自立学習入門講座69
-【2 教材理解】評価における細目について-
通教生の皆さんは、「レポートが返却された際にどこを確認されますか?」と聞かれたら、どのように回答されますか? おそらく、「??! この先生は何を言っているんだ!」と、回答する前にやや憤りを感じる方もいるのではないでしょうか^^
なぜなら、「総合評価に決まっている!」と考える方が少なくないと思うからです。他方、「総合評価はもちろん、さらに4つの項目別評価(1.課題把握、2.教材理解、3.論理構成、4.原稿作法・文章作法)、そして教員からのコメントに決まっている」と考えた方もいると思います。ここで私が強調したいのは、通教生全員が後者のように考えるようになっていただきたいということです。
参考までに、以下の図は教員による成績入力の画面です。コメント、総合評価、4つの項目別評価が入力される仕様になっています。
通信教育部で要求されるレポートとは、与えられたテーマ(レポート課題)に対して、教科書や文献資料を解読・整理したうえで、客観的な事実によって論理的に構成・展開し、また、解説・論評した「(自分の)学修成果報告書」のことですが(平井 2022 p.57)、実は、皆さんは卒業までの数多くのレポートを作成する学習を通して、読む能力(読解力)、考える能力(論理的に考える力、推論する力、クリティカル・シンキングなど)、そして、書く能力を向上させることも重要なのです。
そのため、提出した学習成果報告書としての自分のレポートが合格したか否かということと同じくらい、否、それ以上に、返却されたレポートの振り返り学習が非常に重要な学びになると私は考えています。そして、この振り返り学習に役立つのが、まさに4つの項目別評価と教員からのコメントなのです。
そこで、この度、通信教育部では、皆さんのレポート学習におけるサポートを強化するため、4つの項目別評価をより具体的にわかりやすく(何が評価されているのかを)伝えるために、具体的な細目(全13項目)を策定し、来年度より公開することになりました。
本稿では、来年度の「項目別評価細目」の公開・ポータルサイトでの運用に先立ち、【2 教材理解】評価における「項目別評価細目」(3項目)について説明します。
【2 教材理解】とは、「教材内容を十分に理解しているか」ということであり、あえて別言すれば、「教科書や文献資料を熟読し、かつ、正確に理解しているか」ということです。熟読していても、理解に誤りがあってはいけません。また、正確に理解するためには、熟読・精読が必須です。それゆえに、科目「自立学習入門」や「レポート作成講義A」では、正確に読むための「読書術」(大意をつかむ読書術、自問自答しながら精読、読書メモの活用、他)を学んでいます。
「教材理解」における評価の細目(3項目)は以下の通りです。
「教材理解」における評価の細目 | |
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1 | 教材の主張、専門用語、重要な論点など、【シラバスの学習範囲の内容】の理解 |
2 | 【レポート課題に必要なテキストの内容】の理解 |
3 | テキスト以外の関係資料の参照 |
ここでいう「テキスト」とは、教科書のことですが、1つめの「【シラバスの学習範囲の内容】の理解」と2つめの「【レポート課題に必要なテキストの内容】の理解」の違いは、「シラバスの学習範囲の全体を理解しているか」、あるいは、「教科書のなかで、レポート課題に必要な部分を理解しているか」ということになります。とはいえ、皆さんが書かれたレポートを読んで、実際に教員がこれらの違いを判断することは難しいと思っていますが、皆さんにとっては、出題者(教員)の意図をきちんと理解できるようになることが大切と考えています。つまり、該当部分のみの理解で十分なのか、それとも、教科書全体を理解しなければならないのかという教員の「心」がわかるのです。
ところで、当然のことながら、すべてのレポートにおいて3つの項目別評価細目が該当するわけではありません。言い換えれば、レポート課題によって該当する項目別評価細目は異なります。そこで、来年度からは、レポートごとに、参照される項目別評価細目が設定され、ポータルサイトにて公開されます。つまり、【2 教材理解】に関して、1~3のすべての細目を選択する先生もいれば、いずれかのみを選択する先生もいるということです。
蛇足ですが、「理解」について『デジタル大辞泉』では、「1 物事の道理や筋道が正しくわかること。意味・内容をのみこむこと。『理解が早い』 2 他人の気持ちや立場を察すること。『彼の苦境を理解する』 3 『了解2』に同じ」とあります(「コトバンク」利用)。すなわち、意味・内容だけでなく、道理や筋道も含むということです。また、科目や教科書にもよりますが、教科書で書かれていることが必ずしも一般論や常識と一致するとは限りません。それゆえに、教科書を書いた著者の立場も理解する必要があるかもしれません。
なお、インターネットで情報検索すると、多種多様な説明・見解・解釈があり、なかには誤った説明もよく見かけます。それゆえに、難解な内容をインターネットで調べ、簡易に書かれた説明文をもとに理解しただけでは、教科書を正確に理解したとは言えません。教科書との齟齬があるかもしれないからです。あくまでも、インターネットなどで調べた内容をもとに、改めて教科書と向き合い、正しく理解することが求められます。
他方、3の「テキスト以外の関係資料の参照」が必要とされている場合には、他の関係資料を参照して「主題」(レポート課題)について多角的・総合的に考察する必要があるということです。
これまで、通教生からは「参考文献」についての質問がよく寄せられました。すなわち、「レポートを書く際に参考文献を読む必要があるのか」あるいは「教科書だけではAを取れないのか」という類のものです。私自身の回答は、「科目や教員によるので、『課題解説』から読み取るより他に方法はない」という趣旨でしか、回答できませんでした。しかしながら、来年度からはこの項目の該当/非該当を確認することで判断ができるようになります。つまり、例外はあるかもしれませんが、この項目が選択されている場合には、必ず教科書以外の関係資料を参照しなければならないということになります。逆に言えば、教科書以外の参考文献が必須でないレポートでは、この項目が選択されていないということです。項目別評価細目を設定した意図の一端を理解していただけたのではないでしょうか?
なお、参考文献について触れましたので、付言しますが、教員がレポートを書く際に参考文献を必須としていなかったとしても、自分の理解の促進などのためにインターネットなどを参照した場合には、レポートの「参考文献」の欄に必ずすべて明記する必要があります。誤解されている方もいますので、強調しますが、「参考文献」における「文献」には本、論文、新聞、雑誌はもちろん、インターネットやSNSなど、デジタル・データも含まれます。ちなみに、「参考」とは、「何かをしようとするときに、他人の意見や他の事例・資料などを引き合わせてみて、自分の考えを決める手がかりにすること。また、そのための材料」(『デジタル大辞泉』、「コトバンク」利用、下線清水)とのことですので、レポートを書く際に利用した「媒体」すべてを記載する必要があるのです(ただし、国語辞典を除くなどの例外はあります)。
正確に理解するということについて、例を取り上げながらもう少し話をしたいと思います。アカデミックな文章には、科目特有の「用語」というものがあります。それゆえに、日本語を読んでいるのに、まったく理解できないということがあります。馴染みのない言葉の羅列に頭のなかのイメージがついてゆかないからです。それゆえに、キーワードとなっている専門用語は正確に知っている必要があるということです。これに関連しますが、たとえば、「アイデンティティ」や「カリスマ」という言葉を正確に理解していますか? 最近では、日常的に使われている言葉ですが、その意味を正確に理解していない人がいます。もし、誤っていた場合、日常生活では支障はないかもしれませんが、教科書の理解の妨げになってしまいます。気になった言葉はすぐに調べる習慣をつけましょう。
ここで、演習として、夏目漱石の講演「私の個人主義」(大正3年)の一部を読んでみましょう。
それからもう1つ誤解を防ぐために一言しておきたいのですが、何だか個人主義というとちょっと国家主義の反対で、それを打ち壊すように取られますが、そんな理屈の立たない漫然としたものではないのです。いったい何々主義という事は私のあまり好まないところで、人間がそう1つ主義に片づけられるものではあるまいと思いますが、説明のためですから、ここにはやむをえず、主義という文字の下にいろいろの事を申し上げます。ある人は今の日本はどうしても国家主義でなければ立ち行かないように云いふらしまたそう考えています。しかも個人主義なるものを蹂躙しなければ国家が亡びるような事を唱道するものも少なくはありません。けれどもそんな馬鹿気たはずはけっしてありようがないのです。事実私共は国家主義でもあり、世界主義でもあり、同時に個人主義でもあるのであります。
出典:夏目漱石(2008)『夏目漱石』筑摩書房、pp.446-447。
どうでしょうか。まず、この文章を正確に理解するためには、本当は「私の個人主義」のすべてを絶対に読まなければならないというのは大丈夫でしょうか。また、昨今では、「個人主義」という言葉がよく聞かれますが、実は、個人主義にはさまざまな意味があり(ex. 〇〇的個人主義)、漱石の考える個人主義はなかなか興味深いのですが、今、世の中で語られるすべての個人主義が漱石の考える個人主義と同義である(あるいは、「これが個人主義の意味なんだ」)と誤解してしまうと、大問題になるということです。つまり、この文章を正確に理解するためには、引用された文章のみを正確に理解するだけでなく、全体像を知り、かつ、多様な個人主義の考え方も理解した上で、漱石の「個人主義」観を相対的に位置づけることが大切になります。
正確に文章を理解した上で、何を考え、どのように自分のものにするかというのは、人によって異なっていいと思いますが、たとえば、大正3年という時代に注目する人がいるかもしれませんし、あるいは、漱石が何歳のときに、どのような状況下でこのようなことを述べたのかと考える人がいるかもしれません。個人的には、文章の意味・内容だけでなく、その背景について知ることも「理解」に含まれると考えます。
もう1つ、紹介したいと思います。フランスの社会学者デュルケムが1895年に発刊したフランス語の書物『社会学的方法の規準』を翻訳した一部です。
社会的事実は、行動、思考および感覚の諸様式から成っていて、個人にたいしては外在し、かつ個人のうえにいやおうなく影響を課することのできる一種の強制力を持っている。したがって、それらの事実は、表象および行為から成っているという理由からして有機体的現象とは混同されえないし、もっぱら個人意識の内部に、また個人意識によって存在している心理的現象とも混同されえない。
デュルケム(1978)『社会学的方法の規準』宮島喬訳、岩波書店、p.54。
いかがでしょうか。はっきり言って、「これは日本語なのか!」と思った人は少なくないと思います。でも、実際、この本は私が大学1年生の時の教科書だったのです。この文章を正確に理解する方法はいくつか考えられます。もっとも効率的な方法の1つは、教員に直接質問するという方法です(その場合、自分なりにしっかりと調べ、「このように考えましたが、いかがでしょうか?」と質問することを心がけて下さい)。しかし、通信教育では質問の機会は多くありません。そこで、別のアプローチは、複数の専門辞書や専門書を通して「デュルケーム」と「社会的事実」を理解し、その上で複数の国語辞典を使って「非日常的な日本語」を丁寧に調べながら、この文章を読み解くという方法です。
先に述べましたように、学術的な書物は日常的な日本語とは異なることがよくあるので、遠回りのようですが、人物や重要な概念を理解してから読み直すという方法が近道ということもあります。なお、実は、フランス語の原文を読みながら理解するという方法もオススメなのですが、少しハードルが高いでしょうか。
ただし、長い文章、複雑な文章を読む際には、「主語・目的語・述語」を確認しながら、丁寧に読むということはとても大切な「読み方」になります。また、接続詞に注目しながら、文章の流れを理解していくということも大切です。例文では、「社会的事実は、強制力を、持っている」「したがって」「それらの事実は、(~と)混同されえない」となります。
参考文献
デュルケム(1978)『社会学的方法の規準』宮島喬訳、岩波書店。
夏目漱石(2008)『夏目漱石』筑摩書房。
平井康章編(2022)『自立学習入門[第3版]』創価大学通信教育部。
「コトバンク」https://kotobank.jp/ 2023年9月21日閲覧
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