに書くことが論理的レポートになります。
 

2-①「アウトライン」を考える
 
レポート課題解決のために、教科書の熟読し関係の資料を把握して課題解決を進めていくとき、課題を解決していく道筋が「アウトライン」になります。「アウトライン」は、下書きのためのアウトラインから暫定的アウトラインになって、学びが深まることで「アウトライン」は変化していきます。

2-②アウトラインで書くための「序論・本論・結論」の文章構成を考える
「序論」は、レポート課題についての「問い」を示していく部分で、課題をどの角度から何を素材にして、どんな順序で論ずるかを示す部分です。
「本論」は、レポートの中核部分です。「問い」を解決していくための根拠や論証、詳しい説明など、「問い」をもとに解決していく道筋を考えた書き方です。
「結論」は、「序論」で示した「問い」の解決のための「解答」を書いていくところになります。

2-③序論・本論・結論をもとにした「パラグラフ」での文章の構想
「パラグラフ」は、およそ200~400字程度の意味の統一体と言われます。

「序論」は、「問い」を示し自分の考えや背景などを「パラグラフ」としてまとめます。
「本論」は、自分の考えの根拠や説明、論証などを、どのような順序で書くかを考え、その考えのまとまりを「パラグラフ」でまとめていきます。
「結論」は、「本論」で述べたことをもとに、「解答」としてまとめていきます。

 以上が今回の担当した講義の概略でした。レポートの書き方では、まだまだ見えないことがあると思います。通教での学びは、オンライン・対面スクーリングなど様々な人と関わる学びがあり広がると思います。皆さんお一人お一人のこれからの学びに期待します。

学修支援推進室コーナー <2>

オンデマンドスクーリングだより -政治学原論-

法学部 教授 土井 美徳

「政治」とは私たちにとってきわめて身近な営みであり、私たちの生活を大きく左右する影響力を持っています。また、「政治学」の淵源も、古く古典古代ギリシアのポリスにまでさかのぼることができ、今日に至るまで実に多くの論者が政治について論じてきました。しかし、そもそも「政治的なるものとは何か」、政治特有の現象とはいかなるものであるかを語ることはなかなか困難です。政治について語ること自体は誰でもできますが、政治現象をきちんと見ることは容易なことではありません。

では、「政治学」のアイデンティティとは何でしょうか。「政治」というキーワードでどのようなことを思い浮かべるでしょうか。ある人は、紛争や抗争、利害対立を想起する人もいるでしょう。政治とは、権力作用を前提とした権力現象の側面を持っているからです。また、ある人は、民主主義、自由や平等、自治といったことを挙げるかもしれません。権力現象としての政治がどのようにあるべきなのか、政治を理念として語ることが重要だからです。さらには、国家や政府、議会や選挙、地方自治を思い浮かべる人もいるでしょうか。政治とは、生の権力現象を、あるべき理念にしたがって、制度として設計をする営みでもあるからです。このように、「政治」とは、時に暴力や物理的強制力をともなう権力現象としての本質をもち、一方でそうした現にある権力現象を、あるべき次元で理念として語り、そしてその理想を現実の制度や仕組みとして実現していく営みだと定義することもできるでしょう。それゆえ、「政治学」とは、以上のような三つの側面を考察する学問であると言えます。

しかしながら、他の学問分野と比較すると、政治学には、二重の意味で客観的な学問として成立させることの困難さがつきまといます。かつて、カール・マンハイムというドイツの政治学者が『イデオロギーとユートピア』という著作のなかでこの問題を取り上げ、「政治学ははたして学問として成立しえるのか」という問いを投げかけました。マンハイムによると、一方で政治学が扱う「研究対象」には、しはしば偶然性が働くとともに、主観的な価値観やイデオロギーが存在します。他方で、政治学を考察する「研究主体」の側にも、主観的な価値観やイデオロギーが存在し、それぞれの認識のなかにどうしてもバイアス(偏向)がかかってしまう傾向があります。このように「研究対象」 と 「研究主体」 の双方において、政治学が客観的な学問として成立しづらい事情があるわけです。したがって、政治を客観的に見ることには難しさが存在し、政治を一定の立場から独善的にあるいは感情的に捉えて偏った見方に陥ってしまったり、専門家やマスメディアなどの特定の政治的見解をそのままうのみにして自らの意見としてしまったりすることにも注意しなければなりません。

以上のような政治および政治学の特徴を踏まえたうえで、「政治学概論(オンライン)」の授業では、政治的現実を正確に捉えるにはどうすれば良いのか、またその現実をどのようなものさしを使って、どのように分析し、評価すれば良いのかについて学んでいくことを目的としています。政治的な営みにはつねに「価値判断」が伴い、それゆえ政治学が扱う事柄の多くは、必ずしも正解のない問題であるともいえます。同時に、政治とは、一人の存在ではなく、社会という「複数性」と「共同性」を前提としています。しかも、その決定には、自身や他者の行動を制約する強制的な権力の作用をともなっています。自身の視点や価値観を持ちつつ、異なる意見を持つ人びととのあいだで、社会全体としての合意を生み出していくためには、政治学という客観的な認識のフレームワークを共有していくことが重要となります。ここに政治学を学ぶ大きな意義があります。

本授業では、政治学の客観的な認識を可能とするためのフレームワークとして、政治学の基本的な概念について広く講義していきます。権力の必要性とその担い手、権力の抑制と権力分立、代表制とデモクラシー、選挙の意義や機能とその制度、政党の役割と機能、世論の形成とそれが政策過程に与える影響、官僚制の役割と政治との関係性、市民参加の重要性とその形態、地方自治の意義と二元代表制、国際政治の特徴と国内・地方政治との関係、さらには新しい研究分野である公共政策など、政治学を学ぶうえでの原論となる項目について幅広く、かつ専門的に学修していくことになります。

メディア授業ですので、教科書をよく読んで、分からない箇所は繰り返し視聴して学習することもできます。自らの頭で政治をしっかり考え、政治を客観的かつトータルに認識できる力を身につけることができるようになることを目標に学習に取り組んでみてください。

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学修支援だより【2024年10月号】

Foreword

後半の学習について

通信教育部副部長 望月 雅光

-学びを継続するために-

 人生100年時代と言われています。長い人生を豊かにするためには、学び続けることが大切です。Life Shiftには、次のように述べられています(Gratton, L., & Scott, A. J. ,2016)。
 「長い人生を生きるうえでは、なにかに打ち込むことが重要だ。なにかに習熟しようと思えば、しばしば強い意志をもって、学習と練習と反復に何百時間、ことによると何千時間もの時間をつぎ込まなくてはならない。(中略)ものごとに習熟するうえでカギを握るのは、自己効力感(自分ならできる、という認識)と、自己主体感(みずから取り組む、という認識)だ。」
 では、ここに出てくる自己効力感と自己主体感を維持するにはどうすればよいのでしょう。自己効力感を高めるためには、成功体験の積み重ねとともに、学びあう仲間の成功体験を共有したり、互いに励まし合ったりすることが大切です。次に、自己主体感について考えてみましょう。自己主体感は、予測した結果が実際の結果に合致している時に生じるといわれています。学ぶことに対して自己主体感を持つためには、自分が実現したいことが今の学びによって実現されることを認識して、主体的に取り組み、結果をだすことで、それが身につくのではないでしょうか。
 時には、挫折することもあります。そして、後悔することもあるかもしれません。Pink, D. H. (2022)は、後悔に向き合うには、過去を振り返ることを通じて前に進むことを目指し、自分でコントロールできないことは、脇に置き、コントロールできることに集中して、自分の「修復の物語」を自分で紡いでいく方法があるとしています。後悔の痛みを知っているからこそ、今の行動によって、将来の後悔の痛みが予測できます。あのときもっと勉強しておけばよかったは、誰もがする後悔のひとつでしょう。その後悔を今の自分にあてはめ、今、学ぶ機会があるのに学ばなければ、将来、後悔することが予測できます。とはいえ、何かをやり抜くことは大変です。目標を設定して、その目標を達成するために必要な習慣が紹介されています。それは、1 目標に具体性を与える、2 目標達成への行動計画をつくる、3 目標までの距離を意識する、4 現実的楽観主義者になる、5 「成長すること」に集中する、6 「やり抜く力」を持つ、7 筋肉を鍛えるように意志力を鍛える、8 自分を追い込まない、9 「やめるべきこと」より「やるべきこと」に集中する、の9つの習慣です。詳しくは、参考文献を読んでください。まずは、具体的な目標を決め、それを達成するための行動計画を作ってください。教科書をいつ読んで学習するのか、いつレポートをだすのか、そのための具体的な計画です。そして、行動を開始してください。

 教科書を読んでも理解がすすまない場合でもレポートの評価が悪かったとしても、その挫折や失敗を振り返ってそこから学んで、次に生かして学び続けてください。
 しなやかマインドセットの人の根底にあるのは、人間の基本的資質は努力しだいで伸ばすことができるという信念、つまり努力と経験を重ねることで、だれでもみんな大きく伸びていけるという信念です(Dweck, C. S., 2006)。自分自身の努力をまず自分で褒めることからはじめてみませんか。

最後に、行き詰まったとき、困った時には、誰かに相談するようにしてください。各都道府県にある通教生の学修をサポートする指導員や卒業をめざして励まし合っていくための学生組織を頼ってみるのも方法の一つでしょう。場合によっては、通信教育部事務室に連絡して相談することも考えてください。みなさんの学びが有意義なものになることを祈っています。

参考文献
・Gratton, L., & Scott, A. J. (2016). The 100-year life: Living and working in an age of longevity. Bloomsbury Publishing. ( リンダ・グラットン, アンドリュー・スコット,池村千秋(訳).  (2016).  Life shift (ライフシフト) ―100年時代の人生戦略―. 東洋経済新報社 )
Pink, D. H. (2022). The power of regret: How looking backward moves us forward. Penguin.( ダニエル・ピンク, 池村千秋(訳). (2023).  THE POWER OF REGRET: 振り返るからこそ、前に進める.  かんき出版)
・Grant-Halvorson, H. (2012). Nine things successful people do differently. Harvard Business Press.( ハイディ・グラント・ハルバーソン, 林田レジリ浩文(訳). (2023).  やり抜く人の9つの習慣 : コロンビア大学の成功の科学.  ディスカヴァー・トゥエンティワン)
・Dweck, C. S. (2006). Mindset: The new psychology of success. Random house. ( キャロル S.ドゥエック, 今西 康子 (訳). (2008). 「やればできる!」の研究.  草思社)

Foreword

創立者・池田大作先生の文明間対話のもつ意義

教務部長 西田 哲史

 本学創立者の池田大作先生に対してこれまでに、世界の大学・学術機関から400を超える名誉学術称号が贈られています。これは、創立者が「文明間対話」を通じて世界の諸大陸、文化、宗教間に間断なく「善の連帯」という架け橋を築き上げてきた結果であります。創立者が「文明間の対話」を重視するその根底には、生命のなかの「善性」を信じて、胸襟を開き粘り強く「対話」を重ねることによって、必ず人間は理解し合えるはずだとの強固な信念があります。こうした信念が、具体的な形となって初めて表明されたのが、1961年に東西分断・民族分断の象徴となった築かれたばかりの「ベルリンの壁」の前に立った時でした。「30年後には、きつと、このベルリンの壁は取り払われているだろう… (中略)戦おう。この壁をなくすために。平和のために。戦いとは触発だ。人間性を呼び覚ます対話だ。そこに、わが生涯をかけよう。」(『新・人間革命』第4巻、「大光」の章、聖教新聞社、1999年)これは、単なる未来の予測や願望を語ったのではなく、「対話の力」を通じて、最後には必ずや、平和を求める人間の良心と英知と勇気が勝利するとの創立者の確信であり、そして世界平和実現のために「対話の道」を歩んでいこうという決意の宣誓でありました。

 この誓いから6年後の1967年、初めての「文明間対話」が実現しました。それは不思議にも、未曾有の惨劇となった第一次世界大戦に対する深い反省から1920年代に「汎ヨーロッパ運動」を提唱して以来、「欧州統合」の象徴的存在であったクーデンホーフ=カレルギー伯爵との会談でした。カレルギー伯は、創立者との初会談から受けた強烈な印象を帰国後に文章に残しています。「私は直ちに池田の人物に強く感銘した。やっと39歳の、この男から発出している動力性に打たれたのである。彼は生まれながらの指導者である。(中略)生命力の満ち流れている、人生を愛する人物である。率直で、友好的で、かつ非常に知性の高い人物である。」(『美の国 一 日本への帰郷』鹿島研究所出版会、1968年)

 この最初の出会いから3年後、両者は3日間延べ10時間に及ぶ対談を繰り広げ、記念すべき最初の対談集となる『文明・西と東』(サンケイ新聞社、1972年)を上梓します。そして、若き日の創立者に「文明間対話」の必要性を強く想起させた「ベルリンの壁」の前での誓いから28年後の1989年、その壁は崩壊しました。これは、世界平和創出のために「対話の道」を迷わず選ばれた創立者の先見性を、歴史が証明したことを如実に物語っています。

 さあ、読書の秋、通教生の皆さんも創立者が世界の識者と編んだ対談集を手に思索を深めてみてください。

教職指導講座

今年度の採用試験を振り返って ~教職体験を踏まえて~

教職キャリアセンター 指導講師 橋本和男

 2024年度の教採は、新たな「創価の人間教育」を展開すべく重要な時を迎えていることを私自身が自覚し、人材輩出の決意を持って臨みました。時代は正に、地球規模の危機を抱えており、教育の力によって深刻な課題を解決できる子どもたちを育まなければなりません。真の人間教育の教育者を創出する重要なミッションです。
 教職キャリアセンターの業務は、学部の学生とともに通教の学生を同時に担っているため、本稿では、まず両学生の皆さんの今年度の教職への取組を紹介します。

 通教個別の相談に加え、一次試験の筆記試験に向けて2月から「教職教養・専門教養」対策講座を4期にわたり15回開催し、のべ135名の参加者がありました。教職教養の出題は大変領域が広く、その対策が難しいと言われています。そこで講座では、受験地の過去問題を解いてみることお勧めしました。何年間かの問題にあたってみるとそこに二つの点が見えてきます。第一に,受験地が求める内容の傾向です。例えばある県では「教育心理」に関する内容が続けて出題されていることです。第二に、把握できるのは自身の弱点です。「教育史」の誤答が多ければ,参考書を活用して知識理解を補強にあたります。この教職教養の中心内容は「教職時事」にしました。この時事は最新の法令や答申に関することであり参考書等にはあまり掲載されていない内容だからです。特に今年度は「第4期教育振興基本計画」や「令和の日本型学校教育の構築」などの答申をはじめ「こども基本法・大綱」などの法令を説明しました。この講座を通して日本のおかれている教育事情を正しく理解を進めてほしいとの願いからです。このことは筆記試験に止まらず、論文試験や面接の際にも押さえておくべき内容であると考えます。さらに相談室に「教職教養リアル問題集」(昨年度に実際出題された問題)70部用意をして問題練習のため希望者に配付しました。

 対策講座は7月より「模擬授業対策講座」を6回開催し、二次試験の準備にあたりました。模擬授業は、神奈川県(別途に横浜市、相模原市)や千葉県を始め、愛知県・大分県・福岡市などの受験地でも実施されています。のべ54名の参加者がありました。その形態は受験地によって異なりますが、6~10分程度の授業を児童役の受験者または面接官に対して授業を行うものです。授業を授業改善の視点である「主体的・対話的で深い学び」になるようにパフォーマンスします。短い時間では、教師はどうしても児童に教えることを焦ってしまいます。それをいかに活動的・協働的に進めていくかの練習です。授業の主役は子ども自身ですので、教師は発問と働きかけが重要となってきます。講座では、教師役と児童役を交代しながら授業の展開の質を高め合いました。特に第3回対策講座では学部生5名と通教生5名の参加があり、部を越えての機会を実現できたことは大変有意義な場となりました。お互いに授業を見合い、気付いたことやアドバイスなど交流していくことは自信につながったと思います。

 今、この文章を記述しているのは8月の下旬です。夏期スクーリングも終え安堵の気持ちです。今年度の教採は,本当に多くの熱心な学生と接ししてきたと思います。対策講座とは別に個別の相談は何件だったかと相談カルテをもとに数えてみました。すると驚くべき数字でした。のべ158名の相談者でした。お話しできた皆さんは「教育」の道を志し、その真剣な思いを伝えてくださいました。その中でも通信教育の課程を受講し,教育実習に向かい、そして教員採用試験に挑戦した通教の学生の皆様の姿にいつも心打たれ感動していました。多くの学生は仕事を続けていながら、教員免許の単位の修得や採用試験の準備に向かっています。教職への道を志すという勇気と決断に頭が下がります。私が感銘を受けた学生の生きざまを紹介します。

 ある学生さんは、通教を8年間かけて今年の3月に卒業しました。その間、学費のために働き続け見事、小学校教員免許を取得しました。春からは実習校からお声がかかり職員として働いています。そして、今年度の教員採用試験に挑戦しました。本人は小学校の卒業アルバムの「学校の先生になって子どもを教えたい」との将来の夢を実現できたと語ってくれました。
 次の学生さんは、高校卒業時に創価大の学部に入学を希望していたが、家庭の事情で働きながら通教で学ぶことになったそうです。「踏ん張る力」が本人の強みであると語ってくれました。受験地の二次試験は模擬授業があるとのことで、オンラインで対応していましたが、やはり対面でないと実地的な指導に難しさがありました。そこで、模擬授業の対策講座を紹介したところ、大学まで足を運び仲間と共に練習に励みました。
 もう一人の学生さんは、「バンガード」というマーチングバンドに高校生から参加し、現在も練習を続けて様々な大会で顕彰されています。働きながら毎週の過酷な練習に挑戦しています。二次試験の面接では,面接官より「教員との両立ができますか?」と問われ、胸を張って「私の教員としての資質はこの経験にあります」と答えてきたそうです。
 今、日本の学校教育は大きな変化を迎えようとしています。求められている教師の資質・能力は「心の豊かさと強さ」です。いよいよ通教の皆さんの志を発揮し活躍しゆく舞台が見えてきました。
 一人ひとりが、自分の華を自分らしく咲かせることができるよう。教職キャリアセンターは、皆様のことをこれからも応援し続けてまいります。

学習支援推進室コーナー

生成AI「ChatGPT」の活用法とレポート学修上の注意点

通信教育部講師 黄 國光

 OpenAI社が2022年11月30日にChatGPTを公開して以来、生成AI(Generative AI)は次々と発表され、私たちの暮らしや社会に大きなインパクトを与えています。生成AIとは、人間の指示に応じて適切な文章や画像、音楽、動画などを生成するAI(人工知能)のことです。ChatGPTもその一つで、人の質問に対してAIが回答することで様々なタスクをこなす「AIチャットサービス」の一種です。
 本稿では、私自身の視点から通教生に皆さんが生成AIにどのように向き合うべきか、急速に変化する現状を踏まえ、その対応策とレポート学修上の問題点について紹介します。ここでは生成AIの代表格であるChatGPTに焦点を当てます。

 教育分野においては、ChatGPTを適切に利用することで学修効果が期待される一方で、レポートをChatGPTで作成してそのまま提出することが常態化することへの懸念も指摘されています。こうした背景から、多くの大学ではChatGPTの教学面の取扱いに関する指針の策定が進められています。本学でも、学長や通信教育部長から生成AIの利用に関する声明が発表され、包括的に見ればネガティブな要素が強調されています。
 しかしながら、ChatGPTを不正利用されるからといって利用を禁止するだけでは問題は解決しません。AIが急速に普及した現代において、人類は後戻りできません。むしろ、どのようにすれば問題が生じないようにできるのか、大学教育のあり方を考えるべきです。東京大学では、生成AIを前提とした社会において、AIが抱える問題点に言及しつつ「積極的に良い利用方法や新技術、新しい法制度や社会システムなどを見出していくべきだ」と指摘しています注1)。また、東洋大学では「AIと連携できる力」や「問題を設定できる力」が重要になると訴え、AIをインターネットと同様に今後の社会に浸透する重要な技術と位置づけ、うまく使うことが重要になるとしています注2)。生成AIを教育のツールとして積極的に活用しようとする動きもあります。

 1973年、アメリカの認知心理学者ベンジャミン・ブルームとその研究チームは、学修の深度を示す「ブルーム・タキソノミー」を作成しました。ブルームの分類では、思考が「知識」「理解」「応用」「分析」「評価」「創造」の6つの段階に分かれています。ブルーム・タキソノミーは、教育者が目標設定や評価の基準として使用し、学修者が自身の学修状況を把握し目標を設定するためのツールとして役立ちます。その結果、より深い学びを促進する効果があります注3)
 ここで考えたいのが、ブルーム・タキソノミーでいう高次思考、「分析」「評価」「創造」におけるChatGPTの使い道です。端的に言えば、高次思考とは「正解のない問い」について考えることです。正解のない問いについて、知識を基に論理的、多角的に迫り、個別・具体的な認知とメタ的・俯瞰的認知を行き来しながら、最終的には自分の判断基準に従って決定を下し、新しい価値を創造します。基盤には確かな知識が必要ですが、それを用いて「なぜ? どうして?」と自問自答します。このような「問い」や「問題意識」をもつ人にとって、ChatGPTは頼れるパートナーになります。
 一例を挙げると、効果的に自問自答するためには、ChatGPTを叩き台として使うことです。例えば、ブレインストーミングの壁打ち相手として問い立て、論点やアイデアの洗い出し、ドラフト作成、文章校正など、ChatGPTを使った主体的な学びの補助・支援が考えられます。肝心なのは、最初からChatGPTに答えを出させるのではなく、まず自分で考えたことをChatGPTに投げかけ、その返答を基にさらに思考を深めるという順序で高次思考を鍛えることです。「問い」「問題意識」をもってChatGPTを使いこなせる思考力を育むことが、これからの学修者の最大のテーマとなるでしょう。

 ChatGPTを高次思考の「叩き台(壁打ち相手)」とするには、どうしたらいいでしょうか。学修におけるChatGPT活用に関する注意事項を以下に挙げますので、十分に把握してください。
 まず、「問い」「問題意識」を持って自分で考えてみることが欠かせません。ChatGPTの最大の問題は、使用者の思考を停止させる恐れがあることです。通教における学修は学生が主体的に学ぶことが本質であり、ChatGPTの出力をそのまま用いることは、学生自らの学びを深めることには繋がりません。また、ChatGPTの出力に著作物の内容がそのまま含まれていた場合、それに気付かずに使用すると、意図せずとも剽窃に当たる可能性があります。
 次に、ChatGPTの仕組み上、出力された内容の信憑性には注意が必要です。ChatGPTの原理は、答えの真偽を判断する知性がなく、単に「確率的に高い文章」を作成するため、言語コーパスに嘘があればそれを再現します。したがって、生成された情報に対するファクトチェック(真偽検証)が重要です。ChatGPTを使いこなすには、相当の専門的な知識が必要であり、回答を批判的に確認し、適宜修正することが求められます。
 さらに、プロンプトの学修はこれからの時代において非常に重要です。AIを効果的に活用するためには、ChatGPTなどのAIシステムに対して的確な質問と指示を与えることが不可欠です。正確な結果を得るための質問や指示の仕方を理解し、ChatGPTへの頼み方や質問力を高めるスキルを獲得することが必要です。
 新しい「創造社会」を迎え、AIの普遍化に伴い、人間には幅広い知識と探究力が求められます。AIは従来の情報処理の枠を超えた、より複雑でダイナミックな社会的な役割を果たすようになります。AIに精通した人が優位に立つため、AIは能力格差を広げる可能性があります。通教の新設科目「AI基礎」でAIリテラシーを高め、AIとの共存を学びましょう。

(注)
1.東京大学「生成系AIについて」、https://utelecon.adm.u-tokyo.ac.jp/docs/20230403-generative-ai、2024/7/15閲覧
2.東洋大学「全学生向けにGPT-4を活用させる革新的な教育システム導入」、https://www.toyo.ac.jp/news/academics_faculty_iniad_20230510.html、2024/7/15閲覧
3.ブルーム・タキソノミーの改訂版は、アクティブ・ラーニングの設計に役立つツールです。2001年に開発され、学修者が知識をどのように獲得し、活用するかを6つの段階で詳細に分析できます。このモデルは、単に知識を覚えるだけでなく、それを応用したり、新しいものを創造したりする力を育むことを重視しています。特に、メタ認知を重視することで、学修者は自分の学び方を意識し、より効果的に学修を進めることができます。詳細については、こちらの文献をご参照ください。ロリン・W・アンダーソン『学習する、教える、評定するためのタキソノミー』東信堂、2023/8/31

ブック・スクエア

本へのとびら ―― 岩波少年文庫を語る  宮崎駿 著

通信教育部准教授 岡松 龍一

 アニメの巨匠・宮崎駿監督の本です。アニメ制作を本業とする監督の本というのは意外に少なく、監督の感性がわかる手頃な本といえば、この本でしょう。
 この本を手に取ったのは偶然でした。斜め読みしているうちに飛び込んできた言葉がありました。

‐僕は父親を以前より理解できるような気がしています。 (156ページ)

 ページを戻ってみました。監督の父親は9歳の時に関東大震災にあっています。

‐とてつもなく大きな体験をしたのに、僕の父にはその影のようなものが感じられませんでした。…父が死んでから何年もたって、小津安二郎の『青春の夢いまいずこ』を観て唖然となりました。主人公の青年が父とそっくりなのです。…ニヒリズムの影がその底にあります。父はそのままの姿で戦前、戦中、戦後を生きたのでした。(154~155ページ)

 以前、自分の父親について、義理のオジに質問したことがあります。オジは先の戦争でシベリアに抑留され、辛酸をなめました。質問とは、うちの親父は、いつも何もせず、ウマイ食べ物には反応し、いつもつまらないテレビばかり見ている。これはいったいどうしてかというものです。即座に、返事がありました。それは価値観が変わったからだよと。

 宮崎駿監督の父と、オジと、私の父は、ともに戦前、戦中、戦後を似た世代として生きたはずです。10年ほど前に亡くなった長崎出身の父親は、原爆で両親を同時に喪った悲しいはずの話を一度もしませんでした。
 今度は、身を入れて読み始めました。

Ⅰ 岩波少年文庫の50冊

 同書第1章に当たる“岩波少年文庫の50冊”は、本書の中心となるところです。萌黄(もえぎ)色の印刷紙に、ところどころ挿絵もほどこされて読みやすく工夫されています。気軽に読めます。巻頭カラーの口絵にあるように、みじかくまとめるのは大変だったとは思いますが、どれも力のある文が続きます。ですが、なかには、子どもにはきびしい言葉もありました。

‐英雄は倒れ、復讐は殺し尽くすまでつづきます。すべてが亡びゆく、それこそが人間の運命であると、ニーベルンゲンの歌は語ります。どう受けとめていいのか判らないまま、子供のぼくは強くこの物語にひかれました。今もそうです。(10ページ)

Ⅱ 大切な本が、一冊あればいい
  同書第2章に当たるところです。大きく二つに分かれています。
 自分の一冊にめぐり逢う--少年文庫を語る
 同書第2章の前半分、“自分の一冊にめぐり逢う--少年文庫を語る”では、監督の幼少期からの読書遍歴からはじまり、石井桃子さんの『ノンちゃん雲に乗る』と中川李枝子さんの『いやいやえん』への論評では宮崎アニメの考え方が見受けられます。
時代を見る目については、こんなコメントがありました。

‐今ならこれは映画になるかもしれない、という時期が来ることもあるんですね。何十年に一度きりのチャンスが来るんです。(103ページ)

 監督が作品を発表するタイミングを測っていることがわかります。監督の視野は大きく時代性へと向かいます。先のニーベルンゲンの歌の“滅びのテーマ”が監督を貫いています。

‐画一的になっていくのが人類の運命でしょうか。滅びるようになっているんだと思うしかありません。(131ページ)

 同時に、私たち大人に語りかける言葉も見受けられます。

‐今の世の中全体のことで…自分ができる範囲で何ができるかって考えればいいんだと思います。それで、ずいぶんいろんなことが変わってくるんじゃないでしょうか。(145ページ。太字は引用者)
監督にとってのアニメ制作とは、自分ができる責務としてあります。

  3月11日のあとに--子どもたちの隣から

  同書の第2章の後半分、“3月11日のあとに--子どもたちの隣から”は、2011年3月11日に起きた“東日本大震災”を背景としています。編集部によると、著者自身が大幅に加筆したそうです。監督は語ります。

‐生きていくのに困難な時代の幕が上がりました。この国だけではありません。破局は世界規模になっています。おそらく大量消費時代のはっきりした終わりの第一段階に入ったのだと思います。そのなかで、自分たちは正気を失わずに生活をしていかなければなりません。(151ページ)
‐僕らは、「この世は生きるに値するんだ」という映画をつくってきました。…その姿勢はこれからこそ問われるものだと思います。生活するために映画をつくるのではなく、映画をつくるために生活するんです。(156ページ)

 私たちが楽しく見ている宮崎アニメの底には、意外なほど時代への危機感と子どもへの責任が潜んでいます。それが吐露された本書は一読に値すると考えました。

著者:宮崎駿
『本へのとびら ―― 岩波少年文庫を語る』
ISBN:978-4004313328
出版社:岩波新書(新赤版1332)
文庫:192頁
本体1,210円+税

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学修支援だより【2024年11月号】

Foreword

ストレスの種類と効用―ストレスは悪いもの?

教育学部長 富岡 比呂子

 現代社会はストレス社会とも言われます。私たちは高度なテクノロジーの発展、情報化の中で、常に視覚、聴覚を通して多くの刺激を受けており、インターネットや携帯がなかった時代に比べると、気の休まる時がありません。

 そういった風潮の中では、ストレス=悪、というイメージが持たれやすいですが、本来、ストレスそれ自体は悪いものではないのです。ストレスという言葉の語源は、「物体が刺激を受けた時のひずみが生じた状態のこと」をさし、心身に負荷がかかった状態を言います。ストレスには、物理的ストレス(温度、湿度、光、騒音など)、生物的ストレス(細菌、ウイルス)、心理学的ストレス(不安、怒り、焦りなど)、社会的ストレス(人間関係、生活の変化など)などがあります。こうしてみると、身の回りのあらゆる刺激がストレスとなり得ますが、逆に一切のストレスがない状態になると、人はどうなるのでしょうか。心理学の感覚遮断の実験では、大学生を快適な温度の小さな防音部屋に入れて、食事とトイレの時間以外はベッドに寝たまま過ごしてもらい、身体反応を調べます。過ごした時間に応じて謝礼が支払われますので、何もしないで、ただ寝ているだけでたくさんの謝礼がもらえるのですから、彼らにとってはいわゆる「おいしいバイト」と言えるかもしれません。

 ただし、目にはすりガラスのゴーグルをつけ、耳には常に小さなうなり声のするイヤホンを装着し、手や腕には何にもさわることができないように筒がかぶせられています。つまり、視覚、聴覚、触覚刺激を最小限にした状態にしているのです。この状態で、何もしなくていい、いればいるだけお金がもらえるという条件でしたが、多くの参加者は長くは続けられませんでした。それどころか、時間の経過とともに、知能や集中力の低下、幻覚、幻聴の体験、倦怠感を訴えるようになったのです。ここから、周りの刺激を極端に制限することは、必ずしも快適とは言えず、むしろ常に適切な刺激にさらされながら、それに対して反応をしている状態が、人にとって快適な状態と言えることがわかります。適度なストレスは、生活のスパイスであるかもしれませんね。

 通教生の皆さんは、毎日お仕事や勉強、家事や育児など、お忙しい中ストレスを感じることもあるかもしれませんが、適度なストレスを受けることは作業効率をあげる、と考えることで、ポジティブにとらえることもできるのではないでしょうか。あとは、ストレス解消法をいくつか持つことや、相談できる人がいることなども大切な要素かと思われます。通教生の皆さんのますますのご健闘を心より祈っております。

教職指導講座

かつての教え子,保護者とのエピソード

教職大学院准教授 大久保 敏昭

 現職の小学校教員だったある日、「透(仮名)の母でございます、覚えていらっしゃいますでしょうか」と電話がかかってきました。そのときから遡ること7年前に5年生で担任した子どもの保護者でした。当時二十歳になっていた透について「大学受験がうまくいかず、家で暴れる」、「相談したい」とのことでした。随分と困り果て、だれに相談するか悩み抜かれた末とのこと。決め手になったのは、通知表だと言われました。「この子のよさも課題も、よく理解している先生に」と、小学1年から中学校、高等学校までの通知表を並べ、所見欄を読んで決めたのだそうです。年間たった9行、数百文字の所見でしたが、そのもつ力の大きさにめまいを覚えるほどでした。
 偶然にも、数日後、透が友人と筆者宅を訪ねて来ました。「将来は、スポーツインストラクターになりたい」、「留学もしたい」と言う透に、「この本を読んだら、『勉強しよう』という意欲が湧いてくるよ」と、1冊の本を贈って激励しました。
 約10年後、透の母から再び電話がかかってきました。「現在開催されているオリンピックに、陸上競技のトレーナーとして参加している」、「大学時代に留学に出かけたとき、先生からいただいた本を持って行っていた」とのご報告でした。
 「夢を実現されたのですね」、「お母様もよく支えてこられましたね」とお声がけすると、電話の向こう側からは涙をすする様子がうかがえました。
 子どもが夢を実現し、子どものことで悩み苦しむ保護者を支え、それぞれの人生をかたちづくっていくことに貢献できる教職という職業。誠実に教育実践している教員の先輩方は、このような経験を豊かにもっておられます。教職は、とてもすてきな職業です。

教育信条をもつ大切さ
 管理職時代には、多くのすてきな先生方と出会う一方、残念ながら、毎年のように学級がいわゆる崩壊状態になる先生、子どもが不登校になってしまう先生にも出会いました。
 この違いは何かいろいろと考え、先生方と面談をする中で、わかったことがあります。それは、自分なりの教育信条(哲学)をもっているかどうかです。教育信条は、教育目的と言い換えてもよいでしょう。
 以前、この場で記述したことがありますが、次のようなことです。

 ・自分は、どのような教員になりたいのか
 ・自分は、どのような子ども(生徒)を育てていきたいのか
 ・自分は、どのような学級をつくり(中高では:どのような教科指導をし)たいのか

 この教育信条を説明する言葉は、毎年、異なる実態の子どもや保護者と出会うごとに、柔軟に更新されていくものになります。ここが硬直している教員が、ただ厳しいだけの指導で子どもや保護者を傷つけたり、子どもや保護者と歯車がかみ合わず崩壊状態に陥ったりしてしまうのです。

省察による教育信条の更新
 この教育信条の更新は、自らの教育実践を省察するという行為によってなされます。省察とは、単なる反省ではありません。教育目的実現に向けて行った教育実践が、子ども、保護者、自分自身にとってどのような意味ある経験となったかを読み解く行為です。そして、さらに教育目的に肉薄するため、子ども達との相互影響的な関係性の中で、これからどのような教育実践の変化、改善、自分自身の在り方の変革をもたらせばよいかを考察し、新たな教育実践をダイナミックに創造する行為になります。こうした行為を通して、教育目的を具現化する教育実践の方法論を、自分なりに言語化できるようになることが教育信条の更新であり、次の教育実践をかたちづくる理論になっていきます。
 このことを、創価大学教職大学院では、「理論と実践の往還」と呼んでいます。
 この理論と実践の往還は、プライベートを生きる「私という自分」と「教師としての自分」を統合するという効果をもたらします。この両者が統合された教師のもとでは、子ども達の自己肯定感が高く、学級への所属感が高いという研究もあります。

創価大学教職大学院における学び
 みなさんには、通信教育部卒業後、または教職についた後、理論と実践の往還の中で、教育信条を更新し、教育実践の智慧を磨き、さらに教育実践力を高めていくために、創価大学教職大学院への進学という選択肢もあります。教職大学院では、人間教育の理念に根ざした豊かな実践的指導力と高度な専門性に裏づけされた確かな授業力を獲得し、学校の有力な教員、あるいはスクールリーダーを育成しています(ホームページ:https://www.soka.ac.jp/grad-edu)。
 現在、通信教育部を卒業され、教職大学院で理論と実践の学びを深めておられる方がおられます。またこれまでにも、通信教育部の卒業生で、教職の経験年数は異なるものの、教職大学院での学修を経て、中堅教員、あるいは管理職、行政職というそれぞれの立場から、人間教育の大道を歩んでおられる先輩方は少なくありません。
 創価大学通信教育部で教職を目指すみなさんには、建学の精神に基づく人間教育を具現化するための教育信条を抱き、教育実践と省察を積み重ねながら、すてきな先生として活躍していただきたいと願っています。

自立学習入門講座75

レポート作成講義のBタイプについて

通信教育部教授 山本 忠行

 今回はレポート作成講義のBタイプに関する部分について解説をします。

1. 21世紀型の学びとは
 21世紀に入り、クリティカル・シンキング(批判的思考)、ロジカル・シンキング(論理的思考)が叫ばれるようになりました。書店にも多数の本が並んでいます。この背景にはAI(人工知能)の発達があります。検索すれば、簡単に情報を入手できます。知識や情報の正確さや量で、人間はコンピュータにかないません。物知りが評価されなくなった時代です。機械で代替できる仕事はどんどん減少します。しかも、ChatGPTなどさまざまな生成AIが急速に進化しているので、情報の選択や整理までやってくれるようになってきました。
 人間はこうした情報技術が発達する社会にあって、思考力や判断力で勝負するしかありません。AIがまとめたものは、インターネットを通じて集めた情報がもとになっています。その中には信頼性に疑問があるものも含まれます。著作権が問題になることもあります。独創的な発想もあまり期待できません。
 AIが既存の情報を収集してくれたとしても、そこから役立つ情報を取捨選択するのは人間ですから、判断力が求められます。情報は新たなものを作り出すための素材です。その材料をどのように組み合わせれば、価値があるものを創造できるのかを考えていかなければなりません。

2. 何のためのレポートか
 すでにレポートは学習メモでもないし、感想文や随筆でもないことを学んだことと思います。では何のためにレポートを書くのでしょうか。最も重要なのは考える力を鍛えることにあります。高校までの学びは、知ること、理解すること、覚えることが中心だったかもしれません。前節で述べたように知識量だけでは、現代社会を生きる力になりません。ブルームのタキソノミー1に従えば、学んだことを応用できなければなりません。さらに分析したり、評価したりできなければなりません。そして最終的には創造の段階を目指さなければなりません。
 学んだ知識をどうやって活用するのか。それは考え続ける以外にありません。それがクリティカル・シンキングであり、ロジカル・シンキングです。これを行う時にカギを握るのが「論理力」になります。思考力、論理力を鍛えるためにレポートを書くのだと言ってもよいでしょう。だから、学習したことを抜き書きしたようなものでは不十分です。まず、分析と評価を行わなければなりません。次にそれをもとにつながりを考え、論理化していかなければなりません。理路整然とした文章にしなければ、他者に自分の考えを理解してもらうことができません。自分の意見をまとめ、他の人々に理解できるように言語化する作業が論理化です。

3. 論理とは
 「論理」というと、何か小難しい、頭が痛くなるようなことを思い浮かべる人もいるかもしれませんが、自分の考えを主張するときには何らかの論理を使っているはずです。
 最も基本となるのは、「三角ロジック」と呼ばれるものです。「主張」(クレーム)を述べようとする場合、裏付けとなる「事実・データ」と「論拠(ワラント)」が求められます。この3つを組み合わせることで最小のロジック単位が成立します。たとえば、地球の温暖化が問題になっていますが、「化石燃料の使用を減らし、再生エネルギーの利用に切り替えるべきだ」という主張をしたければ、「大気中の二酸化炭素量と気温変化のデータ」が必要になります。さらに「二酸化炭素濃度が温暖化の原因である」という研究成果が論拠となります。
 これだけではレポートを書くには不十分ですから、論理について基本的なものをいくつか確認しておきます。

3.1 問題提起
 論理的な文章を書こうとするときに最も重要なのが書き始めです。必ず、事実と問題提起を組み合わせて書くようにしましょう。これによって方向性や結論がほぼ決定します。
 課題をほとんどそのまま使って書き始める人がいますが、それは適切ではありません。そもそも書いても意味がないし、書く必要もありません。書き方の基本は、①疑問詞を使う、②賛否を問う、③問題を指摘する、という3種類あります。温暖化問題について問題提起を行うなら、どう書けばよいでしょうか。

 ①なぜ地球沸騰化状態になったのか。
  再生可能エネルギーに転換が進まない理由はどこにあるのか。
  温室効果ガスを減らすにはどうすればよいのか。
 ②二酸化炭素排出は抑えられないのか
  EVは温暖化対策の切り札になるのか。
  日本の温暖化対策は遅れているのではないか。
 ③再生可能エネルギーへの転換は急務だ。
  SDGsを具体化する運動を展開しなければならない。
  使い捨て文化が自然環境を破壊している。

 問題提起はこれだけではありませんが、問題提起にはすでに筆者の意見が表れていることがわかると思います。問題提起によって読者に問いかけたときに、結論が半分示されているのです。本論は結論に至るためのデータの分析と考察ということになります。言い換えれば、言いたいことが不明確であれば、適切な問題提起はできないことになります。

3.2 付加、例示、換言など
 論証するときに、必要になるのが、主張を補強するために、データを複数挙げることです。そのときに「そして」を使うことは避けなければなりません。「そして」を使って、データを列挙した場合、読む側は幼稚な印象を受けます。単に文を並べていることになるからです。「世界の平均気温が上昇している。そして、温室効果ガスも増加し続けている。」という文を見たとき、そこに論理性を感じるでしょうか。こうしたときは「しかも」でなければ、状況の深刻化や温暖化と二酸化炭素の関係性があいまいになってしまいます。
 これ以外にも「たとえば」によって例示したり、「すなわち/つまり/要するに」などで言い換えたりすることも有効です。

3.3 対比、転換など
 自分の主張の正当性を示すために有効な方法の一つが対比です。日本の温暖化対策が不十分であると言いたければ、再生エネルギーへの転換が進んでいる国と対比することになるでしょう。そのときは、「~と比べて/それに対して/一方」などさまざまな表現を使うことが可能です。さらに強調したければ、「ところが/にもかかわらず」などを用いて、話の方向を転換することもできます。

3.4 その他 
 論理展開に応じて、原因・理由、条件、譲歩、補足、帰結などの表現を駆使してレポートを書いていくことになります。それをすべてここに取り上げて解説することはできませんので、参考書などを利用して論理的な文章の書き方を学んでいってください。

4. 基本的な文章展開
 文章を書くときには、どのような順序で話を進めるかが問題となります。これはテーマによって違ってきます。時間軸が重要な内容であれば、時間的な順序に基づいて展開していきます。空間軸に関する内容であれば、地理や序列などを踏まえた展開になります。これを守らないと、読み手は理解に苦しむことになります。時間軸で議論を進める場合は、前後関係や変化などが重要になります。それを示す語句、たとえば、「その後/やがて」などを使うようにしましょう。空間軸を用いるときは、「それに対して/反対に/~を頂点に」などがあります。
 また、演繹的な構造にするか、それとも帰納的に話を進めるかということが軸になることもあります。演繹的な論法とは、原理・原則、仮説、モデルなどを提示するところから話を始める方法です。帰納的な議論とは具体的なデータを集め、分析することによって、法則性やパタンを見出し、仮説を作り上げていく手法のことです。これはどちらが優れているということではなく、研究分野によって適切な方法を選択することになります。

5. アウトラインの作り方
 「アウトライン」というのは、概要、輪郭などを意味する語であり、文章を書くときの設計図のようなものです。良質のレポートを書くには、しっかりとした設計図が必要です。思いつきで書いても、内容が散漫で、一貫性や説得力の乏しいものになってしまいます。では、どうやってアウトラインを作ればよいのか。建築資材がなければ、家は建てられません。まず、課題を確認し、テキストの中で課題に関係のある部分を読み込みます。ポイントになりそうな部分を書き出します。必要に応じて参考文献などを調べます。この時に色つき付箋などを使うと、後の作業が楽になります。次にテーブルの上などでそれを広げて、じっくりと眺めて考えてください。内容が似ているもの、関連するものが見えてくるはずです。それをグループ分けしましょう。グループ分けができたら、なぜその付箋を同じグループにしたのかを考え、そのグループに見出しを付けましょう。付箋が多いときは、これを繰り返してください。
 これで下準備は完了です。目の前に5~10ぐらいのグループができたでしょうか。これをもとにレポートを書いていきます。どれを最初にもってきて、最後はどれにすればよいかを決めます。残りはどのような配列にすれば、分かりやすくなるかを考えていきます。これによって大まかな章立てができます。一つひとつのグループが章や節になります。場合によっては、何か補足した方が流れがよくなることに気づくはずです。そのときは、新たに追加しましょう。各章の内容は各グループの付箋の配列を考えながら決めていきます。
 アウトラインを一度に決定しようとしないことです。書きながら、考えながら、修正を加えて完成形に近づけていくようにしましょう。最初に決めた配列にこだわると、必要なことが抜け落ちたり、論理がちぐはぐになったりします。

6. 実践編
 次の文章を参考にオリンピック開催の意義について論じるレポートをまとめてみましょう。

 オリンピックの起源は古代ギリシャで行われていた「オリンピア祭典競技」であり、神々に捧げる宗教行事の一つであった。それに対して、近代オリンピックはクーベルタン男爵によって1896年に始められたものである。それは青少年の健全育成と世界平和の実現が理念とされている。
 クーベルタンが生まれた当時のフランスには仏戦争後の沈滞した雰囲気が蔓延していた。愛国主義者だったクーベルタンはイギリス嫌いだったようだが、視察に訪れたパブリックスクールでスポーツに取り組む学生の姿を見て、スポーツを取り入れた教育改革の必要性を感じたと言われる。その後アメリカをはじめ、いろいろな国を訪れ、スポーツが国際交流に役立つと確信し、「国際的競技会」を構想し、それがオリンピック復興計画へとつながっていったのである。

練習課題:「オリンピック」の理念と現実の問題点を分析し、今後のオリンピック開催はどうあるべきかについて400字程度で論じなさい。

■課題解説
①情報収集し、ポイントを整理する
 ・スポーツを通じて青少年の健全育成を行う
 ・スポーツを通じた国際交流によって世界平和を実現する
 ・国家間の競争の場になっている
 ・商業主義化が進んでいる
 ・環境破壊や大量のゴミ発生が問題となっている
 ・世界には貧困や飢餓、紛争などさまざまな問題が山積している
②自分の立ち位置を決める
③アウトラインを決める
④レポートを書き始める

注1)アメリカの教育心理学者であるB.ブルームは1956年に教育目標を6段階に分類しました。その修正版では知識・理解・応用・分析・評価・創造となっています。知識を覚え、理解する段階が最も低次元の学習となります。

学習支援推進室コーナー

レポート作成講義【Cタイプ】を担当して

通信教育部准教授 堂前 豊

 夏期スクーリング期間に実施された「レポート作成特別講義」で、Cタイプのシナリオを使って講義を行いました。
 Cタイプのねらいは、学習者に(1)レポートの説得力を高める代表的な「論証形式」について理解を深めてもらうこと、(2)下書きしたレポートを見直して完成させるための推敲のスキルを修得してもらうことです。
 講義では、まず、「A(例えば、リンゴ)ならばB(果物)」という表現には、「(Bの観点に立てば)AはBに含まれる」、「AでなくともBでありうる」、「BでないならばAでもない」という含意があることを、図を用いて説明しました。そのうえで、三段論法をはじめとした代表的な論証形式を紹介しました。根拠に充分な裏付けがあり、妥当な(反例が出ない)論証形式を用いることの大切さを、「講義資料」の演習問題Ⅳを解きながら確認し合いました。

 次いで、良い文章の要件には、①テーマ(主題)が明確である、②書き出しと結びが呼応している、③「一貫性」(意味のつながり)と「結束性」(言語表現のつながり)がある、④読む人に主張が伝わる、⑤事実と主張が区別されている、などがあることを説明しました。そのうえで、よきパラグラフを作り、それらを適切に配置しているかが論理構成面からの推敲の重要ポイントになることを強調しました。また、「事実や情報の提示」を行ったうえで「問題提起」を行うと、主張を伝えやすくなる効果があることを演習問題Ⅵに即して確認しました。
 さらに、文章作法に則った推敲のために、「自立学習入門講座38」も援用しつつ、学術文章としての留意点と読みやすい文章のための留意点を紹介しました。前者では、客観性、正確性、中立性、「である」調(常体)で書くことを基本とするなど、後者では、「一文一義」で書く、「主語と述語」や「修飾語と被修飾語」は近づける、「重複は避ける」などについて説明しました。

 最後に、原稿作法に則った推敲のために、まず、引用ルールについて具体的事例を示して解説しました。そのうえで、書き出しと改行時には一文字空ける、適宜改行を行う、句読点など行頭禁則文字が行頭に来ないように工夫することなどの大切さを訴え、演習問題Ⅴを使って実際に推敲作業をしてもらいました。
 参加された皆様の積極的な姿勢や発言に、レポート作成にかける熱意を感じました。これからも、より質の高い講義を目指して、さまざまに工夫していきたいと思います。

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