2025年度学修支援だより

学修支援だより【2025年4月号】

Foreword 1

新入生歓迎挨拶

通信教育部長 吉川 成司

旺盛な探究心で学びの道への挑戦を

 新入生の皆さん、創価大学通信教育部へのご入学、誠におめでとうございます。教職員一同、心から歓迎しお祝い申し上げます。
 2026年にわが通教は開設50周年を迎えます。これまでの労苦と使命の礎に立ち、更なる高みを目指して共々に前進を開始してまいりましょう。
 さて、今から30年前の1995年5月、通信教育部開設20周年を記念して、創立者・池田大作先生のご指導が『学光』に特別寄稿として掲載されました。創価教育の父・牧口常三郎先生がみずから苦学された経験をもとに、勉学の機会を広く提供しようと、女性への通信教育の先駆けともいえる『女学校講義録』を編纂しておられたことをふまえて、次のように励ましてくださっています。「牧口先生自身、皆さんの大先輩であり、通信教育の重要性を知っておられた大教育者であることを、どうか皆さんは誇りにも励みにもしてください」。
 同特別寄稿ではさらに、後にアメリカ16代大統領となるリンカーンが、一労働者として働くさなか偶然見つけた『イギリス諸法律註解』全四巻を繰り返し学びきったことを紹介し、彼の口癖、「書物を手に入れて注意深くこれを研究しなさい。勉強せよ、勉強せよ! 勉強が第一である」を紹介してくださっています。
 これらを通して、創立者は、「どうか通信教育部で学ぶ皆さんは、このまたとないチャンスに、探究心旺盛に学問に挑戦し、かけがえのない思い出をつくってください」と期待を寄せてくださっています。
 通信教育部には、環境問題、データサイエンス、人生100年時代など現代的な教養に関する科目も開講されます。教職、FP、簿記、日本語教師などの資格取得を目指す方のためのコースが設けられています。そして、このような豊かな学びが自宅でできる、オンラインでの学修環境が整っています。さまざまな現実と格闘しながら、また、ときにくじけそうな心を鼓舞しながら学びゆく通教生の皆さんのご健闘を衷心よりお祈りいたします。

学修支援推進室コーナー 1

「自立学習入門講座」(78-83)の予定とその概要

学修支援推進室

 通信教育部では、通教生皆さんが学習を円滑で効果的に進められるよう、授業とは別に、レポート作成を中心にさまざまなアドバイスを提供しています。
 その一つが「自立学習入門講座」です。そこでまず「自立学習入門講座」の年間予定についてお知らせしますので、レポートの書き方学習の参考にしてください。

 冊子としての『学光』の発行は年3回、春・夏号、秋号、冬号の3冊が予定されています。こちらにはレポート作成講義に関する内容が掲載されます。
 レポート作成講義は通信教育で学ぶときの基本となるレポートの書き方に関する講座です。夏期スクーリング期間中は対面で、それ以外の期間はオンラインで開催します。『学光』の各号には、それぞれAタイプ、Bタイプ、Cタイプの内容について解説が掲載されます。レポート作成講義に参加予定の方は、受講前に読んでから参加するか、受講後に読んでいただけると、理解が深まるはずです。『講義資料』はポータルサイトからダウンロードできますので、ご利用ください。Aタイプはレポートを書くための準備段階です。レポートを書くための情報をどのように読み取ればよいか、読書メモや情報カードの利用法について学びます。Bタイプではパラグラフ・ライティングの基本を学ぶとともに、論理的なレポートの構成をどのように組み立てていくのかを練習します。Cタイプでは、レポートの仕上げ段階として、説得力のあるレポートに推敲し、仕上げていく段階となります。

 「自立学習入門講座」は、ポータルサイト上の「学修支援だより」でも掲載されます。
 冊子とは別に、通信教育部のポータルサイトには「学修支援だより」のページが開設されその中にあります。今年度は7月、9月、1月の3回が予定されています。こちらでは通信教育部で開講されている科目に対応したレポートを書くためのポイントと注意点が示されます。7月号には「健康・医療心理学」、9月号には「国際人権法」、1月号には「株式会社簿記」が掲載される予定です(科目が変更となる場合があります)。この科目を履修している人には有益な情報となるでしょうが、履修していない人にとっても、レポートはこうやってまとめればよいのか、テキストはこうやって学ぶのか、など他の科目を学ぶときにも参考になることは間違いありません。
 以上、「自立学習入門講座」が通信教育部で学ぶ方々がレポートを書くときに少しでも役立つよう担当教員も努力してまいります。

 『学光』に掲載される、タイプ別のレポート作成講義は、さまざまな形態でも行っています。入門タイプを中心に4月~5月にかけて、またそれ以外のタイプについては6月~11月にかけて、リアルタイムのオンラインで実施する計画です。夏期スクーリング期間には対面でも実施する予定です。なお、ポータルサイトでは、レポート作成講義をいつでも何回でも視聴できます。このほかにも、通信教育部の専任教員全体で取り組んでいる、オンラインで行う個別の「学修相談」があります。

 通信教育で学ぶ上で、もっとも課題となるのがレポート作成です。上に紹介しましたようにさまざまなサポートを用意していますので、ぜひご活用ください。

学修支援推進室コーナー 2

学修支援のための年間スケジュール

文学部 教授 髙橋 正

 日々強まる日差しに春の暖かを感じる季節となりました。その暖かさに誘われて花の芽がどんどんと大きくなるように、通教生の皆様も、勉学への意欲がますます高まってくるのを感じていらっしゃることと思います。
 通教で学ぶにはまず履修登録をすることが必要です。履修の仕方、科目試験やスクーリングの申込など手続きは大丈夫でしょうか? 「通教学生ポータルサイト利用マニュアル2025」や「履修登録の手引き 2025」さらに「スタディハンドブック2025」に必要な手続きが掲載されています。手続きが面倒だと思う人もいるかもしれませんが、マニュアルをしっかり読めば手続きできますので、学修への準備を進めてください。
 学修支援推進室では、皆さんの学びへの情熱に応えるべく、今年度も以下に述べるような充実した支援をおこなって参ります。

レポート作成講義を開催

 通教生が学修を進めていく際にまずつまずいてしまうのが、レポートの提出です。レポートとは何か、1200字以上も書けるのだろうか、どのように書いたら合格できるのか? そのような不安を少しでも解消するためにも、レポート作成講義をぜひ受講してください。この講義には、入門・A・B・Cの4つのタイプがあります。各タイプの内容については、「レポート作成講義の各タイプの概要」の記事をご覧ください。開催日時や講義タイプ、オンライン・対面の違いは次の通りです。

  1. 春の開催 昨年度までは、新入生ガイダンスと同日に行っていましたが、講義の時間が十分に取れないなどの状況があり、ガイダンスとは別に、次の日程で行います。特に新入生の方や3年次編入の方は必ず受講するようにしてください。 

      4月13日(日)       10:30     入門タイプ           リアルタイム・オンライン
      4月26日(土)      10:30     入門タイプ            リアルタイム・オンライン
      5月3日(土)    10:30     入門タイプ            対面 創価大学にて
      5月3日(土)        13:30     Aタイプ                対面 創価大学にて
      5月18日(日)      10:30     入門タイプ            リアルタイム・オンライン
      5月18日(日)      10:30     Aタイプ                リアルタイム・オンライン

     リアルタイム・オンラインでは、教員に直接に質問することもできます。5月3日(土)は大学でオープンキャンパスが開かれており、それに合わせて対面で2つのタイプのレポート作成講義を午前と午後に行います。

  2. 科目試験実施日の前日の土曜日午前にA~Cタイプの講義がリアルタイムのオンラインで行われます。日時と講義タイプは次の通りです。​​​​​​​

      6月7日(土)        10:30     Aタイプ
      7月12日(土)      10:30     Bタイプ
      9月6日(土)        10:30     Aタイプ
      10月18日(土)    10:30     Bタイプ
      11月22日(土)    10:30     Cタイプ

  3. 対面で実施する夏期スクーリングの期間中に次の日程で18:30より作成講義を行います。
      8月10日(日)      入門タイプ Aタイプ
      8月15日(金)      入門タイプ Aタイプ  Bタイプ
      8月20日(水)      Bタイプ Cタイプ

 教室や担当教員などについては、夏期スクーリングの各期ガイダンスでお知らせします。
 事前の申し込みが必要ですので、学光ポータルの「学修サポート」のメニュー内にある「各種ガイダンス・レポート講義・個別相談・懇談会申込」の「レポート講義」から申し込んでください。

Webレポート作成講義の利用も

 4タイプのレポート作成講義はWeb上の映像でも24時間いつでも学習できます。対面やリアルタイムオンラインで行われる講義と時間が合わない場合などで、ご利用をお勧めします。講義内容で分からない箇所があれば理解できるまで何度でも視聴が可能です。学光ポータルの「学修サポート」メニューの中の「WEBレポート作成講義映像」からタイプ別を選んで受講してください。

「学修支援室だより」を学びの力に

 毎月、学光ポータルに「学修支援室だより」を掲載していきます。学光ポータルの上方にメニューがありますのでそこをクリックしてください。このメニューの中に、「自立学習入門講座」のコーナーがあります。大学で効率よく学ぶにはどのようにしたらよいのかなど、学びのスキルや意欲を高める記事を掲載していきます。 今年度は4・7・9・1月号に掲載する予定です。
 「学修支援室コーナー」の5・9・12月号では、各学部で開いている「オンデマンドスクーリング」についての記事を掲載します。5月は経済学部の「開発と貧困の経済学」、9月は文学部の「西洋哲学史Ⅰ」、12月は法学部の「憲法総論・統治機構論」のオンデマンドスクーリングを取り上げる予定です。オンデマンドスクーリングはどのように行われるのか、どのように取り組んだらよいのか。そのような不安を持っている方はぜひ読んでみましょう。 
 さらには、担当者による「レポート作成講義」を6月(入門)・11月(Aタイプ)・1月(Bタイプ)の順で掲載する予定です。レポート作成に困っている方はぜひ参考にしてください。

機関誌『学光』の活用を

 今年度も3回、春・夏号、秋号、冬号を冊子で発刊します。春・夏号では、鈴木学長と吉川通信教育部長の新入生への挨拶を掲載します。また、夏期スクーリングに備えて注意する点や夏期スクーリングのイベントや学修支援についてお知らせします。 
 秋号では、夏期スクーリングの開講式での学長挨拶や学光祭の様子をお伝えします。冬号では、来年度のカリキュラム変更点などを詳しくお伝えする予定です。
 さらに、各号では、「自立学習入門講座78-81」が掲載される予定で、優れたレポートを書くにはどうしたらよいのかについて学ぶことができます。 

「教員による学修相談」の実施

 今年度も、オンラインで、通信教育部専任教員による学修相談を行います。上半期は4月から7月に、下半期は、9月から1月に、各教員が月に原則2回行います。毎月の始めに、学光ポータル内の「教員による学修相談」で、翌月の担当教員や相談日時・質問内容をお知らせしますので、それぞれ確認のうえご予約してください。一人30分以内という時間の制限はありますが、教員と直接に話しができる機会をぜひご利用ください。

デジタル副教材『レポート学習のための自立学習入門講座』と『自立学習入門第3版』の活用を

 学光ポータルの「デジタル副教材」の中に、これまで機関誌『学光』に掲載されてきた、「自立学習入門講座」のバック・ナンバーが収納されています。レポートを書く過程で、困ったことや分からないことがすぐに解決できるように内容項目ごとに整理されており、大変に学びやすくなりました。レポート作成やテキスト学習のときにぜひご利用してください。
 また、昨年度より新設された科目「学術文章作法」の教科書である『自立学習入門第3版』がデジタル副教材にありますので、この科目を自由聴講で履修するときなどに活用してください。

 学修支援推進室では、今年度も、皆さんの学修が大きく進展し、卒業を目指して、一人一人が自己の力を伸ばしていけるように、全力で支援に取り組んで参りますのでよろしくお願いします。

学修支援推進室コーナー 3

4タイプの「レポート作成講義」の概要

通信教育部准教授 平井 康章

 通信教育部での学びの多くの部分は、レポートを作成することを通して学び深めていくレポート学習になります。そのためレポート学習を攻略できるかどうかが卒業へのカギを握っているといえます。そのレポート学習に取り組んでいただくための学修支援プログラムの一つが「レポート作成講義」となります。
 ここではレポート作成講義として用意されている4つのタイプ(入門タイプ・Aタイプ・Bタイプ・Cタイプ)それぞれについての概要を紹介します。対面およびリアルタイムのオンライン講義に加え、365日24時間いつでも視聴できる「WEBレポート作成講義」も公開しています。
 なお「レポート作成講義」の開催予定は各タイプの説明の最後に紹介しています。それぞれの参加申込方法は、学光ポータルの「学修サポート」メニュー内「各種ガイダンス・レポート講義・個別相談・懇談会申込」の「レポート作成講義」から申し込んでください。WEBレポート作成講義は、学光ポータルの「学修サポート」メニュー内に「WEBレポート作成講義映像」を用意しています。

1 入門タイプ

 入門タイプは、レポート課題を把握してからレポート提出までの流れ(全作業工程)について概説します。まずこちらを受講してレポート学習の全体像をイメージしていただければと思います。
 入門タイプの講義ポイントは①レポート学習の進め方と留意点、②レポート学習の前半と後半の学習課題、③それぞれの作業工程において、「読む・書く・考える」能力を高める基本的なアカデミック・スキルについて解説します。
 ①では、学術的なレポートと作文・エッセイ・小説との違い、レポート学習の心得、不正レポートと罰則について説明します。
 ②では、レポート学習の前半(1週間・15時間程度の学習量)の2つの重点課題として、「レポート課題の意味を的確に理解するスキル」「テキストの内容を正確に読み取るためのスキル」を示します。そしてレポート学習の後半(1週間・15時間程度の学習量)の重点課題は「論理的なレポートを執筆するためのスキル」、「下書きを見直してレポートを完成させるスキル」の習得であることを示します。
 ③では、レポート学習の全工程で「読む・書く・考える」際に必要となる代表的なアカデミック・スキルを紹介します。個々の具体的なアカデミック・スキルについてはA・B・Cタイプでより詳しく扱います。

入門タイプの形式と開催日時
【オンライン】4/13(日)、 4/26(土)、 5/18(日)各回とも10:30~12:00
【対面・創価大学会場】5/3(土)10:30~12:00、 8/10(日)18:30~20:00、 8/15(金)18:30~20:00

2 Aタイプ

 Aタイプの講義ポイントは、①レポート課題の意味を的確に把握するためのスキル、②テキストの内容を正確に読み取るためのスキル、この2点についての説明です。
 ①については、レポート課題のゴールをピンポイントで予測するために、「出題の意図」や「要求されている解答の種類」を読み取るためのコツ、「考察条件」と「考察の種類」を正確に把握するためのコツ、などを解説します。
 ②については、テキストの全体像をつかむための「トップダウン的な読書術」、内容を正確に読み取るための「パラグラフ単位の精読術」、レポート課題(問い)に対応した解答を探し出すための「探索型の読書術」、思考を深めるための「批判的な読書術」など、4種類の学術的な読書術を説明します。また、こうした読書術と密接に関連する「読書メモ」の取り方や「情報カード」の作り方の技法についても解説します。

Aタイプの形式と開催日時
【オンライン】5/18(日)、 6/7(土)、 9/6(土)各回とも10:30~12:00
【対面・創価大学会場】5/3(土)13:30~15:00、 8/10(日)18:30~20:00、 8/15(金)18:30~20:00

3 Bタイプ

 Bタイプの講義ポイントは、レポート全体を明確な論理に基づいて執筆するためのスキルをわかりやすく説明することです。レポート全体のアウトライン(思考の見取り図)を作成するコツ、全体(2,000字)を「序論・本論・結論」の3つのパートに区分して構造的に組み立てるコツ、レポートの基本単位となる「パラグラフ」の要件や、わかりやすいパラグラフを作るための「叙述パターン」の特徴、などに焦点を当てます。ここで紹介するアカデミック・スキルをどこまで習得し使いこなせるようになるかが、レポートの完成度を左右することになります。

タイプの形式と開催日時
【オンライン】7/12(土)、 10/18(土)、各回とも10:30~12:00
【対面・創価大学会場】8/15(金)18:30~20:00、 8/20(水)18:30~20:00

4 Cタイプ

 Cタイプの講義ポイントは、①下書きしたレポートを見直して磨きをかけ完成品にするまでのスキルを体系的に説明する、②レポートの説得力を高めるための代表的な「論証形式」についての知識を伝える、この2点になります。
 ①については、論理構成面からの推敲、文章作法に則った推敲、原稿作法とルールに則った推敲の3つの観点から、推敲作業のポイントと具体的なスキルを体系的に説明します。
 ②については、論理的な観点からみた「妥当な論証形式」とダメ論証の違い。「分類と定義」、「敷衍(ふえん)的な説明や例示」、「因果関係」、「比較・対照」といった頻繁に使用されるパラグラフ・ライティングの技法について具体的に説明します。

Cタイプの形式と開催日時
【オンライン】11/22(土)10:30~12:00
【対面・創価大学会場】8/20(水)18:30~20:00

教職指導講座

教員採用試験に向けて

教職指導講師 栗本 賢一

 桜花爛漫の春がやってきました。2025年度も創価大学通信教育部(以下、創大通教)の学びに勇んで挑戦していきましょう。
 さて、本年度、教員採用試験(以下、教採)に挑戦する皆さんもたくさんいらっしゃると思います。そこでいくつかアドバイスします。

教採受験に向けて ~絶対にあきらめない!最後までベストを尽くす!!~

 教採の実施日が全国的に早まっています。
 2025年は静岡県の5月10日(土)を皮切りに、6月末までに都道府県・政令指定都市の過半数で実施されます。その後7月6日(日)に東京都と神奈川・千葉・埼玉で実施となります。
 残された時間はもうそんなに多くはありません。教採受験の勉強をあまりしてこなかったという人も、やってはきたけれどまだまだ足りないという方も「絶対にあきらめない!最後までベストを尽くす!!」を合言葉にしたいと思います。
 理由は3つあります。

 第一に、そう決意した方が学びに真剣に取り組めるからです。
 何事もそうですが、中途半端な決意は中途半端な結果しかもたらしません。「合格を目指して頑張る」という強い決意が、学びへの意欲と自身の中にある無限の可能性を引き出してくれます。あきらめない気持ちを持って学ぶ、その真剣さの中で身に付くものがたくさんあります。そしてそれが真に自身のものとなり、将来教壇に立った時に役に立ちます。仮に本年度合格しなかったとしても、来年度合格への布石となり自身の財産として残ります。

 第二に、全国的に合格倍率が下がってきているからです。
 昨年実施された教採の小学校の最終倍率を見てみると、東京都は1.2倍、千葉県が1.1倍、埼玉県は1.7倍と軒並み2倍以下で、数年前までと比べてかなり低くなっています。教員採用数はそれほど減らないのに受験者数は減っている、これは大きなチャンスです!しかもこれは「最終倍率」であって、一次試験合格率はさらに高くなります。
 二次の面接試験(ここは通教生の皆さんにとって強みです)に持ち込むためには、なんとしても一次試験を突破しなければなりません。残された時間は少ないですが、今からでも決して遅くはありません。過去問を中心に、できることに全力を傾注したいものです。

 第三に、創大通教での日々の学びで実力が付いていることを確信してほしいからです。
 先日、通教卒業生で小学校の本採用教員として勤務しているお二人と語り合う機会がありました。さまざま話を聞く中で、お二人に共通している思いがありました。それは、「通教は大変なこともあったがとても楽しかった。なるほど、そうだよなと、納得できる学びが多かった」ということです。
 また、「今、教員として勤務する中で感じるのは“人間性”が大事だということ。“人間性で勝負”ということである。創大通教では、単なる知識や技術の習得だけではなく“人間教育”を学ぶことができた。先生方や仲間との交流を通して“人間性”を磨くことができたと実感している」という点でした。 
 私は心から感動しました。そのとおりだと思いました。レポート作成への挑戦や科目修了試験の突破、スクーリングで学んだ感動など、これまでの学びのすべてが自身の血肉となって刻まれています。それはいつまでも消えるものではありません。それを持って一次試験に臨む。自ずと結果が付いてくると信じます。

「教採対策講座」や教職キャリアセンターの「教職個別相談」を活用

 教採準備を進めていく中で、疑問や質問、あるいはもっと深めたい学びなどたくさん出てくると思います。それらを解決するために「教採対策講座」や「教職個別相談」をフルに活用してください。
 「教採対策講座」では、面接や場面指導、小論文などのポイントを学びます。すでに本年1月から開催してきましたが、4月からも開催するので通教事務局からの案内に注視してぜひ申し込んでみてください。
 「教職個別相談」をまだ利用したことがないという人は、ぜひ一度利用することをお勧めします。ネットから「教職個別相談  教職キャリアセンター  創価大学」に入っていただくと「教職個別相談」のページとなり、そこに担当講師一覧が出てきます。その中から講師を選び、名前をクリックすると予約カレンダーに移動します。オンライン相談も可能です。ご自身の都合と合わせて予約したい日時をクリックし、「対面orオンライン」で「オンライン」と記入してください。
 講師との個別面談では、教採についてのさまざまな質問にお答えしたり面接練習をしたり、あるいは小論文を添削したりなど、一人一人のニーズに応じた対応をします。どの講師もかつて教採の面接官の経験があるので的確なアドバイスをもらえるでしょう。

結びに

 この原稿に向かっているつい先ほど、通教事務局から本年度の教採合格者数(卒業生も含む)が100名を超えたと発表されました。101名です(3月30日現在)。通算すると3,967名が合格しました。創大通教48年の偉大な歴史です。
 創立者・池田大作先生は「最後の事業は教育」とおっしゃいました。なんとしても教採を勝ち抜いていただき、子どもたちの幸福の実現のために教育の道で共々に頑張ってまいりたいと思います。

 なお、教採一次、二次試験について「学光」の以下の号で詳述しています。ぜひ参考にしてください。

 *「学光」は通教ポータルサイトの「デジタル副教材」から読むことができます。

ブック・スクウェア

わかったつもり-読解力がつかない本当の原因-

通信教育部 准教授 清水 強志

 今でも、大学2年生の時に、留学生から受けた質問のことを鮮明に覚えています。「夏目漱石のこの文章はおかしい。ここは『が』ではなく、『は』ではないのか?」というのです。確認したところ、特におかしくありませんでした。そこで、問題ないと伝えたところ、留学生からは「なぜ正しいのか?」と…。しかし、私には「日常的な言い回し」としか言いようがありませんでした。この時、実は、日本語の文法の規則を厳密・正確に学んだ上で(ここではこのような理由から「が」を用いる等)、日本語を読んだり、話したり、書いたりしているわけではないということを理解しました。

 さて、今回の「ブックスクエア」の執筆にあたり、早速、大きな書店に赴いたところ、1冊の本が目にとまりました。『わかったつもり-読解力がつかない本当の原因-』。黄色い帯には、「続々重版! 驚異のロングセラー ほとんど宣伝してないのに、口コミで20万部突破! 仕事・受験に役立つ1冊」とありました。私自身、日頃から「わかったつもり」は、さまざまな意味で「危険」と考えておりましたので、このタイトルだけでも興味がわきましたが、「後から考えて不十分だというわかり方を、『わかったつもり』」(西林 2005, p.40)と呼ぶ著者は、この「わかったつもり」が本を読む際の「よりわかる」状態への妨げになっていると強調していることに、一層強い関心を抱きました。

 ところで、私自身、「学術文章作法」の授業のなかで、本の読み方・考え方などを教えていますが、いまだにうまく説明しきれていないように感じています。とはいえ、私は考えることが非常に好きで、また社会現象やモノゴトを理解することは日常的な行為です。しかし、私自身、「読む/考える」ということについて、言語的な説明を受けたことがありません。むしろ私のこのスキル・態度は、冒頭で述べた「日本語」の例のように、子供の時からの経験やサスペンスドラマなどの視聴に加え、何よりも、学生時代の指導教授による説明(についてのクリティカルシンキングの結果)やゼミにおけるレジュメ発表の際の質問や指摘を受け、「整合性」や「妥当性」を吟味しつつ、実践的に、かつ、(ある意味で)無自覚的に身につけてきたものだからです。

 そういう意味でも、著者が「この本は、文章をよりよく読むためにはどうすればよいのかを述べたもの」(西林 2005, p.3)と、簡潔に説明する本書の「よくわかるための読書の仕方」(実際には、これは社会現象やモノゴトの考え方にも適用できると筆者は考えていますが)」の具体的な「指南」は、非常に興味深い内容でした。そこで、今回は2005年に出版された本ですが、ロングセラー(「2025年1月30日 38刷発行」)になっている本書を紹介することにしました。目次は以下の通りです。

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第1章 「読み」が深まらないのはなぜか?
1.短い物語を読む
2.「わからない」と「わかる」と「よりわかる」
3.「わかったつもり」という困った状態

第2章 「読み」における文脈のはたらき
1.文脈がわからないと「わからない」
2.文脈による意味の引き出し
3.文脈の積極的活用

第3章 これが「わかったつもり」だ
1.「全体の雰囲気」という魔物(その1)
2.「全体の雰囲気」という魔物(その2)
3.「わかったつもり」の手強さ

第4章 さまざまな「わかったつもり」
1.「わかったつもり」を作り出す“犯人”たち
2.文脈の魔力
3.ステレオタイプのスキーマ

第5章 「わかったつもり」の壊し方
1.「わかったつもり」からの脱出
2.解釈の自由と制約
3.試験問題を解いてみる
4.まとめ

引用文献など
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 実際、著者が指摘するように、「わかる」ためには、すべての文法も単語も明確になっているだけでなく、それに関わる「知識」を知らなければなりません。アカデミックな世界における言語は日常語とは異なることが多く、かつ、専門用語が多用されているので、教科書や参考書を読む際には、辞書や専門辞書を活用しなければならないと強調されるのは、そのためです。しかし、それだけでは不十分で、さらに「文脈」のはたらきが大切だと著者は強調しています。ここでいう文脈とは、「物事・情報などが埋め込まれている背景・状況」(西林 2005, p.50)のことです。

 どのような時に「わかったつもり」になりやすいのか、どのようにしてこれを乗り越えるのかという著者の主張は、ぜひ、本書を読んで確認してほしいところですが、次の点だけはあえて触れておきたいと思います。著者は「浅いわかり方から抜け出すことが困難なのは、その状態が『わからない』からではなくて、『わかった』状態だから」(西林 2005, p.40)であり、また、この「『わかったつもり』が、そこから先の探索活動を妨害する」(西林 2005, p.41)からだと述べています。なお、強調しますと、著者は「わかったつもり」の状態には、「物足りない読み」だけでなく、「読み飛ばし」等による「(理解が)間違った読み」も含まれることも指摘しています。

 本書は、読書法についての抽象的な解説本ではなく、例文を取り挙げて、実践的に学べる点も、非常に素晴らしいです。第1章では、かつて小学校2年生の国語の教科書(東京書籍「新しい国語」2年下 平成元年度版)に掲載されていた「もしもしお母さん」を取り挙げ、読み終わったあとに2つの質問を投げかけるところから始まります(わからない点はなかったか、この物語をもっとわかりたいと思うか)。

 本書への関心は高まりましたでしょうか?^^ ぜひ、「なかなか読みが深まらない」という通教生に、実践的に読んでほしい1冊です。

西林 克彦 著

わかったつもりー読解力がつかない本当の原因ー
著 者: 西林克彦
出版社: 光文社 (2005/9/20初版)
ISBN :9784334033224
文 庫: 216頁
価 格: 700円+税

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学修支援だより【2025年5月号】

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尊厳について考える

副学長・経済学部長 西浦昭雄

 数年前、古くからの友人から薦められた本にドナ・ヒックス著『Dignity』(ワークス淑悦訳、幻冬舎、2020年)があります。Dignityは、一般的に「尊厳」と訳されます。
 この尊厳について、「世界人権宣言」は第一条において「すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である」(国際連合広報センター)と謳っています。SDGs(持続可能な開発目標)においても、すべての人々の尊厳は重視されています。
 さて、同書の中でヒックスは、「尊厳とはどのようなものか、例を挙げて説明してください」と問いかけるとほとんどの場合、会話が止まるというエピソードを紹介しながら、尊厳と尊敬は違うことを指摘しています。そして、「もし周りにいる私たちが、そんな子どもたちが成人へと成長していく過程でも、この尊厳というひとつの真理を手離さず大切に育み続けることさえできたなら、もしすべての人間に備わっている生来の価値を感じ続けることさえできたなら、もっと当たり前のように子どもたちを大切に扱い、傷つかないよう彼らを守ってあげられるでしょう」(26~27頁)と述べています。しかし、現実には、ロシア・ウクライナ紛争、イスラエル・パレスチナ紛争といった国際的な紛争に加え、SNSでの誹謗中傷、ヘイトスピーチ、ジェンダー差別など、日常の中で尊厳が傷つけられる場面が後を絶ちません。このような状況だからこそ、尊厳の大切さを学び、自覚する教育が不可欠だと考えます。
 創価一貫教育のミッションステートメントには、「生命の絶対的尊厳を基調とした人間主義」が掲げられています。また、創大には、「人類の平和を守るフォートレス(要塞)たれ」という「建学の精神」があります。生涯教育を掲げる創大通教は、尊厳という普遍的価値を社会に広げていく上で、ますます重要な役割を担うことになるでしょう。私たち一人ひとりが尊厳について深く考え、行動することで、誰もが安心して暮らせる社会を実現できると信じています。

教職指導講座

今年の教員採用試験に向けて

教職キャリアセンター指導講師 小堂 十

今、大切なこと 「教育の使命」

 創大創立時に2体のブロンズ像が創立者より寄贈され、その台座それぞれに言葉が刻まれています。

 「英知を磨くは何のため 君よ それを忘るるな」
 「労苦と使命の中にのみ 人生の価値(たから)は生まれる」

 この言葉に何度励まされたことでしょうか。私自身も、通信教育での教員免許取得を目指し、アルバイトと勉学の日々の生活の中、時に暗澹たる気持ちになることがありました。そんな時、冒頭の言葉を思い浮かべ、自分自身を奮い立たせたものです。
 ここ数年、教員の仕事に対しブラックや働き方改革の遅れ等、批判的な声が高まる中、教員不足の問題が全国で続出しています。大学や私の許にも関係者から連日SOSの声が届きます。
 最近、友人や地域の人と教育の仕事に携わっていることを話すと、以前は「大切なお仕事ですね。頑張ってください。」と称賛と励ましの声をかけていただいたのが、今は「大変なお仕事ですね。お体を大切に。」という憐れみと励ましにも似た言葉が返ってきます。確かに教職は大切でも大変な仕事でもあります。
 しかし、教育の目的やそれに携わる教職としての使命は、基本的には変わりません。教育とは「何のため」か。それは、個人と社会すべての人々の幸福(ウェルビーイング)のため。教職は「何のため」か。それは、子供たちとの日々の関わりを通じて一人一人の可能性を引き出すため。その目的や使命は何と崇高なものであり、人を育て地球の未来を築く生き甲斐のある仕事です。これは、日本の未来に留まらず、平和な世界を築いていく大きな力になります。その尊き使命感を胸に抱き、みなさんが日々の学修に取り組まれることに最敬礼するばかりです。

時代を読み解き、相手を知る

 2025年も既に5月。早い地域では今月に1次試験があるところもあります。1次試験の準備はいかがでしょうか。また、3年生での前倒し受験に挑戦する人は、短期決戦のため、かなり集中した受験対策が必要です。合否は別にしても、受験することで試験にも慣れ、悔しさを味わうことで合格へのモチベーションを高めることもできます。
 様々な影響から、教員採用試験受験者低迷の傾向があるため、自治体によって教員確保に向けた取組が行われています。何をするにしても相手を知ることが大切。相手とは、自分が受験する自治体であり、そこで求められる教育目標や教師像に向き合い、自分なりの考えを明確にしていくことが大切です。出題傾向にも特徴があります。
 今回は、既に1次試験が実施されているlため、「教職教養対策」に絞って、解説していきます。この勉強は1次試験対策だけでなく、次に続く面接試験対策にもつながります。そのためのポイントを整理しましたので、ご確認ください。

「生徒指導&特別支援教育(教育原理)」

①   教育原理・教育時事・法規領域とリンクした「生徒指導提要」中心に
②   幅広く問われる特別支援教育
③ 学習指導要領、令和の答申に関連事項あり 現場目線で考える

「教育時事」

①   国の「教育振興基本計画」 第4期教育振興基本計画
②   自治体のご当地資料
③ 「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」(答申)

「教育法規」

①   教育基本法
②   教職員の義務に関する法規
③ いじめ防止対策推進補

「学習指導要領」

①   まずは「総則」からスタート
②   「特別活動」「総合」そして、受験する各教科の目標
③ 学習指導要領と関連付けた法規・資料の学習

 上記が、ここ数年の採用試験で採り上げられた出題傾向のベスト3です。これらを見ると、現在の学校現場での課題と向き合い、これに対してどのように考え、どう対応できるかの力を問われていることが分かります。教科書通りの答えとして基本的な事項はおさえたうえで、自分が現場に立った時に、どうするかを考えることで2次面接への対策にもつなげていきましょう。
 創立者の池田大作先生も苦学の中で勉学にいそしんでいました。しかし、戦後の不安定な世の中、恩師である戸田城聖先生を支えるため大学を中退し、戸田大学での学びと訓練の道を選択されました。まさしく「労苦」を選んだからこそ自身の「使命」と出会い、その後の偉大なる勝利の足跡を歩まれました。
 免許取得・教員採用試験合格という2つの山がみなさんの眼前にはあります。山を乗り越えるには、いろんなルートがあるように、みなさんがこの山を乗り越え方も様々かと思います。
 是非、お一人お一人が今、ご自身の置かれた立場や環境を見据えた上で、持続的・計画的に進めていくことを願っています。私たち教職キャリアセンターは、そのための羅針盤になれればと日々着任しています。具体的な相談がありましたら、是非お声かけください。お待ちしています。

学修支援推進室コーナー

オンデマンドスクーリングだより➀

通信教育部 准教授 加納直幸

『グローバリー・ヒストリーとSDGsから見た貧困と開発』

 本科目の日本語版教科書である『なぜ豊かな国と貧しい国が生まれたのか』の著者、ロバート・C・アレン氏は「なぜ現代世界には豊かな国と貧しい国がうまれたのか?」と問いかけている。そして、その原因を歴史、制度、文化、地理的条件に加えて、技術革新、グローバル化そして経済政策の持つ歪んだ特性とその影響にこそあると強調しています。(本書P.ⅸ)さらにアレン氏の主張の基盤となっているのが“グローバル・ヒストリ―”という観点です。それは、世界に厳然と存在する“貧困と格差“を解決するためにも「いまやグローバルな存在のわれわれにとって、グローバルな視点、つまり特定の国々や地域の枠にとらわれない発想で、地球規模での歴史が語られなければならない。」(同P.ⅶ)と主張します。つまり私たちに、地球市民(global citizen)または世界市民(citizen of the world)の一員として、世界の全ての国と人々に”貧困と格差の問題“の当事者としての自覚を持つこと強く促しているといえます。
 また、私たちが日常生活の中でよく耳にする「持続可能な開発目標」(SDGs : Sustainable Development Goals)は2015年9月に国連総会で採択され、2030年までの達成を目指した17つの国際目標のことです。これは2000年9月の国連ミレニアム・サミットで採択された8つのミレニアム開発目標(MDGs Millennium Development Goals)で達成されなかった目標の一部を引き継ぐ形で、2015年9月の国連サミット総会で加盟国の全会一致で採決されたものです。それは、17のゴールと169のターゲットから構成されており、日本国外務省HPの説明で二つの開発目標を比較してみると以下の通りになります

【MDGsの8つの目標】(出所:外務省HP、 (ODA) ミレニアム開発目標(MDGs) | 外務省

【SDGsの17の目標】 (出所:外務省HP、「持続可能な開発目標」(SDGs)について

 見ての通り、MDGsよりSDGsの方が、より具体的かつグローバルな視点を取り入れ、実現可能性を高めた開発目標になっており、解決すべき課題が明快かつ具体的になっています。それは、MDGs(2001年~2015年)が国連の専門家で策定され、途上国の目標とされたのに対し、SDGs(2016年~2030年)は国連全加盟国で交渉しながら資金や技術等の実施手段を重視した上で、全ての国の目標とされたからです。
 現代世界の特徴は、インターネットの利用環境さえあれば、その恩恵を受ける全ての人、企業、国家等が、情報の発信者となり、同時に受信者(受益者)ともなれるということです。このことはまた、全ての人、会社、国家等が地球全体の問題群解決の責任を負っているともいえるでしょう。一例として、もし環境や気象関係のセンサーが付いたスマートフォンを世界中に販売出来て、国連開発計画(UNDP)のような信頼できる国際機関で分析と対応策をとることができるなら、世界規模の環境と気象のセンサーのグローバル・ネットワークができます。携帯するスマートフォンが何かの異常を感知した瞬間に情報発信を行い、しかるべき機関で情報の集積と分析、そして対策の実施などが行われば、ほぼリアルタイムで様々な災害を最小化できる可能性がでてきます。もちろん、地震観測ネットや台風予想進路など、国際的なネットワーク等が既に存在しますが、もっとモニター性能を向上させたスマートフォンが普及すれば、関係する地域に住む人々にとっての危険性を最小化できる可能性がさらに高まります。アフリカ地域でいえば、降雨状況、地表温度、バッタの発生の有無、エボラ出血熱などの疫病発生等の情報発信と対策が、その時のその地域の被害を最小化し、その拡大防止に貢献できるかもしれません。つまり貧困の最小化に貢献できる可能性が出てきます。
 さらに人工知能(AI)の発明で新たな格差が出現すると指摘されていますが、それは、AIを使いこなせる側(人、企業そして国家)が、使いこなせない側を政治・経済的、社会的に支配する可能性が、出現しているからです。それでは、「貧困」や「開発」の格差はどうでしょうか。収入、就業形態、所有物の有無等の物差しで計測できる「貧困」は、「開発」に比べて認識しやすいといえます。「貧困」の反対語は「裕福」だと答える人は多いでしょう。しかし、「開発」とは何かといわれて「〇〇だ。」と説明することは難しいのではないでしょうか。「開発」の反対語は「貧困」でしょうか。それとも「未開」でしょうか。その一つの答えとして「人間開発指数(HDI)」があります。これは国連開発計画(UNDP)が毎年発表するもので各国の人間開発を一人当たりの国民総所得(GNI)、平均余命、教育・識字の複合統計としてまとめたものです。これは、現在の経済的状況と、未来の豊かさを担保する識字率と教育レベルを表したものです。一言でいえば、「現在と将来の幸福を担保(保障)する指数」といってもよいかもしれません。開発とは単に貧困の削減や撲滅のことだけでは決してありません。この「持続可能な開発目標(SDGs)」は、「国連加盟国すべての開発目標」であるとされた時点で、全ての国々と人々の現在と将来の幸福のために、全ての国連加盟国が負う責任と義務であることを機会あるたびに再認識しながら、『開発と貧困の経済学』を学んでいって下さい。

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