自立学習入門講座68
―【1 課題把握】評価の細目についての具体的な説明 ―
今回は、レポート評価の4つの柱、すなわち1 課題把握、2 教材理解、3 論理構成、4 原稿作法・文章作法のなかで、最初の【1 課題把握】について説明します。まず、【課題把握】評価の細目ですが、概ねどの教科のレポート課題であっても、ほぼ共通して次の3点が評価の基準あるいは中心になると考えてください。すなわち、①「レポート課題の意味」がどの程度正確に把握できているか。②レポート課題解説に示された「考察条件」がどの程度正確に踏まえられているか。③「考察の種類・タイプ」(報告型か論証型か)の判別がどの程度的確にできているか、の3点です。
2.【1.課題把握】評価のルーブリックに照らしてA~Dを評価する
提出されたレポートを評価する教員は、課題把握の観点については以下のような項目別評価のルーブリックに照らし合わせてA~Dの評価を行っています。
A評価(合格)は、①「レポート課題の意味」を正確に把握していて、②「考察条件」についても完全に網羅できていて、しかも③「考察の種類・タイプ」の判別も的確なレポートを意味しています。以上のような細目についての課題把握が85%以上できている場合です。それに対してB評価(合格)は、①~③について概ね正確に把握できていて満足できるレベル(目標到達レベル)という意味です。細目についての課題把握が60~84%程度まで完成されている場合です。C評価(合格)は①~③について十分には完成されていないという意味です。細目については50~59%程度の完成度にとどまっている場合です。最後のD評価(不合格)は①~③についてまったくできていない、不完全なレポートだという意味です。細目についての完成度が49%以下であり、最提出が必要なレポートの場合です。
3.レポートを提出する前の自己チェックを習慣化する
以上の評価基準を理解した上で、皆さんに要望しておきたいのは、レポートを提出する前に【1.課題把握】については、①レポート課題の意味は正確に理解されているか? ②レポートを作成する際に踏まえるべき考察条件を見落としていないか? ③考察の種類・タイプ(報告型か論証型か)の判別は正確にできているか? という3点を必ず自分でチェックする姿勢を習慣化していただきたいという点です。
さて、本稿で事例として使用した文献について簡単に説明しておきます。本稿において「仮のレポート課題」と「レポート課題解説」を作成するにあたっては、半世紀以上にわたって水俣病と関わり続けてきた、そして「水俣学」の提唱者としても有名な原田正純氏(以下,原田と略記する)の著作『“負の遺産”から学ぶ』(水俣学研究センターのブックレットNo.2、熊本日日新聞社、2006)を参考にしています。とりわけ、ブックレットNo.2から引用する際には、原田自身の水俣学に寄せる思いを率直に語った「水俣病の教訓を受け継ぐ」(pp.27~31)という箇所を中心に本文から抜粋させていただきました。
著者の略歴についても簡単に触れておきます。原田は、1934(昭和9)年9月14日に鹿児島県薩摩町で生まれ、熊本大学医学部(神経精神医学専攻)を卒業。その後40年以上にわたって水俣病と関わり続け、世界で初めて胎児性水俣病を発見して注目を集めました。原田は現場に出向いて徹底的に患者の診察を行い、現場から学ぶという姿勢を一貫して堅持してきました。これまでに熊本学園大学社会福祉学部教授、水俣学研究センター長などを歴任されています。本稿で引用した著書以外にも、『水俣病』『水俣が映す世界』『水俣 もう一つのカルテ』『金と水銀』『いのちの旅』など多数の著書を発表しています。
「原田が『水俣学』を提唱した背景にはどのような問題意識と考え方があったのだろうか? 彼の論点を整理して『水俣学』の学問的性格を明らかにしなさい。」
「①原田が提唱した『水俣学』の学問的性格を明らかにするためには、次の諸点について説明しなければならない。②すなわち、著者が水俣病を公害の原点と考える理由とは何か。③水俣病の教訓を“負の遺産”と呼ぶ背景には著者のどのような学問上の意図があるだろうか。④著者の学問観として『水俣学』の成立要件をどのように考えているだろうか。⑤著者は『水俣学』の研究目的と研究方法をどのように考えているだろうか。
⑥水俣はなぜ公害の原点といわれるのか。⑦それこそローマ時代から中毒の報告は存在しているが、原田が水俣病を公害の原点と考える理由はいままでとは違う水俣病事件の発生のメカニズムに注目したからである。⑧著者は、この水俣病の教訓を“負の遺産”と呼び、この問題をずっと受け継いでいく体制作りが必要だと考えている。⑨その理由の一つは、水俣病が公害の原点であり、人類史上初めての経験であるならば、足尾鉱毒事件のように、百年研究され続けることによって、そこに新しい学問のあり方が生まれる可能性を見ているからである。⑩もう一つは、水俣病が水俣地区に特殊発生した不幸な事件ではなく、それぞれの身の回りに水俣があり水俣を発見するために水俣病を学んでいくことが必要だと考えているからである。⑪原田は、二十世紀に起きた水俣病という環境汚染を通じて起こったミステイク(中毒)を徹底的に検証することによって、危機的な環境破壊の現状を乗り越えて、「環境の世紀」といわれる二十一世紀につなげていこうと意図している。
⑫とりわけ、原田が『水俣学』の成立要件として重視しているのは、バリアフリーの思想である。⑬『水俣学』は、学会や学問の分野、あるいは素人と専門家の壁、各大学の学閥、こういうものを一切なくした学問でなければならない。⑭しかも、国と国のバリアを取ってしまう国際的な学問でなければならない。⑮さらに、『水俣学』は「弱者の立場に立った学問」をスローガンとして掲げ、徹底的に現場から学ぶ姿勢を重視している。⑯そういう学問を、水俣病事件から学ぶ中で打ち立てていけば、“負の遺産”としての水俣から次の世代の人たちがいろいろなことを学んでくれるに違いない。」
的確な課題把握のためには、基本的な問いの束からなる【チェックシート】を作成して、それに基づいてテキストを精査しそれらの問いに正対した適切な解答を示すことが大切です。レポート課題に的確に答えるためには、つぎの段階のどのような【問い】をもってテキストを読むのかという読書術とも密接に関係してきます。では、基本的な問いを掲げてレポート課題解説からそれらと関連した情報を読みとってみましょう。
- 「レポート課題の意味:何が問題なのか」➡課題解説文①
- 「レポート課題の意味:何を明らかにすればよいか」➡課題解説文②、③、④、⑤
- 「どんな考察条件を踏まえればよいか」➡課題解説文⑦、⑨、⑩、⑪、⑫、⑭、⑮
- 「どんな種類・タイプの考察か(報告型か論証型か)を判別する」➡報告型のレポート
- 「お宝情報はどこにあるか」➡以下の「テキストからの関連箇所の抜粋」を参照せよ。
- 「参考文献についての情報」➡本稿の「4. 著者の略歴」を参照せよ。
8.【テキストからの関連箇所の抜粋】= 原田正純著(2006)『 “負の遺産”から学ぶ』(水俣学ブックレットNo.2)からの抜粋。
▪水俣はなぜ公害の原点といわれるのか? ➡「環境汚染を通じて、しかも食物連鎖を通じて起こった中毒というのは水俣病の前にはありません。世界の人が水俣に注目しているのはそこなのです。それから胎盤を通って起こった中毒というのも水俣の前にはない。・・・この発生のメカニズムこそが公害の原点なのです。」(p.28)
▪病名の変更は妥当なのか? ➡「水俣病は有機水銀中毒だから、『有機水銀中毒とするべき』という意見もありました。それもまた事実ですが、重要な事実を見落としているともいえます。それは、水俣病が環境汚染による食物連鎖を通じて起こった有機水銀中毒であるという点です。水俣病を有機水銀中毒としてしまうと、その発病のメカニズムの特徴が消えてしまいます。」(pp.28-29)
▪『水俣学』の成立要件は何か? ➡「大事なことは、バリアフリーです。」(p.30)
▪『水俣学』の研究目的は何か? ➡「あくまでも研究の目的は弱者の立場に立つということです。これが大事なことで、水俣で嫌というほど思い知ったのが、何のために研究するのか、誰のために研究するのかということでした」(p.30)
▪『水俣学』が重視する研究方法とは何か? ➡「それから現場主義です。徹底的に現場から学ぶ。世界で初めての胎児性水俣病の発見は、お母さんの一言から始まったわけです。現場にこそ教科書があり、現場にこそ専門家がいる。」(p.30)
▪著者が水俣病の教訓を“負の遺産”と呼ぶ理由は何か? ➡「水俣学というのは、さまざまなバリアをなくし、しかも国際的な学問、そして現場を大切にして、何のためにするかということを明確にした学問、そういうものを水俣病事件から学ぶ中で、打ち立てていく。そうなれば、“負の遺産”としての水俣から次の世代の人たちがいろいろなことを学んでくれるでしょう。」(p.30)
【参考文献】
原田正純著(2006)『 “負の遺産”から学ぶ』(水俣学ブックレットNo.2)熊本日日新聞社
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