2022年度学修支援だより

学修支援だより【2022年4月号】

Foreword 1

労苦の中に喜びと価値(たから)を創造しよう

学長 鈴木 将史

創価大学通信教育部へご入学された皆様、おめでとうございます。私はこの4月に新たに学長に就任いたしました。皆さんと同じ「1年生」ですので、スタートに当たって通信教育の意義を振り返ってみたいと思います。
小説『新・人間革命』第23巻〈学光〉の章には、「この通信教育が成功すれば、創価の民衆教育の新しい歴史の扉が開かれます」「私が恩師から託された悲願を実現する担い手こそ、創価大学に学ぶ通教生であります」等と綴られています。創価大学の通信教育部は1976年に開設されましたが、小説にも描かれているように、その構想は創価大学の設立と同時にあったものです。創立者・池田大作先生が「師と弟子が、互いに“信”を“通”わせ合う教育」とも表現されている通信教育は、通学課程とともに創価大学の両輪をなす存在です。
皆さんの中には、夜の短い時間しか学習に取り組めない方もおられるでしょう。また何十年ぶりに学問を志した方もおられると思います。それぞれ困難はあると思いますが、苦しい分だけ知識を身に付けた喜びは大きく、積極的に求めた分だけ大きな成果が得られます。
創価大学開学時に創立者より贈られたブロンズ像には、「労苦と使命の中にのみ人生の価値(たから)は生まれる」という言葉が刻まれています。新たに通信教育で学びをスタートさせた皆さんが学問の喜びに触れ、この言葉通りに一人残らず卒業の栄冠を勝ち取られることをお祈りしています。

Foreword 2

学ぶ喜びを価値創造の源泉に

通信教育部長 吉川 成司

新入生の皆さん、創価大学通信教育部へのご入学、誠におめでとうございます。教職員一同、心から歓迎しお祝い申し上げます。
私は今年度より本学通信教育部長を拝命いたしました吉川成司(よしかわせいじ)と申します。学生の皆さんお一人お一人がその志を果たすことができますよう鋭意努めてまいります。昨年、本学通信教育部は、開設45周年の節目を刻みました。この労苦と使命の礎に立ち、更なる高みを目指して共々に前進を開始してまいりましょう。
次なる開設50周年への起点となった昨年の夏期スクーリングに際して、創立者・池田大作先生は、「わが創大通教の皆さんこそ、民衆の連帯に立脚しつつ、新時代の先頭を走りゆく、価値創造の走者なりと胸を張っていただきたいのであります」と、万感こもるメッセージを寄せてくださいました。
皆さんの学びの力走はそのまま時代を先駆する価値創造であり、その価値創造の源泉は、「学ぶ喜び」にあるといえましょう。ガリソン博士は「私たちが目指すべき教育の最重要の目標は、『学ぶ喜びを学ぶ』ことであり、その喜びを生涯にわたり求め続けるための方途を学ぶことにあります」と述べています(池田大作/ジム・ガリソン/ラリー・ヒックマン『人間教育への新しき潮流』)。
学習の計画や目標を成し遂げた達成感、知識を得て広がる人生観・世界観、同学の友との心の触れ合いなど、自他共の智慧と慈悲から開花する学びの喜びにあふれた学生生活でありますよう衷心より念願しております。

学修支援推進室コーナー 1

学修支援のための年間スケジュール

学修支援推進室 室長 髙橋 正

本学通信教育部では2018年度よりICT導入を進めて5年目となりますが、本年4月より大きな変革の節目を迎えることとなりました。
まず、このページのタイトルをご覧になってお気づきかと存じますが、これまで使用してきました「学習支援推進室」の組織名称を、この機会に1文字変更して「学修支援推進室」に変更させていただくこととなりました。「習」を「修」に変えたことには、ただ習うだけでなく、学んだ内容を身につけて生きる糧としてもらいたいという思いが込められています。

「学修支援だより」の新設とウェブ掲載

昨年度まで隔月に発行しておりました機関誌『学光』が2022年度より冊子の形態を変更して2年間限定で年3回発行に変わり、2023年度末をもって廃刊となります。2022年度よりは、これまで『学光』に掲載しておりました内容を通教学生ポータルサイト内に新設した「学修支援だより」のページにて毎月発信していくこととなりました。経過措置として2年間は年3回冊子『学光』も発行されますが、基本的には冊子という形態ではなくWEB上でご覧いただく形に移行いたします。
また2024年度以降、機関誌『学光』はなくなりますが、創立者が「創価大学の通信教育を象徴する永遠の指針」とされた「学光」を今後も通教で使用していく意味から、通教学生ポータルサイトを本年4月より「学光ポータル」と呼称することとなりました。

「学修支援だより」の充実化

「学修支援だより」では、この「自立学習入門講座」以外にも多数の記事を掲載してまいります。「Foreword」として学長、通信教育部長はじめ各学部長等のあいさつ・寄稿を随時掲載します。また「教職指導講座」として隔月で教員採用試験に向けてのアドバイスや2次試験の対策等への心得、具体的な取り組みについて解説します。「ブックスクエア」では通教専任教員が注目すべき書籍等を取り上げ、隔月で解説・紹介します。
そして「学修支援室コーナー」として、5月にはオンデマンドスク-リングだより(教育心理学)、6月はレポート作成講義(入門タイプ)を担当して、7月・8月には夏期スクーリング期間中の学修支援について、9月はレポート作成講義(Aタイプ)を担当して、オンデマンドスクーリングだより(物権法)、10月はオンライン授業対策について、12月はレポート作成講義(Cタイプ)を担当して、オンラインスクーリングだより(マクロ経済学)、翌年2月は今年度の学習を振り返って、の掲載を予定しています。

連載「自立学習入門講座」を利用しやすく

2015年度から『学光』に掲載を開始しました「自立学習入門講座」は昨年度末で通算59回を数えるに至りました。第60回からの具体的な掲載スケジュール・内容については別途、詳細に紹介されていますのでご参照ください。なおこれまで掲載してきたバックナンバーについては「自立学習入門講座」を集約した形で、学光ポータル(通教学生ポータルサイト)の「デジタル副教材」にて閲覧することが可能です。これまでは掲載された順番に束ねた形での公開になっておりましたが、本年度より“レポート作成のための「自立学習入門講座」”の名称で、内容項目ごとに章立てして組み直す形で整理して、参照したい内容をすぐ探せるようにし、使い勝手を良くしました。必要な項目を選んでぜひご活用ください。

「レポート作成講義」を開催

コロナ感染の状況によっては、やむなくオンライン実施に変更の可能性もありますが、4月から6月に全国各地で行う新入生ガイダンスの終了後(13:30~15:00)に入門タイプのレポート作成講義を対面で行います。
また一部の会場に限られますが、7月の科目試験終了後にAタイプの講義を、また10月の科目試験終了後にはBタイプの講義を実施します。そして夏期スクーリング期間中、2022年度はスクーリングと同様に対面型の講義を予定しており、「入門、A、B、Cタイプ」すべてを開講します。夏期スクーリングの3つの期・初日の授業終了後18時30分より20時まで、4つのタイプの講座を同時並行で行います。皆さんの興味のある内容、また充実させたい内容に合わせてタイプを自由に選択してご参加ください。

「レポート作成講義」がオンラインで視聴可能に

学光ポータルより、収録したレポート作成講義を随時視聴出来ます。入門からA、B、Cまですべてのタイプの講義をご覧いただけます。会場までの距離の問題等で受講することが困難だった皆さんや、オンラインで行っていても時間がかみ合わずご参加いただくことが難しかった皆さんにぜひご活用いただきたいと思います。また繰り返し視聴できるという利点も多くの皆さんに活かしていただければ幸いです。

教員による「学修相談」の実施

2022年度も通教専任教員による「学修相談」をオンラインで実施します。月2回のペースで各教員の対応する曜日・時間帯を、月ごとに学光ポータルにてお知らせします。各教員の対応できるテーマも示し、1人30分の時間設定で事前に予約していただく方法で行います。上半期は4月から7月半ばまで、下半期は9月半ばから翌年1月半ばまでの平日を中心に行います。直接教員と相談、質問できる機会となりますのでご活用ください。

今後も学修支援推進室では文字通り皆さまの学修推進に貢献できるよう全力で取り組んでまいります。今年度もよろしくお願い致します。皆さまの大いなる飛躍、学修の進展を祈っております。

学修支援推進室コーナー 2

4種類の「レポート作成講義」の概要

通信教育部 教授 有里 典三

入門タイプの講義概要

入門タイプの講義内容を紹介します。入門タイプの「レポート作成講義」ではレポート学習の全工程を時系列的に総攬します。特に、(1)レポート学習の進め方と留意点、(2)レポート学習の前半(インプット段階)と後半(アウトプット段階)の学習課題、(3)それぞれの作業工程において、「読む・書く・考える」能力を高める基本的なアカデミック・スキルについて概説します。
(1)では、①学術的なレポートと作文、エッセイ、小説との違い、②レポート学習の心得、③不正レポートと罰則、について言及します。
(2)では、レポート学習の前半のポイントが、①「レポート課題の意味をいかに把握するか」と、②「テキストをいかに正確に読むか」の2点にあることを示します。それに対して、レポート学習の後半のポイントは、③「いかにして論理的なレポートを執筆するか」と、④「仮の下書きをいかにして推敲し完成させるか」といった点にあることを明確にします。
(3)では、レポート学習の各工程で「読む・書く・考える」作業をおこなうときに必要となる代表的なアカデミック・スキルをとり上げて紹介します。個々の詳しいアカデミック・スキルについてはA・B・Cの各タイプで扱うことになります。
新テキスト『自立学習入門』(第3版)との関連でいえば、第1章・第3章・第4章・第6章・第7章が該当する箇所になります。入門タイプの「レポート作成講義」は、4月が2会場、5月が8会場、6月が1会場で実施されます。それ以外に、夏期スクーリング期間中のⅠ期・2期・3期に3回にわたって「レポート作成講義」が開講されます。

Aタイプの講義概要

Aタイプは、レポート学習の前半(インプット段階)の課題である(1)レポート課題をいかに把握するかと、(2)テキストをいかにして正確に読み取るか、という2点を中心に講義が展開されます。
(1)については、レポート課題のゴールをピンポイントで予測するために、①「出題の意図」や「明らかにすべき研究対象」を読みとるコツ、②「関連情報」をテキストの中から見つけ出すコツ、③「考察条件」を明らかにして「考察の種類・タイプ」を判別するコツなどを、具体例を踏まえながら解説します。
(2)については、①テキストの全体像をつかむための「トップダウン的な読書術」、②テキストの内容を正確に読み取るための「パラグラフ単位の精読術」、③レポート課題(問い)に対応した解答を探し出すための「探索型の読書術」、④思考を深めるための「批判的読書術」など、4種類の読むためのスキルについて説明します。また、こうした読書術と密接に関連する「読書メモ」のとり方や「情報カード」のつくり方についても説明します。
新テキスト『自立学習入門』(第3版)との関連でいえば、第3章と第4章が学習対象になります。Aタイプについては、7月の「レポート作成講義」と夏期スクーリング期間中の1期・2期・3期の3回の講義で触れる予定です。

Bタイプの講義概要

Bタイプは、レポート学習の後半(アウトプット段階)でもっとも重要な課題となる(3)論理的なレポートをいかにして書くか、という点を中心に詳しく説明をおこないます。
すなわち、①「レポート全体のアウトライン」(=論理展開の流れを示した設計図といったもの)を作成するコツ、②レポート全体(2,000字)を「序論・本論・結論」の3つのパーツを意識しながら構造的に組み立てるコツ、③レポートを作成するときの基本単位となる論理的な「パラグラフ」(=およそ200~400字程度の意味の統一体)の要件について、④論理的なパラグラフを組み立てるための「叙述パターン」の特徴、などに焦点を当てて講義をおこないます。この段階の学習は通教生の皆さんがもっとも苦手とする内容であるため、ここで紹介するアカデミック・スキルを習得できれば、皆さんのレポートの完成度は大きく進むはずです。
Bタイプは新テキスト『自立学習入門』(第3版)の第6章が対象範囲になります。Bタイプの講義がおこなわれるのは、夏期スクーリング期間中の1期・2期・3期の3回と10月の「レポート作成講義」です。

Cタイプの講義概要

Cタイプの講義は、(4)下書きしたレポートを見直し磨きをかけて完成させる、推敲のスキルを習得することと、(5)レポートの説得力を高めるための代表的な「論証形式」を習得することにポイントを置いています。
すなわち、(4)については、①論理構成面からの推敲、②文章作法に則った推敲、③原稿作法とルールに則った推敲、といった3つの観点から推敲作業の具体的なスキルを総合的に説明する予定です。
最後の(5)については、④論理学的知見を踏まえて「妥当な論証形式」と「ダメ論証」の違いを説明します。また、パラグラフ内の「題目文」を支えたり説明したりする「補足文」の具体的な展開方法を、たとえば「敷衍的説明や例示」、「分類と定義」、「因果関係」、「演繹的推論」、「比較・対照」、「実験・世論調査・統計などの表やグラフ」による例証など、頻繁に用いられる技法を解説する予定です。
Cタイプは新テキスト『自立学習入門』(第3版)の第7章が該当箇所になります。Cタイプのシナリオに基づく講義は、夏期スクーリング期間中の1期・2期・3期の3回だけに限って実施されます。

新型コロナウイルスによる感染が進んでいる状況下では、残念ながら対面式の講義を実施するのは困難でしょう。今年も「レポート作成講義」の多くがオンライン会議システムZoomを使ったリアルタイムで実施される予定です。しかも、2023年度からは科目試験も会場試験からWeb試験へと全面的に移行しますので、科目試験終了後に実施していたこれまでの「レポート作成講義」はなくなります。このように対面式でおこなう「レポート作成講義」は少なくなりますが、それに代わって、2021年4月から入門・A・B・Cの各タイプの「レポート作成講義」が収録映像(オンデマンド)として公開されています。これを繰り返し視聴してください。オンデマンドの長所を生かして、通教生の皆さんがレポート学習の壁を徐々に克服していけることを願っています。

学修支援推進室コーナー 3

教員による学修相談について(上半期)

基本的な学修上の質問やレポート作成等について、通信教育部の専任教員が直接お答えする「教員による学修相談」を実施します。
担当教員および質問できる項目は以下をクリックしてご確認ください。

履修科目の専門的な質問については、別途「学光ポータル」上の「教員への質問」から、科目担当教員宛に直接お問い合わせください。

※「教員による学修相談」では、「ビデオ・Web会議アプリケーション」である「Zoom」を利用します。

【実施期間(上半期)】
4月11日(月)~7月15日(金)※土・日は実施しない

具体的な各担当教員の担当日時は「学光ポータル」上の「教員による学修相談」に、実施月の前月に掲載します。
例:5月実施分は、4月上旬に掲載

【申込方法】
学修相談を希望する場合は、事前の申込みが必要です。

  1. 「学光ポータル」にログインする。
  2. 「学習サポート」メニューを選択する。
  3. 「教員による学修相談」を選択する。
  4. 該当の学修相談に申込む。

申し込みは、相談実施週の前週の水曜日までとなります。申し込み完了後、相談実施週の前週土曜日までに、学修相談に関するご案内を学光ポータルの「個人宛連絡」に送ります。
例:4月18日(月)相談日の場合、4月13日(水)までに申込をし、4月16日(土)までに、個人宛連絡でお知らせします。

【確認事項】

  • 相談をキャンセルする場合は、通信教育部事務室宛に連絡をしてください。
  • 相談開始時間を10分経過しても、Zoomミーティングへの入室が確認できない場合は、キャンセルしたものとみなします。
  • 学修相談に適した環境で相談するようにしてください。歩行中や運転中などの相談は厳禁です。

自立学習入門講座

「自立学習入門講座60~65」の概要

通信教育部 教授 有里 典三

学習支援推進室では、2013年4月から自主講座として「レポート作成講義」をスタートしました。同時に、自主講座のための副教材を充実させるために、2015年4月から『学光』誌上で「自立学習入門講座」の連載も開始しました。早いもので2022年3月の時点で連載開始から7年が経過しました。「継続は力なり」との諺にもある通り、この間に60本近い力作が蓄積され本学通信教育部の宝といっても過言ではない見事なラインナップが出そろいました。
過去の連載内容については、「学光ポータル」の中に副教材として『自立学習入門講座』が準備されています。統一テーマは「レポート学習のためのアカデミック・スキル」ですが、個々の内容は①読書論、②文章論、③情報検索法、④情報整理術、⑤論理構成法、⑥パラグラフ論、⑦要約論、⑧推敲術、⑨原稿作法、⑩直接引用・間接引用のスキル、学問分野別に見た学習ポイントとレポート作成上の留意点、など多岐にわたっています。特筆すべき点としては、通教生の皆さんからのご要望にこたえて「具体例をできるだけ盛り込んだこと」と、「自学自習のための演習問題と解答・解説を執筆する際の条件にしたこと」で、比較的分かりやすい連載内容になっているのではないかと自負しています。

さて、これまでは掲載順に講座の内容を掲載していましたが、2021年度の最終号までに60本近くの連載記事が集まりましたので、2022年4月からは利用者の学習の便宜を考慮して内容別に整理して発信することにしました。具体的には、序章 「レポートとは何か、レポート学習の進め方について」(計3本)、第1章「レポート課題をいかに把握するか」(計3本)、第2章「テキストをいかに読むか、情報をいかに整理するか」(計8本)、第3章「レポートをいかに書くか」(計21本)、第4章「推敲をいかに行うか」(計11本)、第5章「学問分野ごとの学び方、レポート作成の留意点」(経済学3本・法律学4本・教育学2本・共通科目5本の計14本)の6つのカテゴリーに区分して、関連する内容をレポート学習の進捗状況に沿って参照できるようにしました。内容別にファイルされた解説文をレポート学習の中で適宜参照することによって、「論理的なレポートを作成するための読み方・書き方についてのアカデミック・スキル」を着実に習得していってください。
2022年度は、年間6回にわたって、以下に示すようなアカデミック・スキルを重点的に解説します。ここでは、新年度のスタートに当たり、「自立学習入門講座60~65」でとり上げるコンテンツの概要を紹介します。皆さんのレポート学習の追い風になるように活用していただければ幸いです。

6月号「自立学習入門講座60」…【チェックシートの作成と効果的な活用術】

レポートの評価項目の第1は「課題把握」です。本号では、この課題把握についてのアカデミック・スキルを学習します。レポート課題の意味をいかに把握するか。そのための①『レポート課題解説』の活用法、②「チェックシート」の作成ポイントやゴールを予測するための効果的な活用法(何を明らかにすればよいか、考察の条件は何か、考察の種類・タイプは何かなど)、③「問い」をもってテキストを読み、重要な情報を探り当てるスキルなど、について具体例をあげながら解説します。演習問題と解答・解説付きで記述しますので、レポート課題のゴールを的確に把握するためのアカデミック・スキルの学習に役立ててください。

7月号「自立学習入門講座61」…【報告型と論証型のレポートの作成術】

前号と同様に「課題把握の方法」をとり上げます。本号では、この課題把握のポイントの一つである考察の種類・タイプの判別方法について学習します。レポート課題文を熟読した後で最初にしなければならないことは、どのような考察が必要なのか見通しを付けることです。すなわち、このレポート課題が「報告型」か「論証型」かどちらのタイプの学習レポートを要求しているのか判別しなければなりません。考察の種類・タイプの判別が正確にできれば、どのようにレポートをまとめればよいのかというゴールの予測を立てることができます。両者の特徴は何か。両者の考察上の違いはどこか。まとめ方のコツは何か。具体的に「述べよ」「説明せよ」「論ぜよ」という言明はどちらの学習レポートを要求しているのか。こうした点についての正確な知識が習得できているかどうかが問われます。演習問題と解答・解説付きで具体的に記述しますので、レポート課題のゴールを的確に把握するためのスキルの学習に利用してください。

9月号「自立学習入門講座62」…【精読と批判的読書のためのスキル】

レポートの評価項目の第2は「教材理解」についてです。本号では、この教材理解についてのアカデミック・スキルを学習します。テキストをいかに読むのか。論理の幹を読みとるためにはどのような点に留意すればよいのか。どのような「問い」をもって読めば効率的な精読ができるのか。また、テキストのより深い理解を目指すためにはどのような読み方があるのか。著者の考えをただ鵜呑みにするのではなく批判的に読むためのコツは何か。以上のような専門書の読み方について、演習問題と解答・解説付きで分かりやすく記述します。テキストを正しく理解するためのアカデミック・スキルを実践的に学び取ってください。

11月号「自立学習入門講座63」…【パラグラフから節にいたる要約の技法】

前号と同じく「教材理解の方法」をとり上げます。本号では、この教材理解を進める中で必要不可欠となる著者の主張・結論を要約するアカデミック・スキルについて学習します。最初の要約はパラグラフ単位で必要になります。この段階ではパラグラフの叙述パターンの要件を理解していることが必要です。ここを起点として、著者の論理の幹を節単位や章単位まで広げて要約するアカデミック・スキルを具体例を示しながら説明します。演習問題と解答・解説付きで記述しますので、著者の論理の流れを正確に理解する要約のスキルを実践的に学び取ってください。

1月号「自立学習入門講座64」…【レポート全体のアウトラインの作成方法】

レポートの評価項目の第3は「論理構成」です。本号では、この論理構成についてのアカデミック・スキルを学習します。レポートをいかに書くか。論旨が首尾一貫した分かりやすいレポートを作成するためには、事前に思考の見取り図ともいうべき「構造的アウトライン」を作成しなければなりません。この暫定的な「構造的アウトライン」は、理解が深まり情報が集まってきた段階で、必然的に発展していきます。どのような点に留意してアウトラインを発展させればよいでしょうか。具体例を挙げながら実践的に説明します。演習問題と解答・解説付きで記述しますので、論理的なレポートを書くための第一歩となる「構造的アウトライン」を作成するスキルの学習に役立ててください。

3月号「自立学習入門講座65」…【説得力を高めるための議論の組み立て方】

前号と同じく「論理構成の方法」を取り上げます。本号では、この課題把握の中でも根幹ともいうべき議論の組み立て方のアカデミック・スキルを学習します。論理的なレポートを作成するためには、「主張」と「論拠」と「データ」の関係が明確になっていることが必要です。いわゆる「三角ロジック」についての正確な理解です。また、レポート内容の説得力を高めるためには、①「3WHAT / 3W1Hへの着眼」と「要約メモの活用法」がポイントになります。こうしたアカデミック・スキルが身についているかどうかで、レポートの論理構成面に大きな違いが出てきます。演習問題と解答・解説付きで具体的に説明しますので、代表的な論理展開のスキルや内容面の説得力を高めるスキルなど、書くために必要なアカデミック・スキルの学習に積極的に活用してください。

教職指導講座

教育の道への実現のために

通信教育部 講師 宗像 武彦

教育の道の実現のためには、どのような努力が必要でしょうか?
これから5~6月に教育実習がある人がいますし、その中で各都道府県の教員採用試験を突破していく努力必要です。まずは1次を突破し、2次試験(都道府県では3次試験もあり)も突破し、教育の道に本格的に向かうことになります。
ここで、教員採用試験を乗り越え、教師の道実現のために具体的にどんな努力が必要か?以下、私の経験をもとに一つの方向として書いていきます。

[1] 一次の筆記試験突破のために
(1)各受験する都道府県の過去問対策をする

教職教養や社会常識、そして専門教養の力を見ていく1次試験が教師にとっての学力になります。それがきちんと持っているかを見ていくのが1次試験です。その1次試験を突破するためには、都道府県の過去問に向き合っていくことが必要です。
過去問は、何度も同じ問題を繰り返し取組むことで、その都道府県の問題の傾向や自分の弱点も見えてきます。本年度の出題傾向を見ると暗記式ではなく活用型の問題も見られます。そのために、次の2点の対策は必要です。

  • 都道府県の問題の傾向の把握と具体的な対策をする。
  • 問題傾向からの自分の弱点の把握と具体的な対策をする。

何度も同じ問題集に向うことで、出題傾向と自分の弱点が見え自分ができる具体的な対策をすることが大事です。

(2)論作文の対策をする

東京都の論作文は1次ですが、他の道府県は2次などに論作文があるところが多いです。そこで大事なのは、各都道府県の課題に正対した論作文になることです。正対した論作文にするには、

  • その都道府県の過去の問題をもとに論作文を何度も書いていく。
  • 論作文を書いたら、各都道府県の知人の校長先生や教職キャリアセンター講師の先生方のアドバイスをもらい、何度も書いていく。

論作文は、具体的な教師としての取り組みを問う問題が多く、何度も書くことで自分の考えをしっかりと持つことができてきます。
一次試験の突破は、個人の日々の努力、やはり勉強量がものを言います。合格を勝ち取るという強い精神力と体力、身近にいる先輩や教職キャリアセンターの先生方への相談も前に向かっていく力になっていきます。

 

[2] 二次試験突破のために
(1)集団面接・個人面接の対策ができていますか?

① 集団面接は
集団面接には、集団討論と集団面接があります。その都道府県の状況をしっかりと把握することが大事です。
この集団の面接には、主にテーマが出され、そのテーマごとに自分の考えを伝えていく面接と討論していく面接があります。通教生の皆さんは、どうしても個人での取り組みが多くなり、集団面接の準備といっても難しいところがあります。そのために教職キャリアセンターのHPをチェックして「教員採用試験対策」の「集団面接」のところがあったら、申し込んでチャレンジしていくことです。夏期スクーリングの中でも、通教としての対策を設定しています。
集団面接は、出された課題やテーマを自分なりの現場を踏まえた考えをもとに、相手に伝えていく力が大事になります。そのためには、今まで出題された「テーマ」をもとに、自分はどう考えるか。集団面接を想定してノートに書いて考えをまとめていくことが伝えていく力になります。

② 個人面接は
各都道府県で提出する「面接表」「自己PR表」などをしっかりとまとめておくことが大事です。この「面接表」などから、面接官がいろいろと聞いてきます。そのためには、「面接表」などに書くことは、

 *聞かれても答えられることを書いておくこと。
 *答えるときは、短くまとめて答え、そこから深堀されていく答え方も考え、まとめておく。

このようなことは、なかなか個人では難しいので、やはり近くの知人の校長先生や教職キャリアセンターの先生方への相談が大切になります。

③ その他
各都道府県によって実技試験や模擬授業、現場での課題の付帯的な対応などもあります。その都道府県にあった取り組みと対策が決め手です。

[3] 教員の道実現のために

今採用試験で、どんな教師を各都道府県の教育委員会は必要としているか?
それは、すぐにでも学校で子供たちの教育を任せられる現場力です。
働きながら仕事を持って学んでいる通教生の皆さんの多くは、難しいことであると思います。でも、教育の道へ行くためには、何としても教員採用試験の合格を勝ち取っていかなければなりません。そのためには、「現場力」が必要です。

  • そのためには、現在の仕事を工夫し学校現場や子どもたちとかかわりところに自分の身を置いて学ぶことです。
  • その状況や悩みを教職キャリアセンターの先生方とつながり、何度も相談して行くことで経験値となり現場力につながります。

こうした取り組みから「現場力」が身につき、1次や2次の面接試験で実感のこもった話や応対ができるようになっていきます。
社会の現実を知り活躍し、学びの努力を重ねている通教生の皆さんは、子どもたちが社会を身近に感じられる立場にあります。
子どもたち一人一人が、社会を身近に感じ未来を見つめ自ら拓いていく力の育成は、牧口先生の書かれている創価教育学に沿っていくものであり、教育の現場で求めている教師力であると思います。
通教生の皆さんが学校の現場力をつけて、教員採用試験を勝ち取り、教壇に立って創価の新たな教育への道を拓いていくことを期待しております。

ブック・スクウェア

『ごみ収集とまちづくり -清掃の現場から考える地方自治-』

通信教育部 教授 坂本 幹雄

奥付によると、著者は、大東文化大学法学部准教授。専門は地方自治、行政学、行政苦情救済。
目次は次の通りである。はじめに、第1章「大都市の清掃事業」、第2章「ごみ収集の現場」、第3章「行政改革と今後の清掃事業」、第4章「コロナと清掃行政」、第5章「感謝の手紙と清掃差別」、第6章「清掃現場と女性の活躍」、第7章「住民参加と協働による繁華街の美化」、第8章「事業系廃棄物と産業廃棄物業界のDX」、おわりに
帯には次のように記されている。

「ごみを収集すると人と排出する人/それぞれの「顔」が交差する時/見えたものとは―。/清掃現場の労働体験と参与観察を通して、「ごみ」をめぐる社会の今を映し出す。/著者のフィールドワークの集大成。
カバーの「内容紹介」を引用する。
「緊急事態宣言後、巣ごもり生活が続き大量のごみが毎日排出されている。エッセンシャル・ワーカーと称されるごみ収集に従事する人々への関心は一時集まったものの日ごとに薄れていき、私たちは日常に戻りつつある。/だが、ごみ収集とはさまざまなイシューを背景に持ち、共存と共生の示唆を含む、社会を照らし出す鏡でもある。/本書は、ごみ収集という清掃事業の奥深さを伝えるとともに、清掃事業を体系的に理解するための手がかりを提示する。コロナ禍での東京都北区における清掃労働体験、新宿二丁目での参与観察などを通し、現場で活躍している人々を活写し、同時に清掃行政、清掃差別の実態に迫る。また、女性の活躍、住民と行政の協働による繁華街の美化、さらには産業廃棄物業界の概要とそこで推進されているDXまでも視野を広げる。/「顔」のある人びとの場で共に歩き視線を同じにして追った、渾身の書。」

本書は『ごみ収集という仕事』(2018年、コモンズ)の続編である。私は、こちらの方を2年前に読んで、生活がほんの少し変わった。同書によって、本は大なり小なり人を変えるということが実感できた。ごみ袋を以前よりもしっかりと結ぶようになった。水切りを以前よりもしっかりとするようになった。収集カレンダーを以前よりも見るようになった。在宅率が高まり、収集時の清掃職員の方との遭遇率が増えた。以前にまったくしなかったわけではないが、収集時に遭遇したら、必ずお礼を言うようになった。「ありがとうございます」。「こんにちは」。次の収集先に向かいながら「失礼します」。「収集する人」は一部の人だが、だれもが「排出する人」である。そう思い、「自分にできることは何か」と以前よりもよく考えて行動するようになった。
ところで『ごみ収集という仕事』を知った本が、藤原辰史著『分解の哲学腐敗と発酵をめぐる思考』(2019年、青土社)である。これは「変わったタイトルだな」と興味を持って読んだ。帯には次のように記されている。
「おもちゃに変身するゴミ、/土に還るロボット、葬送されるクジラ、/目に見えない微生物……/わたしたちが生きる世界は新品と廃棄物、生産と消費、生と死のあわいにある豊かさに満ち溢れている。/歴史学、文学、生態学から在野の実践知までを横断する、/〈食〉を思考するための新しい哲学。」
同書によって、本との出会いは、また新たな本との出会いを生むことが実感できた。

藤井 誠一郎 著
『ごみ収集とまちづくり -清掃の現場から考える地方自治-』
2021年、朝日新聞出版、264+10頁、本体1500円+税

Close

学修支援だより【2022年5月号】

Foreword

Towards A Global Conciousness of Solidarity

国際教養学部 学部長 Laurence Macdonald

グローバルな連帯意識をめざして

現在、私たちが懸念しているのは、世界が分断されているように見えることです。ここでは、まず世界の分断について述べ、そして、私たちを元気づけて、明るい未来へと向かうことができるような考えをいくつか提案したいと思います。コロナ感染のパンデミックが始まって3年目となり、また、世界中で新たに紛争が生じて、それが続いている現状に直面すると、前向きな見通しを持って輝く未来があると信じるのは難しくなっています。 
最近、SGI会長、池田大作先生は、2022年平和提言を発表されました。そのお考えの何点かについて皆さんと共有したいと思います。その平和提言の中で、政治思想家トーマス・ホッブズ(1588-1679)とジョン・ロック(1632-1704)が初めて提示した社会契約の考えについて述べられています。社会契約説では、市民が一定の道徳的・政治的ルールに従うことに同意し、そのために市民は個人の自由の一部を放棄しなければなりません。これによって、市民には物理的・人為的安全と平等権が国家からあたえられます。この政治思想は数百年間、市民社会を支えてきました。この考えが将来にわたって文明を支えられるのかどうか再考する必要があるのだとすれば、今こそ、その時であると思います。 
過去20年間の出来事は、私たちが直面している課題があらゆる市民に影響をあたえるグローバルなものであることを示しています。たとえばば2007年から2008年にかけて起きた金融危機は、世界的な金融システムを破壊する脅威となりました。ここ3年間、私たちは、目に見えないウイルスによってもたらされた世界的な健康危機に打ち勝とうと懸命に努力してきました。さらに地球温暖化がもたらす環境問題は最も憂慮すべき課題であります。なによりも、もっとも不穏な危機は、世界各地で武力紛争が続き、それが拡散していることです。 
これまでは社会契約に頼って国家レベルで難題を克服できたのかもしれません。しかしながら、明らかに、人類は国境を越える課題と戦っています。地球の反対側で起きている紛争でさえ、グローバルな政治的・経済的状況に深刻な影響をあたえます。何よりも武力紛争は人類の心に強い影響をあたえ、絶望と無力感をもたらします。 
これらすべての課題を踏まえて、池田先生が発表された2022年の平和提言と共通認識に立つ次のような考えを提案したいと思います。遠い場所で人々を襲う脅威はすぐさま私たちの地域社会にもやってきます。そして、その脅威がもたらす悲しみ、苦痛、および悲劇はどの人々にとっても同じものです。池田先生は、こうした課題を克服する手段として、地球大に開かれた連帯意識の重要性を提唱しています。この考えにもとづいて、グローバル意識の創出をめざして努力するなかで、これまで国家的関心に焦点をあてていた社会契約を再構築して、グローバルな社会契約を形成する必要があります。このようなグローバルな社会契約において、だれもが影響をうける世界的な課題を克服するために、人類の意識が一致団結するのです。

学修支援推進室コーナー

オンデマンドスクーリングだより

教育学部 教授 富岡 比呂子

ネガティブ思考のポジティブな効果について

オンデマンドスクーリングを受講しておられる皆さんは、単元ごとにいくつかの小テストをクリアした上で、最終試験に進まれると思います。皆さんは、そういった試験など重要な場面でうまく物事を遂行できるかという時に、「きっと私はできる!」と、前向きに思いますか。それとも「できなかったら、どうしよう…」とネガティブに考えがちでしょうか。今回は、ネガティブな思考は必ずしもネガティブな結果になるとは限らないという心理学から見た考え方をご紹介したいと思います。
例えば、コップに水が半分ほど入っているのを見たときに「もう半分しか残っていない」と思う人もいれば、「まだ半分ある!」と思う人もいます。同じ事象であっても、前者のように物事を悪く考えることを悲観主義あるいは悲観的思考、後者のようにポジティブに考えることを楽観主義あるいは楽観的思考といいます。一般的に、悲観的な考え方よりは楽観的な考え方の方が望ましいと言われ、楽観主義が精神的健康に関連していることが研究でも示されています。ところが、近年、悲観主義者の中にも、物事を「悪い方向に考える」ことで成功している適応的な悲観主義の人たちが増えているそうです。そのような考え方をする人を「防衛的悲観主義者」といいます。
防衛的悲観主義は認知的方略の一つです。前にうまくいっている事実があるにも関わらず、これから迎える状況に対して、前向きな結果(成功)ではなく最悪の事態(失敗)を予想する方略です。例えば、ある仕事を「人前でプレゼンテーションをする」ことだとしてみましょう。楽観的思考の人は「きっとうまくやれるだろう」「前にもやったことがあるから大丈夫だろう」と考えるのに対し、悲観的思考の人は「セリフを忘れて頭が真っ白になるのではないか」「もしうまく話せなかったら、聴衆が退屈して途中で退室してしまうのではないか」「パソコンがフリーズして、パワーポイントが使えなくなったら?」「壇上に置かれた水をこぼしてしまって、資料が破れて読めなくなったらどうしよう」…と、際限なく不安要素が浮かんできて、「このままではうまくいくわけがない!どうしよう」となってしまうのです。
しかし、この悲観的な思考はただのネガティブ思考ではありません。予想される最悪の事態を鮮明に思い浮かべることによって、逆にそうならないように事前に対策を練ることが可能になるのです。プレゼンテーションの例では、そのような防衛的悲観主義の人は、楽観的な思考を持つ人よりも用意周到に準備を重ね、何度も練習を繰り返すに違いありません。また、本番には自分の資料を2部用意し、パソコンも念のため2台用意するかもしれません。そして、本番を迎えるころには、その不安を自分でコントロールし、立派な成果を収めることになるでしょう。このように、防衛的悲観主義者は「前にもうまくいったから、今度もうまくいくだろう」とは決して思いません。失敗など悪い事態を予想することで不安が増大しますが、そのような不安を逆に利用し、モチベーションを高め、最大限の努力をすることで目標達成につなげることができるのです。つまり、防衛的悲観主義者の方が結果として、楽観的な人に比べて高いパフォーマンスを出すこともあるということです。
ところで、そうした防衛的悲観主義者の人が、意識して逆の楽観的な思考にシフトしたとしたらどうなるでしょうか。これから重要なタスク(プレゼンテーションや試験など)を迎えるときに、「最悪の状況なんか考えないで、成功することを思い浮かべよう」「くよくよしないで、きっとうまくいくよ!」と励ましたり、悲観的思考に陥らないように、無理にでも気晴らしをしてみるとします。すると、今までと同じようなパフォーマンスが発揮できるのでしょうか。
結果は、防衛的悲観主義者の人は、楽観的になると出来が悪くなり、悲観的な思考のままでいる方がよい成果をあげることができるのです。同様に、楽観主義の人に、悲観的な思考(失敗場面を想像させたり、不安をあおるような声かけをする)を促すと、途端にパフォーマンスが下がります。このことから、ポジティブ思考が常に万能であるという考え方は誤りであり、人にはもともとの気質、特性というものがあり、それを無理に変えようとするよりも、自分自身の傾向を理解し、「肯定的に受け入れる」ことが大切と言えるのではないでしょうか。
筆者自身も悲観的な考え方をする傾向にあり、成功よりも失敗する場面を想像したり、夢にまで見ることも少なくありません。自分の授業で講義中に説明するプリントが見当たらず、「ない、ない…、やっぱりない!」と焦って探す夢など何回も見たことがあるほどです。
ですが、この防衛的悲観主義という考え方を知ってから、自分の気持ちが少し楽になったような気がします。「よく失敗することを考える」、そのこと自体は良いことでも悪いことでもありません。そのあと、どう行動するかによって結果は変わってくるのです。
もし皆さんの中に、防衛的悲観主義について心当たりのある方は、無理にポジティブにするよりも、正々堂々と悲観主義を貫き、そういう自分を「それでいいんだ」と認めることが大切なのではないかと思います。悲観主義的であるからこそ、最悪の状況を思い描けるし、失敗しないための準備を周到に行うことができることをメリットだと考えればよいのです。
通教生の皆さまのご健闘を心より祈っております。

Close

学修支援だより【2022年6月号】

Foreword

夏期スクーリングを迎えて

通信教育部長 吉川 成司

人と出会い学び合う夏期スクーリングに

何よりもまず、コロナ禍でさまざまな制約がある中、職場で、家庭で、そしてまた地域で、さまざまお忙しくされながらも、たゆむことなく勉学の歩みを進めておられる通教生の皆さんに最大の敬意を表したいと思います。
さて、2022 年度の夏期スクーリングは、全面的に対面で実施することを基本方針として具体的に計画することになりました(2022年6月1日現在)。新型コロナウィルス感染拡大のため3年ぶりのことになります。燦々たる夏空のもと、創価大学の広々としたキャンパスで、日本中から、世界各地から集う同学の友と充実した学び合いと触れ合いの思い出を刻んでいただきたいと思います。
ただ、コロナ禍には変わりなく、参加される皆さんにおかれましては、スクーリングへ参加する前から、またスクーリング中も感染予防にくれぐれも留意されますようにお願いいたします。

オンライン授業は、通学のための時間、交通費などのコストを節約できるといったメリットがあります。これについては、春期・秋期、そしてオンデマンドのスクーリングで行われます。夏期スクーリングだけは対面で実施し、入学以来、対面授業の経験が全くない方にそのメリットを体験していただきたいと念願しています。
 対面授業には、オンライン授業にはない臨場感があります。あるときは真剣な知的触発があり、またあるときには和気に満ちた雰囲気を体験し共有できます。また、キャンパスに集い時間と空間を共有することで、授業以外でも学生同士、学生と教員とのフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションが取れます。こうした交流を通じて、通信教育で課題となる孤独感を払拭できますし、さらに満足感や達成感を高めていただけるものと思います。
授業以外にも、「オフィスアワー」「レポート作成講義」を始めとする学修支援、またイベントなどを計画しています。これらにも参加され、講師への質問、向学の友と交流する機会にしていただければ幸いです。

さて、2022年は日中国交正常化50周年の節目です。この佳節に、創立者の思想と行動の軌跡を、中国の研究者の新たな視点から学んでいただくことができます。「建学の精神」を学ぶことができる共通科目・大学科目群に、今年度より「人間教育論B」が開講されています(オンデマンドスクーリング)。これは、中国の北京大学や南開大学、湖南師範大学等で行われている「池田大作研究」について、中国各大学の教員がその成果を講義するものであり、創立者の教育主義、文化主義、平和主義、人間主義を探求する内容になっています。「建学の精神」を胸に刻み、創価大学で学ぶ意義に思索を深めていただきたいと念願しております。

最後になりますが、昨年の夏期スクーリングに際して、創立者・池田大作先生は、「打ち続く試練にいや増して燃え上がる“学光スピリット”」「無限の使命と可能性を抱いた“学光王者”」と、われら通教生に大いなる期待と励ましを寄せてくださいました。
暑さ厳しき折、体調管理に留意しながら、皆さんのお一人お一人の人生においてかけがえのない貴重な学びの機会になりますように祈念し、一言ご挨拶に代えさせていただきます。

学修支援推進室コーナー

レポート作成講義【入門タイプ】を担当して

通信教育部 准教授 清水 強志

6月に入りました。新入生の方に限らず、2年生以上の方におかれましても、順調にレポートの作成は進んでいますか?
通教での学びにおいて、「レポート」は非常に重要な位置を占めています。もし、レポートの書き方について悩んでいる方がおられましたら、ぜひ、「レポート作成講義」を活用して下さい。

昨年度からは、「レポート作成講義」のすべてのタイプ(入門タイプ、Aタイプ、Bタイプ、Cタイプ)がオンラインで配信されていますので、場所や時間を気にすることなく、ポータルサイトからいつでも視聴できます。他方、対面での実施に関しては、昨年度は、新型コロナウィルスの感染拡大の影響で、残念ながら、ほとんどの「レポート作成講義」はオンラインでの実施になりましたが、今年度は、現状、対面で実施されています{入門タイプ(4月~6月)}。今後、7月にはAタイプ、夏期スクーリングの時には第1期から第3期までの各期において4タイプすべてが実施される予定です。オンライン配信と対面実施では、それぞれにおいてメリット・デメリットがありますので、対面での実施に参加できそうな方は、ぜひ、参加をご検討してみてください。
なお、各タイプを難易度順と勘違いされている方がいますが、まったく違います。簡潔に述べれば、各タイプには重なる部分もありますが、主に、以下について学びます。どのタイプから参加(視聴)してもまったく問題ありませんので、自分が苦手と感じるところから学んで下さい。

【Aタイプ】 レポート課題を的確に把握する方法およびテキストを正確に読む方法
【Bタイプ】 論理的に書くための技法
【Cタイプ】 推敲の仕方

【入門タイプ】の説明がなかったことにお気づきでしょうか? 【入門タイプ】は、レポート作成の全体像を俯瞰した上で、A~Cタイプの内容のうち、最低限知っておいて欲しい大事なところに限定し、かつ、(時間の都合)簡潔に説明します。つまり、【入門タイプ】のねらいは、レポート作成の全体像を俯瞰することを第一としています。そこで、私の講義【入門タイプ】では、(1)レポートとは何か、(2)レポート学習の進め方(全体像)、(3)レポート作成時の心得について、丁寧に話をします。

まず、(1)「レポートとは何か」では、レポートとは、与えられたレポート課題について、(「課題解説」の内容をふまえて)自分がしっかりと学んだことを教員に伝えるための「学習成果報告書」であり、また、レポートを書く目的は、「自分の読み、考え、書く力」を卒業までに飛躍的に向上させることにあることを強調します。下線を引きましたが、最初に「課題解説」を熟読することが肝要です!
ところで、皆さんは1通のレポート作成にどのくらいの時間をかけていますか(かける予定ですか)?また、もし、1通のレポートを短時間で作成し続けた結果、卒業時に、自分の読む力、考える力、書く力が飛躍的に向上していそうですか?そこで、(2) 「レポート学習の進め方(全体像)」では、1日3時間の勉強で10日間(計30時間)かけて書くことを「目安」として提示します(図1)。

その上で、 (3)「レポート作成時の心得」では、レポートを書く際に「不正をしてはいけない」ということを強調します。具体的には、他人のレポートを参照して丸写ししたり、教科書や(インターネット等を含めた)参考文献から丸写ししたり、断片的に抜き書きしたりすることは許されません。なぜなら、自分で考えて書いていないので、「読む・考える・書くスキル」の向上が達成されないからです。また、重要なことは、「剽窃」という犯罪行為になってしまうからです。そこで、犯罪者にならないための「引用・参考文献のルール」を知らなければなりません。詳しくは【Cタイプ】をご活用するか、あるいは、ポータルサイト内の「デジタル副教材」『学光2-3月号[2021年度版]』の拙著「自立学習入門講座59-推敲と引用のスキル-」(pp.10-14)をご参照ください。
なお、このことに関連して、ぜひ、通教生の皆さんに知っておいて欲しいことが2つあります。第一に、提出したレポートは、過去にポータルサイトに提出されたすべてのレポートと照合されて「一致率」が表示されるということです。第二に、教員は、「AIによる類似文検索ソフト」によって、ホームページなどの文章と照合できるということです。

通教での学びの基本は、レポートの作成(読み、考え、書く)です。時間をかけて丁寧に書き進めて下さい。

自立学習入門講座60

レポート課題の適切な理解と良いレポート作成のために

通信教育部 准教授 加納 直幸

1.レポート課題の適切な理解のために

レポート課題を的確に理解し、良いレポート作成するためのポイントについて解説したいと思います。第一に、『レポート課題解説』を読み、出題者の求めている課題の意味を正確に把握することです。また、同時に注意すべき点は、レポート課題が報告型レポートを求めているのか、それとも論証型レポートを求めているのかを把握することです。第二に、「チェックシート」の作成のためのポイントと効果的な活用法について説明します。最後に、「問いかけ」をしながらテキスト(教科書)を読み込んで、重要な情報を探り当てるスキルについて解説したいと思います。

まず『レポート課題解説』をしっかり読んで把握し、そこからヒントを得てレポート作成に反映させることが大事です。提出されるレポートの中には、『レポート課題解説』に全く目を通さずに書かれたものではないかと思われるものが少なからず存在します。そこには課題の出題者が、レポート作成に最も重要な情報を提供しており、何が書かれていなくてはならないかとプレビューいう“ゴール”が示されています。この“ゴール”も複数の場合もあり得るということを忘れないように。だから、例えば「川を渡るための方法」を書きなさいと要求されているのに、「山を登るための方法」を書いてしまっていては、正に頓珍漢なレポートになってしまうということが発生してしまうのです。

それでは『レポート課題解説』には何が書かれていて、何ゆえにその課題解説が重要なのでしょうか。大体3つに要約できるでしょう。それは、➀当該科目の中でのレポート課題の位置の確定、➁「キーワード」や関連する概念の意味を正確に理解すること、そして③どのように考察していけばよいのか、考察の種類・タイプについての見通しを付けることです。

➀の「当該科目の中での位置」についてですが、どんな課題も、その科目の中で重要な位置(あるいは意義)を有しています。4単位科目であれば、4つのレポートを提出しなくてはなりません。4つのレポート課題の一つ一つが当該科目を理解習得するための最も重要な要素であります。見方を変えれば、4つのレポートで合格することこそが、当該科目の最終評価(つまり試験)を受ける資格を得るということにもなるのです。つまり、最終試験を受験してから4つのレポート評価で合格すれば成績も付きますが、順番としては4つのレポート課題を合格して試験に臨むということが筋道です。さらにいえば、良いレポートを書くということが、当該科目を深く理解し、良い評価を受けるということになるのです。

➁については、「キーワード」を発見して理解することこそがレポート作成の胆(きも)であるということです。大学教育において、多くの学生さんにとって、日常生活では使われないような初めて見る単語や言葉が多く使われているかと思います。とくに専門用語に至っては、推測することも困難な用語が出てきたりします。そこで、今までの自身の知識や経験では対応できない専門用語などに対応し理解し、レポート作成につなげていくためには、当然、専門の辞書や資料等が必要になります。また、インターネット上の、様々な辞書機能を使うことも良いでしょう。
さらにその意味を深く理解するためには、その概念を理解しなくてはなりません。例えば経済学の中の消費者行動の説明文には「効用」という言葉が出てきます。経済学辞典で調べてみると、「満足の度合い」という説明が書いてあります。そうすると多くの学習者は、「満足に“度合い”なんてあるのか?」とか「“リンゴ1個とミカン4個が入った果物籠”と“リンゴ2個とミカン2個が入った果物籠”の満足の度合いが同じといえるのか?」などと考えてしまいます。この場合の前提として、リンゴ1個の値段を200円、ミカン1個の値段を100円とすれば、この2種類の籠の値段は同じとなるのです。値段が同じということは、2つの籠のいずれかを買っても、その「効用」(満足の度合い)は同じと、一応、見なすのです。もちろん、リンゴが大嫌いな人や、ミカンが大嫌いな人の場合は、この効用の理論は当てはまらないかもしれません。
しかし、この学問上あるいは一般論としての「効用の意味や概念」を理解することが経済学の基本原理を理解するということに繋がるのです。この「効用」というキーワードの概念を理解し受け入れることができなければ、経済学の学習はいつまでも始まりません。このように当該科目の深い理解のためには、キーワードの意味と概念の理解なくしてあり得ないということになるのです。だからこそ、単位を取得しようとする各科目について、新聞の関連記事や関連書籍などを読み込んでいく習慣をつけることが大事です。そのためにも、インターネット利用は大いに助けになるでしょう。

そして③の「どのように考察するか。考察の種類とタイプ」について考えてみます。ここで大事なことは、レポート課題が、内容の要約、定義・分類、詳細な説明、歴史的比較、地理的比較などを求める「報告型」のレポートを求めているのか、それとも、論拠(または根拠)とデータに基づいて執筆者の主張(結論)を導き出す「論証型」のレポートを求めているのかを認識すること大事です。そのうえで、考察の種類とおおよその見通しを付けていくということが大事です。その見極め方法として、課題の“最後の文の終わり方”に注目して考えてみましょう。

(A)報告型(論証の前段階)

   (a-1)「・・・ということを説明せよ。」の場合は、
⇒テーマを理解したことを明示して説明します。この場合、与えられた命題、課題などを証明したり立証する必要はありません。
(a-2)「・・・ということについて述べなさい。」の場合は、
⇒自分の主観を入れて書いてもよいし、入れないように書いても結構です。自由度が広く、取り組みやすい要求といえます。ただし、文中の図表、データや出所については正確さが求められる場合があります。

(B)論証型
「・・・を論じなさい」の場合は、
⇒そのテーマや課題を理解した上で明確な根拠や理由をあげて推論し、執筆者の主張や結論を示しながら、自身の意見や主張を示すことです。大学レベルでも最高難度のレポート課題の例です。

(C)その他の注意点
⇒報告型、論証型にかかわらず、レポートに自分の体験や感想、情緒を書いてはいけません。また、パソコン上でのレポート作成が普通のこととなっていますが、くれぐれもコピーペースト(文章の切り貼り)の多用に注意することが大事です。引用するなら、引用先の情報(著書名、著者名、発行者、発行年度等)をしっかり明示することを忘れないようにすることです。

2.チェックシート作成のための一連の手順

次に、上述した「1.レポート課題の適切な理解のため」を踏まえて、良いレポートを作成するために有効な「チェックシート」を作成する具体的な手順を考えてみます。第一に、何より大事なことは徹底的に熟読をするということです。教科書は、一回読んだだけで理解できるものではありません。理解できるまで何度も読み返すことは当然だという意識を持つことです。教科書を読む際に、色鉛筆や消せるボールペンでマークしながら読み進んでいく習慣を身に着けると、後のポイントの書き出しに有効です。
第二に、ポイント(大事な点)は何かということを書き出してみることです。書き出し方は、箇条書きでも、思うままに書き出しても結構です。とにかくポイントを書き出したら、以下の様にチェックシートを作成して、レポート作成に進んでみることです。

◈「チェックシート」作成の方法◈

①「課題の問い」は何なのかを明確にする。⇒1枚の紙から始めてみましょう!
②そのためのキーワードやポイントを探し出す。
③キーワードの意味や関連する概念を探り当て明確にする。
④課題に対する解答を教科書や関連資料などから探り当てる。
⑤レポートの作成開始⇒5W1Hを確認し、書く事実が、一般的なものなのか、個人的な体験なのか、特殊な事実なのかを踏まえる。
⑥どのようなタイプの考察を求めた課題なのかを探る。
⇒定義や分類、例示、詳細な説明、歴史的あるいは地理的な比較、批判、演繹的推論、帰納的推論などを求めているか推察する。そのうえで、前述したような(A)の報告型のレポートが求められているのか、それとも(B)の論証型なのかを把握する。
⑦課題の対象となる教科書の範囲はどこからどこまでかを探る。
⑧教科書の対象範囲内で示された参考文献についての情報のチェック。
⇒利用可能な文献情報をリストアップする。

まとめ

 ここまで履修科目の単位取得に必須のレポート作成について説明してきました。再度、確認したいことは、単にレポートを作成して科目試験に合格し、単位を取得して大学卒業の称号を得るということだけが目的ではないということです。
大学で学ぶということは、真理の探究であり、自身の可能性の発見であり、学問を通じて視野と教養を広げ、結果として自身の未来をより良きものにするためです。さらに、学び続けることによって自他ともの幸福を実現できる自分自身になることだと思います。そのためのレポート作成であり、試験の合格であり、単位取得であり、大学卒業です。
レポート作成は、まさに通信教育の第一歩の作業とも言えます。だからこそ、面倒だと思うことがあっても頑張って頂きたいです。

4.演習

以下の説明や行為が正しければ〇、間違っていれば×をつけなさい。

問1教科書の理解できる範囲と、新聞やネット情報などの参考資料を組み合わせて書くと、効率的に良いレポートを作成できる。

問2統計やデータ、または社会の動向等については、自身で最新のものを収集し、レポートに反映させることが大事である。
・・・・・・・・・・・

《解答と解説》

問1正解は×です。教科書は、大きなテーマを基に書かれています。著書名や副題がそれを表しています。序文から各章に続き、あとがきで終わることが通常です。ゆえに、各章の前後の章は、何らかの形で繋がっています。ゆえに関連すると思われる他の章にも目を通す必要があります。

問2正解はです。とくに現在の社会や国々を研究対象にしている経済学や社会学などにおいては当然のことです。教科書に最新の統計やデータが書いていないことは普通のことでもあります。

(参考文献)
『自立学習入門』新訂第2版、吉川成司・平井康章編著、創価大学通信教育部、2019年4月1日、
『自立学習入門』第3版、平井康章編著、創価大学通信教育部、2022年3月1日

教職指導講座

教育への道

教職キャリアセンター講師 杉本 信代

すぎもと  のぶよ
教職キャリアセンター指導講師
[ 職  歴 ] 東京都小学校校長
[専門分野] 国語科
[担当科目] 教職概論、教職実践演習

新年度を迎え、いよいよ夏の教員採用試験が迫ってまいりました。皆さん、どのようにお過ごしですか?試験まであと何日?と、少し焦り気味の日々を送っておられるのではないでしょうか。
さあ、落ち着いて、教師になった時の自分を想像してみましょう。

① 子供の前に立って、何を語りたいですか?
② どんなことを大切にしながら、学校生活を過ごしますか?
③ 子供たちを楽しい気分にさせるために、どんなことをしますか?

私は、小学校の担任時代、「その日の日直(男女二人)が決めた遊びをクラスのみんなで遊ぶ」というルールを作り、休み時間はいつも子供たちと一緒に遊んでいました。どの子も、自分が日直になる日を楽しみにしていました。毎日がドラマチックで、毎日がヒヤヒヤドキドキ、本当にかけがえのない時間でした。皆さんにも、ぜひそんな気持ちを味わってもらいたいです。

それでは、自分が受ける自治体の教員採用試験の内容のポイントとスケジュールを確認してみましょう。

●「願書」提出(3月~6月頃)
  • その自治体を志望した理由
  • 教師を目指す理由
  • 目指す教師像
  • 自己アピール
  • 自分が取り組んできたこと
  • 教師になって活かしたいこと等々

「願書」または「面接票」は、必ず、人に見てもらいアドバイスを受けましょう。詳しく書くことが良いわけではありません。実は、ここから試験はスタートしています。

【Point】 願書は、面接の時に自分が答えやすいことを選んで、分かりやすく丁寧に書きます。

●1次試験(6月末~7月)
  • 教職教養
  • 一般教養
  • 専門教養
  • 論作文(自治体によって、2次試験の時に行う場合もある)

受験する自治体の過去問を解きながら、分析することが重要です。自分の強み・弱みを知りましょう。

【Point】分からないところは、参考書で確認して、全領域をくまなく何回も繰り返す事で知識は身に付きます。

論作文のポイント

  • 短時間で出された問題文の分析ができるようにする。
  • 問題に正対して、文章構成(序論・本論・結論)をする。
  • 説得力のある文章にする。(教育実習での経験、実社会での経験を活かす)
2次・3次試験(8月~9月)
  • 集団討論、集団面接
  • 個人面接
  • 模擬授業
  • 実技等

自分の考えをしっかり語れるように、創価大学教職キャリアセンターの「教採対策講座」の集団討論や個人面接の練習に参加しましょう。
チャンスがあれば、教育実習でお世話になった管理職の先生方に指導を仰ぎましょう。

【Point】受験をする仲間を作り、自分たちで主体的に練習をして、励まし合いましょう。

合格発表(10月)
採用決定(1月~2月)
赴任校決定(3月)

合格への道は決して容易ではありません。しかし、採用試験に挑戦する中で、自分自身を見つめることとなり、成長の糧となります。どうぞ、何回でもチャレンジしてほしいと思います。ホームページから教職キャリアセンター相談室の予約をし、指導講師の私達に何でも相談してください。お待ちしております。
最後に創立者の言葉をご紹介します。

大勢の人に尽くす。その人がいちばん偉い。どんな有名人よりも、権力者よりも偉い。
人生の最期に、みんなが「ああ、あの人のおかげで、私は幸せになったんだ。あの人の励ましで、私は立ちあがれたんだ」と、慕って集まってくる。そういう人が、人間としていちばん偉い。そして、いちばん幸福です。

『女性に贈る言葉365日』より

ブック・スクウェア

『ノイズに振り回されない 情報活用力』

通信教育部 教授 劉 継生

私たちの世界は情報で溢れています。これらの情報に、すべて価値があり、そして正確なものであれば、私たちの思考や行動が大いに改善されるでしょう。しかし、これは理想にすぎず、実際の膨大な情報は玉石混交であり、無意味な情報、価値がない情報、誤った情報、悪質な情報なども含まれています。人間が生きていく上で、情報は物質やエネルギーと同じく必要不可欠な基本要素です。情報がなければ私たちの内面世界が形成されず、人生の目標も実現できません。遺伝現象なども踏まえて考えると、情報は人間の生命そのものであり、人間の知識や生き方のすべてであると言えます。

一方、刻々と変化する混沌とした情報の海に流れて、情報過多、情報混迷、自己喪失を感じる人も多くなっています。これは情報に惑わされた状態と言えます。つまり、複雑な情報に対するふるい分けができず、情報との付き合いがうまくできていないということです。実際に、情報を思考と行動、さらには価値創造へと活かすためには、それなりの知識と方法を持ち合わせていることが問われます。もし、そういったものがなければ、情報をどのように集めればよいか、そこから良質な情報をどうやって抽出するのか、情報をいかに組み立てて価値創出を行うか、といった問題は解決できません。
情報活用の知識と方法とは何でしょうか?それを本書はわかりやすく解説しています。ネット上には膨大な情報がありますが、その8割はノイズ(余分で価値がない情報)であり、本当に価値がある情報は2割にすぎません(本書pp.29-32)。だからこそ、情報洪水の中で、何が価値あるものなのかを見極める力は、この社会を生きていく上で必須のスキルであります。本書はこのように考え、「情報洪水の中で、本質を捉え、成果を最大化する」ための情報整理術および情報活用の方法を詳しく説明しています。

情報活用の方法について、本書は「インプット」→「整理」→「アウトプット」といった3つのステップを提案しています(pp.37-41)。インプットとは情報を集めることです。現代人が1日に浴びる情報量は、平安時代に生きた人々の一生分であり、江戸時代の人々の1年分であるため、インプットにおいて真っ先に行うべきことは、ゴールを設定することです。膨大な情報の中で、ゴールがなければ砂漠の中をマラソンするようなものです。ゴールという指針が明確であれば、途中でノイズがいろいろと入ってきても脱線しません。また、ゴールがあってもそれが正しくなければ、情報をたくさん集めたとしても活用しにくいのです。

情報整理とは、集めた情報に対する分析や加工を行うことであり、3つのプロセスから構成されています(pp.99-102)。第1に「情報の準備」です。これは様々な場所に分散している情報を1か所にまとめ、フォーマットも統一しておくことです。第2に「グルーピング」です。これは内容や性質に合わせて情報をグループ分けすることです。出来上がったグループに対して内容の特徴を反映するラベルも付けます。パソコンを利用する場合、ラベルはフォルダ名に該当し、ファイルは一つひとつの情報に該当します。第3に「配置」です。これは情報の関連性や繋がりに基づいて情報を構造化することです。情報を付せんに書き出し、模造紙やホワイトボードに整理し、線で囲むという方法があります。デジタル情報の場合は、付せんをWordやPowerPointに書いて線で囲めば完成です。
また、情報の真偽や正誤をチェックする際に、鳥の目、虫の目、魚の目という視座の切り替えも効果的です(pp.114-119)。「虫の目」によるズームインで、抽象的な情報を身近に観察することができます。鳥の目によるズームアウトで、全体像を俯瞰することができます。魚の目のように泳ぎまわってみることで、全体の流れを把握することができます。
アウトプットは成果を仕上げることです(pp.140-143)。その際に、余計なものをそぎ落として、シンプルかつ簡潔に表現することがベストです。長い文章は読んでもらうことが重要なのですが、一目見るだけで意味が伝わるようにする必要があります。つまり、読み手の頭の中でイメージが浮かび上がるように表現することです。情報量や文字数を詰め込みすぎるとわかりにくくなり、読み手に負荷をかけてしまいます。
本書の章立てはこのようになります。第1章「ほとんどの情報はノイズである」、第2章「少ない労力でインプットする秘訣」、第3章「使える情報を選別する極意」、第4章「最少の情報で最大限アウトプットする方法」、第5章「ノイズから逃げる技術」。このような内容が、私たちのレポート作成にも役立つのではないかと考えられます。
レポート作成は、たくさんの情報を収集して、その情報に対する理解と分析を行い、成果をまとめ上げる過程です。これは、既存の情報を活用して新しい価値を創りだすことでもあります。本書が取り上げているインプット→整理→アウトプットのスキルは、レポート作成にも応用できるでしょう。

鈴木進介 著
『ノイズに振り回されない情報活用力』
ISBN:9784756921871
2022年、明日香出版社 216ページ 本体1500円+税

学光ひろば

宮崎県光友会総会を開催

5月15日、宮崎県光友会総会が盛大に開催されました。
宮崎県では、伝統的に毎月1回の勉強会を15年以上継続しています。コロナ禍の困難な状況にあっても続けられました。
本年1月には、通教事務室と連携し、全国に先駆け、オンラインによる学習定例会を実施。以降、毎月行っています。活動のリズムが定着していく中、今回の対面での総会は、3年ぶりに満を持しての開催となりました。

「学生歌」斉唱、柏田寿光友会代表の挨拶に続き、今春卒業された興梠知子さん(法学部)の活動内容が紹介されました。総合病院で看護師長を担う多忙な中で、懸命に学修に挑戦、創立者への誓いを見事果たされた体験に感動の輪が広がりました。
教育現場の最前線に立つ、通教卒業生の安藤孝治さんからは、創立者の教育理念に賛同して教職の道を志したこと、多くの実績と信頼を勝ち得て、現在小学校教頭して活躍されている様子が発表されました。

北條隆久通教事務長から、最近の学内の様子、通教の近況や夏期スクーリングの大綱について説明がありました。
最後に宮川達実指導員は「互いの健闘を称え、光友の陣列を拡大していきましょう!」と呼びかけると、参加者全員が元気いっぱい呼応し、前進の決意漲る総会となりました。

アメリカ光友会 決起大会を開催

5月16日にアメリカ光友会主催の決起大会がオンラインで開催されました。
渡辺京子海外光友会代表から、通教開設の日「5月16日」に決起大会が開催できたとの喜びの呼び掛けに、全米各地から集った参加者が満面の笑みで応えました。

各方面の責任者の紹介に続き、2022年度の新入生として、宮原暁美さん(法学部)、中野真弓さん(教育学部)、原村久美子さん(自由選択)、内田恵里子さん(文学部)、西野文子さん(文学部)より、入学の決意、学修の取り組みや抱負が語られ、皆で温かく入学をお祝いしました。
富田勉さん(文学部)・文代さん(教育学部)ご夫妻、そして倉田恵津子さん(経済学部)の体験発表がありました。どんな困難な状況にあっても「通教の負けじ魂」と「光友の励まし」で乗り越え、勝利の実証を示されている姿に大感動、共感の波動が広がりました。

北條隆久通教事務長から、学内の近況が報告され、3年ぶりに創大キャンパスで夏期スクーリングが開講される旨の説明に、参加者から歓声と拍手が沸き起こりました。
最後に渡辺代表から、海外からのスクーリング参加について詳細な説明がありました。
お互いの情報交換や、交流をすることもでき、「創大でのスクーリングが楽しみです。卒業を目指して頑張ります!」等の声があり、夏期スクーリングに向けての機運が一層高まる集いとなりました。
海外光友会では、イギリスが先駆を切り決起大会を開催しました。アメリカに次ぎ、ドイツ、そしてハワイも単独で開催。さらにカナダ・ラテン地区、オセアニア、アジアでも開催予定です。

Close

学修支援だより【2022年7月号】

Foreword

生涯創価教育の実践者に

文学部長 杉山 由紀男

通信教育部の皆さん、こんにちは。毎日の勉学、仕事、そして生活での様々な取り組み、本当にご苦労様です。この4月から文学部長を拝命しました杉山由紀男です。どうぞ宜しくお願いします。

通信教育部に学ぶ私たちは、創価教育の父牧口常三郎先生が、生活をしながら学習する、学習しながら生活するという理念によって提唱された「半日学校制度」をはじめとする創価教育の実践者であると自負します。
思えば創立者池田大作先生が創価大学を創立されたのは、この牧口先生のご生誕100年にあたる1971年でした。そしてその5年後の1976年、通信教育部は開設されました。ここに、創価教育の実践者が一人また一人と、日本中、世界中に輩出されることを願う創立者の強い強い思いを感じます。
創立者は第3回入学式記念講演「創造的人間たれ」の中で、人類の歴史を俯瞰しながら、文化が興隆していくその淵源に一個の大学があったことを示されています。すなわち、ルネサンスの淵源にボローニャ大学やパリ大学が、東洋の精神文化、特に仏教文化の源流に古代インドのナーランダ仏教大学が、そしてヨーロッパの精神的源流には古代ギリシアのアカデメイアがあったという事実です。
しかし、それらの大学を源流として営々として築き上げられてきた文化、特に現代文明は、今や転換点に立っており、「人類が果たして生き延びることが出来るのかどうかという、重大な問題提起もはらんでおります」と指摘されています。そして、「ネオ・ルネサンスともいうべき人間復興」の文化が必要であることを強く訴えられ、その源流となる大学として創価大学を創立されたことを示されました。これが「建学の精神」の第二「新しき大文化建設の揺籃たれ」の含意であると思います。

三代にわたる師弟によって受け継がれてきた創価教育の理念と実践、そのさらなる実践者たる私たちは、単に社会に出るための準備としての学習ではなく、生活と学習の生涯にわたる結合を目指し、人間復興の大文化の建設を展望しながら、生涯にわたって日々の取り組みにチャレンジしていきたいと思います。戦争や犯罪によって生命の尊厳が脅かされている現今の世界を目の当たりにするにつけ、生涯にわたる創価教育の実践こそが、生命の尊厳と人間主義の文化を築き上げることに必ずやつながることを共に確信し合って前進していきたいと思います。

自立学習入門講座61

論の組み立て:報告型と論証型

通信教育部 講師 黄 國光

レポートは、「報告型」と「論証型」に大きく分けられる。「報告型」は、ある特定の話題に焦点を当てて、参考資料を調べ、整理して解説するものである。それに対して、「論証型」は、あるテーマ(論点)について、必要であれば複数の資料を調べ上げ、自分の意見はどうなのか、判断を下す。データをもとに根拠を示し、自分の意見の正しさ・確からしさを主張するのが、「論証型」である。
たしかに報告型と論証型とでは、論の組み立て方や執筆における作業の優先順位が異なる。論としての基本はおなじであっても、報告型であれば、事実関係の収集と整理に重点が置かれる。論証型であれば、問題を明確に提起することが重要であり、問題提起を中心に現状分析や仮説の設定などを試行錯誤する。したがって、レポートを執筆するときの構成も異なってくる。
ここではまず、レポートの課題をいくつかのパターンに分けてみよう。自分に与えられた課題がどのパターンのものなのかを知ることが大切だ。課題のパターンによって、レポートの目的や構成が決まってくるし、レポート執筆作業の段取りも変わってくる。

報告型の課題

(イ)読んで報告するタイプ
例えば、梅棹忠夫『文明の生態史観』中公文庫の「生態史観から見た日本」を読み、要約しなさい。
(ロ)調べて報告するタイプ
例えば、ポストコロナを見据えた働き方改革の現状と課題について、調べて報告しなさい。

論証型の課題

(ハ)問題が与えられたうえで論じるタイプ
例えば、憲法改正の何が問題なのかについてあなたの考えを自由に展開しなさい。
(ニ)問題を自分で立てて論じるタイプ
例えば、国連改革・安保理改革にかかわるテーマについて自由に論じなさい。

この中で最も大変なのは、もちろん(ニ)だ。つまり問いを自分で立てて論じる論証型の課題である。でも、どんなレポートを書くにしても、自分の主張の論拠には、いろいろな資料や統計を調べたり、先行研究や批判しようとする相手の主張をまとめたりする作業が不可欠である。
このように論の組み立てを検討するうえでは、報告型と論証型の二分類が基本である。ただし、実際にレポートを執筆するときには、これらのタイプのどれか一つで決着がつくわけではない。ここに示したタイプは、あくまでも基本型として覚えておくべき型である。
以下、ここの基本型を示してみよう。

報告型

大学の教養課程で書かされるタイプのレポートでは、文献調査報告型が多い。これは要するに、何らかの事項を文献的に調べてまとめるタイプである。とはいっても、ただ単純に調べて出させる場合は少ない。それだと、それこそインターネットのコピペで済んでしまうからである。
文献調査報告型には、次の論証型に近いものも多いかもしれない。自分の考えを求められることもよくある。そのような場合は、ある程度調べたうえで、自分の意見を加えなければならない。ただ自分の感想を書くのではいけない。テーマに関する代表的な議論を踏まえて、それを分析・評価する形で自分の意見を述べなければならない。
そこで、報告対象となる調査(あるいは考察)の問題設定は当然必要なので、それを含めて次の4パートが基本となる。

<文献調査報告型の項目>

1.調査テーマの概要①テーマの概要②テーマの歴史・語源③テーマの基本概念
2.テーマの構造説明①テーマの構造②テーマの構成要素説明③主要議論紹介
3.調査テーマの考察①主要議論の分析評価②テーマに対する自分の考え③分析結果の総括
4.調査文献一覧

これは論の基本「序・本・結」の3部構成の変形である。1.の調査概要が現状分析と問題提起である。調査の目的が問題提起にほぼ相当する内容だ。2.の構造説明は主張に対応し、3.の考察は総括そのものである。論を形成する以上、内容的な展開は論の基本3部構成と一致するのは当然だ。
さらに、報告型レポートを記述するときに最も留意する点は“FAO” とよばれる3要素の区別である。このタイプのレポートでは、自分が調べた事柄、調査結果をもとに分析した事柄、考察した結果たどりついた意見などを記述する。なにが事実でなにが意見なのかを区別しておかないと、報告内容が正確には伝わらない。逆に、この区別を意図的にあいまいにした表現が、一般には「詭弁」と呼ばれるレトリックの代表例だ。論証型でも同様だが、正確に記述するためにはFAO の区別は不可欠である。FAO とはすなわち次の3要素である。

“F” 要素 :客観的な事実(Fact)
“A” 要素 :事実にもとづいた分析(Analysis)
“O” 要素 :自分自身の意見や感想(Opinion)

市販のレポートを書くノーハウ本では「事実と意見」の区別を明確にするようにと教えている。事実とは、客観的に真偽が判断できる内容を指す。意見とは、客観的に真偽が判断できない内容を指す。すなわち、意見は主観的なものだ。意見に客観性を持たせるためには、「事実」を根拠として論理的に述べる必要がある。また、他人の意見は出典を明記し、自分の意見と区別するようにする。出典がなければ、誰の意見かが分からなくなる。そして論の組み立てにおいては、根拠のない一方的な意見表明を排除するのが当然の態度であるから、意見=理論にもとづいた合理的な結論、すなわち分析結果と見なすことができる。つまり、FAO のうちのA とO を一つの要素として取り扱うのだ。
FAO の区別を理解するために、ひとつの例をあげて説明してみよう。

「現在、地球には200以上の国家が存在する。それぞれの国家で異なった文化や宗教が存在すると考えられる。文化や宗教には優劣がなく、全てを同一の物差しで推し量ることは不可能である。」

一文ずつ事実か意見かを検討していく。
・現在、地球には200以上の国家が存在する。
→ 事実であり、断定表現なので適切
・それぞれの国家で異なった文化や宗教が存在すると考えられる。
→ 事実であるが、断定表現になっていないので不適切
・文化や宗教には優劣がなく、全てを同一の物差しで推し量ることは不可能である。
 意見であるが、断定表現になっているので不適切
よって、以下のように校正する必要がある。

「現在、地球には200以上の国家が存在する。そして、それぞれの国家で異なった文化や宗教が存在する。本稿では、文化や宗教には優劣がなく、全てを同一の物差しで推し量ることは不可能だと考える。

FAO は文体によって区別をつける。通常、文末は次のように表現する。
“F” の文 「だ・である」調で言い切る。
“A” の文 「……と考えられる」のように受動態表現を基本とする。
“O” の文 「……と(私は)考える」のよう意見の主体を明示し能動態で表現する。
事実は推測の余地が存在しないのだから、「だ・である」で言い切る。「……であろう」「……のようだ」といった推測を示唆する表現は不自然だ。不確定の部分が存在するときは、断定できないという事実を明確に表現すべきである。
分析をあらわす文では「……と考えられる」と受動態で表現する。「……と考える」と記述した場合、「考える」主体は執筆者自身だ。このような文は書いた人の主観を示したと解釈できてしまう。分析である以上は、誰が考えてもおなじ結論になるはずなので、このような解釈はさけなければならない。「……と考えられる」という表現は、「誰もが……と考える」の受け身のかたちでもあるが、日本語の論述では「誰もが……と考える」という表現を客観的分析の文にはあまり使わない。ゆえに、主体を省略可能な受け身の表現によって客観性を示唆するのである。
意見の提示では、「(主体)は……と考える/ 推測する/ 提案する」のように、主体を明示し行動を能動態で示す。意見では、誰が主張するのかも重要なメッセージとなるので、主張の主体を明示しなければならない。そして主体=主語に対応する結びの語で文を終える。
実際、読み手がFAOを意識すれば、それが事実なのか意見なのかを区別するのは可能だ。正確さが最優先される論文・レポートでは、FAO の区別は厳密におこなわれなければならない。意見であれば、かならず主体を明記するのが鉄則である。

論証型

なにかを論じるときの基本は、設定した問題に論証を加えて結論に導くことである。これは論文であろうとレポートであろうとおなじだ。章立てによって細かな構成に違いが出てくることはある。しかし、その基本線にかわりはない。問題設定の明確さ、検証の的確さが論の構成には不可欠だ。
どのようなテーマであれ、論の内容は次の4つのパートで構成される。

1.現状分析 :問題をとりまく背景と現状
2.問題提起 :設定された問題の詳細
3.主張 :証明すべき主張(仮説)とその根拠
4.総括 :論の総括と意見

1.の現状分析と2.の問題提起パートによって論ずるべき問題を明確に設定する。問題提起とはすなわち、テーマに関して書き手が注目する問題点を示すことにほかならない。しかし、なにが問題であるのかを示すには、現状の批判的な分析が不可欠である。ここでは最低限、次のことをやっておかなくてはならない。★で示しているのは必須項目だ。

★ 問題の提示、つまりどういう問題に取り組むのか。
★ 問題の説明、その問題がどういうものであるのか、もう少し詳しく説明する。問題に含まれる用語や概念を解説することも含まれる。

・ 問題の背景、どうしてその問題が生じてきたか、その現状分析。いつからその問題があるのか。自分が見つけた問題なら、どうしてそのことが問題だと気付いたのか。
・ 問題の重要性、その問いに取り組むことにどんな意義があるのか。
・ 問題の分析、つまり、問題が大きなときはいくつの問いに分ける。

3.の主張パートでは、提起された問題に対する書き手の主張を論証する。主張とは、自分の意見や持論を他に認めさせようとして、強く言い張ることである。ただ、レポートの場合は、主張にはきちんとした根拠がなくてはならない。自分の主張とは、自分の中にある明確な問題意識が前提にあってできるものなのだ。そのため、レポートにおける主張とは、先行研究の熟読の中から出てくるべきものなのである。単に自分はここが問題だと感じていてこうすれば解決すると主張するだけでは意味がないのだ。
ここでは、次のようなことをする。★で示しているのは必須項目である。

★ 問いに対する自分の答えを論拠を挙げて論証する。

・ 論拠に何らかの調査結果を用いたら、その調査の方法、調査の結果として得られたデータ、データの分析方法、分析結果の解釈などを説明する。
・ 論拠に他の人の研究結果や論文を使ったなら、引用、その人の見解の要約、その人の見解の妥当性の検討、さらにその検討のための論拠などを示す。
・ 自分の見解とほかの人の見解との比較をする。
・ これまでの研究の流れの中に自分の主張を位置付ける。

ここでいう要約は文章を一様に短くすることではない。むしろ、文章を「問い+答え+論拠」の形で再構成すると言ったほうがいい。特に読んで報告する報告型の課題に取り組むとき、①筆者はどういう問題を立てているのか、②筆者はそれにどう答えているか、③筆者は自分の答えのためにどのような論証をしているのか、の三点だけをおさえて報告すればよい。
4.の総括パートでは、それまでの総括として現状と問題をまとめ、自分の主張を再確認する。この部分では、あたらしい事実や分析を加える必要はない。主張の裏付けは、前のパートで終わらせておくのが基本だ。結論部分で述べることは、主張の意義、場合によっては自分の主張だけでは解決しきれない課題、今後取り組むべき事柄などである。総括パートの最大の役割は、主張の意義や位置づけを明確に評価することだ。

ここまでは報告型と論証型の基本型について説明した。いずれにせよ、レポートの基本構成は序論・本論・結論である。実際の章立てはテーマによっても書き手の方針によっても異なってくるが、大枠はこの3部構成が基本だ。この構成はレポート一般に適用される書式なのである。両パターンの論の基本4パートとの対応は次のとおりだ。

序論:現状分析・問題提起、主張の概略
本論:テーマの構造説明、主張の詳細、理由・根拠、例証、論証
結論:総括
引用・参考文献一覧

また、レポートは、原則としては、パラグラフ構造で書く。ここで、『自立学習入門』第6章「レポートをいかに書くか」で学んだレポートの論理構成を思い出してみよう。レポートの本文は、序論にレポート全体の概略が示され、書き手がこのレポートで主張したいことが示されるのだ。つまり、この部分はレポート全体の導入パラグラフである。そして、本論では序論で書いた自分の主張の根拠を示す。簡単にいうと「序論部分で自分の主張を書いたんだから、その主張を読み手の教員を納得させる根拠を本論部分に書いて!」である。形式上は5~8のパラグラフで構成する。そして、結論は、結論パラグラフだ。序論で述べた主張が、ここでもう一度整理した形で示す。

(参考文献)
江下雅之研究室(2009)「パラグラフ・ライティング」、www.eshita-labo.org/seminar/(2022/5/1閲覧)
戸田山和久(2013)『新版 論文の教室―レポートから卒論まで』NHK出版

学修支援推進室コーナー 1

レポート作成講義の実施について

7月度レポート作成講義
開催日時

2022年7月17日(日)15:20~16:50

※ 科目試験終了後に、同じ会場で実施します。科目試験が終了するまでは入室できません。
※ 16時10分を経過して参加者がいない場合、「閉講」といたします。
※ 事前申込みが「0名」の場合は開講しません。不開講の場合は、7月15日(金)に「学光ポータル」のメニュー「学習サポート > レポート作成講義」でお知らせします。

開催都市

科目試験終了後に、以下の各都市の同会場で実施いたします。開催会場については、こちらをご参照ください。

講義内容

7月はAタイプです。Aタイプの内容については、こちらを参照してください。

申込期間

2022年7月1日(金)~7月10日(日)まで

申込方法の詳細は、【申込方法】でご案内します。

夏期スクーリング時のレポート作成講義

夏期スクーリング時のレポート作成講義チラシはこちら

開催日時
日時・会場 タイプ 申込期間
第1期 8月7日(日) 各日とも
18:30~20:00
@中央教育棟
入門・A・B・C 7月20日(水)~8月3日(水)
第2期 8月12日(金) 入門・A・B・C 7月20日(水)~8月8日(月)
第3期 8月17日(水) 入門・A・B・C 7月20日(水)~8月13日(土)
レポート作成講義の講義タイプ

4種類のタイプ別の内容については、こちらを参照してください。

申込方法

「学光ポータル」内の「レポート作成講義」の案内をご確認ください。(手順①→②→③)

参加者の声

レポート作成講義の参加者の声を紹介します。

・レポート作成の要点を理解することができた。
・今まで、映像を視聴していたが、講義を受講することで、モチベーションがあがった。
・具体例や、参考資料を踏まえての説明は、とても分かりやすかった。
・講義終了後に質問ができて、疑問点が解消できた。
・詳しい説明の中にも、わかりやすい具体例やユーモアを交えた講義に感動した。教えていただいた技法を自分のものにしていき、一歩一歩前進していきたい。

2019年以前の講義の様子①
2019年以前の講義の様子②
対面参加者には、「講義資料」が配布されます

学修支援推進室コーナー 2

オフィスアワーの実施について

夏期スクーリング期間中に、各教員に学習上の質問や相談を行うことができる時間・場所を、授業とは別に設けます。各授業の担当教員等が担当します。
※一部、実施しない担当教員がおりますのでご了承ください。

昨年参加した学生からは「授業で疑問に思っていたことを解決でき、その後のグループワークも順調に進んで、スッキリした気持ちで授業を終えることができました」「拙い質問かと思い、聞くことをためらっていましたが、思い切って質問できてよかったです」など、好評をいただいています。

事前の予約などは不要ですので、普段の学修の中で疑問に思っていることなど、お気軽にお尋ねください。会場・実施日時等の詳細は、夏期スクーリング各期ガイダンスで配布します。

Close

学修支援だより【2022年8月号】

教職指導講座

「原点」

教職キャリアセンター指導講師 栗本 賢一

くりもと けんいち
教職キャリアセンター指導講師
[ 職  歴 ] 埼玉県小学校校長、中学校教諭(国語科)、ハンブルク日本人学校、市教育委員会指導主事
[専門分野] 国語科、道徳教育、国際理解教育
[担当科目] 教職概論、教職実践演習

中央教育棟から創大門へ続く道(創大シルクロード)を下っていくと、左側に「創価教育の道」があります。道の中心部に「創価教育万代の碑」が設置されていて、その奥に春に爛漫の桜花を咲かせる「牧口桜・戸田桜・池田桜」が並んでいます。碑の台座には創立者の「碑文」が刻まれています。その冒頭にこう認められています。
「人は教育によりて人となる 人は教育によりて幸福を開く人は教育によりて平和を創る故に人間教育は最極の聖業にして万代を照らしゆく不滅の光なり」
この「碑文」を拝するたびに胸が熱くなります。ここは私にとって「原点」の地。時折碑の前に立って、創立者への誓いを新たにしながら日々の教育実践をふり返っています。今回は、みなさんと「創価教育の道」を一緒に散策しながら語り合うような気持ちでこの原稿を書きたいと思います。

いよいよ全国各地で教員採用試験(以下「教採」)が始まります(原稿執筆時点)。受験するみなさんは今、どのような気持ちでしょうか。きっと、不安や焦り、緊張感でいっぱいのことと思います。仕事や家事、育児との両立、三立で時間がない中、必死に頑張っている方も多いでしょう。本当に頭が下がります。授業で、個人面談や対策講座等で一緒に学んだみなさんの顔が浮かんできます。そんなみなさんのために、私たち教職キャリアセンター指導講師一同、全力を挙げて応援する決意でいっぱいです。
専門科目、教職・一般教養、小論文、個人・集団面接、場面指導、模擬授業、集団討論などどれもとても大切です。それぞれにポイントがあり、そこを押さえた対策は欠かせません。また、一次・二次(あるいは三次)と、受験地によって試験内容もさまざまで、どこに力を入れるかどのような計画で準備を進めるかなど、見通しを持つのも大事。ぜひともたくさんの知識を吸収して、専門性を高め、人間性を磨き、合格を勝ち取っていただきたいです。

さて、ふと立ち止まって考えてみたいことがあります。それは、今、なんのために学んでいるのか、という一点です。「教採合格のため」、もちろんその通りですが、果たしてそれが真の目的でしょうか。なんのために教師を目指したのか、ここで一度それぞれの原点に返ってみたいと思います。私の体験を紹介します。
私は5期生として創価大学に学び、中学校と高校の社会科免許状を取得しました。大学4年時に受験した埼玉県中学校社会科教採は不合格。卒業後、玉川大学通信教育課程に編入し、小学校教員を目指して勉強が始まりました。同時に、県内の小学校で臨時的任用教員として勤めることになりました。
4月、喜びいっぱいのスタート。かわいい子供たちとの出会い。入学式・始業式が終わった時、健康診断を受けてくるようにとのことで早速受診しました。翌日の昼休みに校長室に呼ばれました。そして言われたのが「君は採用できない」。えっ、なぜ?狐につままれたようでした。理由は「弱度の色覚異常(色弱)があるから」とのこと。「君は教員になれないよ。どうする?」とも言われました。当時、色弱の人は小学校教員にはなれなかったのです。それでも玉川大学通教での勉強は続け、その夏、思い切って小学校教採を受験しました。一次二次と進みました。しかし、最終結果は不合格でした。最後の健康診断で「色弱」が理由で不合格となったのです。
生活するためには何か仕事をしないとと、ある大手スーパーに勤めることになりました。店長から「あんたは元気がいいなあ」ということで、店の入り口の青果部門に配属されました。そうして働きながら、今度は中学校社会科の教採を受験しようとしたところ、やはり社会科でも「色弱」は採用しないとのことがわかりました。その時“人生どん詰まった”と感じました。
毎日法被を着てスーパーの店頭に立って、「いらっしゃいませ!」と元気にお客様をお迎えしましたが、心は全然ハッピーではありませんでした。
創立者に「教育の道でお役に立ちます!」と誓って創大を卒業した自分です。断じて誓いを破るわけにはいかない、との強い思いがありました。そこで、信頼できる方に相談したところ、色弱でも採用される教科があるのではないかとのアドバイスを受けて早速調べてみました。すると、確かに該当する教科がいくつかあったのです。その中から選んだのが「国語科」でした。卒業2年目、中学校の臨時採用教員をしながら東洋大学通信教育部に編入、中学校国語科教員免許状取得を目指して教採を受験し、合格することができました。こうして中学校国語科の本採用教員としてスタートしたのです。
あの苦闘時代、先の見えない不安の中で強く思ったことがあります。それは、「今、なぜ自分はこれほどさまよっているのか、何か意味があるはずだ。そうか、今の苦労は自分を磨き鍛えるための試練に違いない。とすると教採を突破することが目的ではない。それはあくまで目標だ。目的は本物の人間教育者となって、創立者の『最後の事業』である教育の道でお応えすることだ!絶対に不可能を可能にしてみせる!」ということでした。
その決意に立った時、仕事も通教の勉強も教採対策も、眼前の困難や課題に深い意味を感じました。創立者への誓いを果たすとの原点が、不撓不屈の力を漲らせ自身の生命を熱く燃え上がらせてくれたのです。

  早いものであれから40数年が経ちました。当時をふり返る時、あの経験があったからこそ今の自分があるのだと思います。(後年、小学校校長となってあの時の小学校を訪れる機会がありました。何十年かぶりに校長室に入った時、「私は勝った!」という熱い思いが込み上げてきました。なお、現在の教採に「色覚検査」はありません。)
1984年11月3日、晴天の下、「創価教育の道」の近くにあった当時のグランドで行われた「第十回創友会総会」の席上、創立者はこう御指導くださいました。
「人生はいつも十字路に立たされているようなものです。十字路に立って悩み迷ったときは、この母校で青春時代を飾った『創友魂』を原点として進んでいってほしい。人生の原点を持った人は強い。私の人生の師は戸田先生です。私にとって先生は、人生の原点です。」
私たちの真の目的、それは、創価の人間教育者となって創立者と共に「子どもの幸福を実現する」ことにあります。その使命を果たすために今の労苦があるのは間違いありません。時代は人間教育者を求めています。今こそ、私たちの出番です。
さあ、もう一度、自身の原点に返って、今日も学びに学びましょう!

ブック・スクウェア

『日本語の大疑問 眠れなくなるほど面白い ことばの世界』

通信教育部 講師 開沼 正

編者である国立国語研究所では、日本語のプロたちが集まって様々な角度から日本語を研究している。古い日本語から最新の日本語まで、口語から文語まで、その幅は広い。本書の執筆者は、巻末の「執筆者紹介」欄を見ると37人もいる。実際に、同じ日本語を研究しているとは言っても、アプローチの方法には多様性がある。執筆者一人一人の関心や研究対象が異なるので、研究者ごとに短い節をたてて話の内容を完結させている。テンポよく読めるし、内容的に豊富で読んでいて飽きない。

私は何年か前に研究所のお仕事の一端を手伝わせていただいたことがある。研究分野が違うので専門的なことまでは分からないが、徹底して事例を集めようとする態度は共通だ。苦労も多いと推察する。
ところで創価大学通信教育部の教員は、教職担当の先生を除いて全員が「自立学習入門」という科目を担当している。1年次で入学した学生は必ず履修しなければならない科目である。内容的にはテキストの読み方、資料の探し方、レポートの書き方など、大学で学ぶ上で必要なスキルを身につけるものになっている。
自立学習入門の授業では、しばしば悪い文例などを示しながら、「ここが分かりにくい」とか「こうしたら良くなる」などと講釈を垂れる。学生にしてみれば、教員は完ぺきな日本語能力をもっているのだろうと勘違いしてしまう。しかし教員の専門分野も多種多様である(私の専門は歴史)。レポートの書き方は教えられても、日本語の全てを熟知しているわけではない。いやむしろ知らないことの方が多いだろう(大学では日本語関係の科目もかなり履修したのだが……)。だから学生から質問される「日本語のなぜ?」については答えられないことばかりである。

国立国語研究所編  幻冬舎新書

そうした質問に対しては、「大量の文章を読んだり書いたりするうえで、自然と身についた感覚だから、学生の皆さんも日ごろから本や新聞を読み、それらについて感じたことなどを文章にする習慣をつけてください」としか言えない(あくまでも私の場合)。これはこれで間違っているとは思わない。しかし本書のように具体的な根拠を示して説明されると「そうだったのか!」と納得して、あたかも自分が前々から知っていたことのように人(主に家族)にひけらかしてしまう。
本書で触れる内容は、日本で使われる日本語だけではない。たとえば外国語に取り入れられた日本語も取り上げられている。『オックスフォード英語辞典』(第2版、1989年)には378の日本語が収録されているそうだ(102ページ)。どのような言葉が取り入れられるのかは、時代によって傾向があるという。日本とヨーロッパが出会ったばかりの頃には日本を感じさせるような、ヨーロッパの言語に翻訳しにくい言葉が多かったようだが、次第に衣食住などの生活文化に関する言葉も増えていった。外国語に取り入れられた日本語が、その国の文化の中で独自の使い方をされるようになる事例も面白い。本書では「布団」と「futon」の違いについて取り上げている。
逆を考えてみれば、現在日本語として使われている外来語の中で、本来持っていた意味とはかけはなれた使い方をされている言葉もあるのではないだろうか。思いつく例を挙げてみれば、日本語の「トランプ」と英語の「trump」、あるいは日本語の「カルテ」とドイツ語の「Karte」などは意味する範囲が随分と異なっている。「trump」は「切り札」を意味するのに対して、「トランプ」は「一揃いのトランプのカード」を意味している。「カルテ」は医師による診療記録という狭い意味でしか使われないのに対して、「Karte」は単に「カード」という意味である。
こうした言葉は、探し始めればキリがないように思えるが、ひとつひとつの由来を紐解いていけば、異文化交流のプロセスやその外国語を取り入れた経緯などが垣間見え、歴史を学ぶ人間としての視点から見ても興味深い。このような「寄り道」(と言っては執筆者に失礼だが……)が勉学の内容に深みを与えることは間違いない。
本書は、レポートを書くうえで直接参考になることは少ないかもしれないが、ここではその数少ない参考になりそうな点を紹介しておきたい。例えば外国人と日本語で話すときには、何に注意したらいいかということである。それは「文は短く、はっきり終わらせる」(123ページ)ことだ。これはレポート(ひいては文章全般)を書く場合でも共通だ。
『自立学習入門第3版』のテキスト(第7章推敲をいかに行うか)にも同趣旨の記述がある。言葉はコミュニケーションのツールである。相手(読み手、聞き手)に自分のメッセージを上手に伝えるためには、相手の立場を考慮することが大切である。相手を惹きつける文章や話し方ができれば理想的だが、少なくとも相手を疲れさせないような配慮ができるようになれば、大学に入学した意味もあったと言えるだろう。

国立国語研究所編 
『日本語の大疑問 眠れなくなるほど面白い ことばの世界』
ISBN:9784344986374
2021年、幻冬舎新書 264ページ 本体920円+税

Close

学修支援だより【2022年9月号】

Foreword

「新しい経済」に求められるもの-「慈愛」という価値

経済学部長 高木 功

人の経済活動には、必ず3つの価値の実現が含まれています。「自由」「正義」「慈愛」という価値です。これはアリストテレスの哲学を研究しThe Values of Economics(2001)(『経済学における価値』)を著したアイリーン・スタヴェレンの主張です。ここでいう「価値」は、何かのために役に立つような手段的価値ではなくそのもの自体に価値があり、人間らしく生きるために実現すべき「本来的な価値」を意味します。私たちの日常的な経済活動はこの3つの価値へのコミットメントからなります。
「自由(freedom)」の価値は自己の能力によって実現される「個別的/個人的価値」であり、「市場」における自由な交換によって実現されます。「正義(justice)」は全ての人に等しく保障されなくてならない「公共的価値」です。主に「国家」による資源の再分配機能によって実現されます。「慈愛(benevolence)」はケア(care)、愛、慈善、他者への責務という「人間と人間の間に生まれる価値(interpersonal value)」です。家族や地域コミュニティに見られる相互扶助、贈りもの、贈与による人と人の繋がりによって実現される価値です。
現代は「自由」な市場に過度な価値をおく「自由市場経済」か、国家による資源の配分に正義と平等の実現を見る「社会主義経済」の間で揺れてきました。実はもう一つの価値「慈愛」と「必要」が原動力となっている「ケア経済」の可視化と制度化がなおざりにされてきました。新しい経済に求められるのは、「ケア経済」の活性化と「慈愛」という価値の実現です。他の人々のお世話(care)になって初めて人間として自己の存在が保障されていることに気づけば、他者への感謝と責務が生まれます。他者の幸福を支えることを使命とする「慈愛」という価値の実現と制度化が新しい経済には求められています。

自立学習入門講座 62

精読ノートを作ってみる!?

通信教育部 副部長 高橋 正 教授

通信教育部では、コロナ禍の影響で、この3年ほどで授業や試験が非常に早いスピードでオンライン化されてきた。スクーリング試験や科目試験も今後はWeb試験のみとなる。Web試験のよいところは、試験会場までの移動の必要がないことと教科書やノートなど何を参照しても構わないという点であろう。しかし、このようなWeb試験の持ち込み条件は、試験範囲を非常に広くするという対応を伴うことになった。教科書の数章が試験範囲で、そのページ数は百ページを超える場合が普通である。Web試験は、また、出題の傾向にも変化をもたらしている。これまでは、教科書のある特定の部分が解れば、その箇所の内容を答えれば正解とすることができたが、教科書などを参照できるという条件は、特定の箇所が見つかればそれが正解という問題ではなく、試験範囲の内容を関係づけて、複合的な視点を必要とする、より本質的な問題が出される傾向にある。さらに、解答の仕方も、これまでの手書きではなく、キーボードからの入力となり、日頃から、キーボード入力に慣れておく必要がある。

数章にのぼるテキストの内容を確実に理解して、その内容を関係づけながら考察していくことと同時にキーボード入力に慣れるという勉強方法が必要となる。そこで、このような状況に対応すべく精読ノートをWORDのワープロで作ることをお勧めしたい。
精読の第1歩は、パラグラフや段落の内容の主題文(題目文)を見つけることである。パラグラフについては、『自立学習入門 第3版』の第6章「レポ―トをいかに書くか」に詳しく説明されている。この章では、レポートの書き方としてパラグラフを作ることが重要であると述べているが、これを逆用することで、私たちが文章を読む時にも実は大事であることがわかる。試験やスクーリングに備えて読んでいる文章の著者も、一般的な文章の書き方であるパラグラフを意識して書いているはずだからである。
精読ノートは、パラグラフの主題文とそれを補足する内容を簡潔にまとめたものの集合体になる。各章のパラグラフの主題文の集合体はその章の要点をまとめたものとなり、その文章の著者が伝えたい内容が凝縮されている。
神崎宜武(2017)『「うつわ」を食らう』という本の第1章「ワンは運搬容器で接吻容器」の最初の節「飯椀の手ざわり口ざわり」を例にして精読ノートとはどのようなものか示してみよう。

この文のパラグラフ構成は典型的な日本的構成になっていることが最初の数行を読めばわかる。東京浅草の食器・厨房用品の卸商が軒を並べる一画で、現在の売れ筋のワンを確かめる話から始まっている。この売れ筋を記述する部分では、一文か二文で1つの段落を構成している。この文章の著者は、英米型の重点先行主義ではなく、重要でないことから論じ始める日本人好みの叙述をしている。日本型の文章構成になっているので、これ以降は「パラグラフ」ではなく「段落」と呼ぶことにする。
『自立学習入門第3版』の6-1-10節「叙述の順序が正反対の一対の叙述法」(pp.141-142)のところで、叙述法AとBを示し、Aの叙述法が日本人には好まれると述べている。この叙述法の違いは、レポートの書き方として提示されたものであるが、この叙述法の違いは、読むときにも利用できる。そこの②の叙述法Aは「まずいくつかの事例をあげて、それにもとづいて自分の主張したい結論を導く」とあり、③の叙述法Aで、「あまり重要でない、その代わり誰でも受け入れられる論点からだんだんに議論を盛り上げ、クライマックスで自分の最も言いたいことを-(中略)-鳴りひびかせる」というものである。つまり、日本人の書いたものは、著者の主張や重要な内容は、うしろの方の段落で述べられるということである。
このような日本人の好む叙述法を理解しておくと、著者の言いたいことや結論は後の方で出てくるということが予想できる。売れ筋のワンの口径や高さが何センチであるかいうことをいくつかの短い段落で述べたあとで、「つまり、飯椀のデザインは、より『小ぶり化』してきたのだ。」と7つ目の段落でやっとそこまでの話をまとめている。そして、段落8で、椀が「小ぶり化」した理由の1つとして、「おかず食い」が増えて「ごはん食」の割合が減ったからだと述べている。各段落の内容を、ここでは文章化しているが、実際の精読ノートでは、箇条書きやキーセンテンス・キーワードにして入力の手間を軽減するのがよい。(添付の「精読ノート(例)」を参照)
段落9では、「(小ぶり化は)寸法の上の比較ではそう簡単にいえないのである」とさらに論点を展開している。段落10では、旧式椀は丸型で、最近の椀は、胴のふくらみが少ない、直線的な形をした平型なので、寸法のみならず容量の小ぶり化が顕著であることが述べられる。
段落11は1行からなる段落であり、「このデザインの変化には、もう1つ理由が含まれているように思える」と述べ、新たな問題提起をしている。段落12-13で、丸型の椀の方が手の窪みの中にフィットしやすいと著者は主張している。段落14は、「ちなみに」で始まり、現在もっとも多く生産される飯椀は、ほとんどが、薄手、浅手の平型であることが述べられている。
段落15では、「ということは、」で始まる。以前はワンをしっかりと手に持って口にまで運ぶのが食事作法であり、最近は、その作法の必然性が薄らいできたのだと強調している。この段落で、これまで述べてきた椀が小ぶり化したことは、この段落で主張したいことを導くための導線であったことがわかる。
段落16は1行から成り、「飯椀に何を入れ、どのように口まで運んだのか―とあらためて問わなくてはならない」と次の問に取り掛かることを告げている。段落17-22はその問の解答が述べられており、段落19はその途中にある1行からなる段落で「米飯を常食するようになったからこそ、ワンが浅い平型でよい」と解答を述べ、その後の段落20-21はその補足説明であり、ジャポニカ米を炊いた粘りのあるごはんは、椀を口に近づけて、箸で一口ずつ運ぶのが行儀のよいごはんの食べ方であると述べている。段落16-22は、問を立て、解答をのべ、その後に補足説明をするという順に論を進めているのが分かる。
段落23では、「にもかかわらず」で始まり、椀を口につけて、いや縁の一部は口の中まで入れてごはんを箸でかきこむ人がいると述べて、段落24では、それが個人のくせというよりも、日本民族のくせ・文化でないかと新たな主張をしている。
そして、段落25では、「かつて、日本人の多くが飯椀を口につけて飯をかきこんでいた」と述べ、その場合、半球型の旧式椀の方が使いやすかったという。
段落26は、「しかし」で始まり、丸型にしろ平型にしろ日本の磁器椀のつくりは、他の東アジアの国のものより、手ざわり、口ざわりがよいことであるとしている。「粒食」の主食圏は、東南アジアの一部を含めた東アジア一円であり、そのうちワンを伝統的な専用器とするのは、漢民族、朝鮮民族、日本だけであることが強調されている。
26番目の段落で、初めて、この節の見出しに出てくる「手ざわり」「口ざわり」という言葉が出てくる。この段落から、この節で言いたいことが語られ始めるのである。では、この段落より前に書かれている内容は何のためであったのであろうか? 現在の日本人が、椀を持って、椀が口に接することなく食べることは最近のことであり、かつてはそうでなかったことを述べるためのものであり、この節の前置きのようなものであったことがわかる。教科書などを読み始めるとき、とにかく気合をいれて、注意を集中して読み始める。読み進めて、集中力が切れたころに重要な内容が述べられる箇所に行きつくということを意識しておくのもよいでしょう。
段落27からは、中国と韓国の飯椀との比較を試みることが提起される。段落28では、中国の粒食が古代の北部(黄河周辺)では、アワ・キビ・オオムギで、パサパサの飯であったので、匙で食べていたことや南部(揚子江周辺)では、日本と同じ粘り気のある米であったので、箸で食べていたことが概略紹介される。箸による米食習慣が後に中国北方にも広まり、匙が湯匙に限られるようになったことがわかる。段落29では、中国の椀の紹介で日本と違う点があることが述べられるが、次の段落30の最初に「日本とそれほど大差がない」あり、この段落で述べられていることはそれほど重要でない。
段落30で重要なことは、日本人と中国人の食べ方の違いとして、中国では食卓に肘をついて食べる人が多く、日本との食事作法の違いが指摘されていることである。肘と手で飯椀を支えて、そこに口を近づけることになるが、椀の縁に口を密着させないで、箸で飯をすくいとるようにかきこむことになる。
段落31では、中国製や台湾製の磁器の飯椀がもつ違和感は、口ざわりであると主張している。この段落の要点を理解することで、段落30で、なぜ肘をついて食事をするという作法の違いが言及されたのかがわかる。つまり、椀に口を密着させるかどうかということが言いたかったのである。
段落32では、朝鮮半島の椀が日本や中国と違うことが述べられる。椀は卓上においたままで、手で持って、口につけたりすることはなく、匙を使うという。段落33では、さらに、こうした作法をしやすくするために、日本の膳よりも高さがある座卓が発達したことに言及している。
段落34では、歴史的、文化的に近い日本と韓国は、主食の食べ方で大きな隔たりがあり、韓国では飯椀を手に持って食べるのが無作法になり、お互い誤解しないために異文化理解を求めている。
段落26からは、日本の椀の特徴を明確にするために、中国や朝鮮半島の椀と比較するという、文化比較という手法を用いている。この手法は非常に重要で、自文化内にとどまっていては気がつかないことに注意を向けることができるようになり、自分の文化の特徴や独自性を認識できるようになる。
段落35からは、西欧系の人たちが、飯椀を口まで運んで、箸を使う食事習慣にどれほど驚いていたかという証言が披露されている。段落38-39では、世界の主食形態は「手づかみ」であることを、例をあげながら説明している。
段落40では、主食を食べるのに専用の器を使う地域が、東アジアと東南アジアの一部の粒食圏に限られおり、その中でも日本人の飯椀の取り扱い方が特異であると主張している。
段落41は、この節の結論であり、この節の見出しにもなっている内容が述べられる。つまり、「飯椀は、一口ごとに持ちあげる『運搬容器』」であり、その口縁に唇をあてる『接吻容器』なのである。」
段落42は、この節の最後の段落で、次の節へ「どうしてそうした特異な食事作法が形成され飯椀がかたちづけられてきたのか」という問題提起がなされている。
このように各段落の構成を詳細に検討することで、約10ページに及ぶこの節は、段落23までは、現在の日本人はごはんを食べる時に、椀を口に触れることなく食べていることが述べられているが、それが重要なことではなく、段落23以降に語られている内容が重要であることがわかる。
各段落の要点をキーワードや箇条書きにして簡潔にまとめて、それを関連付けて、その章や節の論理の流れをワープロに入力しながら精読ノートを作ることで、教科書のどこに何が書いてあるかが分かり、著者の論理の進め方も理解できるようになるのではないでしょうか。ワープロで作成することで、キーボード入力に慣れるだけでなく、キーワード検索することで、広い範囲にわたる試験の対策にも有効であると思われる。

学修支援推進室コーナー 1

レポート作成講義【Aタイプ】を担当して

通信教育部 教授 有里 典三

通信教育部の学修支援室では、通教生のみなさんのレポート学習を支援するために、現在、入門タイプ・Aタイプ・Bタイプ・Cタイプの4種類のレポート作成講義を実施しています。
まず「入門タイプ」は、レポート学習全体の流れを理解してもらう点にポイントがあります。「Aタイプ」は、レポート課題の問いの把握と教材の理解の仕方に焦点を当てています。「Bタイプ」は、レポートの書き方、すなわちレポート全体を論理的に組み立てるスキルについて集中的に講義を行います。最後の「Cタイプ」は、レポートを提出する前に、通教生自身の手で自己点検してほしい推敲のポイントについて具体的に指導します。『学光ポータル』に掲載されるレポート作成講義のスケジュールを確認して、みなさんが受講したい講義に自由に参加してください。

さて、今回取り上げるAタイプでは、①レポート課題の問いを正確に把握するコツと、②論理的なレポートを作成するために不可欠となるテキストの読み方について学びます。まず、前提として、「シラバス」と「学習指導書」を熟読して科目の概要をつかんでください。次に、「レポート課題文」の〈キーワード〉に注目します。さらに、〈考察の種類・タイプ〉を考えて、この課題に報告型で答えればよいか論証型で答えればよいかを判別します。続いて『レポート課題解説』を熟読し、何が求められているのか、要求されている考察条件は何かを確認します。すなわち、課題の意図と学習内容をしっかりと把握します。
この後、テキストを繰り返し熟読し教材を理解します。最初は〈鳥の眼〉をもってテキスト全体の概要を把握するために「トップダウン式の読み」を心がけてください。テキストの「はじめに、目次、あとがき、索引」を読んで全体の概要を把握します。最初は分からない部分があっても気にせず先に進みます。二度目に読むときは〈虫の眼〉をもって「精読」します。すなわち、内容のまとまりを意識して読むことを心がけ理解した内容を要約します。論理的なレポートを書くためには、テキストを読む段階でもパラグラフ(意味内容のまとまりを指す内容文段)を意識して読むパラグラフ・リーディングが大切になります。パラグラフを意識して読むことでテキストの論理構成を理解します。なお、専門書などの学術書は小説や随想とは異なり、内容が理解できるまで何度でも読み返す必要があります。

仮にレポート課題が【Aについて説明せよ】であるとします。まずテキストを読み、Aを説明するために必要だと思う項目を書き出します。
・Aとは何か:定義、構成要素など、たとえば「Aとは○○である」
・Aの特徴:長所、短所
・Aの機能:Aが果たす役割、用途、Aにはどのような効果、課題があるのか
・他の項目との関連:同様の項目、対立する項目
以上の内容をテキストの中から探し「読書メモ」や「情報カード」を作ります。内容をしっかり読み取り要約することで「自分の言葉で」Aについて説明できるようになります。

通信教育の学習は、言うまでもなくレポート作成が中心です。良いレポートを書くためには、課題を正確に把握し、しっかりテキストを読み、内容についてよく理解し、よく考えることが大切です。この学習サイクルを確立することがレポート作成を成功に導く要諦と言えます。

学修支援推進室コーナー 2

オンデマンドスクーリングだより「物権法」

法学部 教授 松田 佳久

1.コロナ禍ということがあり、近年はオンデマンド授業がどの大学でも行われています。私が非常勤講師をしている東京6大学の中のある私立大学では、経営学部のオンデマンド授業は、教員があらかじめ講義を収録し、その映像を授業支援システムにUPをしておき、受講生は何時でも自由に視聴できるというものですが、社会学部になると、そうではなく、社会学部の職員の方が言うには、経営学部のようなやり方もOKですが、それだけではなく、WebexというZOOMとよく似たものを使い、オンタイムで授業を実施することも、社会学部でのオンデマンドです、とのことです。教員はどちらかを選ぶわけですが、私は、社会学部の職員の方から、「オンタイムの授業も、社会学部では可能ですよ」と強い調子で言われましたので、ついつい、オンタイムを選択してしまいました。
その大学では、物権法だけではなく、親族・相続を除く民法全般を教えております。経営学部では約600名が受講しており、社会学部では190名が受講しておりますが、創価大学とは異なり、受講生がZOOMに入ると自動的にポータル上、出席になるというようなシステムはなく(教室のあるところに学生証をかざすとポータル上出席になるシステムすらありません)、出席をとるのが一苦労です。

2.さて、創価大学通信教育部の「物権法」ですが、受講生の方は、事前に収録した映像を見ていただいているものと思います。実は、その収録した部分の一部が改正になりました。改正法は令和3年4月28日に公布されたのですが、その後2年以内の政令で定める日に改正部分が施行されます。したがって、テキストも変えないといけません。現在のテキストは『民法Ⅱ―物権〔第4版補訂〕』ですが、これを改正法も入れ込んだテキストである同〔第5版〕に来年度はしたいと考えています。映像も本来は〔第5版〕に合わせる形で収録しなおす必要がありますが、収録をしなおすとかなりの時間を要しますし、また、改正された部分はそれほど重要ではない部分もありますので、映像はそのままにしておいて、映像の中で改正された部分については受講生がわかるように一覧表にしてまとめようと思います。

3.改正部分ですが、大まかに示すと以下のとおりです。
(1)所有者不明土地対策所有者不明土地の発生予防と、既に発生している所有者不明土地の利用の円滑化の両面から、総合的に民事基本法制が見直されました。民法の中には、所有者不明土地管理制度等の創設(民法264条の2以下)、共有者が不明な場合の共有地の利用の円滑化(民法249条以下)、長期間経過後の遺産分割の見直し(民法897条の2以下)などが規定されました。
(2)隣地使用権(民法209条)土地の所有者は、所定の目的のために必要な範囲内で、隣地を使用する権利を有する旨の明確化(同条1項)、隣地所有者・隣地使用者(賃借人等)の利益への配慮(同条3項)など。
(3)ライフラインの設備の設置・使用権(民法213条の2)他の土地に設備を設置しなければ電気、ガスまたは水道水の供給その他これらに類する継続的給付を受けることができない土地の所有者は、必要な範囲内で、他の土地に設備を設置する権利を有することおよび他人の所有する設備を使用する権利を有することの明文化(同条1項)、設備の設置・使用の場所・方法は、他の土地および他人の設備のために損害の最も少ないものに限定(同条2項)、他の土地に設備を設置しまたは他人の設備を使用する土地の所有者は、あらかじめ、その目的、場所および方法を他の土地・設備の所有者に通知しなければならない(同条3項)など。
(4)越境した竹木の枝の切取り(民法233条)越境された土地の所有者は、竹木の所有者に枝を切除させる必要があるという原則を維持し、一定の場合(竹木の所有者に越境した枝を切除するよう催告したが、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき、竹木の所有者を知ることができず、またはその所在を知ることができないとき、急迫の事情があるとき)には、例外として枝を自ら切り取ることができるものとされました(同条3項)。また、竹木が共有物である場合には、各共有者が越境している枝を切り取ることができると規定されました(同条2項)。

そのほか改正された部分は多々ありますが、オンデマンドとして録画された映像に関連するものとしては以上のとおりです。
4.民法は、「民法総則」「物権法」「債権総論」「債権各論」「親族・相続法」と5科目にわたる幅広く奥行きのある学問です。民法を制する者は司法試験を制するとされ、行政書士、司法書士、宅地建物取引士だけではなく、不動産鑑定士や公認会計士の試験にも民法があります。公務員試験でも民法は重きが置かれています。勉強するのは大変ですが、受講性のみなさんは、一歩一歩着実に前に進み、民法の全体をマスターしていただければと思います。

Close

学修支援だより【2022年10月号】

Foreword

リカレント教育と通信教育

副学長・教務部長 西浦 昭雄

夏期スクーリングでの担当授業が終わり、少しほっとした状態でこの原稿を執筆しています。対面授業ができなかったことは残念ではありましたが、オンライン画面越しにも通教生の学びへの意欲の強さが伝わってくるスクーリングでした。オフィスアワーでは、1年間の歩みを報告される方や、大学卒業後に社会人を経験した後に資格取得のために通教で学び直されている方もいました。

さて、高等教育界において「リカレント教育」が注目をあびてきています。リカレントとは「繰り返す」「循環する」という意味で、社会にでた後も再び教育を受け、仕事と教育を繰り返すことをリカレント教育と呼んでいます。例えば、2018年には首相が議長を務め、関係閣僚と有識者で構成される「人生100年時代構想会議」が「人づくり革命基本構想」を発表しました。その8つの柱のうちの1つとしてリカレント教育を挙げ、「より長いスパンで個々人の人生の再設計が可能となる社会を実現するため、何歳になっても学び直し、職場復帰、転職が可能となるリカレント教育を抜本的に拡充する」としていました。
さらに同年、中央教育審議会による答申「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン」が出されました。同答申では「人生100年時代を見据え、様々な年齢や経験を持つ学生が相互に刺激を与えながら切磋琢磨するキャンパスを実現するためには、高等教育機関には多様な年齢層の多様なニーズを持った学生に教育できる体制が必要となり、リカレント教育の重要性が増していくことになる」と述べています。リカレント教育の重要性について共感する一方で、現状では「生産性革命」という言葉に象徴されるように、スキル獲得偏重のきらいがあると感じています。

私が創価大学の教員となり、通信教育部で教え始めてから25年が経ちました。スクーリングにおいて、まさに様々な年齢や経験をもった通教生が学び、時には教えあっている姿に何度も感銘を受けました。これまで創大通教は生涯学習のモデルであると考えてきましたが、最近ではリカレント教育の先駆的な役割も担っているのではないかと思うようになりました。データを活用した社会課題の解決や、SDGsといった社会貢献と結びつくような科目の充実を図っていく必要があります。個人的には、通学部と通信教育部の科目の互換性向上や学生間の交流が次の目標になってくると考えています。国際交流も活発化してきたものの、大部分の日本の大学にとって長年の課題であった「多様な年齢層が学ぶキャンパス」という壁を乗り越える可能性を秘めていると思うからです。

学修支援推進室コーナー 1

教養雑感

通信教育部長 吉川 成司

教養は光の源

「教養って、行き詰まっているときに、どこか思わぬ方角から、光が差し込んでくる、その光の源だと思う」。
これは、鷲田清一氏が連載している「折々のことば」(朝日新聞2020年8月16日付)で取り上げられた言葉です。これを受けて同氏は次のように述べています。
教養のこの定義、知識を蓄えるとか視野を拡(ひろ)げるとかいった効用を説かず、思わぬ時に自分が助けられるという恵みとして捉えているところが清々(すがすが)しい。さりげなくも華やいでいる。
冒頭の言葉は、内藤正典氏(同志社大学教授)のツイッター(2020年8月5日)にある言葉です。同氏は他のサイトで、教養は、上から目線の蘊蓄などではないこと、各種メディアが流す情報を鵜呑みせず、生き抜く力の一筋の光明であるとも述べています(「Twitterでは書けなかったこと」https://foomii.com/00235)。
教養は光の源、「学は光」との精神を柱とする私たちにとって、大いに示唆的であると思います。

「“見えない努力”が見えるようになった」

このようなことが頭に片隅に残っていたでしょうか。2021年の12月7日、ABEMA TIMESの記事が目に留まりました。
それは、小学生にプログラミングを教えている方がSNSに投稿した内容に関するニュース記事です。投稿者が、ある日の休み時間中、「最近の変化」について児童と話していた時のことです。児童が「先生、最近僕、“見えない努力”が見えるようになった」と言ったというのです。「おいしい(お米が炊ける)炊飯器も、洗剤入れるだけの洗濯機も、向こう側で何度も試行錯誤してるプログラマーがいる。そういう目で物を見れるようになりました」と。
まさに、「思わぬ時に自分が助けられるという恵み」を享受しており、教養の光が射していることがわかります。機械の向こうで、自分たちのために努力と工夫を重ねている人の存在を想像できるようになったというのです。この話は、教養に大人も子どもも関係なく、子どもにも、否、子どもだからこそつかめるものがあることを教えてくれます。
さて、教養は奥座敷に鎮座しているわけではありません。ある記事に注目してみましょう(若松真平「とっさにティッシュを差し出した男子新人教師は理由を知って驚いた」;2022年2月8日朝日新聞デジタル)。それは、投稿者が教師になって10カ月の今年1月末のことだそうです。
(給食中に)女子生徒が焼きそばをこぼした拍子に、箸を落としてしまった。それに気づいた前の席の男子が、さっとティッシュを差し出し、代わりの箸を取りに行くのが見えた。(中略)『食べてる途中だったのに、素敵な行動だね』と褒めたら、思いも寄らぬ言葉が返ってきた。「でも、これって……先生がいつもやってることじゃないですか?先生ならそうするでしょ」。生徒たちが困っていると思ったら、どんな状況でも無条件で話を聞いて行動する。それは自分に課してきたことだったが、マネしてほしくてやってきたわけじゃない。でも、ちゃんと見ててくれたんだ。
教養は個人の専有物にとどまりません。教養は行動に現れ、そしてその光はそっと他者を照らし伝播していくものなのです。人として当たり前のこととして。

教養の光は社会を、そして人類を照らす

通教生に限らず、大学ではレポート作成の指導が行われていますが、この点について戸田山和久氏(名古屋大学教授)は、『最新版 論文の教室』(pp.13-14)で次のように述べています。
それは民主社会の担い手になるため、ということ。解決すべき問題をきちんと述べ、それに対する自分の答えを主張し、それをデータや論拠でサポートする、というのは、「みんなに関係することがらはみんなで議論して決めましょう」という社会、つまり民主主義社会の担い手に求められる最も重要なスキルだ。
また、同氏は『教養の書』(pp.35-36)で次のように述べています。
キミが大学へ行くことの人類にとっての意味は、キミにこうした知的遺産の継承の担い手(リレー走者)になってもらうことだ。このような人々がいないと、人類の幸福な生存は難しくなる。(中略)キミが学ぶことは人類に必要とされている。
「学は光」との精神は、自らを光る存在にするだけにとどまらず、他者を、社会を、そして人類を照らし、民主主義と平和主義をもたらす大道なのです。通教生の皆さんとともに、この道を歩みゆきたいと思います。

学修支援推進室コーナー 2

オンライン授業の受講にあたって(学修編)

通信教育部 講師 黄 國光

オンライン授業に3つの工夫を

創大通教ではコロナ禍を経てオンライン授業のメリットが浸透し、その特性を生かした活用も進んでいます。一方、通教生においては、オンライン授業を受講する際、見っ放し、聞きっ放しの授業に終わらせない工夫が必要です。このコーナーでは、オンライン授業への対応について ❶受講前の心得、❷受講中の心得、❸受講後のWeb 試験の注意点、の3項目に分けて、それぞれの要点を解説します。皆さんの学修に役立てていただければ幸いです。

【Point 1】受講前の心得
  • スクーリング科目では、「最初の5時限」をメディア授業で受講します。繰り返し視聴して、まずは講義の流れや全体の論理構成を理解してください。次に、キーワードに注目してその意味内容を正確に理解してください。
    メディア授業を受講する際には、指定されたテキストの関連箇所を参照すると同時に、担当教員が独自に作成した講義資料にも目を通してください。講義の要点は、ノートに書き出して、自分の視点で整理してみることが大切です。ただ単に映像を目で追っているだけでは理解は深まりません。
  • 学光ポータル上に担当教員が準備した【印刷必須】と表示された講義資料は、事前にダウンロードして印刷しておきましょう。オンライン授業を受ける際の工夫やコツは、事前に資料を印刷して授業を受けながら資料に書き込みをしたりマーカーを引いたりすることです。それだけで自分の知識となる部分も多くあります。一つ一つの授業に向けて準備していくことが主体的に取り組むことにつながります。
  • リアルタイムスクーリングは決められた日時で行います。そのため、あらかじめ機材やインターネット環境の確認・準備が必要不可欠です。事前に必ず「操作確認科目」で自分の環境を確認しておきましょう。創大通教では、学修に関する基本的な操作方法などの問い合わせを受け付ける電話相談窓口(ICT サポートデスク)を設置しています。パソコンの場合は遠隔操作による操作補助も可能です。パソコン操作が苦手な方でも安心して学修ができるようにサポートしております。問い合わせ内容、電話番号や受付時間の詳細は、『スタディハンドブック2022』をご確認ください。
【Point 2】受講中の心得
  • リアルタイムスクーリングは通常の教室の対面授業よりも疲れやすい。同じ内容でも、画面の限られた情報量から学ぼうとすると、より多くの集中力を要します。特に連続して複数コマの受講となれば、いかにして集中力を保てるかが重要になります。毎回、「質問」を考えながら授業を受けると、集中度・記憶定着度がアップできます。
  • 授業中に疑問点があったら、ミュートを解除して質問しましょう。質問をしてもいいタイミングがわからないときは、チャットを使って授業内に解決するようにしましょう。授業中に質問できなかった場合には、学光ポータル内の「教員への質問」機能を使用して、次の授業までには解消しておくようにしましょう。
  • また、オンデマンドスクーリングは自宅や外出先など好きな場所で学修できる一方、なかなか集中できないこともあります。そういう時はなるべく手を動かしましょう。資料がない講義はスライドの内容をノートにまとめます。観て聴いているだけだとどうしても集中が続かないので、書くことで集中力を継続させることができます。
【Point 3】受講後のWeb 試験の注意点
  • リアルタイムスクーリングの10時限目に学光ポータルからWeb スクーリング試験を受験します。Web 試験はZoom アプリを使用しての試験ではありませんのでご注意ください。試験時間は80分間のあいだで「最大60分間」です。どの時点に受験をはじめても結構ですが、試験終了時刻になると、受験の途中であっても、強制的に終了となります。
  • Web 試験の持ち込み条件に制限はありません。どんな資料でも持ち込みは自由です。
  • Web 試験の解答は、解答記入欄に「テキスト入力」と、「添付ファイル提出」の2方式があります。受講科目の指定方式にしたがって解答してください。
  • 「テキスト入力」の問題文は画面に表示されます。解答記入欄に直接テキストを入力して解答します。ただし、コピー& 貼り付け機能は使用できません。
  • 「添付ファイル提出」の場合は、問題文や解答入力欄が画面に表示されず、ファイルが添付されています。まず、ファイルをダウンロードして、問題文を確認し、ファイルに解答を入力します。解答が終わったら、入力したファイルを試験時間内に提出してください。

最後に、オンライン授業は、自宅で受講することになるので、誘惑がたくさんあります。ご自宅に静かで落ち着ける環境で学修できる部屋・場所を確保してください。自分が集中できる環境をつくることがオンライン授業では大事になってきます。集中して学修できる環境を整えたら、学んだことが定着しやすくなるよう、ノートをとる、復習する、質問するといった勉強の基本を大切にしてください。

教職指導講座

今年度の採用試験を振り返って ~教職体験を踏まえて~

教職キャリアセンター指導講師 橋本 和男

はしもと かずお
教職キャリアセンター指導講師
[ 職  歴 ] 国立大学附属小学校教官、小学校校長、地区校長会会長
[専門分野] 生活科教育

2022年度の教員採用試験に挑まれた通教生及び卒業生の皆様、本当にお疲れ様でした。教職キャリアセンターでは、8月10日までは、ハイブリッドで対策講座や個別相談を行ってきましたが、その日以降は、コロナウイルスの感染予防を図り2次試験を受ける受験生の不利益を回避するため、すべてオンラインとして実施しました。今、この原稿の執筆をしているのは、2次試験をほぼ終わった8月末です。これまでの取り組みを振り返り、私が今、感じていることを皆様に実感ある言葉としてお伝えしたく、あえて教職キャリアセンター相談室の机上で思いを綴っています。

1通信教育部の講義を担当して思ったこと

私は、2018年度から創価大学の教職課程の「生活科」の担当講師として任をいただいています。学部生及び通教の皆様と「生活科の授業をするということ」とテーマをおき、共に研鑽に励んできました。5年前に感じたことは、創大で学ぶ学生の皆様の本当に真面目で実直な心で勉学に向かっている姿の素晴らしさでした。中でも大変驚いたことは、地方スクーリングでの出来事です。2日間で10コマの講義でした。コマとコマの休憩時間、昼休み、そして講義終了後に、次々と講義内容の質問や相談を受けました。生活科の実践は、高い教育理念に根差した教科観に因ります。現実の現場での課題が大きく、講義内容に照らし合わせて、「どうしたら解決ができ、人間教育を体現できるか?」という問いでした。通教の皆様の多くは、学校現場で働かれており、その質問には切実感を深く感じました。その要望に切に応えなくてはと決意を新たにしました。

2教職キャリアセンター相談の初めての経験から

今年度の4月、教職キャリアセンターの指導講師の任をいただきました。相談業務の中で、通教生の皆様と接することが多くなりました。お一人おひとりの相談には常に必死さが伝わってきました。様々な社会のご経験の上に立ち、現実社会の変革への決意と、未来に向かって可能性を秘めた子どもたちを育てる仕事に就きたいとの強き願いがあふれていました。
私は、学校や教育員会での経験はあるものの、採用試験に向かう学生の皆様への指導は初めてです。その思いに応えていきたいと必死でした。その中でキャリアセンターには、教採を突破した先輩たちが届けてくださった復元資料があります。また、様々な対策資料があります。その資料に目を通しながら、一人の受験生は今何を求めているのかを理解し、必要なことを届けることにしました。
また、相談業務にあたっている過程で、今振り返ると誤った思考が働いていました。対策の指導をより効率化していくためには、一人の指導講師が受験生を専属で担当し、合格まで手ほどきしていく方が良いと考えていたのです。教職キャリアセンターの事務室で長年ご指導にあたっている職員の方のお話を聞いてハッとしました。「学生さんにとっては、様々な指導講師の皆様に違った内容の指導をいただけることによって意識が高まっていくのです」と。振り返ってみますと正にその通りだと感じています。受験までの数か月間において皆様の成長の様子を見れば一目瞭然です。職員の方の経験知は、流石です。あくまでも求める学生の皆様の側に立った視点が重要であることを学びました。

3各受験地に合った対策をすすめていきたい

相談業務を何度も続けているうちに、私は不思議な心境になりました。親つばめが巣にいる雛たちにエサをとり与えている姿です。皆様を子供に例えて恐縮ですが、本当にそう感じました。これから独り立ちをして、自分力で羽ばたいていくことができるようにしていく責任です。
今回の対策は、私自身、まだまだ経験不足でお役に立てたかは心もとないことばかりです。いうまでもなく、採用試験は全国統一ではなく、各都道府県や政令都市によって様々に異なります。その違いに対応できていないと感じます。反省しております。これからさらに、まずは、教職キャリアセンターの専任講師、指導講師を勤めておられる先輩の知見と財産に学び、指導の力量を高めていきたいと思います。
また、意識を日本全国津々浦々の都道府県と政令都市の教育委員会の取組に向け、受験地に合ったアドバイスが必要と感じています。受験する皆様が合格を勝ち取り、実際の学校現場に赴任して学校教育の振興を図っていくことができるよう、私自身が学びと努力をしていきたいと考えます。

4まとめとして

最後になりましたが、今年度の教員採用試験に真剣に立ち向かわれた皆様にエールを送ります。今、人類は危機の時代を迎えています。未来の予測が困難で、なおかつ目指すべき社会像が不透明です。地球規模でどうしても解決しなければならない問題が席捲しています。今こそ、教育の力によって人間主義の世界を創出すべき時がきています。
創価大学の通信教育で学ばれておられる皆様は、その最前線でかつ即戦力としてご活躍いただく尊いご経験と資質を持たれている方々と思います。なぜならば皆様は、現実社会の中で日々学び続けていく意味と大切さを知っているからです。創立者池田大作先生は『法華経の智慧』の中で「今の現実を離れずに永遠をみよ!」とご指導されています。共々に児童の幸福のため教育に邁進していきましょう。

ブック・スクウェア

『新しい世界-世界の賢人16人が語る未来-』

通信教育部 准教授 清水 強志

2019年12月、中国湖北省武漢市で新型コロナウイルスの感染者が初めて報告されて後、世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)の流行を「パンデミック」と宣言したのは2020年3月11日でした。フランスでは同年3月17日(〜5月11日)、イギリスでは3月23日(~6月15日)に全国的な第1回目のロックダウンを開始しましたが、他の国々でもさまざまな新型コロナウイルス感染症対策が始まりました。日本では、初の感染者が確認されたのは2020年1月15日で、その後、同年3月から全国の小中学校が最長で3カ月間一斉休校になり、(並行して)同年4月に初めての「緊急事態宣言」が発出されました。その後も、東京オリンピックの1年延期{緊急事態宣言下での開催(2021年7月~8月)}などさまざまなことがあり、他方では、ロシアによるウクライナに対する軍事侵攻(2022年2月~現在)が続いています。

そこで、今回紹介したいのは、クーリエ・ジャポン編『新しい世界-世界の賢人16人が語る未来-』(講談社現代新書、2021年)です。「はじめに」には、「本書を一言で形容するならば、世界最高の知性と洞察力を兼ね備えた、いわば『21世紀の賢人』たちが、それぞれの専門分野の立場から世界のいまを分析しつつ、『世界のこれから』について論じた一冊と言えよう」(p.4)とあります。クーリエ・ジャポンというのは、「世界中のメディアから厳選した記事を日本語に翻訳して掲載する月額会員制のウェブメディア」(表紙カバーの説明)ですが、本書はその「クーリエ・ジャポン」で「特に反響の高かったインタビューを中心に加筆修正を行った」(pp.4-5)ものとも説明されています。

ところで、「パンデミック」の宣言からすでに約2年半以上経過した現在において、2020年3月~9月のインタビューを読むことに意味があると思いますか。答えは「YES」です。誤解を恐れずに述べますと、本書には、新型コロナウイルスの評価を主とする記事もありますが、新型コロナウイルス感染症がもたらした変革、すなわち、新しい世界の幕開けを指摘する賢人、さらに、コロナ以前にすでに見られていた(危惧すべき)状況・兆候が、新型コロナウイルス感染症の拡大を機に加速・強化され、より明確になったととらえる賢人もいます。それゆえに、この時期に世界の「賢人」たちが社会をどのように眺めていたのかを知り、また、「今」という時点からそれらの言説を評価することで、自分の視野を広め、かつ、自身の思索を深めるための良書になると考えています。
たとえば、「技術革新が人びとに自由と民主主義をもたらす」との考えをモロゾフ氏は、「新型コロナウイルスの流行によって、これまで資本主義を批判してきた人々の警告が正しかったと示されたのは間違いない」(p.91)、「いま問うべきなのは、私たちがこれから先もソリューショニズムの信者であり続けたいかどうか」(p.97)などと述べています。あるいは、コミュニタリアニズムのマイケル・サンデル氏は、政治家たちが理想の仕組みであるかのように喧伝した能力主義の「闇の部分が見えていませんでした」(p.199)と述べ、人に対する態度を変える必要性を強調しています。なお、「スクリーン・ニューディール」に警鐘を鳴らすナオミ・クライン氏の指摘は、現代社会を考える上で非常に興味深い内容の1つと考えます。
他方、16人も掲載され、また、全訳でないことも多いため、1つ1つの記事が短く、やや唐突感や物足りなさなどを感じるかもしれません。しかし、逆に、さまざまな分野の多様な考え方(エッセンス)を知ることがきます。各インタビュー記事を読む前に、発行月、賢人の専門および思想の傾向、出身、キャリア等をきちんと把握した上で、丁寧に読むようにして下さい。

以下は本書の内容です。
 

目次
第1章 コロナと文明
  • ユヴァル・ノア・ハラリ「私たちが直面する危機」
  • エマニュエル・トッド「パンデミックがさらす社会のリスク」
  • ジャレド・ダイアモンド「危機を乗り越えられる国、乗り越えられない国」
  • フランシス・フクヤマ「ポピュリズムと『歴史の終わり』」
     
第2章 不透明な世界経済の羅針盤
  • ジョゼフ・スティグリッツ「コロナ後の世界経済」
  • ナシーム・ニコラス・タレブ「『反脆弱性』が成長を助ける」
  • エフゲニー・モロゾフ「ITソリューションの正体」
  • ナオミ・クライン「スクリーン・ニューディールは問題を解決しない」
第3章 不平等を考える
  • ダニエル・コーエン「豊かさと幸福の条件」
  • トマ・ピケティ「ビリオネアをなくす仕組み」
  • エステル・デュフロ「すべての問題の解決を市場に任せることはできない」
第4章 アフター・コロナの哲学
  • マルクス・ガブリエル「世界を破壊する『資本主義の感染の連鎖』」
  • マイケル・サンデル「能力主義の闇」
  • スラヴォイ・ジジェク「コロナ後の”偽りの日常”」
第5章 私たちはいかに生きるか
  • ボリス・シリュルニク「レジリエンスを生む新しい価値観」
  • アラン・ド・ボトン「絞首台の希望」


当然のことながら、本書の内容をすべて肯定的にとらえる必要はないと思っています。実際、社会学者の私としては、深く同意する内容が多くある一方で、まったく同意できない賢人もいました(笑)。しかしながら、それゆえに、私とは異なる「まなざし」(主張、分析方法、歴史観等)を正確に知っておくことは非常に大切なことだと思っています。ぜひ、賢人たちの声を理解し、自分の考えを再構築しながら読んで下さい。また、各賢人の主要著書も紹介されていますので、高い関心を抱いた賢人がいましたら、そちらも読んでみて下さい。

クーリエ・ジャポン編
『新しい世界-世界の賢人16人が語る未来-』
ISBN:9784065225462
2021年1月 講談社現代新書 900円+税

Close

学修支援だより【2022年11月号】

Foreword

デフォルト・モード・ネットワークとセレンディピティ

経営学部長 栗山 直樹

通信教育部の皆様の中でも、日々の勉強で課題に追われている方は多いと思います。オンライン教育の普及に伴って、ますます課題が多くなっているのは否めない事実です。課題に取り組むことにより、新しい知識を得て、それを定着させることができるので、各授業で課題の設定は大変重要な学習要素となります。ただ、課題だけに追われていると、「今、何をやっているのか」「人生にどのような意味があるのか」を考える機会がなく、自分を見失ってしまうリスクもあります。日本人の働き方改革で、仕事と人生をどう関連づけるのかというワーク・ライフ・バランスの問題が取りざたされています。
脳科学者の茂木健一郎氏は、「デフォルト・モード・ネットワーク」(Default mode network) という脳科学の知見の重要性を強調しています。いろいろな体験や学習の繋がりに意味を見出すことができる機能のことで、何かの課題に取り組んでいるときには働かず、何も情報が入ってこない状態で機能する状態ということです。茂木氏は、「散歩」をしているときがこの機能が最も働くと指摘しています。確かに私も多忙な時ほど、散歩をすることにより、頭が整理できる気がします。

意図しない偶然の幸運が人生を決めたということはよく聞きます。米国のIT大手の副社長だった宇陀栄次氏が昨年秋の創価大学での講義(トップが語る現代経営)で語られていた言葉に「セレンディピティ」(Serendipity)を紹介されていました。これは偶然の幸運ということを意味するのですが、これは幸運をつかみ取る能力であって、単なる出来事をいうのではないと強調されていました。世界を席捲するアップルなどの企業経営者はそれを持ち合わせているといいます。世界的な交友関係の中で、それらの方々は、物事をネガティブに考えない能力を持ち合わせ、「妬み、やっかみ、不平、不満、悪口、陰口」は、その能力を下げるというのです。「強く、正しく、明るく、強く」を実践したら、宇宙の力を味方につけ、幸運をつかみ取る能力を高めると指摘されていました。松下幸之助氏もこの考え方に大きく影響されたとのことです。

多忙な日々でも、心に余裕を持つこと、そして偶然の出会いを大切にして、それを人生の幸運に繋いでいくこと。そのために自身の人間性を磨く重要性を学びました。

自立学習入門講座 63

要約の技法

通信教育部 教授 山本 忠行

通信教育で学ぼうとすると、読んだテキストや資料の内容、あるいは聞いた講義の内容を自分の言葉で要約するということが常につきまといます。

1.要約の目的

要約の技法が必要になる理由は、大きく分けて3つあります。 それは、①読んだ文章の理解を確実にするため、②内容を整理し、ノートを取るため、③レポートを書くためです。それぞれの目的によってやり方も違ってきます。
確実な理解のため、あるいはその理解を深めることが目的であれば、できるだけ元の文章の形を残したまま、全体を「縮約」することになります。もし、ノートを取るためであれば、いわゆる「要約」であり、導入部や例示の部分、既知のことなどは省略して、筆者が述べようとしているポイントを中心に整理することになります。それがレポートを書くためとなると、自分が書こうとするレポート課題の意図や論旨に合うように、書き換える必要が出てきます。これは「引用」のための要約になります。つまり、要約の目的次第で、元の文章の形をどれだけ残すかが違ってきます。

2.理解のための要約(縮約)

文章によっては、複雑な論理が使われているもの、抽象的でつかみ所がないものがあります。こうした場合、そのまま理解するのが困難なことがありますが、そのときに有効なのが要約作業です。自分で要約してみることで、文章の骨子が浮かび上がってきて、理解を助けます。
文章の中には幹や枝に相当する部分と枝葉の部分があります。主語・目的語・述語が重要であることは言うまでもありません。指示詞や接続語句などもポイントになります。つまり骨になる部分とそれ以外を仕分けることから始めます。次の文章を例に考えてみましょう。

「銀行型教育」という概念では、「知識」とはもっている者からもっていない者へと与えられるものである。知識が与えられるもの、施されるもの、である、ということ自体が抑圧のイデオロギーを広く知らしめるための基盤である。無知であることの決定づけ、それは無知の疎外とも言えるものであり、常に他人のうちに無知を見出すことにつながる。
無知を疎外する教師は揺らぐことのなき地位を維持しつづける。教師はいつも知っていて、生徒は何も知らない。知る者と知らない者の固定は、教育とは探求するプロセスそのものであるという姿勢を否定する。
(パウロ・フレイレ(2018)『被抑圧者の教育学』亜紀書房、p.133)

要約作業に入る前に自分で問いを立てましょう。ここで説明しているものは何か、その本質はどのようなものか、影響はどうなるのか、というような問いが浮かべば、ポイントを絞り込むことができます。漫然と要約を始めても、良質の要約はできません。その問いを意識しながら、下線を引いたり、マーカーで色をつけたりして、大事なところを確認しましょう。それができたら、文にまとめてください。どうでしょうか。この作業を通じて文章の理解が深まったでしょうか。面倒がらずに手を動かすことが、学びにつながります。【例題A】

3. ノート・テイキングのための要約

次にノートを取ることを考えてみましょう。少しでも余計な部分をそぎ落としたくなるはずです。原文では「者」を使って説明していますが、明らかに「教師/生徒」のことです。「揺らぐことのない地位」などの表現は説明のための枝葉であると見てよいでしょう。このように分析していくと、文章の骨組みが明確になってきます。場合によっては、簡略化した図にまとめるだけでも理解の助けになるはずです。この図を参考にしながら、要約文を書いてみてください。先ほどとどう違ってくるでしょうか。【例題B】

4.引用のための要約

一番難しいのが引用のために要約する場合です。なぜなら、そのまま引用できることはほとんどないからです。自分が書こうとしている論旨に合うように書き換えなければなりません。

たとえば、フレイレとはどのような説を唱えた学者なのかということを述べる場合を考えてみましょう。「ブラジルの教育学者フレイレは」で始まる文であれば、どのように続けますか。

例)ブラジルの教育学者フレイレは、教師が生徒に知識を伝えることを中心とする従来の指導法を銀行型教育と呼び、知る者と知らない者の関係を固定し、探求のプロセスとしての教育を否定するものだと批判した。

「銀行型教育」の内容の説明であれば、どうなるでしょうか。次の文に続ける文を考えてみてください。

【例題C-1】フレイレが「銀行型教育」と呼んだものは、どのような教育を指すのであろうか。・・・

「教育はどうあるべきか」という内容について述べるときは、どのような形で引用しますか。

【例題C-2】創価教育学の創始者である牧口常三郎は、教師が生徒に一方的に知識伝授する教育法を厳しく批判したことで知られるが、「解放の教育学」を提唱したフレイレも・・・

5.節や章の要約

ここまで文章の一部を要約する技法について見てきましたが、場合によってはさらに長い範囲をまとめなければならないこともあります。それはこれまでとはやや目的が異なってきます。文章の一部を要約するのは、ある事柄の理解が中心になります。しかし、節や章の要約となると、それは文章の設計図、アウトラインを把握すること、すなわち筆者が執筆するときに用いた論理構造を知ることを意味します。言い換えれば、文章構造を把握しない限り、節や章の要約はできないということです。

一つの文は一本の糸のようなものです。文章は文を組み合わせて模様を描き出したものと言えます。要約はその模様を浮かび上がらせる作業です。その時、模様が別のものになってしまっては意味がありません。元の模様をできるだけそのまま写し取らなければなりません。そのためには俯瞰(ふかん)的な読み方、トップダウン的な読み方が欠かせません。高所から見下ろすようなつもりで文章を読み解いていくことです。そのときに最も役立つのは見出しとその配置です。見出しは道路標識のようなものです。話がどの方向に展開するのかを示しています。もうひとつは接続語句であり、それぞれの文やパラグラフの位置関係がわかります。

文章を構成する基本となるのがパラグラフです。それぞれのパラグラフにはトピック・センテンス(話題文)とサポート・センテンス(補足文)があります。文章は複数のパラグラフを組み合わせて作り上げていきます。トピック・センテンスがどうつながっているのかを考えましょう。

接続の型はいろいろありますが、日本では結論を最後に書くのが一般的ですが、冒頭で結論を示して、その後で理由を説明する人もいます。前者を尾括型、後者を頭括型と呼びます。最初に大まかな結論を示し、最後にそれを補強しながら再確認する文章は双括型になります。また、それぞれのパラグラフには役割があります。例示や換言などの部分は文章構造に大きな影響を与えることはありません。気をつけたいのは、根拠、付加・対比、転換、帰結などです。主張するときには根拠を示します。「なぜなら」「というのは」などの言葉が使われます。付加や対比のときには、「しかも」「一方」「それに対して」などの語が出てきます。帰結は「したがって」「ゆえに」などで示します。

詳細をここで示すことはできませんが、節や章の論理構造に注意して読むことで、適切な要約ができるようになります。

解答例

【A】「銀行型教育」の概念では、知識はもっている者から、もっていない者へ与えられるものであり、抑圧のイデオロギーを広める基盤になっている。他人のうちに無知を見出し、疎外することで教師は揺らぐことのない地位を維持する。このような教師と生徒の役割の固定は教育が「探求するプロセス」であることを否定する。

【B】「銀行型教育」は知識をもっている教師と、もっていない生徒が固定されることを意味し、それは「探求するプロセス」としての教育を否定するものである。

【C-1】それは、知識をもっている教師が持っていない生徒に与える教育のことであり、それ自体が常に他人のうちに無知を見出し、疎外する抑圧のイデオロギーの基盤となっている。

【C-2】従来の教育を「銀行型教育」と呼び、抑圧のイデオロギーの基盤となっていることを明らかにし、探求するプロセスを重視するものでなければならないと主張している。

教職大学院について

人間教育の大道を拓く創価大学教職大学院

創価大学教職大学院では、教育委員会より派遣された教職経験10年以上の教員、通信教育部を含む学部卒のストレートマスター等、多様なバックグラウンドを持った学生が全国から集い合い、日々の勉強と研究に勤しんでいます。

【創価大学教職大学院の特徴】

①学生第一の学習環境:全国でも数少ない「教職大学 院棟」を建設し、全学生に個人デスク付きの自習ルー ムを提供。棟内にはパソコンルーム、ラウンジ、教材 開発室等も設置。更に、キャンパス外に学生寮も。

②充実した給付型奨学金:成績優秀者に給付される 「創価大学教職大学院特別奨学金(年額 500,000 円)」 や「創価大学教職大学院牧口記念教育基金会奨学金 (一年次:1,000,000 円、二・三年次:750,000 円)」 と、計 3 種類の給付型奨学金を用意。対象・選考基準 など詳細は、教職大学院 HP まで。

③「授業力・実践力」育成のための豊富な科目:国語、 算数、理科、社会、道徳、外国語活動など、小学校のほぼ全科目の指導方法を学ぶことのできる授業を開 講。更に、小中を通じた特別支援、カウンセリング、ICT 教育、アクティブラーニング、いじめ予防など 教育現場のニーズに応じた多彩な科目も配備。

④長期の教育実習:学部の教育実習をさらに発展させ、「実習研究」として計 60 日間、東京都公立小学校 で教科指導や生徒指導、学級経営等を経験。一人一人の実習生を教職大学院の専任教員が個別にサポー ト。

⑤国内・国外の先進校での実地研究:受講者の希望に応じて、国内(奈良、富山)・国外(中国、シンガポ ール)の先進校を訪問し、実地研究を行う「教育課題実地研究」を開講(選択科目)。

【入試概要】
  • 入学定員:25 名(収容定員 50 名)
  • 修業年限:人間教育実践リーダーコース 1年 人間教育プロフェッショナルコース 2年 ※小学校・中学校・高等学校の一種免許状未取得者の修業年限は3年
  • 修得単位数:両コース 45 単位以上
  • 取得学位:教職修士(専門職)
  • 取得可能免許状: 小学校教諭専修免許状 中学校教諭専修免許状 高等学校教諭専修免許状

※中学校と高等学校の教科についてはホームページをご覧下さい。

  • 各コース出願要件

(1) 人間教育実践リーダーコース(以下の要件のいずれかに該当する者)
 ①学校教育法施行規則第 20 条の「教育に関する職」を 10 年以上経験した現職教員②協定を締結している都道府県・政令指定都市教育委員会及び学校法人等から大学院派遣研修として推薦ないし命令を受けた者、また受ける予定の者
(2) 人間教育プロフェッショナルコース(以下の要件のいずれかに該当する者)
・2年制コース:①人間教育実践リーダーコースの出願資格に該当しない現職教員、②小学校・中学校・高等学校いずれかの一種免許状を有する者(取得見込みも含む)
・3年制コース:幼稚園、小学校、中学校、高等学校いずれかの教員免許を有する者(取得見込みも含む)

◎令和3年度より教職研究科に高等学校教諭専修免許課程が認可されました

令和3年4月の開設を目指し、文部科学省に課程認定申請をしていた教職研究科教職専攻の高等学校 教諭専修免許状課程が認定されました。令和3年4月入学生より、所定の科目・単位を修得し、研究科を 修了すれば、高等学校教諭専修免許状が取得できるようになります。なお、取得できる免許教科は「国語、 地理歴史、公民、数学、理科、音楽、美術、工芸、書道、保健体育、保健、看護、家庭、情報、農業、工 業、商業、水産、福祉、商船、職業指導、英語、宗教、ドイツ語、フランス語、スペイン語、中国語、ロ シア語」です。専修免許取得のためにはこれらの教科の一種免許状が必要となります。 なお、小学校教諭専修免許状、中学校教諭専修免許状の課程は、これまでどおり開設しております。

入試、進学相談会など各種お問合せ先

進学相談会(※オンラインで実施)では、専任教員が皆様の様々なご質問にお答えします。
また、教職 大学院に関する質問は常時、下記の電話番号・メールアドレスにて受け付けています。お気軽にどうぞ。
〇教職大学院 HP:http://kyoshoku.soka.ac.jp
〇電話:042-691-9494(代表)
〇メール:kyoshoku-d@soka.ac.jp

教職大学院「先輩からのアドバイス」動画サイト

教職大学院修了生からのメッセージです。ぜひご覧ください。

2022 年度「教師力・授業力アップセミナー」(オンライン)

教職大学院の教員によるセミナーに参加してみませんか(無料)

Close

学修支援だより【2022年12月号】

Foreword

池田文庫開設25周年を迎えて ― 開設25周年記念特別展の開催

図書館長・法学部 教授 池田 秀彦

通教生の皆さんこんにちは。日々、仕事、家事など様々お忙しい中、研鑽に励まれていると思います。
創価大学付属図書館は、本年、『池田文庫』開設25周年の佳節を迎えることができました。これを記念して図書館では『池田文庫開設25周年記念特別展』を11月4日から12月4日まで、中央図書館1階で開催することになりました。
特別展では、創立者の『若き日の読書』をテーマに掲げ、創立者が若き日に読書記録を綴った「読書ノート」の表紙(「雑記帳」複製)、感銘を受けた本の文章を置き写した紙面(複製)を初公開いたします。展示内容は、『若き日の読書』特別展示、池田文庫の歴史、池田文庫図書の紹介、創立者御揮毫入り図書、戸田大学の教材(一部)です。
『池田文庫』は、附属図書館にとって永遠の財産です。この機会に改めて開設の経緯を確認しておきたいと思います。
創立者は、1993年7月3日に開催された「第22回創価大学滝山祭記念フェスティバル」のスピーチにおいて、ガーナの建国の父といわれるエンマルク初代大統領の青年時代について話をされ、大統領はアフリカの社会制度の変革のため経済的に大変な中、アメリカで真剣に学び、「食堂でアルバイトをしたり、靴磨きや船のボーイをするなど、働きながら勉強した。皆さんの中にも、同じような境遇の人がいると思う。若き日に苦労を積んでこそ、偉大な成長がある。<屋根裏部屋で苦学した人のなかから世界的指導者が現れる>という」「苦労を避けて、幸福を求めても、それは全部<幻>である」と語られ、学生の一層の成長と活躍を期待されました。そして続けて『池田文庫』の設置について次のように提案されました。
「15歳のときから集めた本が約7万冊にのぼっている。本だけは我が子のように大切にしてきた。それらの中には、戦時中、防空壕に入れて守ったため、かなり痛んでいるものもある。その7万冊の本を創価大学に寄贈したい。1冊1冊の本が、私にとって多くの思い出が込められている。どうか、読書と研鑽に役立てていただければと思う」
創立者の創大生への深く限りない慈愛と期待の込められた『池田文庫』です。これを機会に創立者の学問・読書への思いを深く感じ取り、読書・勉学に励んでいきたいと思います。

学修支援推進室コーナー

オンデマンドスクーリングだより
「マクロ経済学・理論経済学Ⅰ」

経済学部 教授 小林 孝次

「マクロ経済学・理論経済学Ⅰ」のオンデマンドスクーリングを受講されている、あるいはこれから受講される皆さんに、1.全体の構成と概要、2.テキスト(スライド)の特徴を説明し、そして3.学習上のアドバイスをしておきたいと思います。

1.全体の構成と概要

皆さんは、メディア授業の第1回から第5回までにおいて、すでにオンラインで講義を受講されていますが、そこまでの内容を整理するレポートが第6回で課せられているかと思います。ここまでの学習を通じて、実はレポート課題の第1課題をまとめられるようになっていますので、この段階でレポート課題の第1課題を仕上げておくことを強くお勧めします。
さて、オンデマンドスクーリングとしては、全体の授業でいうと第7回から第15回までの学習になりますが、マクロ経済学は経済理論ですので、毎回の授業の内容が積み重ねられていきます。そこで第7回のオンデマンドスクーリングでは、それまでの内容を理解されているかどうか確認しておきます。第1回から第5回までのメディア授業において学習してきたケインズ理論の基礎について復習・まとめをします。特に第3回から第5回のメディア授業における小テストのうち、計算問題は重要ですので、基本用語の解説とともに復習します。さらに類似の問題を小テストにおいて行なっていただき、第8回においてその解説をします。ここまでやっておけば、ケインズ理論の基礎、導入となるメディア授業での5回分の内容については、完全に習得できるかと思います。
そのうえで、第9回において、これまで学んだ国民所得決定モデルの基礎(45度線図理論、貯蓄-投資曲線図理論、そして乗数理論の3点セット)に財政部門を導入し、モデルを拡張します。
さあここまでの準備をもとに、第10回から第15回において、マクロ経済学、ケインズ理論の主要な部分、教科書のPart C、IS-LM分析を学びます。
まず、第10回・第11回では投資を独立投資ではなく、投資需要の重要な決定要因である利子率を導入して、投資関数を導きます。そのうえで生産物市場の均衡を表すIS曲線の理論を学習します。第10回では政府部門を除いてIS曲線の理論の骨格を、次に第11回において政府部門を加えたIS曲線の理論を展開します。ここでのポイントは、1.IS曲線とは何か、2.生産物市場の不均衡からの調整、3.IS曲線はなぜ右下がりなのか、4.IS曲線のシフトの4点です。
一国全体の経済活動について学ぶマクロ経済の世界では生産物市場だけではなく、金融の分野、貨幣市場も重要な市場として扱われます。まず第12回において貨幣に対する需要について学びます。次に第13回において、貨幣市場の均衡であるLM曲線の理論を学習します。第13回でのポイントは、1.LM曲線とは何か、2.貨幣市場の不均衡からの調整、3.LM曲線はなぜ右上がりなのか、4.LM曲線のシフトの4点です。
以上、IS曲線、LM曲線それぞれを理解したうえで、第14回において生産物市場も貨幣市場も同時に扱うIS-LM体系、すなわち両市場を同時に均衡させるGDPの大きさとそのときの利子率の高さを求めるIS-LM分析を行います。最後に、第15回において、景気をよくするための経済政策として金融政策や財政政策の効果を論じてまいります。

2.テキスト(スライド)の特徴

マクロ経済学は、経済理論ですので、メディア授業、オンデマンドスクーリングにおいても各回ステップバイステップで順を追って内容を拡張し、徐々に現実のマクロ経済全体の分析に近づけていきます。はじめは細かい部分は省き、理論の骨格となる最も主要な部分からはじめ、順に現実に向かって内容を拡張していきます。その手順は、カーナビや地図を用いて目的地に到着するために、まずは大まかな略図からはじめ、順に細かい部分も記載されたものを用いていき、最終目的地に到達するような手法です。
さらにこの授業においては、それぞれの回の理解が確実に進むように、トピック1つずつに対して、用語での説明、簡単な数式を用いた展開、数値例を用いての説明、さらにグラフを用いての図解と4パターンで学んでいきます。加えて各回の小テストの問題をもって確認をしていただきます。

3.学習上のアドバイス

この授業は、オンデマンドスクーリングですから、利点として何回も繰り返し、学ぶことができます。また、忙しい方にとっては、2倍速で視聴することもできるでしょうし、場合によってはゆっくりと視聴することもできるかと思われます。
ただし、各回の授業の内容は連続しておりますので、前後のつながりのない一話完結のドラマではありません。連続ドラマですので、途中で手を抜かずに学習を続けていただきたいと思います。最終回まで行ったときには、見晴らしの良い頂上にたどり着けることと思います。
なお、レポート課題の第2課題は、15回目の授業まで終われば、すぐできるはずですので、間髪入れずに仕上げておいてください。
著者としてはテキストをわかりやすいものになるよう努力しましたが、それでも難しいという声をときおり耳にします。よくわからないと思ったときは、まず最低10回は読んでみようと腹を決めてください。10回読んでもわからない時にはテキストが悪いと思っていただいて結構です。大学での学びですので、このくらいの努力はいとわないでください。
ともかくこのオンデマンド授業を通じて、1つひとつ理解が進むごとに学ぶ喜びが深まり、充実感を味わっていただけることと期待しています。仕事や諸活動で多忙ななか、皆さんは学びを続けられています。素晴らしいことだと思います。閉塞感が蔓延しているこの時代にあっても、こうした挑戦を通して、皆さんは、ワクワク感を感じながら人生を謳歌し、勝利されてゆくことと信じています。ワクワク感とは英語でSUPER FUNといいます。日本語にすると、“超楽しい”です。それでは皆さん、楽しんでください。

教職指導講座

来年度の教員採用試験に向けて

教職キャリアセンター指導講師 町田 千恵美

まちだ ちえみ
教職キャリアセンター指導講師
[ 職  歴 ] 小学校校長
[専門分野] 国語科、道徳科、特別支援教育

今年度より、教職キャリアセンター指導講師として勤務しております。通教生の皆さんと、ともに学び合う中で、私自身も「教育の道を目指そう」と決意した日々が鮮やかに思い起こされ、触発される毎日です。
さて、来年度の教員採用試験に向けて、今回は、私が学ばせていただいた通教生の方の実践を紹介します。
今年10月、担当する通教生の方の教育実習校を訪問した際のことです。校長先生に教育実習生を受け入れていただいたお礼を申し上げたところ、「こちらこそ、〇〇先生が来てくださってよかった。ぜひ、本校で一緒に仕事をしたい先生です。人間性も素晴らしいです。よく頑張ってくださっていますよ。」と、うれしいお返事をいただきました。
早速、ご本人に心がけていることをお聞きすると、創大生として、とにかく振る舞いが大切だと思い、初日は、朝7時前に学校に行き、副校長先生にご挨拶をした後、来る先生一人一人に直接挨拶をしました、とのこと。心のこもった挨拶の一言が職場の雰囲気を変え、皆さんが声をかけてくださるようになり、実習生の心強い応援団となってくださった様子が目に浮かぶようでした。
また、児童に対しては、とにかく誠実に、学ばせていただくという姿勢で接し、指導教諭の児童への声のかけ方、動き、板書、指導方法など、すべてメモに取り、実践されたそうです。授業参観や講話でも最初と最後に必ずお礼をし、指導やお話は、全て盗もうとの姿勢で、一つ一つ努力を重ねてこられたその成果が、実習生の研究授業からも伝わってきました。授業中、児童が発言するたびに「よく気が付きましたね。」「大丈夫ですよ。」「素晴らしい。」「いいですね。」と暖かな笑顔で励ましの言葉をかけ、学級全体が安心して学びあえる学習環境となっていたことに感心しました。
教育実習は、教師としての資質を鍛える最大のチャンスです。毎日、座る間もなく児童と遊んだり様々な作業に取り組んだりと体力も必要です。そのような大変な状況の中でも、先輩教諭のさりげない気配りやサポートに気付き、感謝を言葉で伝えられるのは、社会人経験があるからこその実践力だと思いました。先生方から「周りが見えているね。」「実習生の動きじゃないね。すぐに働いてほしい。」とまで言っていただけた、と報告してくださったとき、どれほど大変な中で、どれほどの努力を重ねてこられたのだろうと、胸がいっぱいになりました。さらに、後輩の皆さんのために、教採に向けてどのように取り組んでこられたのか、3点についてお聞きしました。

① 教採への見通し
採用試験の前年10月から説明会や勉強会に参加し始めました。先輩の合格体験や現職教員のお話を聞くことで、自分が働く姿を想像することができ、とても良かったです。

② 自分に合った学習方法
自分が勉強しやすいような過去問と参考書を購入し、まず、過去問を解いて自分がつまずいたところを中心に勉強しました。教職キャリアセンターの対策講座や個別相談もよく活用。仕事との両立は、とても大変です。限られた時間を有効に使えるよう、重要な規則を壁に貼ったり寝る前と起きた時に同じ問題を勉強して定着させたりしました。隙間時間でも対策講座のユーチューブを流す、問題を赤シートで隠して解く、なども効果的でした。
教員採用試験の勉強中も大学の試験やレポート作成があったため、自分の中で優先順位をつけて、今日はこの範囲を、と決めて取り組みました。

③ 励ましのネットワークづくり
教員採用試験への挑戦は、かなり孤独な戦いでしたが通教の友達と励ましあい、講師の先生にも励ましてもらい、たまに息抜きすることで乗り越えられました。また受験に際しても、職場、友人、習い事の先生、地域の方々がものすごく応援してくれたことが支えになりました。

以上のように、孤立しないこと、自分を信じて、とにかくあきらめないことの大切さをご自身の体験を通して伝えてくださいました。
今年の教員採用試験では、紹介させていただいた通教生をはじめ、50代の方も含めた多くの通教生が見事合格を勝ち取られました。年齢や経験の有無で合否は決まりません。
通教生のみなさんがそれぞれの社会経験で培われたコミュニケーション力、どのような厳しい状況の中でも目標を達成しようと挑戦する姿勢こそ、今、教育の現場が必要とする大きな強みであると、改めて学ばせていただきました。体験に勝るものはありません。自分はこうやって勝った、といえるよう、通教生の最強のネットワークで、皆で励ましあいながら挑戦してまいりましょう。教職キャリアセンター一同、これからも皆さんの応援団として、ともに頑張ってまいります。

ブック・スクウェア

『DXの第一人者が教える DX超入門』

通信教育部 教授 有里 典三

最近、新聞を読んでいてもニュースを聞いていても、DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉と何度も遭遇する。アナログ世代にはよく理解できないが、簡単に言えば、DXとは「情報通信技術による変革」(p.16)を意味しているようだ。しかも、単にいまあるものをデジタル化して効率化することではなく、「製品やサービス、業務や組織をまるごと変えてしまう」(p.17)ことだという。「DXはつまるところ、デジタル技術を用いて、日々の生活や仕事を、まるで違う世界にする」(p.18)ことをめざしているらしい。では、「まるで違う世界」とは何か? そこには次の3つの共通項があるという(p.18)。

  1. ヒトとヒト、モノとヒト、モノとモノがインターネットでつながり、大量の情報が集まるようになった 。
  2. 1の情報がAIなどで分析され、今までわからなかったことが分かるようになった。
  3. その結果、顧客ニーズに強く訴求する製品・サービスが次々に生まれ、日々の暮らしやビジネス、社会のありかたが現在、まるで違う世界に代わりつつある。
2DXは第4の産業革命

デジタル技術をもちいた日々の生活や仕事の変革は「第4の産業革命」と言われている。それもかなり劇的な変革である。社会学を専門とする者にとって、本書の最大の魅力は、「DXの本質を理解するための必要最低限のポイントを伝授」してくれる点にある。

では、実際にどのような改善が起こっているのか? ここに驚くべき数字がある。ヒトとヒト、モノとヒト、モノとモノをつなぐインターネットは、1995年時点と2020年時点を比較すると、インターネット接続人口は4,437万人から500億人へと25年間に1,000倍以上拡大したというのだ。時間がたつほど爆発的に増加する、「指数関数的な」成長といってよい。ヒトだけではなくモノもつながるので、モノのインターネットI oT(Internet of Things)と呼ばれている 。集まる情報は桁違いに膨大なビッグデータである(p.21)。

こうしたビッグデータをAIで解析することによって、「商売全体のモノの流れがよくわかるようになり、製造から輸送、販売までを可視化して余計な生産、余計な在庫をできる限りもたずに販売機会も逃さない、といった理想的な商売が」(p.23)可能になる。このような商売の劇的な変革をサプライチェーンマネジメントというのだそうだ。この手法を応用すれば、合理的な愚か者たちが生み出している年間643億トンともいわれる膨大な食品ロスを劇的に減らすことができるのではないだろうか。

3DXのメリットは同時にデメリットにもなる

DXは、長年あきらめていた不便さをすっきりと解決し、夢がかなう体験を提供してくれる。「パワフルな製品やサービスが次々と実用化され、その結果『まるで違う世界』が創出される」(p.26)。たとえば、1)自宅に居ながらどんなものでも買い物ができる世界(Eコマース)、2)財布をもたなくても買い物ができる(顔認証による電子決済)、3)どんなに遠い場所でも輸送手段を使わずにモノが届く(3Dプリンター)、4)一刻一秒を争う緊急手術でもゴッドハンドの医師が手術できる世界(遠隔医療)などである。こうした仕組みは、いずれも人の本性に訴え、顧客需要に強く訴求するものなので、一度利用したら誰も元に戻りたがらない。つまりは、不可逆性が高いのだ。そのため、古くからの秩序を壊してしまうこともある。それが原因で、実際に倒産に追い込まれる企業も現れている。ユニクロは、職場にAIを導入し、自動化することで従業員を10分の1にまで省人化することに成功したというが、今後AIが人間から今の仕事を次々に奪い去る危険性はないのだろうか。

4DXは今後どのように活用されるのか?

「まるで違う世界」は組織、個人によって当然ながらありようが変わる。「営業部門」であれば、競合他社の追随を許さない顧客満足度と高い利益率を誇るサービスを考えだすだろう。「管理部門」であれば、とんでもなく効率的でセキュリティの高い情報管理の仕組みを考えるだろう。「個人」であれば、特殊な知識や技能の習得などに挑戦するかもしれない。

5本書の構成と読みやすさについて

本書は、第1章DXとは何か?第2章DXがもたらした変化、第3章代表的な技術、第4章DXを使いこなすための仕組みや思考法、という4章から構成されている。

本書の特徴はその読みやすさである。その理由として次の3つの要因を指摘できるだろう。第1は、本書には難解で面倒な専門知識の解説や高度な数式などが一切出てこない点である。本書を貫いているのは、「ほんの数年前の常識からすればとんでもなく高度な技術や情報を、誰でもつかえるような時代になったので、どんどん応用して、やりたいことをやりましょう!」 (p.3)というごくまっとうな提案だけである。「DXは好むと好まざるとにかかわらずやって来る大きな波のようなもの……どうせやって来る大波なら、うまく乗ってしまおう!」 (p.32)という積極的な姿勢こそが著者の基本的なスタンスである。

第2は、DXについてのずぶの素人に対して、様々な配慮をしながら行き届いた説明がなされている点である。たとえば、「DXには共通する構造があります。大事にすべきこと、気を付けることなど、うまく使いこなすためのコツがありますが、どれひとつ難しいことはありません。わかりやすい事例を紹介しながら、ときに私自身の経験も踏まえて説明」(p.5)したいと述べている。徹底して読者に寄り添った簡潔な説明に徹している。

第3に、成功も失敗も含めて、実に興味深いエピソードが多数紹介されている点である。これによって読者は、将来DXが実現する(あるいはすでに実現した「まるで違う世界」を具体的にイメージできる。たとえば、私が個人的に興味を引いた事例として、第1章の「留守の家に入り食品を届ける!ウォルマートのユニークなサービス」、第2章の「コダックの悲劇」、「凋落する新聞業界で黒字化したワシントン・ポスト」、「スターバックスで起きた怪現象」、「コロナ禍で活躍した位置情報サービス」、第3章の「3Dプリンターで輸送が不要になった!」、「機械学習で人間を超える」、「ブロックチェーンと暗号資産」などの事例を挙げておきたい。

6結び

本書はDXについての体系的なテキストとはいい難いが、DXの本質と現代社会に及ぼす変動の大きさを理解するには格好の入門書である。DXを使って新たな挑戦を考えている方や仕事上DXの推進が必要不可欠な読者にとっては、たいへんに心強い入門書といえるだろう。是非とも一読をお薦めしたい一書である。

石澤直孝 著

石澤直孝 著
『DXの第一人者が教えるDX超入門』
ISBN:9784299028037
2022年、宝島社新書、223頁、本体900円+税

Close

学修支援だより【2023年1月号】

Foreword

「生命力を湛えて、仲間と挑戦の1年に」

看護学部長・教授 本田 優子

通教生の皆さま、希望溢れる令和5年の開幕おめでとうございます。元気よくスタートを切られたことと思います。生命力を満々と湛えて、自身の目標達成に向けて頑張って頂きたいと念願いたします。
さて、私が常に唱え、心の底に置いている創立者の励ましがあります。それは、「私は雨に打たれても毅然と咲く花だ!仲間たちに微笑みを分けてあげよう!強くあれ強くあれ!それが幸福の宮殿を開く第一の合言葉だ」です。毎日元気に生きている喜びと共に、苦労も多い日々の中で、強くあること、心が負けないことが第一であると教えてくださっております。通教生の皆様が、社会、家庭、近隣友好すべてに挑戦しながら、さらに勉学に励まれていること、最大に尊敬すると共に、身近な方々にとっても希望の存在となっていることと思います。
私の地元にも壮年の通教生の方がおられました。タクシーの運転手をされ、奥様を亡くされた後は団地に一人暮らしでしたが、いつもにこやかで、地域の方を和ませてくださっておりました。ある時、腹部に腫瘍が見つかり悪性であることが判明しました。しばらくは抗がん剤の点滴で通院されていましたが、とうとう医師からこれ以上の治療方法は無い、と伝えられ、ショックを隠せずにいらっしゃいました。私は何としても生命力を湧かせて病に勝ってほしい、と看護師の先輩から頂いていた闘病体験の記事をいくつも用意して、その方に渡し、必死で治癒を願っていました。その方も記事を読んで闘病の姿勢が変わったとのことで、負けないと決意されていました。そして数ケ月経った頃、腫瘍が小さくなったとの報告があり、管理の仕事に再就職され、元気に地域活動に参加されるようになったのです。医師からは、こんなステージ4の患者で、元の生活に戻った人は見たことが無い、と驚かれたと、誇らしげに満面の笑顔で報告してくださいました。私が本学に赴任する時には、色紙に「素敵な笑顔忘れません。僕が今日元気に生きているのも貴方のおかげです。創大でお会いできるのを楽しみにしています。」と贈ってくださいました。
負けない心で、病気に立ち向かっておられる方もいらっしゃると思います。本当に体調が優れない時は無理せず、睡眠学習も効果的と捉えて価値的な生活をお願いします。2019年にご来学された尊敬するイギリスの著名な看護師、クレア・バーチンガー博士は、このように励ましてくださいました。「誰一人として『孤独』にしてはいけない。身は離れていても心は近くなれた、一つになれたという、価値の創造が問われているのではないでしょうか。」と。通教生の皆様の共育の支え合いが、一人ひとりの生きる力を引き出し、平和と挑戦への力になると確信いたします。

自立学習入門講座 64

レポート全体のアウトラインをつくるスキル

教育学部 准教授 平井 康章

レポートの作成にあたっては、示されたレポート課題を正確に理解することに始まり、その課題(問い)の答えを導くための説明材料(情報)を教科書を中心にしながら集める作業が必要になります。そしてそれらを活用して、「問い」から「答え」までを説得力ある論理構成で展開していく流れを考えることが求められます。ここでは論理展開の流れ「アウトライン(思考の見取り図)」をいかに作成していくかについて解説していきます。

1.まず「論旨」を明確にすること

アウトラインを作成するための大前提は「論旨」が明確になっていることです。「論旨」とは課題(問い)に対応した結論(答え)ということです。これが明確でないとどこを目指した論述なのかが定まらず、迷走していくことになってしまいます。科目の性質やレポート課題(報告型・論証型)によっても異なりますが、基本的には教科書の該当箇所の理解に基づき、結論が導き出されることになるといえます。
アウトラインを作成するためには、論旨が確定していることが必須の要件となります。まずは問いと答えがきちんと対応しているか、ズレが生じていないかチェックすることが求められます。

2.「アウトライン」とは

アウトライン(思考の見取り図)は、問いと答えの「論旨」を論理的に、証拠を挙げながら説得力ある説明(論証)をするための手順・流れを表すものです。その説明・論証のために必要かつ適切な「副次的な問い」をいくつか挙げ、それらを説得力ある順番に配置することによって結論の妥当性を示すことになります。
たとえば「レポートを作成する際に重要となる留意点を述べなさい」というレポート課題が示された場合、そもそもレポートとはどんなものなのか、どのような要件が求められるものなのかを明らかにしておく必要があります。副次的な問いとして「レポートとは何か」が挙げられます。その上で本題である留意点は何か、という次なる問いを展開することになります。レポートとしての要件を示し、それを踏まえた留意点という流れが説得力を生むといえます。このように副次的問いを組み合わせ、論理構成を組み立てたものがアウトラインとなります。論理展開の全体像を明らかにしたものがアウトラインです。
このアウトラインは学習が深まるにつれ、付け加える項目が出てきたり、枝分かれして説明する方が良いなど、変化(進化)していくものです。そのため当初組み立てたアウトラインが何度も変化し、より緻密に組み立てられたレポート作成につながることになります。
通信教育のレポートの多くは最大2000字でまとめる場合が多いことを考えると、アウトラインを基にそのまま文章化すると字数制限を大きく超えてしまうこともあります。そのためその制限も見通して、アウトラインの項目・手順について重要度を判断し、取捨選択する必要が生じることもあると思われます。

3.落書きアウトラインの技法を使った演習問題

『自立学習入門(第3版)』ではアウトラインを作成する技法として「落書きアウトライン」が紹介されています(PP.129~131)。ここではそれを活用した演習問題を出題し、取り組んでいただこうと思います。
念のため同書でポイントとして紹介されている「落書きアウトライン」作成の手順を以下に引用しておきます。(1)

①1枚の紙を用意する→②紙の上のほうにレポート課題を記入する→③課題と関連した「アイデア見出し」を書きつける→④それらと直接関連する別の「アイデア見出し」を列挙し関連性を図示する→⑤各見出しの適当な配列を考えて番号をつける→⑥各見出しに分量の目安となる数字を記入する。

それでは以下に示す演習用のレポート課題および課題解説を参照いただき、情報収集をしていただいた上で、上記手順に従い落書きアウトライン作成に取り組んでみましょう!

<演習用レポート課題>

エスカレーターの安全な利用の促進のため、エスカレーターでの歩行を禁ずる自治体も登場するようになったが、賛否両論があり、これまで慣習として定着してきたエスカレーターの片側空けによる歩行が多くの場所で変わらず続けられている。エスカレーターの安全な利用を多くの人が認識し、行動するようになるための方策について、あなたの考えを述べなさい。
※課題文章が長すぎるので、落書きアウトラインでは最後の1文「エスカレーターの安全な利用を多くの人が認識し、行動するようになるための方策について、あなたの考えを述べなさい。」だけを書き出してください。

<演習用レポート課題解説>

[ 出題の意図 ]
近年、エスカレーターの安全な利用の促進として、片側歩行を禁止する取り組みが進みつつあります。全国初の取り組みとして、埼玉県は「埼玉県エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例」を制定し、2021年10月1日に施行されました。(2)名古屋市も2023年10月施行を目指して準備をしていることが報じられています。(3)
一方で長年に渡り、日本では左右どちらを空けるかの違いはあるものの、エスカレーターの片側一列を歩行する人のために空けておく利用の仕方が定着しており、混雑する駅でのエスカレーター歩行は大混雑とならないために不可欠との意見も多く出されています。また、すべてのエスカレーターを一律に扱うのではなく、ケース・バイ・ケースの対応が望ましいとの意見も見受けられます。さらには法律や条例で縛るべきではないとの意見もあり、エスカレーター利用者の意識を変えるのは簡単ではないことが明らかになってきました。何が正解か簡単には絞り切れない状況ではありますが、どのような解決策、方法が良いのか、あなたの考えをひねり出してもらうことがねらいです。

[ 考察の条件 ]
教科書もない前提となりますが、考察を進めるための材料(情報)をまず収集していただくことが欠かせません。安全性が叫ばれることにつながるエスカレーターでの事故の件数や実情、全国初となった埼玉県の条例を確認してみることや、日本におけるエスカレーターの導入・発展の歴史や諸外国の利用実態の把握、エスカレーターに関する調査データ(意識調査なども)、そしてエレベーターやエスカレーターといった昇降機を扱う業界団体(一般社団法人日本エレベーター協会)の発する情報など、様々な角度からの情報を探ってみてください。
それらを材料にして、見出しとなる項目を書き出しながら、あなたの想定するゴール(エスカレーターの安全な利用を多くの人が認識し、行動するようになる方策)への説得力ある流れを模索してみてください。

[ 参考文献 ]
エスカレーターの安全利用のための研究調査は多数行われており、論文も様々発表されています。ハード面からソフト面まで幅広い記述ですが、手に入れやすい資料としては国土交通省の発行したものが挙げられます。インターネットでダウンロードが可能です。
国土交通省住宅局建築指導課(2017)『エスカレーターの転落防止対策に関するガイドライン』https://www.soka.ac.jp/download_file/view/aed18824-25d4-4251-b1a6-62fe0d53547d/1754/(2022.11.24閲覧)

4.まとめ

落書きアウトラインの作成いかがでしたでしょうか。設定した課題が広がりすぎていた面もあり、ハード面などになると専門知識が必要であったり、ご苦労をおかけしてしまったかと思われます。その点はお許しください。
この課題においては1つに絞り込んだような正解があるわけではありません。そのため、様々な方策が考え得るため、ここで模範解答のようなものは示しません。要はそれが説得力を持った主張になっているかどうかが正否の鍵を握っています。
落書きアウトラインの作業では、思いつくまま見出しを書き出し、取捨選択をしながら、取り上げる順番を考えてみることから始まります。最終的には裏付けのある情報を基に、他人が聞いても納得のいく論理展開が構成できているかが重要です。そしてそれは、さらに学習を深めていくと進化していく、変化していくものであるということです。

今回の演習が、実際にレポート課題に取り組まれる際に少しでも参考になれば幸いです。お疲れさまでした。

(1)平井康章編(2022)『自立学習入門(第三版)』創価大学通信教育部、P.130
(2)埼玉県ホームページ・エスカレーターの安全利用について
https://www.pref.saitama.lg.jp/a0310/escalator/escalator.html(2022.11.24閲覧)
(3)「エスカレーターは歩かずに」条例 名古屋市が制定へ 名古屋テレビ【メ~テレ】 
https://www.nagoyatv.com/news/?id=016048(2022.11.24閲覧)

Close

学修支援だより【2023年2月号】

Foreword

「地球温暖化」と「技術創生」 -世界は価値を生む“炭素管理産業”の創生に動いている

理工学部長・教授 戸田 龍樹

創価大学は、大学創立50周年を迎えた4月2日、「気候非常事態宣言」を発表しました。気候変動の危機に対して、本学の全教職員、学生が一丸となって対応する意思を表明するために発令された、この「気候非常事態宣言」では、2050年にカーボンニュートラルを目指し、再生可能エネルギーの拡大や省エネルギーに努めることを主軸に、国連が掲げるSDGs達成に取り組むこと、教育・研究機関としての挑戦と人材育成を盛り込んでいます。

10年後には、カーボンフットプリント(二酸化炭素排出量)は、決して社会的にも容認できないものと認識されるようになっていることでしょう。その危機感や関心の高さが政府や自治体の政策と我々の行動の変化を促していくことになります。2050年には、持続可能な、世界の二酸化炭素排出量を大幅に削減する広範囲のエネルギー・トランスフォーメーション、二酸化炭素を回収・利用・除去する大規模な“炭素管理産業”が出現することになります。一連の炭素管理産業はエネルギー生産や新規のプロセスにより付加価値の高い製品や商品を生み出していくことでしょう。

私が子供ころに商店街にあった街の写真屋さんは、デジタルカメラの出現でその多くが消えていきました。今や、車のボンネットの中に目一杯詰め込まれた、大きくて複雑な内燃機関のエンジンはシンプルなモーターに置き換わろうとしています。部品点数も少なくなり、産業構造の変化をもたらそうとしています。あらゆる新しいテクノロジーが、次は、世界の二酸化炭素排出量の削減と除去を目指し、イノベーションの波を起こすことでしょう。

学修支援推進室コーナー

今年度の学修支援を振り返って

学修支援推進室 室長・文学部 教授 髙橋 正

はじめに

コロナ禍が3年目に入り、オンライン授業が軌道に乗り始めました。 この3年で、教職員の皆さんの並々ならぬご尽力により、急速にITC化を進めることができました。 今年度は夏期スクーリングを対面で行うべく準備を進めてきましたが、新型コロナウィルスの第7波の中で、急遽、オンライン授業に変更となり、多くの通教生は残念な思いをされたことと思います。 このような不安定な状況のもとでも、向学心を燃やしつづけて、勉学に励んでこられた通教生の皆様を心から賞賛いたします。

レポート作成講義の開催

今年度の4月から6月にかけて、全国の主要都市で、対面とオンラインで行われた新入生ガイダンスの際に、レポート作成講義を開催しました。 入門タイプの講義を行いましたが、対面では133名、オンラインでは351名、合計すると484名もの多くの新入生が受講しました。 受講後のアンケートによると、7割以上の新入生が「非常に満足した」と「満足」と回答しています。 「勉強の仕方やレポート作成の構成が理解できた」という声が聞かれる一方で、約4分の1弱の学生は、「どちらでもない」と回答しており、今後、さらに、分かりやすい講義を心がけていきたいと思います。
夏期スクーリングでは、対面で授業が行われれば、レポート作成講義を行う予定でした。しかし、オンラインに変更になったために、対面のレポート作成講義は中止となりました。それに代えて、WEBレポート作成講義の視聴を案内しました。その結果、スクーリング期間中に722回のログインがあり、多くの学生がレポート作成講義を学んだようであります。
7月と10月の科目試験の際にも、各地方で、7月はAタイプのレポート作成講義に71名の申込があり、10月は55名の申込があり、Bタイプの作成講義を実施しました。 来年度は、対面での科目試験が行われないために、対面でのレポート作成講義は行いませんが、科目試験の前日の土曜日にオンラインでレポート作成講義を行う予定です。
タイプ別のレポート作成講義は、「通教 学光ポータル」の中の「WEBレポート作成講義映像」で視聴することができます。 この4月から8月末までのこの講義にアクセスした実人数は1080名でした。時間や場所に縛られないで勉強できる講義映像をぜひ利用してください。

自立学習入門講座の掲載

機関紙『学光』に2015年より連載を続けてきた「自立学習入門講座」が、2022年3月で約60本となりました。 今年度は、それら講座をテーマごとに分類して、レポートの作成過程に準じた順序にまとめ、副教材として「学光ポータル」に掲載しました。 良いレポートを作成するためにぜひこの副教材を折に触れて参照してください。
さらに、これまでに発表してきたこの入門講座をテーマごとに、コンパクトにまとめて、「自立学習入門セレクション」と銘打って、今年度より機関紙『学光』に掲載ました。 冊子の『学光』春夏号では、「全体を俯瞰する読み方」を掲載して、文章の全体像をつかむ読み方を学びました。 秋号では「テキストの内容を十分に理解するための情報整理術とは」というテーマで、読書メモや読書カードの有用性とその作成の仕方について収録しています。 冬号では、「情報検索の方法と手順」を掲載しました。
学光ポータルの「支援室だより」の「支援室コーナー」では、5月より次のような記事を掲載しています。 ぜひ、ご活用してください。

学光ポータル「支援室だより」の「自立学習入門講座」のコーナーでは、つぎのような記事を読むことができます。 日頃のレポート作成やテキストの学習に役に立つ内容となっています。ぜひ、参考にしてください。

教員による学修相談

2022年度上半期は4月から7月にかけて、教員による学修相談を行いました。 2年前に学修相談のさらなる充実を図るために、教員ごとに、それぞれの先生が対応できる質問項目をあらかじめ明示して、質問に的確に回答できるようにして実施しています。 一人最大30分の時間をかけることができるので、納得がいくまで質問できるようになっています。 上半期の申し込み数は95件で、日本語教育やレポートの書き方などに関する相談がありました。 学生の皆さんは、何か疑問があれば気軽に相談していただけたらと思います。

おわりに

学修支援推進室の支援活動は、教職員はじめ、全国の指導員や副指導員、さらに、光友会の役員などによって支えられています。 これからも、皆さんの学修支援を精一杯取り組んで参ります。 そのためにも、学修の中で行うアンケートの回答内容や皆さんからのご意見を真摯に受け止めて、支援活動の充実をはかって参ります。 今後ともご協力の程をよろしくお願いします。

教職指導講座

「教員採用試験に向けての具体的取組」

教職キャリアセンター指導講師 小堂 十

こどう つなし
教職キャリアセンター指導講師
[ 職  歴 ] 東京都小学校校長
[専門分野] 社会科、総合的な学習の時間、環境教育、放送教育、SDGs
[担当科目] 教職概論、教職実践演習

世の中を見れば、生きていくことへの不安感に覆われた昨今の状況です。そんな今だからこそ、生きる夢と希望の灯をともす教育の力が重要であり、その現場で働こうとするみなさんの姿は尊いものです。自信と誇りをもって挑戦していってください。
教員採用試験突破のゴールまでのイメージづくりは大丈夫でしょうか。今日は、その第一歩に当たる、「願書」作成について、お伝えできればと思います。

「願書」提出(3月~6月頃) ※自分なりの教師像を描き、自分自身の分析をしよう

【Point】願書は、面接の時に自分が答えやすいことを選んで、分かりやすく丁寧に書きます。

「志望理由」「自己PR」とは?

各自治体教員採用試験・受験の際には、志望理由や自己PRなどを記述する書類を提出します。「志願書」「面接カード」「自己申告書」など、書類の名称は、自治体により、いろいろあります。提出時期・記載様式も、自治体により、異なります。大きく3つの時期に分けられます。

⇒ 出願時(4月~5月)
一次試験時に持参(6月下旬~7月)
二次試験時に持参(8月~9月)

「志願書」作成の基本姿勢

記載項目も、自治体により、様々ですが、よくある項目としては、

○教師を志す理由・志望動機
○本県(道府県)を志望した理由
○校種・教科の志望理由
○自己アピール
○大学で学んだこと・取り組んだこと
○ボランティア・社会貢献活動の経験  
○教師になったら取り組みたいことがあります。

このように自治体により様々ですが、どの自治体受験においても共通することは、「志願票」は、自己アピールのための大切な資料であること、面接試験の際に活用されるという重要書類ということです。その自治体の教師となるためのしっかりとしたPRとなるよう、質問に正対し、誠意をもって、作成しましょう。

今回は、その中から「志望動機・自己PR」等の書き方について解説します。以下の文例を見て、記述の工夫されている点や、よい点を探してみてください。

ブック・スクウェア

『パンデミック監視社会』

通信教育部 准教授 加納 直幸

この著書は、監視研究の世界的権威といわれる、デイヴィッド・ライアン博士(カナダ、クイーンズ大学社会学部教授)によるもので、新型コロナウィルスのパンデミックによって生じた“監視社会”について具体的に書かれたものである。

いわゆる「新型コロナウィルス」が2020年1月に中国の武漢市で発見されから、瞬く間に世界中に拡散して3年目に突入した。さらに2022年12月には、中国の「ゼロ・コロナ政策」の失敗が「ウイズ・コロナ政策」への政策転換されたことによって、世界最大の人口大国での本格的大流行が予想されている。いまや、世界中の人々が「一体、いつになったら新型コロナウィルスから解放されるのか…。」と様々に悩みながら日々の生活を営んでいる。

また一方で、「コロナウィルス拡散の管理」という名の下、世界中で行われてきた政策が「個人への監視強化」へと変貌しきていることも明らかになってきた。すると一体、だれが監視しているというのであろうか。筆者によるとそれは、新型コロナウィルスの拡大を監視する主体として、WHO(世界保健機関)などの国際機関、国家、グーグルやマイクロソフトなどのプラットフォーム企業そして個人であるという。

赤川学 著

第1章では、「そしていまは、デジタルの機器やシステムがあふれる(中略)時代だからこそ、データおよびデータ分析、さらには機械学習や人工知能が、新型コロナ抑制のカギとなる装置だとみられているのだ。」としている。さらに、「21世紀初頭では、新型コロナウィルス感染症の産物である、このテクノソリューショニズム(テクノロジー利用によって解決策を求める考え方)が、人間の生活に悪影響を及ぼしがちなデジタルインフレ(行き過ぎたデジタル化)を生み出し、それがパンデミック以降においても持続し、人権やデータ上の正義を危険にさらす可能性が高い。それは、2020年初めから出回っている提案や製品がデータに依存しており、そのデータが人々を特定のかたちで可視化し、他の機関や当局に向けて政策に利用しやすいように表現し、またその表現に応じて扱われるようにするという意味だ。結果として、だからこそ『パンデミック』と『監視』が結びつくのである。(要旨)(P.P.27~28)」。本著のタイトルはここから発したものである。

「感染症が監視を駆動する」と題する第2章は、「感染症の爆発的蔓延が監視を促進する」と言い換えることができよう。今回のパンデミックでは、「接触確認」のために、デジタル位置追跡システムのみならず、それに関連するアプリやウェアラブル端末、データシステムも使われている。どの型のワクチンを何回接種したかを記録したワクチンパスポートが発行されて、旅行できるようになったり、ウィルスの拡散状況を把握したヘルスデータ・ネットワークなどが登場した。また、日本の厚生省による不評続きの「接触確認アプリ(COCOA)」は2022年11月4日現在で4,120万件がダウンロードされたが、11月17日から機能停止アプリが配信され停止となる。いずれにせよ、「パンデミックという現象は生活のあらゆる領域に触れ、そのなかにことごとく監視の種を蒔いていく。」という著者の言葉は、この問題の本質をついているのではないか。

第3章では「監視のターゲットは家庭」であるとし、“家庭はデータの宝庫”として狙い撃ちにされる存在となったと説明され、第4章において「監視する側の多く、とくにプラットフォーム企業が実際に何をしているかという透明性は高くないにもかかわらず、監視する側にとって私たちの暮らしぶりはおそろしく透明なものとなっている。」と結論している。これは恐ろしいことだといえよう。そしてなにより、私たちから収集されたデータがアルゴニズム(コンピュータ上の計算方法。またはやり方)を使ってどう分析されるかが重要である。なぜなら、その結果は分析され、何か行うための方法に利用されることになるからである。このことは、アメリカや中国の事例を見れば参考になるだろう。そして、何より「これらの問題はまちがいなくプライバシーにまつわる疑問を生じさせる」ことになるのである。

さらに「監視」には“トリアージ”(特定の基準により優先度を決めること)が必要になる。第5章と第6章においては、「不利益とトリアージ」では、新型ウィルス感染症患者の中に、市民、国、そして世界レベルで相対的弱者が存在することを論じ、検査やワクチン接種を受けられる資格に差別や不平等が存在することを証明している。さらに、「今日の監視は官民のパートナーシップの下で行われており、例えば「接触確認」アプリは中国政府とファーウェイ社、米国政府とIBM社の共同産物であることを述べている。

ここまでは、ほとんどパンデミックの出現によって発生した監視社会を悲観的に論じてきた本著だが、最終章の「希望への扉」ではパンデミック以降の世界のための教訓が示されている。それは第一に「パンデミックをチャンス」にする視点であり、「他者のための監視」という視点である。台湾とブラジルに見られた「信頼と正義」のストーリーで展開される本章は、パンデミックで苦しむ私たちのオルタナティブ(今までのものにとってかわる新たなこと)な可能性を示してくれている。

『パンデミック監視社会』
デイヴィッド・ライアン著、松本剛史 訳
ちくま新書1639、筑摩書房、
2022年3月10日第一刷発行、ISBN978-4-480-07468-3、840円+税

Close

学修支援だより【2023年3月号】

Foreword 1

卒業を祝して

学長 鈴木 将史

通信教育部での学業を無事に終え、晴れて卒業の栄冠をつかんだ皆さん、ご卒業おめでとうございます!これで皆さんは、創価大学卒業生という栄えある資格を手にされたことになります。数々の困難を乗り越え、努力と忍耐でつかみ取った卒業は、皆さんそれぞれにとって、かけがえのない価値を持っていることでしょう。そんな卒業生の皆さんの頑張りを、3つの観点から讃えたいと思います。

(1) 努力の勝利者

言うまでもなく、通教生の多くは、日々社会生活を営みながら、仕事のあとや家事の合間の時間をこじ開けるようにして勉学に励んでいます。しかも多くの場合、一人で頑張っておられます。学長である私のもとには、通教生の皆さんの、大変なご苦労の様子がよく伝えられます。海外で学ぶ通教生から、深夜のオンライン授業のお話をうかがったこともあります。そうした困難な状況を見事に克服された皆さんは、まさに「努力の勝利者」であると言えます。

創立者池田先生は、1976年5月の通信教育部開学式でのメッセージにおいて、「通信教育で、学業を全うし卒業することは、きわめて至難であると言わざるをえない」と述べられ、また「当初いだいた向学心を持続させることが、いかにむずかしいかを物語る証左でもあります」と指摘されています。その上で創立者は「五年かかろうが、十年かかろうが、断じて初志を貫き、全員が卒業の栄冠を勝ちえていただきたいのであります」と、全通教生を大激励されています。

それぞれの努力のドラマを描きながら今回卒業された皆さんを、創立者が「努力の勝利者」として讃えてくださることは間違いありません。

(2) 可能性の証明者

皆さんが在籍された期間は、新型コロナウイルス感染症が猛威を振るった時期と重なります。おかげでこの3年間、対面でのスクーリングが全く行えない状況が続きました。夏期スクーリングで全国の仲間と出会えるのを心待ちにしていたのに、がっかりした人も多かったと思います。

しかし物事には明るい面と暗い面が必ずあります。この状況に対応して全国の通教生の学業を止めないために、通信教育部ではいち早くオンライン授業のシステムを確立し、すべてのスクーリング授業をオンラインに代えて行うことができました。この取り組みは全国的に高く評価され、創価大学通信教育部は日本e-Learningアワードの「オンライン授業支援特別部門賞」を受賞しました。

実際、オンライン授業は大学教育の可能性を大きく広げました。複数の大学から好きな授業を選んで受講するといった未来像も描かれています。また、「リカレント教育」と言われる社会人の学び直しの機会も、オンライン授業により提供できます。

多くの授業をオンラインによって履修して卒業する通教生の皆さんは、まさに大学教育の「可能性の証明者」です。創価大学は今後、通信教育の能力を大いに活用することを目指していきます。

(3) 知恵の体現者

3月には多くの通学生も卒業します。しかしながら、同じように単位を積み重ねて到達する卒業でも、通学生と通教生では意味が異なると思います。

最近よく話題になりますが、アメリカでは卒業式のことを”Commencement Ceremony”、すなわち「始まりの式」と呼びます。卒業は「新しい人生の始まり」だからです。高校を卒業して大学に入り、そして大学を卒業して社会に出ていく通学生たちにとっては、卒業とは「社会生活の始まり」に他なりません。それでは、すでに社会で働きながら学問を志した通教生にとっては、卒業によって何が「始まる」のでしょうか?

もちろんその答えは人によってさまざまでしょうが、私は学んだ知識を社会で生かす「知恵の生活」の始まりであると考えます。それは家庭にいる主婦であっても、すでに仕事から退職したシニアであっても同じです。

先にご紹介した通信教育部開学式のメッセージで、通教生が年齢も地域も幅広いことについて、創立者は「私はそこに、創価教育の原点ともいうべき学問への姿勢をみる思いがしてなりません」と表現されています。また、「人々の現実生活を凝視し、その向上、発展のために習得した豊饒な知識を駆使するなかに、創造性の開花がある」とも述べられ、知識を現実生活の向上へと活用する中に創造性が開花すると主張されました。

通教を卒業する皆さんが、学んだ知識を現実社会で見事に生かし、「知恵の体現者」となることこそ、皆さんにとっての卒業の意味であり、創立者が望まれていることであると思います。

ますます分断と対立の深刻な様相を見せる世界にあって、人々を結び付け平和を実現する創価教育は、いよいよ強く求められています。晴れて卒業された皆さんが、創価教育の知恵の担い手として、社会の向上を目指して大いに力を発揮されることを願ってやみません。

Foreword 2

卒業を祝して

通信教育部長 吉川 成司

卒業を迎えられた皆さん、誠におめでとうございます。

皆さんは、コロナ禍でのさまざまな制約にもかかわらず、それらを乗り越えて卒業の栄冠を勝ち取られた方々です。その地道にして真摯な学びの姿勢に深く敬意を表します。コロナ禍でなくても、通信教育における最大の課題は卒業が難しいということにあります。小説『新・人間革命』の「学光」の章では、創立者が通信教育部開設前からこの点に誰よりも心を砕いておられたことが語られています。

さて、2022年8月16日開催の「第47回学光祭」において、の塩原將行氏(池田大作記念創価教育研究所客員研究員)による講演が行われました(『学光』Vol.3掲載「第47回学光祭記念講演:創立者・池田先生と通教生、そして、私にとってのレポート課題」)。

塩原氏は、当時通教職員として、一人でも多くの方と語り、一歩卒業に向けてみ出していただこう、そのためにも通教生が創立者と心を合わせていくことが大事だと考えていたそうです。そこで、1978年の創大祭の記念フェスティバルに通教生の参加枠を得て、その参加者などで第1回通教生大会が開催されました。その際、創立者は、集った通教生と記念撮影をしてくださいました。

それから5カ月後の1979年3月の卒業式の折、いよいよ1期生が4年生を迎えるにあたり、創立者は当時の通信教育部長に「1期生は何人卒業するんだ」と聞かれ、「100人ぐらいは…」 と答えると、「そんなに甘くない。30人卒業すればいいだろう」と話されたそうです。このやりとりは、全国の通教生に伝わりました。この年、創立者が何度も通教生を励ましてくださったことは、小説『新・人間革命』の「学光」の章に語られているとおりです。初の卒業生誕生を前に、8月には夏期スクーリング閉講式終了後に代表メンバーと記念撮影、9月には秋期スクーリング参加者と記念撮影、そして11月には約1000人が参加した第2回全国通教生大会にご出席されています。卒業に向けて、レポートが大量に残っていた人も、スクーリングが残っていた人も、卒業に向けて必死に頑張り、1980年3月、第一回の卒業生229人が誕生したのです。

このようなことをふまえて、塩原氏は、第一回卒業生229人が誕生の背景には、創立者と“信”を“通”わせた 一人一人の奮闘があったと論じています。同じように、今回卒業される皆さんお一人おひとりにもかけがえのない、“信”を“通”わせた奮闘のストーリーがあったことでしょう。

長田弘氏は、魯迅の小説『藤野先生』について次のように述べています。「一人から一人へ黙って手わたされる確かなものが、歴史のなかに、もう一つの歴史としてある。年表に記されることはけっしてないが、一人が一人から受け取る、そこに一人の人間がいるという確かな感覚を、歴史から引いたら、信じられるどれだけのものが、人と人のあいだにのこるのか」(長田弘『本に語らせよ』幻戯書房、2015年)。

卒業は、卒業証書が証明する以上に「そこに一人の人間がいるという確かな感覚」が証明するものです。その確かな感覚とは卒業生の皆さんが握りしめている見えないことづけであり、それは「人と人のあいだ」で手渡されていくことを信じて已みません。

通信教育部開設40周年に、創立者・池田大作先生は寄稿してくださいました(2016年5月 通信教育部開設40周年特別寄稿「『信』を『通』い合わせ人間教育の大道を」)。

「牧口・戸田両先生も、私も、学びたくとも思うように学べない青春を過ごしました。だからこそ、けなげに学ぶ人々と力強く「信」を「通」い合わせて、「学は光」の大道を開きたいと願ってきたのです。(中略)今、わが創大の通信教育部の皆さん方が、この誉れの系譜に真っすぐに連なってくださっています。(中略)通教の皆さん方が、これから無数に続く学友たちとも、限りなく「信」を「通」い合わせてくれる未来を、私は思い描いております」。

2026年の通教開設50周年に向けて、皆さんの後に続く後輩への励ましを宜しくお願いいたします。最後に重ねて、皆さんの栄えあるご卒業をお祝いいたしますとともに、今後益々のご健勝をお祈り申し上げます。

自立学習入門講座65

レポートを「問題提起・意見提示・展開・結論」の四部構成で組み立てる

通信教育部 教授 有里 典三

1 はじめに

論理的なレポートの書き方については、すでに自立学習入門講座27(2018年1月号)と自立学習入門講座39(2019年4月号)において、「序論・本論・結論」の3部構成をさらに具体的に展開する方法として、樋口裕一(2015)が提唱する「問題提起・意見提示・展開・結論」の四部構成法を紹介した。この書き方の優れた点は、悪いレポートに共通する a)命題がしっかりしていない、b)反対意見を想定していない、c)一つの論点を深めていない、d)論理的に展開できていない、e)結論がはっきりしていない、という欠点を自動的に改善できる点にある。四部構成の“型”をしっかりとマスターすれば、後はこの”型“に沿って肉付けをしていけばよいだけである。もちろん肉付けが簡単な作業だといっているわけではないが、レポートを書くときの焦点が明確になる分だけ、少なくとも無駄なエネルギーと迷いだけは軽減されるはずである。以下で四部構成の”型“の要点をもう一度確認しておきたい。

2樋口(裕一)式・四部構成法
1)問題提起(10%・1パラグラフ):【序論①】

■命題を示す部分。
「〇〇は××だろうか」「〇〇は是か非か」という問いかけの形にするのが基本スタイルである。その他、「最近の新聞報道では・・・・・・」といった新聞やテレビの報道などの客観的な事実ではじめる場合。あるいは「〇〇は××である」「・・・・・・には三種類ある」「AとBの違いは・・・・・・にある」などの定義・分類ではじめる場合がある。
◎定義(what)=「〇〇とは何か」を考えてみよう。

2)意見提示(30%・2~3パラグラフ):【序論②】

■命題に対して「賛成か反対か(是か非か)」の立場をほのめかす部分。
「確かに[反対意見]・・・・・・。しかし、[自分の立場・主張]・・・・・・。」のスタイルで書くとよい。反対意見にも目配りをしてその言い分を考慮に入れると、視野が広いレポートになる。
◎現象(what)=「〇〇から現在、何が起こっているか、プラス面とマイナス面」を考えてみよう。

3)展開(50%・5~6パラグラフ):【本論】※この展開の仕方でレポートの価値が決まる。

■レポートの最大の山場。一つの論点に絞って、主張の根拠をできるだけ深く掘り下げて書く部分。展開の仕方には2つの基本形がある。展開パターン① ―→「そもそも〇〇とは××である」(what)と定義から書きはじめる【定義提示型】の展開パターン。展開パターン② ―→「〇〇の背景には××がある」(why)と切り出す【背景提示型】の展開パターン。
◎問題となっている事柄の背景や理由(why)=「なぜ〇〇となったのか」を考えてみよう。
◎歴史的経緯(when)=「いつから〇〇なのか」を考えてみよう。
◎地理的状況(where)=「日本以外の国ではどうか」を考えてみよう。
◎結果(what)=「その結果、将来どのようなことが起こるか」を考えてみよう。
◎対策(how)=「どのように解決するか」を考えてみよう。

4)結論(10%・1パラグラフ):【結論】

■もう一度全体を整理して、賛成か反対かを述べる部分。
「以上より、結論(what)・・・・・・」「したがって、結論(what)・・・・・・・」のスタイルでまとめる。

3「構成メモ」の作成

レポートに書くべき内容を四部構成のパラグラフごとにまとめたものを「構成メモ」と呼んでいる。このメモをもとに肉付けして、2,000字のレポートに仕上げる。「構成メモ」を用意すると、それぞれの部分ごとに自分の考えを論理的に整理して展開することができる。

【例題1】
「生殖医療を進めるべきか否か」というテーマについて、賛成の立場と反対の立場から構成メモと全体の流れを作りなさい。(樋口裕一、2015 : p.78より引用)

3-1【A 生殖医療を進めるべきだという立場】
1)問題提起

「生殖医療を進めるべきかどうか」

2)意見提示

「確かに、生命の誕生を医学の立場でおこなうのは慎重であるべきだ。しかし、子どものできない親の苦しみを理解し、医学の力で子どもができるようにするべきだ」

3)展開

「医学は苦しむ人びとを助けるものであり、人びとが人間として幸せになるのを手助けするものだ。子どもができずに苦しんでいる男女に子どもを与えてもよい」

4)結論

「したがって、生殖医療を進めるべきだ」

3-2【B 生殖医療を進めるべきではないという立場】
1)問題提起

「生殖医療を進めるべきかどうか」

2)意見提示

「確かに、子どもができずに苦しむ人びとは多い。しかし、それは病気ではない。病気でないものを治そうとするべきではない」

3)展開

「医療行為は、悪くなった部分を元に戻すことに制限すべきであって、それ以上の行為をおこなうべきではない。このまま進歩すると、医学が人間の能力までも意のままにできるようになるかもしれない」

4)結論

「したがって、生殖医療を進めるべきではない」

4【演習問題1】

次の①~⑩の文の順序を樋口式・四部構成法を使って入れ替えて、統一性と連関性と展開の面で分かりやすいパラグラフに修正しなさい。

「 ①『 日本の選挙における投票率低下に歯止めをかけるため、罰則規定を設けた義務投票制度を導入すべきだ』という意見がある。②確かに、投票率の低下は、『民意の反映』という民主主義の精神を揺るがしかねない。③たとえば、業界団体と政治家の癒着、国民には理解不能な政党の離合集散など、どれをとっても、国民が政治に期待できる状況にないのは明らかである。④したがって、義務投票制の導入で歯止めをかけるべきかもしれない。⑤しかし、義務投票制の導入で数字上の投票率を上げても、それが『民意の健全な反映』を意味するとは思えない。⑥投票率の低下は有権者の不満の表明であり、棄権も一種の意思表示と考えるべきだ。⑦そもそも問題の根っこには、国民の政治に対する根強い不信感がある。⑧したがって、義務投票制にしたところで、結局は白票が増えるだけだ。⑨以上のことから、義務投票制の導入は問題の本質的な解決にはつながらず無意味だと考える。⑩私はこの意見には反対である。」

(樋口裕一『樋口裕一の小論文トレーニング』ブックマン社、2015、p.101より引用)

■【演習問題1の解答】

① → ⑩ → ② → ④ → ⑤ → ⑦ → ⑥ → ③ → ⑧ → ⑨

■【演習問題1の解説】

① =問題提起【事実確認をした後、義務投票制度の導入は是か非かを問う】 →

⑩ =意見提示【自分の立場・主張は義務投票制度の導入に反対】→
② =意見提示【反対意見への目配り(確かに・・・)】→
④ =意見提示【反対意見から生じる結論(したがって・・・)】→
⑤ =意見提示【自分の立場・主張】(しかし、『民意の健全な反映』を意味しない)→
⑦ =展開【本来のあるべき定義(そもそも問題の根っこには)】 →
⑥ =展開【その定義の説明と解釈(政治に対する不信感・投票率の低下は不満の表明)】 → 
③ =展開【例示(たとえば、業界団体と政治家の癒着などを見れば政治には期待できない)】→
⑧ =展開【本来の定義から生じる結果(したがって、義務投票制でも白票が増える)】→
⑨ =結論(以上のことから、義務投票制度の導入は問題の本質的な解決にはならず無意味)

5【演習問題2】

次の①~⑱の文章を樋口式・四部構成法を使って4つのパラグラフに区分して、それぞれのパラグラフごとの論旨を要約しなさい。ただし、文章の順番は変更しないこと。

「 ①『日本人は落ちこぼれないための競争をしている』 ②精神科医の中井久夫さん(甲南大学教授)には、その専門分野に関することはもちろん、もっと広く文化や社会のことに及ぶまで、多くの点で教えられることが多く、時にお会いして話し合うのを楽しみにしている。③先日もお会いする機会があり、そのときに当初の言葉がでてきた。④これは、日本人の『競争』の意味について、ズバリと言い切っているもので、示唆するところ大である。⑤日本人は『競争』という言葉が嫌いらしく、特に教育界の人の中には、運動会でも、徒競走で差をつけるのはよくない、などとマジメに主張する人がいて呆れてしまう。⑥ところが、最近はアメリカのガイアツで、急に『競争原理』が大切になってきて、『競争に耐える力を養う』などと言い出したが、ここで『競争』の質について考えることが必要と思われる。⑦私はもともと『競争』は必要と考えている。⑧自分の個性を伸ばし、やりたいことをやろうとすると、何らかの競争が生じてくるし、それによって自分が鍛えられる。⑨ところが、中井さんが指摘しているのは、日本人は、自分のやりたいことをやる、というのではなく、『集団から落ちこぼれない』ように頑張る、極端に言えば、一番になっておけば、まさか落ちこぼれることはあるまい、という『競争』をしている。⑩つまり、競争の基盤が自分自身にあるのではなく、全体のなかにある。⑪『自分はこれで行く』というのではなく、全体のなかで何番か、を問題にする。⑫後者のような『競争』は個性を磨くよりも、潰すことに役立つのではなかろうか。⑬こんな『競争』には、私も反対である。⑭日本の多くの子どもは『落ちこぼれないための競争をさせられ』て、そのためにキレそうになっているのではなかろうか。⑮アメリカは日本と比べものにならない競争社会である。⑯これもどうかと私は思っているが、それはともかくとして、アメリカの競争が、どこかでカラッとしているのは、個人と個人のぶつかり合いであるからだろう。⑰日本人のように全体が飴のようにくっついていて、その飴のかたまりのなかで、少しでも『上位』に行こうとしているのではたまらない。⑱『競争』のよしあしを論じる前に、その質について考えてみる必要があるだろう。」

(出典:河合隼雄「日本人は落ちこぼれないための競争をしている」中央公論社、1998年12月号より抜粋・一部改変)

■【演習問題2の解答】

1)①~⑥=問題提起の部分(何を語ろうとするかを明確にする部分)
2)⑦~⑪=意見提示の部分(反対意見を考慮しながら自分の意見を述べる部分)
3)⑫~⑰=展開の部分(自分の主張の根拠を説明する部分)
4)⑱=結論の部分(最後に、もう一度まとめる部分)

■【演習問題2の解説】

1)問題提起をするパラグラフ:「日本人は競争を嫌う人が多いが、最近は、アメリカから言われて、競争が大事だといわれるようになった。はたして本当に競争は大事だろうか。」
2)意見提示をするパラグラフ:「確かに競争は必要だ。しかし、日本人の競争は落ちこぼれまいとして、全体のなかで何番かという競争をしているにすぎない」
3)展開をするパラグラフ:「日本人の競争は個性を潰す競争であって、それには反対だ。アメリカのような個人と個人の競争の方が好ましい」
4)結論を示すパラグラフ:「競争がよいかどうかよりも、どんな競争がよいかを考えるべきだ」

【参考文献】

1)樋口裕一『樋口裕一の小論文トレーニング』ブックマン社、2015
2)樋口裕一『まるまる使える入試小論文』(改訂版)桐原書店、2016
3)有里典三「自立学習入門講座27」(『学光』2018年1月号掲載)
4)有里典三「自立学習入門講座39」『学光』2019年4月号掲載)

Close