2023年度学修支援だより

学修支援だより【2023年4月号】

Foreword 1

新入生歓迎挨拶

学長 鈴木 将史

誰もが卒業できる ~成績優秀者からのアドバイス

創価大学通信教育部の新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。心から歓迎いたします。皆さんは、これから出会う新しい学問の世界に、期待を大きく膨らませていることと思います。しかし通信教育での学業については、創立者池田大作先生も「学業を全うし卒業することは、きわめて至難である」と述べられています。そこで、昨年度学部総代を獲得して卒業された方々の言葉から、皆さんへのアドバイスを紹介しましょう。

(1)スクーリングで出会った仲間は宝物
対面スクーリングへの参加は大変ですが、「幅広い年代の方々と学ぶことで、さまざまな発見や気づきを得ることができた」、「他の学生たちが努力している姿に励まされた」など、共に学ぶ仲間との出会いこそ宝物です。

(2)よい評価は学習意欲の源
レポートを1通作成するだけでも大変な労力がかかりますが、苦労して得た評価によって、「また次も頑張ろう」との活力が生まれたと先輩も語っています。全力で取り組んでよい循環を作っていきましょう。

(3)学習は最大の娯楽
新たな学問は自身の知識や見方・考え方を広げてくれます。それは刹那的なエンターテインメントよりも、本当の意味での「楽しさ」を与えてくれるでしょう。

(4)通教での学びを社会に還元
社会生活を営みながら学ぶ通教生は、学びをどのように社会に生かすかを常に考えながら学ぶことができます。在学中も卒業後も、自身の学びが社会でどう役立つのか意識しながら学ぶことで、学習が深みを増すことでしょう。

創立者は「創価」の語源である「価値創造」について、「いかなる環境にあっても、そこに意味を見いだし、自分自身を強め、そして、他者の幸福へ貢献しゆく力」であると述べられています。通教での鍛えの日々は、単に自身のための勉強を超え、まさに他者の幸福への貢献を目指す日々です。
優秀な成績で卒業された先輩の姿に学び、ぜひ皆さん一人ひとりの「学修の歴史」を綴ってください。

Foreword 2

新入生歓迎挨拶

通信教育部長 吉川 成司

無形資産を築きゆく 学びの価値創造を

新入生の皆さん、創価大学通信教育部へのご入学、誠におめでとうございます。教職員一同、心から歓迎しお祝い申し上げます。

通信教育部長として、学生の皆さんお一人お一人がその志を果たすことができますよう通信教育部長として鋭意努めてまいります。2026年にわが通教は開設50周年を迎えます。これまでの労苦と使命の礎に立ち、更なる高みを目指して共々に前進を開始してまいりましょう。
 

2022年度の夏期スクーリング開講式に際して、創立者・池田大作先生は、通教生の皆さんに万感こもるメッセージを寄せてくださいました。その一節には次のようにあります。

「『人生100年時代』にあって、『無形資産』-金銭等では表せない、豊かな学びや人間関係、また生き方の内実に注目が集まっています」と。そして「皆さんこそ、まさに時代が希求する『心の財(たから)』のパイオニアの一人一人です」と。

家族や友人関係、知識、健康といった見えない無形の資産に眼を向けて自らを再創造することはこれからのマルチステージ化する人生にとって重要なことです。そして、何より本学が理念として掲げている価値創造は、「心の財」を第一とするものです。「皆さんこそ、まさに時代が希求する『心の財』のパイオニア」であるとの創立者のご指導通り、学びの価値創造を期待しております。
 

最終学歴も大切ですが、これからの時代は、今何を学んでいるのか、いわば最新学習歴が大切になります。通信教育は、働きながら学ぶ大人にとって、無形資産を築きゆく有力な学びの道です。学習の計画や目標を成し遂げた達成感、知識を得て広がる人生観・世界観、同学の友との心の触れ合いなど、学びの喜びにあふれた学生生活でありますよう衷心より念願しております。

学修支援推進室コーナー 1

今年度の学修支援について

学修支援推進室 室長・文学部 教授 髙橋 正

新年度を迎え、春の暖かい気候に心軽やかとなり、勉学に新たに取り組む季節がまた始まりました。多くの学生の皆さんは、今年こそは、あるいは、今年はさらにと、単位修得や卒業への決意を固めていることと思います。学修支援推進室では、皆さんの学修への情熱に応えるべく、今年度も充実した支援をおこなって参ります。

「学修支援だより」を見ましょう

昨年度に引き続き、毎月、学光ポータルに「学修支援だより」を掲載していきます。 学光ポータルの上方にメニューがありますのでそこをクリックしてください(図参照)。

4月号には学長や通信教育部長の挨拶があり、その後の各号では学部長の寄稿文が掲載される予定になっております。

このメニューの中に、「自立学習入門講座」のコーナーがあります。大学で効率よく学ぶにはどのようにしたらよいのか、学びのスキルを高める記事を毎月配信していきます。 4月号では「オンライン授業を受講する際の事前準備や注意点について」が掲載されます。春期・秋期のスクーリンはオンラインで行われますので、ぜひ、一読して、オンライン授業への備えを万全にしておきましょう。その後の号では、レポートの書き方や評価の仕方について詳しく説明した記事を順次掲載します。
「学修支援推進室コーナー」の 5・9・12月号では、各学部で開いている「オンデマンドスクーリング」について紹介します。オンデマンドスクーリングはどのように行われるのか、どのように学習したらよいのか。そのような不安を持っている方はぜひ読んでみることをお勧めします。
さらには、担当者による「レポート作成講義」を 6月(入門)・9月(Aタイプ)・12月(Cタイプ)の順で掲載する予定です。レポート作成に困っている方はぜひ参考にしてください。
その他、隔月で、教職を目指す学生さんのために「教職指導講座」も開きます。「ブック・スクウェア」のコーナーでは、通信教育部の教員が注目すべき本を紹介・解説していきます。

機関誌『学光』の活用を

今年度も3回、春・夏号、秋号、冬号を冊子で発刊します。春・夏号では、鈴木学長と吉川通信教育部長の新入生への挨拶を掲載します。また、対面で行われる予定の夏期スクーリングに備えて注意する点や夏期スクーリングのイベントや学修支援についてお知らせします。
秋号では、夏期スクーリングの開講式での学長挨拶や学光祭の様子をお伝えします。冬号では、来年度のカリキュラム変更点などを詳しくお伝えする予定です。
さらに、各号では、これまで行ってきた自立学習入門講座の中から、特に重要な講座の簡略版を、「自立学習入門セレクション」として掲載していきます。その他、通教生の活躍などを紹介していきます。

レポート作成講義の開催

通教生が学修を進めていく際にまず戸惑ってしまうのが、レポートの提出です。どのようにしたらレポートが書けるのか、1,200字以上も書けるのだろうか?そのような不安を少しでも解消するためにも、レポート作成講義の受講をお勧めします。この講義には、入門・A・B・Cの4つのタイプがあります。まずは、入門タイプから受講してください。次のような日程で行われます。

  1. 新入生ガイダンスの終了後に、対面で入門タイプの講義があります。新入生でなくても参加できます。
  2. 科目試験実施日の前日の土曜日(オンライン)
  3. 夏期スクーリング時に3回、各4タイプの講義を対面で開きます。

事前の申し込みが必要ですので、学光ポータルの「学習サポート」のメニュー内にある「各種ガイダンス・レポート講義・個別相談・懇談会申込」の「レポート講義」から申し込んでください。

Webレポート作成講義の利用も

上記の4タイプのレポート作成講義はWeb上の映像でも学習できます。対面で行われる講義の時間が合わないので参加できない場合や会場までの移動が大変という場合にはご利用をお勧めします。講義内容で分からない箇所があれば理解できるまで何度でも視聴が可能です。学光ポータルの「学習サポート」メニューの中の「WEBレポート作成講義映像」からタイプ別を選んでください。常時、視聴することができます。

教員による「学修相談」の実施

今年度も、オンラインで、通信教育部専任教員による学修相談を行います。上半期は4月から7月に、下半期は9月から1月に、各教員が月に原則2回行います。毎月の始めに、学光ポータル内の「教員による学修相談」で、翌月の各担当教員や相談日時・質問内容をお知らせしますので、それぞれ確認のうえ予約してください。一人30分以内という時間の制限はありますが、教員と直接に話しができる機会をぜひご利用ください。

デジタル副教材『レポート学習のための自立学習入門講座』の活用を

学光ポータルの「デジタル副教材」の中に、これまで機関誌『学光』に掲載されてきた、「自立学習入門講座」のバック・ナンバーが収納されています。レポートを書く過程で、困ったことや分からないことがすぐに解決できるように内容項目ごとに整理されており、大変に学びやすくなりました。レポート作成やテキスト学習のときにぜひご利用ください。

学修支援推進室では、今年度も、皆さんの学修が大きく進展し、一人一人が実力をつけることができるように、全力で支援に取り組んで参りますのでよろしくお願いします。

学修支援推進室コーナー 2

4タイプの「レポート作成講義」の概要

通信教育部 教授 有里 典三

はじめに

 最初に、2023年度からの「レポート作成講義の変更点と日程表」について申し上げます。これまで科目試験終了後に試験実施会場で開催していた「レポート作成講義」は、会場での科目試験が終了したことにより2022年度をもって終了します。今後は、形を変えて創価大学や地方会場での対面式(3月・4月・5月・8月)とオンライン方式(6月・7月・9月・10月・11月)を併用しながら開催する予定です。レポート作成講義の年間実施計画については以下の表をご参照ください(『スタディハンドブック 2023』p.133より引用)。

次に、2020年の初頭から顕在化したコロナ禍の蔓延によって、対面式の講義の開催が困難になりました。こうした教育環境の危機的状況を踏まえ、翌年の2021年4月から、「レポート作成講義」についても4タイプすべての内容を学光ポータル内に「WEBレポート作成講義映像」としてアップすることにしました。これらのオンデマンド講義は、現役の通教生であればどなたでも常時視聴することができます。通教生のみなさんにとってレポート学習を円滑に進めるための力強い味方となりますので、積極的な活用を心から期待する次第です。

では、続いて4タイプごとにレポート作成講義のポイントと概要についてご説明いたします。

入門タイプの「レポート作成講義」の概要

最初の入門タイプの学習サポートのポイントは、(1)レポート学習の進め方と留意点、(2)レポート学習の前半(インプット段階)と後半(アウトプット段階)の学習課題、(3)それぞれの学習工程において、「読む・書く・考える」能力を高める基本的なアカデミック・スキルについて明確にすることです。

(1)では、①学術的なレポートと作文、エッセイ、小説との違い、②レポート学習の心得、③不正レポートと罰則、などについて説明します。

(2)では、前半のレポート学習の重点が、①「レポート課題の意味を的確に理解するためのスキル」と、②「テキストの内容を正確に読み取るためのスキル」の2点(=Aタイプの学習ポイント)にあることを示します。これに1週間、時間に換算すると15時間程度の学習量を割り振ることを指導します。それに対して、レポート学習の後半の重点は、③「論理的なレポートを執筆するためのスキル」(=Bタイプの学習ポイント)と、④「下書きを見直してレポートを完成させるためのスキル」(=Cタイプの学習ポイント)の習得にあることを示します。学習量は同じく15時間程度が基本になります。

(3)では、レポート学習の全工程で「読む・書く・考える」際に必要となる代表的なアカデミック・スキルをとり上げて紹介します。なお、入門タイプでは、レポート学習全体の工程を時系列的に総攬することに比重を置いているため、個々のアカデミック・スキルについてはA・B・Cタイプでより詳しく扱うことになります。
入門タイプの学習サポートは、3月・4月・5月の新入生ガイダンス終了後に対面式で3回、夏期スクーリング期間中の1期・2期・3期の初日の授業終了後に同じく対面式で3回実施する予定です。

Aタイプの「レポート作成講義」の概要

Aタイプの学習サポートのポイントは、レポート学習の前半(インプット段階)の課題である(1)レポート課題の意味を的確に把握するためのスキルと、(2)テキストの内容を正確に読み取るためのスキルを分かりやすく説明することに置かれています。
(1)については、レポート課題のゴールをピンポイントで予測するために、①「出題の意図」や「要求されている解答の種類」を読みとるコツ、②「関連情報」をテキストのなかから見つけ出すコツ、③「考察条件」と「考察の種類」を正確に把握するコツなどを、具体例を踏まえながら説明します。
(2)については、①テキストの全体像をつかむための「トップダウン的な読書術」、②テキストの内容を正確に読みとるための「パラグラフ単位の精読術」、③レポート課題(問い)に対応した解答を探し出すための「探索型の読書術」、④思考を深めるための「批判的な読書術」など、4種類の学術的な読書術について解説します。また、こうした読書術と密接に関連する「読書メモ」のとり方や「情報カード」のつくり方についても説明いたします。
Aタイプの学習サポートは、6月と9月にオンライン方式で2回、夏期スクーリング期間中の1期・2期・3期の初日の授業終了後に対面式で3回開催する予定です。

Bタイプの「レポート作成講義」の概要

Bタイプの講義ポイントは、レポート学習の後半(アウトプット段階)で最も重要となる(3)レポート全体を明確な論理に基づいて執筆するためのスキルを分かりやすく説明することです。
すなわち、①「レポート全体のアウトライン」(論理展開の流れを示した思考の見取り図といったもの)を作成し発展させるコツ、②レポート全体(2,000字)を「序論・本論・結論」の3つのパーツを意識しながら構造的に組み立てるコツ、③レポートを作成するときの基本単位となる「パラグラフ」(=およそ200~400字程度の意味の統一体)の特徴と要件、④分かりやすいパラグラフを作成するための「叙述パターン」の特徴、などに焦点を当てて講義を進めます。
この執筆段階の学習は通教生のみなさんがもっとも苦手とする内容であるため、ここで紹介するアカデミック・スキルをどこまで理解し使いこなせるようになるかで、提出されるレポートの完成度が大きく左右されるといっても過言ではありません。
Bタイプの「レポート作成講義」は、7月と10月にオンライン方式で2回開催するほか、夏期スクーリング期間中の1期・2期・3期の初日の授業終了後に対面式で3回開催する予定です。

Cタイプの「レポート作成講義」の概要

最後のCタイプのレポート指導のポイントは、受講生に(4)下書きしたレポートを見直し磨きをかけて、完成させるための推敲のスキルを体系的に習得してもらうことと、(5)レポートの説得力を高めるための代表的な「論証形式」について理解を深めてもらうことに重点が置かれています。

(4)の推敲については、①論理構成面からの推敲、②文章作法に則った推敲、③原稿作法とルールに則った推敲に分けて、推敲作業の要点と具体的なスキルについて体系的に指導します。時間の余裕があれば演習問題を使って実践的に指導を行います。

(5)のアカデミック・スキルについては、④論理的な観点から見た「妥当な論証形式」とダメ論証との違いや、⑤学術的な文章のなかで頻繁に使用される「分類と定義」、「敷衍的な説明や例示」、「因果関係」、「比較・対照」のようなパラグラフ・ライティングの技法を中心に、具体例をあげて説明します。
Cタイプの「レポート作成講義」は、夏期スクーリング期間中の1期・2期・3期の初日の授業終了後に対面式で3回実施するほか、11月にオンライン方式で1回だけ実施する予定です。

自立学習入門講座

「自立学習入門講座66~71」の概要

通信教育部 教授 有里 典三

学修支援推進室コーナーでは、2015年4月から「レポート作成(特別)講義」の副教材として、「自立学習入門講座」の連載をはじめました。2023年3月までに、累計65回分のラインナップが蓄積されました。これまでの講座内容は、①読書論、②文章論、③情報検索論、④情報整理法、⑤論理構成法、⑥パラグラフ・ライティング論、⑦推敲論、⑧直接引用・間接引用論、⑨各分野別にみたレポート作成のポイントなどに分類することができます。どの講座内容も受講生の皆さんからの要望にこたえて、具体例を数多く盛り込み、演習形式も採用するなど工夫を凝らして理解しやすい内容になっています。
過去65回分のバックナンバーについては、学光ポータルのデジタル副教材「レポート学習のための自立学習入門講座」として閲覧することができます。関心のある講座を検索してコピーを取ったのち、内容別にファイルしておくとよいでしょう。レポート学習のたびに関連内容を参照して、「論理的なレポートを作成するための読み方・書き方のスキル」を一つひとつ習得していくことが肝要だと思います。
さて、2023年4月からは、年間6回にわたって、以下に示すようなアカデミック・スキルについて重点的に解説する予定です。ここでは、新年度のスタートに当たって、「自立学習入門講座66~71」でとりあげるコンテンツの概要を紹介します。通教生の皆さん、1年間のレポート学習が実りあるものになるように、そして着実に実力を高められるように、積極的に活用していただければ幸いです。

4月号「自立学習入門講座66」・・・オンライン授業を受講する際の事前準備と注意点

①オンライン授業を受講する際の心構えやポイント、②学修報告書を作成する際の留意点、③会場試験に代わって今後主流となるWEB試験を受験する際の注意点などを解説します。併せて、④レポート学習を進める際の時間の割り振り方、前半のインプット段階と後半のアウトプット段階の学習ポイント、⑤レポート学習の心得などについても確認します。以上の諸点について、具体例をあげながら分かりやすく説明し、適切な演習問題と解答・解説を使って着実な学修力の向上を目指します。

6月号「自立学習入門講座67」・・・【歴史学】のレポートのまとめ方と注意点

歴史学関係のレポートをまとめるときのコツ、留意点、論証形式、陥りやすい誤りなど、この分野で必要とされるアカデミック・スキルについて教授します。仮のレポート課題を設定して、それに対応した解答を示し、全体として2,000字程度の模範的なレポート文例を紹介します。A評価が得られる模範的なレポートのサンプルと皆さんが作成するレポートを綿密に読み比べてみて、そこから利用できるアカデミック・スキルを実践的に習得していきましょう。演習問題と解答・解説付き。

8月号「自立学習入門講座68」・・・【1 課題把握】評価の細目についての具体的説明

提出されたレポートは、最初に【課題把握】がどの程度的確にできているかどうかで評価されます。この点についての細目は、①「レポート課題の問い」の理解がどの程度正確にできているか。②レポート課題解説に示された「考察の条件」の把握がどの程度十分にできているか。③「考察の種類・タイプ」(報告型か論証型か)の判別がどの程度適切にできているか、の3点によって代表されるでしょう。以上の3つの細目に焦点を当て、レポート項目別評価のルーブリックに照らし合わせて具体的に説明したいと思います。演習問題と解答・解説付き。

10月号「自立学習入門講座69」・・・【2 教材理解】評価の細目についての具体的説明

提出されたレポートは、それに続いて【教材理解】がどの程度正確にできているかどうかで評価されます。この点についての評価の細目は、①教材の主張、専門用語、重要な論点など「シラバスの学習範囲の内容」についてどの程度正確に理解できているか。②「レポート課題に必要なテキストの内容自体」がどこまで正確に理解できているか。③「テキスト以外の関係資料」をどの程度まで参照できているか。以上の3つの細目に焦点を当て、レポート項目別評価のルーブリックに照らし合わせて具体的に説明いたします。演習問題と解答・解説付き。

12月号「自立学習入門講座70」・・・【3 論理構成】評価の細目についての具体的説明

3番目の【論理構成】についての評価項目とは、レポート全体と部分の組み立て方がどれほど論理的で分かりやすいかを判定するものです。この点に関する評価の細目は、①「レポート課題に対応した結論」がどの程度的確に導き出されているか。②「パラグラフの作成方法」がどの程度適切で、「論旨の一貫性」がどの程度担保されているか。③説明・論証に必要な「データと論拠」がしっかりと踏まえられているか。以上の3つ細目に焦点を当て、レポート項目別評価のルーブリックに照らして具体的に説明します。演習問題と解答・解説付き。

2月「自立学習入門講座71」・・・【4 原稿作法・文章作法】評価の細目についての具体的説明

最後の【原稿作法・文章作法】についての評価項目は、下書きしたレポートを体系的に手直しして、完成された作品へとブラッシュアップされているかどうかを検討します。この点についての評価の細目は、①「論理構成の観点」から全体を俯瞰してどの程度推敲ができているか。②「文章作法の観点」から分かりやすい文章になっているか。③「原稿作法の観点」から原稿を執筆する際にアカデミックなルールや型をどこまで順守しているか。④「引用・参考文献」(本文中と文末のリスト)の推敲がどの程度できているか。以上の4つの細目に焦点を当て、レポート項目別評価のルーブリックに照らして具体的に説明します。演習問題と解答・解説付き。

教職指導講座

「教職の道」実現のために

通信教育部 講師 宗像 武彦

むなかた たけひこ
通信教育部 教職指導講師
[ 職  歴 ] 東京都小学校校長
[専門分野] 教育学
[担当科目] 教職概論、教職実践演習

「教職の道」の実現のために、今年度3年次に編入した方、通教で、今年度4年次になり、各都道府県の教員採用試験を受ける方など、様々な立場の通教生の方々がいると思います。今回は、今年度4年次になり、各都道府県の教員採用試験を受ける方々に対してお話ししたいと思います。
4年次になる方は、これから5~6月に教育実習がある人がいますし、その教育実習の後に、各都道府県の1次の筆記試験が6月か7月に控えています。教員採用試験を突破していく努力が必要です。まずは1次を突破し、2次試験(都道府県では3次試験もあり)も突破し、教育の道に本格的に向かうことになります。
また、東京都の教員採用試験は、今年度から3年次に、1次に教職教養、専門教養の筆記を受験することができると、新聞等で報道されました。これは、民間の就活が、早めに始まっており、人材確保の視点で教員採用試験も変わってきている状況があるということです。
その中で、教員採用試験を乗り越え、「教職の道」実現のために具体的にどんな努力が必要か?以下、私の経験をもとに一つの方向として書いていきます。

3年次からの方も含めて、教員免許の取得が大前提になりますので、教員採用試験と、単位の取得・卒業のための計画を立てていかないと、時間はすぐ過ぎてしまいます。
・卒業
・免許取得
・教員採用試験
 
の準備の計画を立ててください。
それを前提に、以下のアドバイスをさせていただきます。

一次の筆記試験突破のために

(1) 各受験する都道府県の過去問対策をする
教職教養や社会常識、そして専門教養の力を見ていく1次試験が教師にとっての学力になります。その1次試験を突破するためには、都道府県の過去問に向き合っていくことが必要です。
過去問は、何度も同じ問題を繰り返し取り組むことで、その都道府県の問題の傾向と自分の弱点も見えてきます。本年度の出題傾向を見ると暗記式ではなく活用型の問題も見られます。そのために、次の2点の対策は必要です。
・都道府県の問題の傾向の把握と具体的な対策をする。
・問題傾向からの自分の弱点の把握と具体的な対策をする。

二次試験突破のために

◎ 集団面接・個人面接の対策ができていますか?

①集団面接は
集団面接には、集団討論と集団面接があります。その都道府県の状況をしっかりと把握することが大事です。
この集団の面接には、主にテーマが出され、そのテーマごとに自分の考えを伝えていく面接と討論していく面接があります。通教生の皆さんは、どうしても個人での取り組みが多くなり、集団面接の準備といっても難しいところがあります。そのために教職キャリアセンターのHPをチェックして「教員採用試験対策」の「集団面接」のところがあったら、申し込んでチャレンジしていくことです。夏期スクーリングの中でも、通教としての対策を設定しています。
集団面接は、出された課題やテーマを自分なりの現場を踏まえた考えをもとに、相手に伝えていく力が大事になります。そのためには、今まで出題された「テーマ」をもとに、自分はどう考えるか。集団面接を想定してノートに書いて考えをまとめていくことが伝えていく力になります。

②個人面接は
各都道府県で提出する「面接票」「自己PR表」などをしっかりとまとめておくことが大事です。この「面接票」などから、面接官がいろいろと聞いてきます。そのためには、「面接票」などに書くことは、
*聞かれても答えられることを書いておくこと。
*答えるときは、短くまとめて答え、そこから深堀されていく答え方も考え、まとめておく。
  このようなことは、なかなか個人では難しいので、やはり近くの知人の校長先生や教職キャリアセンターの先生方への相談が大切になります。

③その他
各都道府県によって実技試験や模擬授業、現場での課題の付帯的な対応などもあります。その都道府県にあった取り組みと対策が決め手です。

教員の道実現のために


(2)論作文の対策をする
東京の論作文は1次ですが、他の道府県は2次などに論作文があるところが多いです。そこで大事なのは、各都道府県の課題に正対した論作文にすることです。正対した論作文にするには、
・その都道府県の過去の問題をもとに論作文を何度も書いていく。
・論作文を書いたら、各都道府県の知人の校長先生や教職キャリアセンター講師の先生方のアドバイスをもらい、何度も書いていく。
・受験する都道府県・市の教育委員会のホームページを見て、受験する地区の情報を常に把握する。

論作文は、具体的な教師としての取り組みを問う問題が多く、受験地区の情報をもとに何度も書くことで自分の考えがまとまっていきます。
一次試験の突破は、個人の日々の努力、やはり勉強量がものを言います。合格を勝ち取るという強い精神力と体力、身近にいる先輩や教職キャリアセンターの先生方との相談も1次試験の突破力になります。

今採用試験で、どんな教師を各都道府県の教育委員会は必要としているか?
それは、すぐにでも学校で子供たちの教育を任せられる現場力です。
働きながら仕事を持って学んでいる通教生の皆さんの多くは、難しいことであると思います。でも、教育の道へ行くためには、何としても教員採用試験の合格を勝ち取っていかなければなりません。そのためには、「現場力」が必要です。
・そのためには、現在の仕事を工夫し学校現場や子どもたちとかかわりところに自分の身を置いて学ぶことです。
・その状況や悩みを教職キャリアセンターの先生方とつながり、何度も相談して行くことで経験値となり現場力につながります。

こうした取り組みから「現場力」が身につき、1次や2次の面接試験で実感のこもった話や応対ができるようになっていきます。

社会の現実を知り活躍し、学びの努力を重ねている通教生の皆さんは、児童生徒たちが社会を身近に感じ未来を見つめ自ら拓いていく力の育成をめざす牧口先生の書かれている創価教育学に沿っていくものであり、子どもたちを第一に視点を持つ教師力があると思います。
通教生の皆さんが学校の現場力をつけて、教員採用試験を勝ち取り、教壇に立って創価の新たな教育への道を拓いていくことを期待しております。

ブック・スクウェア

『これが答えだ! 少子化問題』

通信教育部 准教授 清水 強志

著者自身、「これから論じるのは、『地方創生、一億総活躍など、出生率の低下に歯止めをかけることを目的とする政策が、国民の希望をかなえようとすればするほど、少子化対策としての実効性を期待できなくなる』というパラドクスである」(p.13)と本書について紹介しています。そして、「少なくとも現状のような少子化対策の傾向が継続するならば、出生率の十全な回復は難しいという見込みを持っている」(p.23)と述べています。

上記の文章を読むと、著者の思想を危ぶむ人がいるかもしれませんが、赤川学氏は東京大学大学院人文社会系研究科准教授(専門分野:社会学)、つまり、「東大の先生(社会学者)」という「ラベル」と知ると、「この指摘は的を射ているのかもしれない」と、多少冷静な気持ちになって、読んでみたいと考え直した方がいるのではないでしょうか。

念のため、強調しますが、著者は種々の政策を否定しているのではなく、政策における(少子化対策ではないところの)重要さを認めたり、少子化対策になっていない、あるいは、少子化対策としては効果が低いということを指摘したりしています。

少子化対策が強く叫ばれている昨今において、ぜひ、常識にとらわれず、東大の先生による「社会学的なまなざし」の1つを虚心坦懐に知り、皆さんの視野を広げて欲しいと考え、約5年前(2017年)に発刊された『これが答えだ! 少子化問題』を紹介したいと思います。
とはいえ、大切なことは著者の主張を100%無批判に受け入れるのではなく、きちんとクリティカル・シンキングをしながら読んで欲しいと願っています。

本書の構成は以下の通りです。

はじめに
序章 「希望出生率」とは何か?
第1章 女性が働けば、子どもは増えるのか?
第2章 希望子ども数が増えれば、子どもは増えるのか?
第3章 男性を支援すれば、子どもは増えるのか?
第4章 豊かになれば、子どもは増えるのか?
第5章 進撃の高田保馬―その少子化論の悪魔的魅力
第6章 地方創生と一億総活躍で、子どもは増えるのか?
あとがき

赤川学 著

まず、第1章では、「女性が働けば、子ども数が増える」という説の妥当性について、統計分析をもとに検証しています。このように聞くと、意外に思われる方がいるかもしれませんが、実は、日本における女性の社会進出の促進には、子どもを増やすという少子化対策の意図も含まれているのです。そのため、この説の妥当性を検証することは非常に重要になります。なお、第1章の結論の述べ方に注意して欲しいのですが、著者は、日本では「女性が働く(働きやすい)から子どもがたくさん生まれる(出生率が高い)という因果関係が存在しない」(p.50、下線清水)と結論づけていますが、だからと言って、「女性が働くと出生率が低くなる」とは述べていないことに留意する必要があります。

また、(第2章のなかで)著者は、出生率低下の要因は、非婚化の進行と結婚した夫婦が生む子ども数の減少に分けることができ、「少子化の要因の殆どは、結婚した夫婦が子どもを産まなくなっているのではなく、結婚しない人の割合が増加したことにある。(中略)このような状況では、第2子以降の出生確率の上昇が、出生率全体の回復に寄与する割合はわずかなものにとどまるだろう」(pp.61-62)と述べています。

さらに、著者は「実際に出生率回復に成功した国があるのだから、日本もそれに見習うべきだ、という意見はもっともらしく聞こえる。しかし、筆者は、ある国情の違いから、日本や東アジアの低出生率国は、フランスやスウェーデン、あるいはロシアのようになることは難しいし、それらの国で行われた少子化政策を実施したからといって、出生率回復を期待することは難しいと考えている」(p.58)と述べ、その理由を第4章以降で詳しく述べています。

このように、本書は興味深い内容であふれています。ぜひ、「あとがき」まで、じっくりと思索しながら読んでいただければ幸いです。

とはいえ、本書には、リサーチ・リテラシーを高めるという隠れた目的もあると述べられている通り、多変量解析による分析結果が多数紹介されています。しかし、ここでそれらについて説明することは容易ではありませんし、また独学で学ぶことも難しいと思われます。そこで、本書を読む際のアドバイスとしては、分析に用いられている多変量解析の理解には力点を置かず、分析結果(の記述)をきちんと把握するようにして欲しいと考えます{つまり、「(分析方法はよくわからないけれど、)〇〇という分析を行うと、□□ということが明らかになるのか」等々、ということです^^}。その上で、著者が幾度となく指摘しているように、本書を通して、(1)分析に用いるデータの選定も含め、データ分析は慎重に行わなければならないこと、また(2)分析結果を読み取る際の「解釈」は難しいということをきちんと読み取って欲しいと思います。

他方、相関分析{一方の数値が高くなると、もう一方の数値も上がる(あるいは下がる)という直線的な関係を調べるもの。例:テスト勉強の時間が増えると、テストの点数が上がる、など}は、一般によく用いられる統計分析の1つですので、きちんと理解して欲しいと考えます。その際、相関関係と因果関係は同一視してはならず、因果関係がないにも関わらず因果関係があるように見える「疑似相関」というものがあること、あるいは、原因と結果を逆にとらえてしまうことが多いことなどを、ぜひ、この機会に深く学んでほしいと思います。ちなみに、第1章における結論の補足になりますが、筆者は、女性の労働力は出生率に影響しないというだけではなく、両者は「疑似相関」であり、実際には、第3の変数である「都市化」が両者に影響しているということを指摘しています(pp.40-43)。

『これが答えだ! 少子化問題』
赤川学著
ちくま新書1235
836円(税込)

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学修支援だより【2023年5月号】

Foreword

人権尊重を揺るぎないものに

法学部長・教授 鈴木 美華

世界を震撼させたロシアによるウクライナ侵攻から、1年以上が経過しています。ウクライナ侵攻により、世界中で紛争や戦争がなお身近にあることを実感させられた人も多かったと思います。平穏な日常が奪われ、住む家を追われ、生命、身体の安全が脅かされ、人生を大きく狂わされてしまった人々を思うと、本当に心が痛みます。また、2023年2月、トルコ・シリアで大地震が発生し、甚大な被害をもたらしました。亡くなった方、住む場所等を失った被災者の人数も膨大なものになっており、被災者に対する救援、継続的な復興支援が必要になっています。
このような紛争や災害の場面において蔑ろにされがちなのが、人間らしく生きる権利、人権だと思います。人権とは、人が人間らしく生きていくために保障されるべき権利であり、人として生まれた以上、誰もが等しくもっている権利です。また、人権はどのような国家権力や公権力も侵害したり、奪うことのできない重要な権利です。
人権の内容には様々なものがありますが、一人一人の個人の尊厳が保障される権利、人身の自由が保障される権利、人間的な生活を送ることが保障される権利、思想・良心の自由が保障される権利、信教の自由が保障される権利、などが挙げられます。
我が国の憲法の他、多くの近代国家の憲法等でも人権の保障・尊重が謳われています。さらに国際連合でも、すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準として「世界人権宣言」が採択されています。
このように人権の尊重は、国家的にも国際的にも宣言されていますが、紛争や災害の場面の他、様々なところで人権がきちんと護られない事態が起きてしまうことがあります。
人権の尊重といっても、人々がお互いに人間らしく生きることや、人としての尊厳を尊重し合うところから始まると思います。人権尊重の価値観を揺るぎないものにしていくべく、創価大学で学んでいる私達こそ、各地域で人権尊重の担い手になっていきたいと思います。

学修支援推進室コーナー

オンデマンドスクーリングだより
教育学部「生徒・進路指導論」

教職大学院 長島 明純

はじめに

いじめ問題はもとより、理不尽な校則、不適切な指導など、生徒指導に関する諸問題が複雑化・多様化しています。このような背景をふまえて、「生徒指導提要(改訂版)」が、2022年の12月にデジタルテキストとして公開されました。加えて2023年には冊子として市販もされています。この「生徒指導提要」は「生徒・進路指導論」と密接な関係にあり、小学校、中学校、そして高等学校までの生徒指導の考え方や指導方法等について、時代の変化に即して総合的にまとめられています。つまり、生徒指導に取り組む上で共通理解を図り、組織的・体系的な取組を進めることができるように、学校ならびに教職員向けの基本書として作成されている資料です。

「生徒・進路指導論」のテキストは、改訂前の生徒指導提要を骨組みに構成されているため、2023年度のメディア授業では「生徒指導提要(改訂版)」のポイントを補助映像としてお伝えしますが、ここではその概要について説明します。

「生徒指導提要」改訂の背景について

2010年に生徒指導提要が刊行されて以来、今回生徒指導提要が改訂された背景について、教育環境や社会的環境が大きく変化してきたことが挙げられます。

まず、学習指導要領が改訂され、児童生徒の発達の支援に関する項目が新設され、小中高と一貫して、学級経営の充実、生徒指導の充実、キャリア教育の充実が求められています。また、チームとしての学校のあり方に関する中央教育審議会の答申では、働き方改革と関連して、学校の教職員の専門を生かした協働体制、あるいは学校と関係機関、地域との連携・協働体制の構築が重要視されています。また、令和の日本型学校教育に関する中央教育審議会の答申では、不登校や特別な支援を必要とする児童生徒を含め、誰一人取り残さない、つまりすべての児童生徒の可能性を引き出す個別最適な学びと協働的な学びの実現を目指すとされています。さらにGIGAスクール構想にみられるように、ICTを活用した教育や不登校の子供の支援も今後の教育的課題となっています。社会的環境としては、コロナ禍の影響もあり、いじめ重大事態、暴力行為、不登校の増加、児童虐待や自死の増加などが指摘されています。
これらの変化を背景として、新たな生徒指導のあり方が求められ、今回の改訂につながっているのです。

「生徒指導提要(改訂版)」の内容について

「生徒指導提要(改訂版)」の内容は、大きく第Ⅰ部と第Ⅱ部に分けられています。第Ⅰ部は「生徒指導の基本的な進め方」として、生徒指導の意義や構造、教育課程との関係、生徒指導の組織体制などについて解説されています。他にも、GIGAスクール構想を受けてICTを活用した生徒指導の推進、幼児期から小学校における各教科の学習に円滑に移行できるようにするためのスタートカリキュラムの工夫、そして成年年齢の18歳への引き下げを踏まえ日頃から社会的自立に向けて児童生徒を支えることなどが示されています。

第Ⅱ部は、「個別の課題に対する生徒指導」として、「いじめ」「暴力行為」「少年非行」「児童虐待」「自殺」「中途退学」「不登校」「インターネット・携帯電話に関わる課題」「性に関する課題」「多様な背景を持つ児童生徒への生徒指導」などトピックごとに、関連法規や対応の基本方針に照らし合わせつつ、未然防止や早期発見・対応といった積極的な観点から、指導に際しての基本的な考え方や留意すべき事項等について解説されています。

「生徒指導提要(改訂)」の基本的な考え方

「生徒指導提要(改訂版)」の「まえがき」には、その基本的な考え方として積極的な生徒指導のあり方が示されています。それは、「生徒指導は、一人一人が抱える個別の困難や課題に向き合い、『個性の発見とよさや可能性の伸長、社会的資質・能力の発達』に資する重要な役割を有しています」との一文に端的に示されています。そして、「生徒指導上の課題が深刻になる中、何よりも子供たちの命を守ることが重要であり、全ての子供たちに対して、学校が安心して楽しく通える魅力ある環境となるよう学校関係者が一丸となって取り組まなければなりません。」とあります。

その上で「子どもの人権」に関して、2022年に成立した「こども基本法」により、児童生徒の権利擁護や意見を表明する機会の確保等が法律上位置付けられたことをふまえて、児童生徒の健全な成長や自立を促すためには、児童生徒が意見を述べたり、他者との対話や議論を通じて考える機会を持つことは重要なことであると述べられています。すなわち、児童生徒が主体的に参画することにより、その根拠や影響を考え、身近な課題を自ら解決を図ることは教育的な意義を有するとされているのです。

結びに

以上、「生徒・進路指導論」の学修にとって、「生徒指導提要(改訂版)」が重要な資料であること、そして生徒指導提要が改訂された背景とその基本的な考え方について解説しました。複雑化・多様化する諸課題に対して、これまでのように、問題が起きてから一部の児童生徒だけに事後的に対応する消極的な生徒指導では、また学級担任などが一人で抱え込む生徒指導では、対応は難しいでしょう。そこで、今後求められる生徒指導のあり方、すなわち未然に問題を予防したり、すべての児童生徒の健全な発達を支持する積極的な生徒指導のあり方について、ぜひ「生徒指導提要(改訂版)」を通して学んでください。

なお、「生徒指導提要(改訂版)」のデジタルテキストについては、文部科学省のウェブサイトに「生徒指導提要(改訂版)」とのタイトルで掲載されています。URLは次の通りです。

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1404008_00001.htm

自立学習入門講座66

オンライン授業の受講に向けての事前準備と心得

通信教育部 講師 黄 國光

厳しいコロナ禍において通信教育部はいち早くZoomとLMS(学習管理システム)を連携させたオンライン授業を導⼊しました。オンラインでのレポート提出やスクーリング授業、すべての試験を本⼈認証付きWeb試験に切り替えるとともに、授業前、レポート提出時にも本⼈認証の仕組みの実装など、「おうち時間を学びの時間に」できる環境が整備されています。
このようにオンライン授業を受けることを余儀なくされる通教生は、ご自宅で事前に何を準備しどのように対応すればよいのか、今回はそのポイントについて紹介します。

オンライン授業には安定したインターネット環境が必須

オンライン授業を快適に受講するためには、接続が安定し、大容量のデータ通信が行える「光回線」がおすすめです。ビデオストリーミングやオンラインコンテンツの視聴には、高速なインターネット接続が必要です。
一般にZoomの視聴(下り)には1.5~3.0Mbps程度以上が望ましいとされています(より低速でも接続できますが、画質が制限される場合があります)。光回線の平均速度は下りで約その百倍の300Mbpsもありますから、比較的安定して通信速度が出ます。
ちなみに総務省によれば、2020年3月末現在、日本の光回線の整備率(世帯カバー率)は、99.1%となっています。ご自宅に光の回線を引いて家庭内LANの構築が最も安心できる受講環境となります。
家庭内LANを構築するための手段としては、機器をLANケーブルで接続して通信する有線LANと、無線電波(Wi-Fi)で通信する無線LANがあります。
家庭用の光回線を引いたときモデム(変換装置)という機器が設置されます。それからインターネット接続用のWi-Fiルーターを用意し、有線LANと無線LANを接続するための設定を行います。
一般的には、ルーターのWANポートにモデムのインターネット回線に接続します。有線LANを使用する場合は、ルーターのLANポートに有線LANケーブルを直接パソコンに接続します。
無線LANを使用する場合は、ルーターの無線LAN機能を有効にし、無線LAN用の設定を行います。これにより、スマートフォンやタブレットなどのデバイスが無線LAN経由でルーターに接続できるようになります。パソコンも無線LAN対応であれば、ルーターでインターネットに接続することができます。
また、家庭内LAN接続が途切れた場合に備え、別のインターネット接続方法やモバイルデータ通信など、バックアッププランを用意することが望ましいです。例えば、モバイルデータ通信ができるスマホを通して、パソコンやタブレットをインターネット接続させるテザリングが使えると安心です。

オンライン授業を受講するための端末

受講端末にはパソコンやタブレット、スマホが選択できます。ただ、同時双方向型オンライン授業の場合は、受講端末に要求される性能(スペック)がやや高くなります。
オンデマンド型オンライン授業であればタブレットでも問題なく受講できます。ただ、同時双方向型オンライン授業の場合はタブレットだと処理しきれずに映像の乱れや画質の低下、音の途切れが発生する可能性もあります。
そのため、通信教育の学修に必要不可欠なのはパソコンです。なぜならば、授業中の出⽋登録や質問、Web試験やレポート作成など、⽂字を打つ場⾯が多いため、11インチ以上の画⾯サイズのキーボードの付いたノートパソコンが良いでしょう。
さらに、同時双方向型授業であればWebカメラとマイクがなければ参加できないため、事前に用意しておきましょう。

Zoomの基本設定と対応
(1)Zoomの操作方法の確認

オンライン授業には、ビデオ会議ツールZoomやチャットツール、ドキュメント共有ツールなどが使われます。これらのツールを使いこなすことで、スムーズに授業が受けられます。必要に応じて、ツールの操作方法を学ぶことが大切です。事前にこれらのツールの操作方法を確認し、問題がある場合は教員やサポートデスクに相談するようにしましょう。

創大通教の学修に関する基本的な操作方法などの問い合わせを受け付ける電話相談窓口(ICTサポートデスク)を設置しています。パソコンの場合は遠隔操作による操作補助も可能です。パソコン操作が苦手な方でも安心して学修ができるようにサポートしております。問い合わせ内容、電話番号や受付時間の詳細は、送付される『スタディハンドブック2023』をご確認ください。

(2)最新バージョンへのアップデート

セキュリティ改善のためZoomを最新の状態にアップデートしましょう。Zoomを起動して、サインインした状態で右上のプロフィール写真の「アカウントメニュー」を開きます。「更新を確認をクリックすると、バージョンの確認が始まります。新しいバージョンが存在する場合は、Zoomはそのバージョンのダウンロードとインストールを行います。更新が不要な場合は、「最新の状態を保っています」と表示されます。

(3)バーチャル背景の設定

Zoomでは、実際に自分がいる場所とは違う「バーチャル背景」を設定することができます。バーチャル背景は、オンライン授業中に、自分の背景をカスタマイズしたい場合に便利な機能です。受講者は自分自身の背景を選択することができ、自宅やオフィスなどの背景を気にすることなく、プライバシーの保護やオンライン授業の見栄えを向上させるために利用することをお薦めします。

バーチャル背景を設定するには、まずZoomアプリ起動後、画面右上の歯車アイコン(設定のためのアイコン)をクリックします。続いて設定画面左側の「背景とフィルター」をクリックして「背景とフィルター」画面下側の「バーチャル背景」から任意の背景を選択します(ただし、Zoomのバーチャル背景機能を使うには、PCにも一定のスペックが必要です)。

(4)音声と通信環境

オンライン授業のミーティングルームに入る前、「スピーカー&マイク」をテストしてください。事前に自分の機器が問題なく動作するかを確認し、必要に応じて設定を調整するようにしましょう。

また、Zoomを利用しているときに音割れやハウリングがまれに起こることがあります。ハウリングは、音声がマイクからスピーカーを通じて再生され、再びマイクに戻ることにより、ループして発生する現象です。ハウリングが発生すると、耳障りな高音の連続的な音が聞こえ、音声の聞き取りが困難になるため、講義の進行を妨げることにもなりかねません。

ハウリングの解決策には、マイクとスピーカーをできるだけ離し、直接的な音声のループを避けるようにします。また、マイクとスピーカーは、PC内蔵のものではなく各自マイク付きイヤホンやヘッドセットを使います。新しく購⼊する場合は、マイク付きのヘッドセットが便利です。

そして、授業中に発言する場合は、各自ミュートの切り替えを行う必要があります。

(5)画面共有の活用

Zoomの画面共有はオンライン授業の活性化に役立ちます。画面共有は、授業中に学生が自分の画面を共有して、プレゼンテーションやグループディスカッションなどの活動に参加することも可能にします。ご自身が作ったPowerPointスライド、ビデオ、Webページ、画像、PDFなどを共有し、議論や発表の内容を視覚的に明確にすることができます。これにより、受講者同士のコミュニケーションや協力が促進され、より対話的でインタラクティブなオンライン授業が実現できます。

議論を進める際は、受講者全員が話を聞くことができるようにするため、グループメンバーがマイクをミュートすることが望ましいです。発言者は、発言前にマイクをオンにし、発言が終わったらマイクをオフにするようにしましょう。設定で「スペース」キーを長押ししている間だけミュート解除することが可能です。

討論が終了したら、グループでまとめを作成し、全体の討論のまとめも作成します。まとめは、参加者全員が議論内容を共有し、理解を深めるのに役立ちます。

(6)静かな場所

オンライン授業には、集中して学修できる静かな場所が必要です。背景騒音が少ない場所が理想的ですが、周囲への配慮を忘れないようにしたいものです。声を出しても問題ない場所であるか、Wi-Fiなどの通信環境は整っているかなどを事前に確認しておきたいのです。

受講の心得
(1)スケジュール管理をする

オンライン授業は、自分のペースで学習できるという利点があります。ご自宅などでオンライン授業を受ける場合、時間の使い方について自己管理が必要になります。そのため、スケジュール管理をしっかりと行い、授業や課題の締め切りに合わせた計画的な学習を心がけましょう。

(2)授業資料のダウンロードや印刷など、必要な準備を事前に行いましょう

オンライン授業を受ける前に、必要な教材や文房具などを準備し、教材を事前に読んでおくなどの準備をしておくことが重要です。授業で使用する資料がある場合は、事前にダウンロードや印刷を行っておくとスムーズに授業を受けることができます。また、授業で使う資料を整理しておくことも大切です。

(3)質問や意見を遠慮せずに発言しましょう

オンライン授業でも、質問や意見を発言することができます。授業に参加する際には、自分の意見を積極的に発言するようにしましょう。質問をしたり、自分の意見を述べたりすることで、学習の効果を高めることができ、より有意義な授業が受けられるようになります。

(4)休憩をとる

長時間のオンライン授業を受けていると、目や頭が疲れてくることがあります。そんなときは、適度に休憩をとることが大切です。定期的に目を休めたり、軽いストレッチや筋トレをしたりすることで、疲れを軽減することができます。

また、部屋の換気をすることで、新鮮な空気を取り入れることができます。特に、冬場などは、部屋の中が乾燥していることが多いため、加湿器を使ったり、水を張った容器を置いたりして、湿度を保つことも大切です。これらの休憩を取ることで、身体や目、頭を休めることができ、授業への集中力を維持することができます。

ただし、休憩の時間が長すぎると、授業に戻ることが難しくなるため、適度な長さで取るようにしましょう。

オンライン授業は、場所や時間に制限されず、教育機会をより広く提供することができます。また、学生が自分のペースで学ぶことができるため、学習意欲の向上や成績の向上につながるとされています。

しかし、オンライン授業には、受講者同士や教員との対話や議論が制限されることや、教員が学生の理解度を確認することが難しいことなど、課題もあります。また、オンライン授業に必要な技術や設備を用意することができない学生がいることや、デジタル・デバイド(情報格差)によるギャップが問題になる可能性があります。

創価大学通信教育部では、パソコン等とインターネット通信により学修を行うため、学修に必要なパソコンの操作やインターネットの設定等は、基本的にはご自身で行える必要があります。学修を進めるにあたり必要と考えられるパソコンスキルを予め身に付けておきましょう。

今やオンラインが利用されるのは授業だけでなく、ポストコロナに向けた非対面・非接触の社会活動が加速され、オンラインを活用した取り組みは、これからの時代に必要不可欠となります。

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学修支援だより【2023年6月号】

Foreword

夏期スクーリングを迎えて

通信教育部長 吉川 成司

人と出会い学び合う夏期スクーリングに

何よりもまず、いくつもの苦難を勝ち越え、職場や家庭でさらに地域でお忙しくされながらも、たゆみなく勉学の歩みを進めてこられた通教生の皆さんに最大の敬意を表したいと思います。
さて、2023 年度の夏期スクーリングは、全面的に対面で実施することになりました(2023年6月1日現在)。新型コロナウィルス感染拡大のため4年ぶりのことになります。燦々たる夏空のもと、創価大学の広々としたキャンパスで、日本中、世界各地から集う同学の友と充実した学び合いと触れ合いの思い出を刻んでいただきたいと思います。
オンライン授業は、通学のための時間、交通費などのコストを節約できるといったメリットがあります。これについては、春期・秋期、そしてオンデマンドのスクーリングで行われます。夏期スクーリングだけは対面で実施し、入学以来、対面授業の経験が全くない方にそのメリットを体験していただきたいと念願しています。対面授業には、オンライン授業にはない臨場感があります。ある時は真剣な知的触発があり、またある時には和気に満ちた雰囲気を直接体験し共有できます。

今年度、魅力的なカリキュラム構成の一つとして、「経営学入門B」(共通科目/社会分野科目)が新たに開講されます(夏期スクーリングのみ)。これは、一流企業のトップ経営者の講演から各企業の理念や経営論を学ぶ科目です。この度、通学課程において長年にわたり人気を博している「トップが語る現代経営」の収録動画を活用して、多くの社会人が在籍する通信教育部でも開講する運びになりました。皆様にとって有意義な学びの機会になるものと大いに期待しています。なお、これは昨年度から開講された科目ですが、「FP入門Ⅰ・Ⅱ」(法学部専門科目)の受講者の中から、すでにファイナンシャルプランナー3級の合格者が17名出ています。今年度も更なる成果が期待されます。

昨年の夏期スクーリング開講式に際して、創立者・池田大作先生は、われら通教生に大いなる期待と励ましを寄せてくださいました。メッセージには次のようにあります。「この夏期スクーリングが、皆さんの人生とともに、人類の未来を潤す価値創造の希望の源泉となりゆくことを、私は確信してやみません。どうか、聡明に休憩を取りながら充実した探究の日々であってください」。
暑さ厳しき折、参加される皆さんにおかれましては体調管理にくれぐれもご留意ください。お一人お一人の人生においてかけがえのない貴重な学びの機会になりますようにお祈りいたします。

学修支援推進室コーナー

レポート作成講義【入門タイプ】を担当して

通信教育部 教授 有里 典三

通信教育部での学習はレポート学習が中心になります。テキストを熟読して自分の頭で考え抜き、2,000字以内でレポートをまとめる学習が実に全体の75%を占めています。レポート作成講義はこれを攻略するための自主講座であり、創価大学通信教育部の代表的な学習支援プログラムです。この自主講座の目的は1つです。全通教生がレポート学習に主体的に取り組めるようになるために、役に立つ実践的な指導をすることです。そのために、参加者には洩れなく入門タイプの『講義資料』とA・B・Cタイプの『講義資料』を無料でお渡しします。さらに、学生ポータル上に副教材として『自立学習入門講座』(2023年3月末の時点で65回の連載を達成!)をアップして全員が閲覧できる体制を組んでいます。これらの資料を積極的に活用して、「レポート学習」を実際に攻略できるアカデミック・スキルを早い時期に習得していただきたいと念願しています。

レポート作成講義では次の点にこだわって講義を進めます。第1に、レポートの4つの評価項目に即して講義を行います。第2に、レポート学習の全体像を起点から終点まで時間の流れに沿って講義を進めます。第3に、レポート学習全体を扱いやすい小さなステップに細分化し、それぞれのステップごとに利用できる具体的なスキルを紹介します。第4に、レポート作成講義では、高度な内容は避けて比較的容易に身に付けられる初級レベルのスキルを優先的に取り上げます。

入門タイプの講義では、「レポートとは何か」を最初に明確にします。それは単なる読書レポートではありません。通信教育部で課せられるレポートは「学習成果報告書」であり、社会人にとっても重要な「読み、考え、書く」能力を鍛える最良の学習課題です。

レポート学習には明確な流れがあります。レポート学習を能率的かつ効果的に行うためには、注意深い時間の割り振りと適切な計画を立てることが肝要です。前半のインプット段階(情報の収集段階)と後半のアウトプット段階(執筆段階)に分けて、それぞれの段階ごとの課題を明確にしながら適切な時間の割り振りを行ってください。

レポート学習の心得についても触れましたが納得できたでしょうか。他人の合格レポートを参照したり丸写しにすることは厳禁です。テキストの内容を十分に理解しないままで安易に引用する行為も慎んでください。このような学習姿勢では本物の「読み、考え、書く」力はいつまでたっても身につきません。

次に、テキストの読みと情報の収集のスキルを講義をしました。この点を踏まえて、「実際にレポートを執筆するためのスキル」について指導しました。具体的に言うと、最初に「レポート全体のアウトライン」を作るコツについて説明しました。暫定的なアウトラインがどのようなプロセスと修正を経て完成形に発展していくのか、事例を使って解説しましたが理解できたでしょうか。

第2は、レポート全体の構成についてです。なぜ「起・承・転・結」ではなく「序論・本論・結論」の3つのパートに分けて記述するのか、それぞれのパートにはどのような役割があたえられているのか、バランスのとれたレポート全体の構成要件とは何かについて解説しました。全体の構成を考える上で、推理小説の組み立て方が参考になることも強調しました。

第3は、パラグラフ・ライティングのコツについてです。パラグラフこそ、特定の主張を説明したり、論証したりするための構造上の基本パーツです。これをうまく作成できるようになることがレポート攻略の王道です。その際、「1パラグラフ・1主題の原則」、論理的なパラグラフを作成する「統一性・連関性・展開」についての3つの技法、「題目文と補足文を意識して演繹的な順序で叙述する」コツなどを演習問題によって指摘しました。自学自習の際には、以上の講義ポイントを各自が納得できるまで繰り返し学習してください。

教職指導講座

教員採用試験に挑戦している皆さんへ

教職キャリアセンター指導講師 杉本 信代

すぎもと のぶよ
教職キャリアセンター指導講師
[ 職  歴 ] 東京都小学校校長
[専門分野] 国語科、特別支援教育
[担当科目] 教職概論、教職実践演習

夏の教員採用試験に向けて、準備をしている真っ最中ですね。自分が立てた計画は、上手くいっていますか?
2022年度1年間で、通信教育部の教員採用試験の合格者は100人を突破しました。すごいことです。みなさん、働きながら勉強の仕方を工夫して、それぞれが立派に成果をあげられました。
そこで、私がスクーリングや対策講座、また教育実習の担当者として、共に関わってきた方々の中から、見事合格されたお二人を紹介します。ご本人たちのご了解を得て、下記は、合格体験記「誓」からの抜粋です。 

教員採用試験合格体験記「誓」は、コチラからご覧いただけます。

「価値創造の人生」根里祐喜さん

入学してすぐに、レポート課題という大きな壁にぶち当たりました。課題の内容が難しすぎて全然頭に入って来ないのです。何度も通教を辞めようか、との思いが頭をかすめましたが、夏期スクーリングに参加し、素晴らしい学友との出会いがありました。つらい時や苦しい時に励まし合える仲間がそばにいるということが、本当に大きな心の支えとなり、生涯の友を得られたことは何よりの財産だったと思います。
2020年秋には、母校での教育実習を経験しました。初めての教育現場にドキドキの連続でしたが、温かい先生方、学校の雰囲気、そして、子供たちの日々変わる反応や表情に触れるたび、教職という職業に大きな魅力を感じ、「一生、この仕事に就いていきたい」と決意することができました。
2022年7月、二度目の挑戦となる教員採用試験。一次選考を通過し、前年度のリベンジを果たすことができました。二次選考対策は、創価大学の二次選考対策講座にも積極的に参加しました。練習会で主体的に呼びかけ合って、意欲的に取り組む創大生の姿に、「自分も必ず合格するんだ!」と決意を強くすることができました。迎えた二次選考当日、集団面接では、練習会の成果を存分に発揮でき、個人面接では、実際に学級担任として働いている取り組みや対応を話すことができました。試験官の人柄も良く、集団面接メンバーにも恵まれ、安心して準備してきたことを出し切り、二次試験を終えました。改めて、面接こそ準備が一番大切だと実感しました。
2022年10月14日、合格発表日。ちょうど発表の時間、授業中だったため、授業が終わって恐る恐る教育委員会のホームページを開くと、そこに私の受験番号がありました。その日の職員夕会では、職場の先生方全員から温かい拍手をいただき、感動で胸が熱くなりました。
これから大変なこともあると思いますが、「教師こそ最大の教育環境」との創立者のご指導を胸に、周りの人を幸せにしていける教師を目指して、さらに前進してまいります。

「パイオニア ~聴覚障害を乗り越えて~」平尾純子さん

小学生のころ出会った特別支援学級の先生の温かさに触れ、憧れるようになった教師という職業。しかし、聴覚障害があることと50代で教師になることは、現実には難しいのではないかと悩んでいました。そんな時、夏期スクーリングで開催される「教職生大会」に参加しました。現職の先生がいきいきと語る体験に、教育者とはなんと素晴らしい職業なのかと、電撃が走るほど感動し、「絶対に教師になるんだ」と腹が決まりました。
2021年には、勤続20年のリフレッシュ休暇で3週間お休みをいただき、「自分を変えよう!」と夏期スクーリング全期に参加しました。教職キャリアセンターの先生が声をかけてくださり、「やっぱり教師になりたいんです!」と相談したところ、社会人経験枠で受験資格があることを教えていただきました。
また、ある先生は、聴覚障害のある教師は前例がなく、「平尾さんはパイオニア」だと激励してくださり、本当に勇気をいただきました。最初はこんなチャレンジは無謀だと思っていましたが、スクーリングを通して、同年代の同じ志を持った多くの学友と出会え、切磋琢磨しあえたことも、生涯の宝となりました。
2022年、初挑戦した教員採用試験の合格を勝ち取ることができました。通教に飛び込んで18年。教壇に立つという追い続けていた夢がやっと見えてきました。
今年も、創価大学通教の多くの学友が教員採用試験に合格しました。大変なことも苦しいことも共に乗り越えてきた同期と、教育者として使命の舞台に立てることが嬉しいです。今後の人生も、悪戦苦闘しながら、人間教育の実践者として成長しつづけていきます。
 

6月・教採直前アドバイス

①なぜ教師を目指すのか、そしてどんな教師になりたいのか、自身の目標を明確にすること。
(そのことをしっかり文章にする。⇒ 志願書に書いた文をブラッシュアップさせる。)

②受験する自治体の対策を万全にする。
自治体によって、日程も試験科目も異なります。
特に、2023年度から、受験内容や選考方法などを変更している自治体があります。
自分が受験する行政の教育委員会ホームページを開いて、丁寧に確認しましょう。
例えば、東京都の二次選考での「集団面接」は廃止され、個人面接のみとなりました。
また、これまで「単元指導計画」の提出が求められていましたが、それも廃止されました。

③最終段階のこの時期、自分に合った学習計画になっているか。
やる気が出ない時は、現実の生活と計画が合っていないのです。スケジュールを練り直します。

④積極的に、教職キャリアセンター主催の対策講座や個人面接の機会を活用すること。
その時に励まし合う仲間を作って、情報交換をすると元気が出ます。

⑤睡眠・栄養・休息を聡明に取る。朝は早起きになること。健康管理の徹底。
勝利をつかむために、生活のリズムを整えましょう。

◎教員採用試験合格への道 ― 教育現場の教員不足の為に、採用試験が受かりやすくなっています。今が、絶好のチャンス到来です‼
強気でいきましょう。健闘を祈ります‼

ブック・スクウェア

『学びを結果に変えるアウトプット大全』

通信教育部  講師 黄 國光

本書は、日本初のアウトプットに特化した決定版とも言える一冊であり、著者である精神科医が提供するアウトプットのノウハウが詰まっています。各項目は、見開き完結型でまとめられており、スキマ時間に手軽に読むことができます。なお、本稿では、本の要約サイトの一部を紹介していますが、詳細な内容については末尾に掲載されたサイトで、重要なポイントがわかりやすくまとめられていますので、ぜひ参考にしてください。

インプットは情報を「入れる」こと、アウトプットは入れた情報を「出す」ことを指します。本書によると、「読む」「聞く」がインプットに、「話す」「書く」「行動する」がアウトプットにあたります。ある調査によるとインプットとアウトプットの比率は7対3が平均だそうです。しかし、著者は、インプットとアウトプットの“黄金比”は3対7だと指摘します。そしてアウトプットなしに自己成長はありえないというのです。

例えば、本棚にある本を1冊取り出し、その内容を5分で説明してみましょう。もし説明できないとすれば、内容を覚えておらず、何の役にも立っていないということです。インプットはただの「自己満足」にすぎません。読書などでいくらインプットしても、アウトプットしなければ記憶として定着することはありません。「自己成長」はアウトプットの量にこそ比例します。

本書には、アウトプットの4つの基本法則を紹介しています。1つ目は、「2週間に3回使った情報は長期記憶される」です。インプットした情報は、何度も使わないとすぐに忘れてしまいます。脳に入力された情報は、「海馬」に仮保存されます。仮保存される期間は2~4週間です。その間何度も使われた情報は、「重要な情報」と判断され、「側頭葉」の長期記憶に移動します。そして、側頭葉に記憶された情報は、忘れにくくなります。

樺沢 紫苑 著

アウトプットの基本法則2は、「成長の螺旋階段」です。これは、自己成長におけるインプットとアウトプットの関係を表現した言葉です。成長するためには、インプットとアウトプットをどんどん繰り返す必要があります。だが、インプットとアウトプットは、同じ場所をぐるぐる回っているわけではありません。インプットとアウトプットをセットで行うことにより、螺旋階段を上るように少しずつ成長していきます。

作家の立花隆氏や脳科学者の茂木健一郎氏も、インプットとアウトプットのサイクルを回すことの重要性に言及しています。自己成長のためには、このサイクルがとにかく重要です。

アウトプットの基本法則3は、先にも触れた「インプットとアウトプットの黄金比は3:7」です。この比率でインプットとアウトプットを行うと最も効率的だということがわかっています。思うように成長しないのは、インプットが過剰になり、アウトプットが不足しているからです。黄金比を意識し、アウトプットを増やしていきましょう。

アウトプットの基本法則4は、「アウトプットの結果を見直し、次にいかす」です。インプットとアウトプットのサイクルを回すにあたり、絶対に欠かせないプロセスがあります。それは「フィードバック」だ。これは、アウトプットの結果を評価し、その結果を踏まえて次のインプットに修正を加えるという作業です。失敗した場合にはその原因を追究し、対策を講じましょう。成功したときには、その理由を考えてさらなる改善を求めます。そうすれば必ず成長がみられるというわけだ。アウトプットの回数や頻度を増やすこと、アウトプットの際にフィードバックを受けること、アウトプットを通じて新しい学びを発見することなどがあります。

さらに、本書では、日々の生活のなかでアウトプット力を高める7つのトレーニング法が紹介されます。ここでは、そのうちの1つ、「読書感想を書く」を紹介します。これは、通教生皆さんの学修スキルを伸ばしたい人におすすめのトレーニング法です。

読書感想を記すことのメリットは、「本の内容が定着する」「本の内容を深く理解できる」「本の内容が整理される」「文章力がアップする」「思考力がアップする」「自己洞察が進む」「飛躍的に自己成長できる」、の7つがあります。

読書感想のテンプレートは、「ビフォー」+「気づき」+「TO DO」です。「この本を読む前の私は〇〇でした」+「この本を読んで私は、○○について気づきました」+「今後、○○を実行していこうと思います」の3行で構成をまとめ、それに肉付けするとよい。このテンプレートを使えば、10分で論旨が明解な読書感想を書くことができるはずです。

ここで取り上げた内容の他にも、本書には「効果的なフィードバックの4つの方法」「15人と濃い関係をつくる」「笑顔の8つの効果」など、非常に興味深い内容がまとまっています。

本書は、通教生皆さんがアウトプットを通じて学修をより効果的に定着させるための具体的な方法やテクニックを紹介しており、実践的なアドバイスが多数含まれています。アウトプットを通じて学修効果を高めたい人にはおすすめの一冊です。本書を手に取り、アウトプットを実践して、自分の人生を能動的、積極的に変えてみてはどうでしょうか。

 

※本稿のまとめにあたり、以下のサイトを大いに参考にしました。

flier(フライヤー) https://www.flierinc.com

『学びを結果に変えるアウトプット大全』
著者:樺沢 紫苑
出版社:サンクチュアリ出版 (2018/8/3)
ISBN:978-4801400559
価格:1,595円(税込)

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学修支援だより【2023年7月号】

Foreword

今、創大で学ぶ者に求められる誠実さ

教育学部長 関田 一彦

ChatGPTに代表される文章生成型AI(以下AIと略す)の使用をめぐっては、たびたびマスメディアでも話題になっている。特に、教育における利用に関しては文科省もガイドラインを検討するなど、関係者の大きな関心を集めている。そうした現状を踏まえ、本学でも4月に「授業課題における AI 利用の考え方と注意点について」と題する文書が出された。その中で、「本学では、レポート等の授業課題における AI の利用について一律禁止の措置をとらず、担当教員が各授業の到達目標や学生に身につけてほしい力を考え、授業課題の作成条件や留意事項として AI の利用/禁止等を示していく」ことが、春学期の方針として教員に示された。また、履修要項に記載している受講モラルガイドラインをよく理解し、課題提出に際して不正と判断されるような行為は厳に慎むように学生に周知することが求められた。ここでのガイドラインのポイントは、創価大学という学問共同体において、虚偽や欺瞞といった不正を許さない姿勢と、共同体構成員の期待と信頼を裏切る行為への誘惑に対する品位ある自覚である。
教員は特定の知識・技能を身につけてもらうために課題を課す。通教では多くの場合、レポート課題は教科書や参考文献で学んだ知識を教員の指示に沿って活用し、適切に表現することを求めている。それは、内容は正しく理解されているのか、それらはどの程度応用可能なレベルで理解されているのか、学生の学修成果を点検するためのものである。したがって、(あえてそうした指示を出さない限り)教員は学生がレポート作成に際し、AIも含め自分以外のものが作成したレポートを自分が作成したと偽って提出することを想定していない。
学生の実力を測り、理解の促進を願う教員の期待を裏切って、あたかも指示通りに作成したかのように振舞うことは、不誠実な行為である。バレなければ問題ない、周囲も同じことをやっているのだから自分もいいだろう、という発想は品位ある姿勢からは出てくるはずがない。創立者はかつて「学光」の100号記念特別寄稿において「“勉強の訓練”を自分に課し、やり遂げていったところに身につく克己心や、人への思いやりといった人間の輝きこそ砂金の輝き」であると指導された。教員の指示に従わず、勉強の訓練を疎かにした結果、身につくはずの知識や技能が身につかないだけなら、ある意味、自業自得であろう。しかし、教員や学友を偽って単位を取ろうという姿勢は、創大生としての品位に欠けるものであるということは強調しておきたい。人間教育の最高学府に学ぶ者は勉学に対しても学友に対しても誠実でありたい。

学修支援推進室コーナー

夏期スクーリング期間中の学修支援について

学修支援推進室 室長 高橋 正

レポート作成講義

いよいよ3年ぶりに対面で行う夏期スクーリングが近づいてきました。学修支援推進室では、夏期スクーリングの期間に3回にわたり、次の日時で、対面でレポート作成講義を行います。この講義は通教生のレポート作成サポートの一環として実施しており、通教生はどなたでも無料で参加できます。さらに、夏期スクーリングに参加していなくても受講できます。講義タイプはどの日程でも入門タイプ、A・B・Cタイプの4つを開講します。レポートの書き方がよく分からない方は、入門やAタイプの講義を受けてください。レポートの内容をさらに高めたいとか、より論理的で説得力のあるレポートはどのように作成するのかについてはBやCタイプの講義をお勧めします。受講者からは「レポートに取り組む気持ちが強くなった」とか、「何回受講しても気づく点があり、助かります」といった意見が聞かれ、好評であります。
 

事前の申し込みが必要ですので、学光ポータルの「学習サポート」のメニュー内にある「各種ガイダンス・レポート講義・個別相談・懇談会申込」の「レポート講義」から申し込んでください。

日時
8月13日(日) 18:30-20:00
8月18日(金) 18:30-20:00
8月23日(水) 18:30-20:00

講義タイプと実施教室(上記3日間共通)※AW・AEは「中央教育棟」の教室を指します
入門タイプ AW301 AタイプAW302
Bタイプ AW303 CタイプAE351

オフィス・アワーのご利用を

夏期スクーリング期間中に、本学の専任教員が学修上の質問や相談を受けつける時間・場所を授業時とは別に設けます。 授業の中で生じた疑問やよく理解できなかったところなどを気軽に質問できます。 事前の予約は不要で、指定された時間帯であれば訪問することができます。 ぜひ、ご利用ください。 実施する教員や日時・会場などの詳細は、夏期スクーリングの各期のガイダンスで配布します。

自立学習入門講座

自立学習入門講座67

通信教育部 准教授 開沼 正

「歴史学分野の科目」のレポ―トのまとめ方と注意点について、仮のレポート課題を設定したうえで、それに答える形で模範解答を示します。全ての歴史系レポートの課題に対応できるわけではありません(これはどの分野でも同じです)が、一例を挙げてみようと思います。

レポート課題(仮):江戸幕府の政策決定過程の変遷について述べよ

仮のレポート課題として、上記のようなものを作りました。皆さんがレポートを書く際には、多くの文献を参考にすることと思います。それはとても大切な作業ですが、参考文献の中で述べられた学説が何に重点を置いているのかを理解しておく必要があります。学説が異なる複数の参考書を安易に切り貼りしただけですと、レポートの内容がちぐはぐになって主張に一貫性がなくなってしまいます。残念ながらこうしたレポートは少なくありません。参考文献は、執筆者の主張の違いを理解して使い、レポートの内容がぶれないように注意してください。
自然科学(数学、物理学、医学など)では、もともと自然界に存在した法則を人間が発見し、それを数式などで表現をすることにより発展してきました。法則を利用することにより人類は船をつくり、飛行機をつくり、宇宙船までつくりだしました。生命体に関する様々な発見が医学の進歩に大いに役立っています。星の運行なども明らかになっており、数百年後に地球で見られる天体ショーまで計算できます。自然科学では法則に従う限り、誰でも同じ結果が出ます。
一方で人文科学(歴史学、文学、哲学など)や社会科学(法学、政治学、経済学など)は人間が作り上げてきたものを研究する学問分野です。これらの学問分野では、人間が学問の内容を決めてきました。自然科学とは異なり、「正しい法則」はありません。言い換えると異説が多く存在するということです。もちろん天文学や医学でも異説はあります。しかしそれは人間が解明していない部分に関してのものです。明らかになったことに関しては、自然科学では異説をはさむ余地はありません。
人文・社会科学では、同じ材料を与えられても研究者によって結論が異なることがしばしばです。例えば鎌倉幕府はいつ始まったのかという一点をとっても様々な学説が存在します。私が高校生だったころは「イイクニ作ろう鎌倉幕府」で1192年でした。ところが現在の高校日本史では1185年が有力となっています。
これは何に重点をおくかです。源頼朝が征夷大将軍に任ぜられたことに重きをおく人は1192年説です。これに対して守護や地頭を任命する権利を手に入れた時点で幕府という組織の実体が整ったことを重視する人は1185年説をとります。このように時代によって有力となる学説が変わることも珍しくありません。しかしたとえ有力ではない学説でも一理ありますし、有力な学説が唯一無二の真実というわけでもありません。
こうした特徴のある人文・社会科学系の学問分野ですが、この稿では歴史系のレポートにしぼって、どう書き進めていけばいいのかについて以下に述べていきます。
まず考察の対象を時間的に区切るということです。こうすることによって書き手本人にとっては頭の中が整理されて理解が深まります。また書き手の頭の中が整理されているということは、読む側にとっても読みやすくなるということです。例として、第1期、第2期……、あるいは黎明期、安定期、衰退期……、などと区分けして、その期ごとに記述を進めていけばいいでしょう。
人物についての課題であれば、略歴を書くようなかたちで幼い頃(若い頃)から晩年、そして死亡するまでを時間的順序で書くのが最もオーソドックスな方法です。その人物にまつわるエピソードを交えると内容的に面白味が増します。字数に余裕があれば試してみてください。課題の内容によっては、関東では……、近畿では……、などのように空間的に分ける方法もあります。
その他、原因と結果に分けて記述する方法もあります。歴史はまさに原因と結果の連続です。「無常」と言われるように社会は常に変化しています。何らかの不合理や不都合などが社会の中で発生(原因)し、それに対処するための行動が「事件」とか「運動」というかたちで顕在化し、その成果としての「結果」が生まれます。歴史的事件についてのレポート、あるいは事件の影響についてのレポートなどは、こうした記述方法が合っているかもしれません。課題によって柔軟に対応してください。
「2000字のレポートを書く」となると、漠然として何から手をつけていいか分からないことが多いと思いますが、このように時間的、空間的に小分けすることによって、パラグラフが明確になります。つまりレポートを書きあげるための「小目標」が明確になります。この小目標を一つずつ達成していくことで、レポートが少しずつ完成に近づいていることを実感できますし、次に何をすればいいのかも明確になります。
今回の仮のレポート課題で取り上げた江戸幕府は、組織図的にみれば260年以上の間、大きな変化がないように見えます。しかしそれは表面上のことだけで、水面下では違います。組織というのは人が運営するものですから、人が替われば運営方法も力関係も変わって当然です。
ところが今までの歴史学では表面の組織図だけを見て、江戸時代は長い間ほとんど変化のない退屈な時代であると解釈していました。そのためにダイナミックな政治の動きを見逃してきました。たとえば事実上、議会の初期段階とも言える留守居組合という団体は、幕府の組織図に位置づけられていない(つまり制度としては存在しない)が故に注目されることはありませんでした。
これからの歴史学は、制度の表面的な分析にとどまるのではなく、制度がどのように運営されてきたのか、機能してきたのかに焦点を当てた研究が必要とされると思います。
以下、仮のレポート課題(「江戸幕府の政策決定過程の変遷について述べよ」)に対する解答の一例を示します。

江戸幕府の初期2代(家康、秀忠)の時代はトップによる親政の時代である。この時代の幕府のトップは将軍ではなく、大御所である。大御所こそが国内政治全般と外交を担当する日本の統治者であり、将軍の立場は軍事部門を担当する防衛大臣のような存在である。家康が秀忠に将軍職を早めに譲ったのは、権力継承予定者(次期大御所)が誰であるかを内外(徳川家臣団、豊臣方)に示すためであり、実権まで譲ったわけではない。安定した政治のためには、「次」が誰であるかが明確である必要がある。
大御所・家康は自らを補佐する人材を各方面から集めている。徳川家臣団はもとより、大商人(角倉了以など)、僧侶(金地院崇伝など)、そして外国人(ウィリアム=アダムスなど)を加えた多様性のある政策集団である。他にも江戸をはじめとする都市建設を進めるために、都市計画などの専門家もいたことであろう。家康は、彼らの知識やアドバイスを参考にしながらも、最終的な決定は自らの判断でくだしていったのである。
家康が1616年に死亡して、秀忠が政治の実権を握った。2代目の秀忠も家康と同様で、早めに将軍職を譲り親政を行ないたかった。しかし長男の家光が幼かったので、彼が20歳(数え年)になるのを待って将軍職を譲った。以後、大御所として政治の実権をふるうことになる。秀忠時代には、大商人や僧侶がブレーンに加わることはなくなり、政策決定に携わるのは徳川家臣団(譜代大名、旗本、御家人)に限られた。
3代将軍家光も初期2代と同様に親政を進めるつもりだった。しかし全てが徳川氏に都合のいいようには行くわけではなかった。つまり家光には、将軍就任後も長らく後継ぎが生まれなかったために、将軍職を譲る相手がいなかった。つまり初期2代がしたような「大御所-将軍(次期大御所)体制」を維持できなかったのである。これ以降、幕府のトップは将軍であることが定着した。
家光は病弱な将軍として知られており、しばしば将軍親政による政策決定にも差し支えるような状況になった。しかし政治上、解決しなければならない問題は待ったなしで発生する。したがって家光を支えるブレーンが代わりに政策決定を行う必要が生じた。
家光の死後、4代将軍に就任したのは数え年で11歳の家綱である。少年が政治を運営できるはずもないので、引き続き家光のブレーンが政策決定を担うことになった。家綱は人物の性格上、主導権をとるタイプではなかったために、成人した後もブレーンの決定を追認することが多く、将軍はブレーンたちの決定に正統性を与える最終認可機関のようになった。
5代将軍の綱吉は主導権を握りたいタイプの人物で、兄・家綱のような「お飾り将軍」には満足できなかった。そこで信頼する家臣を側用人という立場で政策決定に引き入れ、将軍による親政を事実上、復活させた。以後、10代家治までのおよそ100年間、「側用人政治」と呼ばれる時代が続いた。
側用人出身の最後の実力者・田沼意次が失脚し、松平定信が政権の座に就いた。譜代門閥の勢力が100年ぶりに与党に返り咲いたのである。こうして政策集団である老中たちが幕府の政策決定の中枢を担うことになった。
ペリー来航以降は、老中首座の阿部正弘が、外交政策について大名や旗本・御家人に意見を求めた。またアメリカとの通商条約の締結に際しては、老中首座の堀田正睦が勅許を得て条約締結の正当性を高めようとしたが勅許が得られなかったために、逆に条約締結反対派を勢いづかせ、また朝廷の意向が政策決定に大きな影響をもつようになった。従来の譜代門閥による政策決定に変化が生じたわけである。
大老・井伊直弼による強権的な政治運営は、政治・外交に関して日本国内に深刻な分裂状態をもたらした。従来の政策決定方法が機能せず、また新たな方法が見いだせない中で、暴力に頼らざるを得なくなった。いわゆる「安政の大獄」である。
その報復措置として「桜田門外の変」や「坂下門外の変」と呼ばれるテロ行為が続いた。双方が武力・暴力の応酬を繰り返したため、国内の分裂状態は悪化の一途をたどり、幕府は日本を代表する政府としての機能を失っていった。
徳川慶喜による大政奉還や薩摩藩などによる新政府の樹立によって形式的には幕府は崩壊した。しかし最大の勢力は依然として徳川慶喜率いる旧幕府である。「王政復古の大号令」によって成立したとされる新政府ではあるが、まさに掛け声(号令)だけで実体は何もない。政治運営は徳川慶喜の協力なしには何もできない状態だった。新政府側は、徳川慶喜を新政府に取り込むか、あるいは彼のもつ政治力(軍事力、経済力)を奪うかの選択に迫られていた。もし前者を選べば、徳川慶喜が中心の新政府ということになり、何も変わらない。最終的には「鳥羽・伏見の戦い」と呼ばれる武力衝突で旧幕府側が敗れることにより、江戸幕府は名実ともに消滅することとなった。(1995字)

ここで示した解答は、冒頭で「模範」と言ってはおりますが、あくまでもひとつの例です。これがベストでも、唯一の真実でもありません。依拠する文献によっては、異なる主張をすることも可能です。前に述べたように人文・社会科学系の学問分野の特徴をふまえたうえで、自分はどの学説に基づいているのかを十分に理解しながらレポートの作成をしてください。以上のことから、使用した参考文献を明示する重要性も理解できると思います。
ご健闘を期待しています。

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学修支援だより【2023年8月号】

Foreword

待ちに待った夏期スクーリングで自身の飛躍を目指そう!

学長 鈴木 将史

全国の通教生の皆さん、勉強は順調に進んでいますか?仕事や家事に取り組みながら学問の修得を目指す日々の尊い挑戦、本当にお疲れ様です。
さて、コロナ禍で行えなかった対面での夏期スクーリングが、いよいよ4年ぶりに戻ってきます!この日を待ち望んでいた人も多いのではないでしょうか。そこで、久しぶりの夏期スクーリングを迎えるにあたり、その意義と価値を確認したいと思います。

(1)    出会いの場
まず何と言っても、夏期スクーリングは、日頃バラバラに過ごしている全国の通教生が一堂に会する「出会いの場」です。同じ場所でともに学び合う中で、多くの仲間と知り合い、互いに激励し、啓発を受けることができます。方面対抗のコンテストなどにより連帯感も生まれ、今後の学習にとってもきっとプラスとなることでしょう。

(2)    決意の場
創価大学の広大なキャンパスで日々を過ごす中で、創立者池田先生が本学に込められた建学の精神を強く実感することができます。それは通教生の皆さんにとって、新たな勉学への決意の場でもあります。ここで知り合った仲間と、自らの決意を語り合いましょう。必ずやさらなる前進への勇気が湧いてくるに違いありません。

(3)    飛躍の場
これまでは勉強が今ひとつ進んでいなかった人も、夏期スクーリングで集中的に学び、真剣な仲間の頑張りに触れることで、勉強に取り組む姿勢が身に付きます。みんなと一緒にレポート作成に挑戦してみましょう。スクーリングから帰ったら、見違えるほど勉学に前向きになっている自分自身を発見することでしょう。

さあ、そんな実り多き夏期スクーリングにしていくことを目標に、今日から準備を始めましょう!皆さんと創価大学でお会いできるのを心待ちにしています!

教職指導講座

教員採用試験の2次試験に向けて

通信教育部 講師 栗本 賢一

くりもと けんいち Kenichi Kurimoto
通信教育部 教職指導講師
[ 職  歴 ] 埼玉県小学校校長、中学校教諭(国語科)、ハンブルク日本人学校、市教育委員会指導主事
[専門分野] 国語科、道徳教育、国際理解教育
[担当科目] 教職概論、教職実践演習

教員採用試験一次試験受験、お疲れさまでした。その結果が出てこのたよりを目にしておられることと思います。
合格された方、おめでとうございます。残念ながら不合格だった方、ここであきらめずに来年こその決意で、今一重精進していきましょう。
一次試験を無事突破したからといって、けっして安心はできませんね。かえって緊張や不安が増しているのではないでしょうか。というのも、一次試験では教職教養や専門教養などの知識を問われたのに対して、二次試験では「個人面接」や「小論文」、あるいは「場面指導」「模擬授業」「集団討論」「実技試験」など、多岐にわたる観点から受験者の教育観や力量、人間性などが問われるからです。
二次試験とは、これまでの学び、努力や経験、培ってきたもの、磨いてきたものなど、まさに自分が生きてきた歴史を引っ提げての「勝負」だといえましょう。その勝負に勝つためには…
中国の有名な兵法書「孫子」の「謀攻篇」にこうあります。
「彼を知り己を知れば百戦あやふからず。彼を知らず己を知れば一勝一負。彼を知らず己も知らざれば毎戦必ず敗れる。」
勝負に臨んでの重要なポイントですね。
これを教員採用試験に当てはめると、「彼」はすなわち受験する自治体になります。まずは過去問チェックです。そして、その自治体が掲げている教育ビジョン、求める教員像、教育施策、教育振興基本計画、特色や課題などの把握です。すべてを覚えるわけにはいきませんが、ポイントとなりそうなところは押さえておきたいですね。
そして「己」とは自分、すなわち自分を知ること。自分のよさ、強み、アピールポイントなど…
結論から言います。自信を持って「強気」で臨んでください。創立者は折々に「人生は強気で」とおっしゃっています。
かつて教員採用試験の面接官をした時のこと。質問に対しての返答がおどおどして自信が無いような受験者の評価は低かったですね。なぜなら、教師になったとして、子供や保護者からの質問にしっかりと対応できるのだろうかと、不安になってしまうからです。質問に対してたとえ自信がなくても、堂々と胸を張って答えた方がいいですね。もし間違ったことを言ってしまったと思ったら、「申し訳ありません。ただいまのは訂正いたします。本当は〇〇だと思います。」というように潔く答えると、かえって好印象を与える場合もあります。
何よりも、通教生の皆さんは、さまざまな社会人経験、我が子の子育て体験など多様な人生経験をしています。それらはみな、自身の宝の財産です。「私が教師になったら、すべての子供を幸せにしてみます!」「私に任せてください!」くらいの強気で、それでいて謙虚に、堂々と自分の思いを語ってきてください。
ここからは「個人面接」「小論文」に絞って、そのポイントを確認します。

1.個人面接

二次試験は「個人面接」重視と言っても過言ではありません。受験者が教育や教職についてどのように考えているのかとともに、識見、力量、人間性など、さまざまな観点で評価されます。特に以下の5点は重要な質問なので、自分なりの回答をしっかりと用意してください。

(1)なぜ、教師を目指したのか。
(2)なぜ、この自治体を受験したのか。
(3)どのような教師になりたいか。
(4)どのような児童生徒を育てたいか。
(5)これまでの経験の中で特に頑張ったことは何か。そこから何を学んだか。また、それを教師になったらどのように活かすか。

ひとつアドバイスです。型通りの答えではなく本音で語ることをお勧めします。例えば(2)の質問です。「はい、〇〇県の教育施策である△△に感銘を受けたからです…」というようなことを述べる受験者は多いのですが、本当にそれがいちばんの理由ですか?用意した原稿通り答えたのではないですか?と切り返したくなります。もちろん、それも大事な理由には違いありません。しかしそれだけではなく、例えば、「はい、〇〇県は私が生まれ育った愛するふるさとだからです。私は、ふるさとの子供たちのために役に立って恩返しがしたいと思い…」のような本音を語るのはいかがでしょうか。面接は面接官と受験者の「人間どうしの対話」です。本音をぶつけて面接官の心をつかんでください。

2.小論文

「小論文」に頭を痛めている方も多いことでしょう。①文字数、②制限時間、などの基本的な情報と併せて、原稿用紙のマス目は横何文字縦何行か、なども事前に把握してください。そして、過去問から論題を選んで書いてみるのが大事です。「手書き」にも慣れておく必要があります。鉛筆はBなどの少し濃い目がお勧めです。
小論文のポイントとしては、序論本論結論の3つに分けて論理的に書くこと、文は常体の「~だ/~である」調で、一文はできるだけ短めに簡潔明瞭に書くことなどです。一文が長くなるとどうしても文が途中でねじれがちになるからです。また、誤字脱字なども減点対象になります。何よりも大事なのが「論題に正対」すること。何について書くのか論題(テーマ)をしっかりと読み取って、そのテーマからぶれずに最後まで書き切ることです。
個人面接も小論文も、あるいは場面指導も模擬授業も、どなたかに聞いてもらう、見てもらうことが大事です。その機会として、創大の教職キャリアセンター個別相談や通教の二次対策講座などがありますので、積極的に申し込んでアドバイスをもらってください。
さあ、ありのままの自分で勝負です。自分を信じて、堂々と挑戦して合格を勝ち取ってください!

ブック・スクウェア

『ヤングケアラー -介護を担う子ども・若者の現実』

通信教育部 准教授 山﨑 勝

「ヤングケアラー」という言葉は、今までほとんど聞いたことがありませんでした。「ヤング」という名称がついている若い世代の人たちくらいの認識しかありませんでした。本書では、18歳未満の子どもを「ヤングケアラー」としています。また、18歳~30代ぐらいまでのケアラーを「若者ケアラー」という呼び方もあるようです。本書では、18歳未満を「子ども」、18歳~30代ぐらいを「若者」としています。本書でも述べられていますように、「イギリスでは、18歳未満が『ヤングケアラー』、18歳以上~24歳ぐらいまでは「ヤング・アダルト・ケアラー」と呼ばれている(22頁)。国によってその定義は異なるようです。本書で18歳未満に注目したことは有意義だと思います。18歳未満といえば、高校生までの多感な青春時代を過ごしている年齢です。そのような年代が家族のケアにあたることは、大変に大きな負担を担うことになります。

本書から「ヤングケアラー」とは何かを紹介します。「ヤングケアラーとは、家族にケアを要する人がいるために、家事や家族の世話などを行っている、18歳未満の子どものことである。慢性的な病気や障がい、精神的な問題などのために、家族の誰かが長期のサポートや看護、見守りを必要とし、そのケアを支える人手が充分にない時には、未成年の子どもであっても、大人が担うようなケア責任を引き受け、家族の世話をする状況が生じる」(ⅰ頁)。少し長い引用になりましたが大変に分かりやすいと思います。
本書の構成は、「第1章 子どもが家族の世話をするということ」。印象深かったのは、「戦後のライフコースと家族のあり方の変化」という項で、「(略)実際に日本人のライフコースや家族の形は戦後どのように変化してきたのだろうか。(中略)まず注目したいのは、日本人の平均寿命の推移である」(6頁)。戦後日本人の平均寿命は世界に類例を見ないほど急速に長寿化しています。長生きすることは良い事ですが、社会保障等の整備が追いついていないような気がします。超高齢化、急速な少子化と人口減少は、ヤングケアラーの負担を重くし、またその数が増加する可能性があります。また、「(略)現在の家族のあり様を考える時に大切になってくるのは、それを支える家庭内の人手の問題である」(7頁)。母子世帯、父子世帯、単身世帯、高齢者単身世帯、世帯人数が3人弱の世帯もあります。確かに家庭内の人手の問題は深刻になりつつあると感じます。

「第2章 日本のヤングケアラーに関する調査」。第2章では、著者が2013年に医療ソーシャルワーカーの団体、東京都医療社会事業協会に行ったアンケート調査が紹介されています。このアンケートに回答した402人の8割は、主に病院に所属し、患者やその家族の経済的・社会的・心理的相談を受け、問題解決の援助をしている人たちです(29頁)。子育て相談の内容やその子がケアをすることになった理由などの様々なアンケート調査がされています。また、実施年は異なりますが、南魚沼市と藤沢市の教育者に対する調査も実施されています。ケアの問題は、ある意味ではプライバシーの問題でもあり、様々な困難な問題も含まれますが、ヤングケアラーが行う家族に対するケアの支援策は当然に必要なことである。
「第3章 調査後の支援体制作り」。第3章では、第2章で述べられた新潟県南魚沼市と神奈川県藤沢市の実態調査後の取り組みについて取り上げています。また、ヤングケアラーの悩み、体験、意見を率直に語り合っています。青春時代に好きな事もままならない様子が伝わります。
その他に、「第4章 ヤングケアラーの体験」、「第5章 ヤングケアラーへの具体的な支援」、「終章 ヤングケアラーが話をしやすい環境を作っていくために」などが掲載されています。熟読することをお勧めいたします。
最後に、ケアの内容について、一般社団法人「日本ケアラー連盟」のネット資料より紹介させて頂きます。長い引用になりますが、ケアの内容を具体に知って頂きたいと思います。

*障がいや病気のある家族に代わり、買い物、料理、掃除、洗濯などの家事をしている。
*家族に代わり、幼いきょうだいの世話をしている。
*障がいや病気のあるきょうだいの世話、見守りをしている。
*目を離せない家族の見守りや声かけなどの気づかいをしている。
*日本語が第1言語でない家族や障がいのある家族のために通訳をしている。
*家計を支えるために労働をして、障がいや病気のある家族を助けている。
*アルコール・薬物・ギャンブル問題を抱える家族に対応している。
*がん・難病・精神疾患など慢性的な病気の家族の看病している。
*障がいや病気のある家族の身の回りの世話をしている。
*障がいや病気のある家族の入浴やトイレの介助をしている。

以上のケアの内容は一部分であると思いますが、18歳未満の子どもたちが日々このようなケアをしていると思うと心が痛みます。

『ヤングケアラー -介護を担う子ども・若者の現実』
著者:澁谷 智子
出版社:中央公論新社(2021/6/10)
ISBN:978-4-12-102488-6
価格:800円+税

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学修支援だより【2023年9月号】

Foreword

Post-COVID Realities: Overcoming Social Isolation

国際教養学部 学部長 Laurence Macdonald(ローレンス・マクドナルド)

ポストコロナの現実:社会的孤立の克服へ

コロナウィルスの世界的なパンデミック(世界的大流行)によって強いられた3年間の社会的孤独から世界各国が抜け出すと同時に、私たちはこのパンデミックがもたらした社会問題に直面しています。
米国で最近行われた3,300人の高校生を対象とした調査では、半数以上が不幸や憂鬱を感じていると報告されています。オランダの調査では、社会不安を訴える青少年の数が著しく増加していることが明らかになっています。以前から引きこもりの問題を抱えている日本では、内閣府によると、パンデミックの結果、社会的に孤立する人が20.6%増加したといいます。
ソーシャルメディアが発達する以前に育った親や教育者としては、現代の若者(ティーンエイジャー)はツイッター、フェイスブック、インスタグラムなどのオンラインプラットフォームを通じて無数の交流の機会があり、それによって社会的孤立が減少していると考えるかもしれません。
しかし、この問題に関する研究には様々な結論が混在している状況です。社会学者たちは、支援システムを促進し、物理的環境によって孤立している人々を結びつけることで、ソーシャルメディアを通じて交流することが可能であると考えています。一方で、ソーシャルメディアは対面での交流の代わりにはならず、非現実的な期待を生み出し、結果的に失望をもたらす可能性のあることも調査によって示唆されています。さらに、ソーシャルメディアの利用が増えることで、多くの若者が社会的孤立感を深めるとも考えられています。しかし、これだけでは因果関係を立証するのは難しい状況です。つまり、ソーシャルメディアの利用が社会的孤立感を高めるというよりは、社会的に孤立している人がより多くの時間をオンラインで過ごしているという可能性もあるからです。この分野でのさらなる研究が必要なのは明らかですが、目下の傾向は憂慮すべきものがあるのではないでしょうか。
そこで、親として、教育者として、若者の社会的孤立感の高まりを克服するために、どのような手助けをすべきか、ということが問題となります。まず第一に、オンライン学習はパンデミックの間、社会が教育システムの進歩をある程度維持するのに役立ちましたが、明らかにこれは理想的な学習方法ではありません。必須の教科の教育コンテンツを提供することは重要ですが、教育プロセスの一側面に過ぎません。それと同じくらい重要なのは、10代で育まれる思春期の人間関係の形成です。こうした人間の交流は、徒党を組んだり、いじめのもとになったりすることがあまりにも多いですが、個性と自立心を育むためには不可欠なものです。社会との関わり方を学ぶのは高校時代であり、コンピュータの画面の前で過ごすだけでは、その経験を再現することはできません。さらに、入学式や卒業式といった行事は、若者(ティーンエイジャー)にとっては通過儀礼です。パンデミックの間、演劇部や音楽部、スポーツチームに所属していた生徒たちは、自己アイデンティティを育むこのような機会も奪われてしまいました。そこで、保護者や教育関係者の皆さんに、以下のことをお伝えしたいのです。

 1. 可能な限りオンラインでの教育や学習は避けること。
オンライン学習が望ましいと思う人もいるかもしれませんが、情緒的な成長に不可欠な社会的葛藤の発生を妨げることになってしまいます。

2. 若者(ティーンエイジャー)が友達と過ごす時間を認めてあげること。
日本のように若者(ティーンエイジャー)の社会生活が厳しく管理されている国では受け入れがたいことかもしれませんが、塾や学校から離れてスポーツや趣味に没頭する時間を作ってあげてください。たとえ趣味がテレビゲームであっても、他者と一緒に遊ぶことで、社会的な交流が生まれ、その結果、精神的に成長するのです。

コロナウィルスが長期にわたって社会的にどのような影響を与えるかはまだわかっていませんが、親として、教育者として、愛情をもち、細心の配慮をして、青少年がこうした社会的・情緒的な課題を克服し、孤立した存在ではなく、社会と積極的に関わる大人になるよう手助けすることが不可欠ではないでしょうか。

学修支援推進室コーナー 1

レポート作成講義【Aタイプ】を担当して

通信教育部 准教授 加納 直幸

レポート作成において最も重要なのは、レポート課題の意味を的確に把握して、テキストの内容を十分に理解することです。この基本ができていないレポートが少なくありません。
まず、レポート課題とは、第一義的に作題者がレポート作成者に対して「質問し、答えを求めている」ということです。そのために、課題(質問)の意味を正確に理解することが求められます。また、課題の中に含まれる専門用語についての正確な理解も必要です。課題を読む段階から専門用語などの理解困難な言葉を検索できるような準備が必要です。生かじりの我流の知識で課題を理解することがないよう注意が必要です。
実際、このことができていないために課題から外れてしまったレポートや、いかにも自分はよく理解して書いているんだと思わせるようなレポートが散見されます。当然ながら不合格となる可能性が高くなります。
次に、テキストの内容を十分に理解することですが、語句の正確な意味を理解することから始まって、著者の意見や論調をしっかり把握することが重要です。これができていないと、文章をそのまま切り貼りして書くことになります。このような方々も多く見かけます。最後の文までテキストの文のままであることも珍しくありません。
なぜそのようなことが起こるのかを推測すれば、「書く」ために、「読む」ことをしていない人が多いということでしょう。いろんな事柄を聞いて知ったつもりの人がいます。知識が耳から入って口から出てくるタイプの人です。確かにこのタイプの人は、一見、流ちょうに話ができて博学に思われる方かもしれませんが、文章を書く際にはどうでしょうか。話を聞くことより、文章を読むことの方がはるかに正確な理解を得ることができます。それは、文字として“意味”が存在し、確認ができるからです。さらに何度でも読み返すことができ、理解を深めることができます。実は文章を「読む」ことの多い人の方が、レポート作成を苦にしていないことが多いのです。
つまり、レポート作成について最も重要なことである「書く」ことのためには、深く正確に「読み」、そして良いレポートを「書く」作業に移行していくという流れが大切なのです。そのためには、「読む」ことを中心にした日々の勉学を行うということです。教科書や参考書はもちろんのこと、新聞の社説やコラム、専門雑誌などを貪欲に読み込んでいくことです。
そして、ジャンルごとにノートやメモ帳を脇に置いて書き込んでいく習慣を身に着けることも、勉学やレポート作成を楽しくやり遂げるための方法です。“ふうふう”言いながら勉強したりレポート作成することが全てではありません。通信教育部で、たくさんの文章を読んで、読んで、読みまくって良いレポートを書いていって下さい。

学修支援推進室コーナー 2

オンデマンドスクーリングだより
文学部「比較文化1」

文学部 教授 高橋 正

2022年より、文学部の科目である「比較文化Ⅰ」で、春期と秋期にオンデマンド・スクーリングを開講している。この科目は表現文化メジャーのベーシック科目であり、日本語教員資格のための選択科目でもある。文学部のディプロマポリシーの5番目「文化の多様性を尊重しつつ、世界市民として、生命の尊厳と平和を目指すことができる」と最も関連のある科目である。
「比較文化Ⅰ」では、まず、文化とは何かを学ぶ。文化の定義は無数にあると言ってよく、曖昧な定義も多いが、この科目で学ぶ内容に即した定義を提示している。さらに、その文化を比較することがなぜ大事なのかについて、日本の身近な文化事例を取り上げて学ぶ。この科目の特徴は、文化について抽象的な内容を伝えるのではなく、常に具体的な事例、日常言語の使用、日常行動の中に文化が現れていることを示して、その背後にどのような価値観、人間観があるのかを学ぶ点にある。具体的な言動に現れるのが「見える文化」であり、その見える文化を生み出しているのが、その文化の人々がもつ価値観・人間観である「見えない文化」である。この「見えない文化」とは何かについて、多様な観点から学んでいく。
世界には多くの文化圏があるが、この授業で比較するのは、英語圏の文化である。グローバル化の進展で、英語は世界で最もよく用いられる言語となっている。さらに、英語は日本では小学校から学んでいる言語であり、英語に関する基礎知識を多くの受講生はすでに持っている。文化の違いは言語に最もよく表れるので、比較する文化の言語の知識がある程度必要である。英国は20世紀の中頃まで、米国は20世紀後半に、政治、経済、軍事の分野で世界をリードして、英米の大衆文化・消費文化などを世界へと広げてきた。日本でも、第二次世界大戦以降、大量のアメリカ文化が流入している。このような状況から比較対象としては、身近な英語やその文化が適切であると考えている。
この授業では、授業内でディスカッションを随時行い、クラスメートとの意見交換を重視して、次のような学習プロセスで進めている。
教科書の内容理解+自分の体験⇒自分の考えを持つ⇒他者との意見交換⇒自分の考え・行動を変える
ただ、オンデマンド授業では、「他者との意見交換」ができないために、多様な意見があることを学ぶことができないのが残念である。オンデマンド・スクーリングは、いつでもどこでも学習できるという利点があるが、事情が許すのであれば、対面(夏期)・リアルタイムスクーリング(秋期)での受講も考えてもらえればと思っている。
文化の違いが、言語やコミュニケーション活動にどのような形で現れるかを理解して、日英文化圏の人々の間で、文化による誤解が生じることや誤解の原因を認識することができ、誤解や文化摩擦にどのように対応するとよいのかを理解することがこの科目の到達目標である。例えば、不幸にも失業したと相手から言われたときに、「それはお気の毒に」というつもりで、“I’m sorry for you.” ということが、相手には侮辱されているように受け取られてしまう可能性を理解して、 “That’s too bad.” や “I’m sorry to hear that.” と言うのがよいというようなことを理解するのが到達目標である。自立・自助努力(self-reliance)を重視するアメリカ人には、最初の言い方は、その人の弱さを強調しているように解釈されるからである。

受講生にとって、オンデマンド・スクーリングを完了するのに待ち受けている難関は、自動採点型の小テストをクリアすることであろう。各授業回の小テストに合格しないと次に進めない仕組みになっている。この科目では、100%できていないと合格にしていない。そのために、小テストの解答について、昨年は多くの質問や疑問が寄せられた。こちらのミスがあったりして、訂正するなどして、今年は十分に改善されている。質問も減っているが、今でもある質問は、正解を入力しているのに正解にならないという場合である。正解にならない理由の多くは解答の入力の仕方が間違っている場合である。英語で解答する場合には、英数半角か英語のフォントで入力することが『自立学習入門第3版』(p.183)で示されている。また、単語の前後や間に余分なスペースが入っている場合も不正解になる。コピペなどをしないで、スペースに注意して確実に解答を入力することをお勧めする。カタカナで解答する場合には、語と語の間に中黒(・)を入れることなど入力の基本ができていなくて不正解になる場合もある。また、受講終了日が近づいてくると、焦りの気持ちから問題文の指示をきちんと読まないで解答してなぜ不正解なのかという質問もあった。オンデマンド・スクーリングはいつでも学べるという気持ちでいると、学び始めるのが遅くなり、小テストで慌てて解答して間違えるということもある。どうか時間に余裕をもって、理解できないところは何度も映像を見たり、教科書をじっくりと読んだりして取り組んでもらいたい。

自立学習入門講座

自立学習入門講座68

通信教育部 教授 有里 典三

1.【1.課題把握】評価の細目について

今回は、レポート評価の4つの柱、すなわち1 課題把握、2 教材理解、3 論理構成、4 原稿作法・文章作法のなかで、最初の【1 課題把握】について説明します。まず、【課題把握】評価の細目ですが、概ねどの教科のレポート課題であっても、ほぼ共通して次の3点が評価の基準あるいは中心になると考えてください。すなわち、①「レポート課題の意味」がどの程度正確に把握できているか。②レポート課題解説に示された「考察条件」がどの程度正確に踏まえられているか。③「考察の種類・タイプ」(報告型か論証型か)の判別がどの程度的確にできているか、の3点です。

2.【1.課題把握】評価のルーブリックに照らしてA~Dを評価する

提出されたレポートを評価する教員は、課題把握の観点については以下のような項目別評価のルーブリックに照らし合わせてA~Dの評価を行っています。
A評価(合格)は、①「レポート課題の意味」を正確に把握していて、②「考察条件」についても完全に網羅できていて、しかも③「考察の種類・タイプ」の判別も的確なレポートを意味しています。以上のような細目についての課題把握が85%以上できている場合です。それに対してB評価(合格)は、①~③について概ね正確に把握できていて満足できるレベル(目標到達レベル)という意味です。細目についての課題把握が60~84%程度まで完成されている場合です。C評価(合格)は①~③について十分には完成されていないという意味です。細目については50~59%程度の完成度にとどまっている場合です。最後のD評価(不合格)は①~③についてまったくできていない、不完全なレポートだという意味です。細目についての完成度が49%以下であり、最提出が必要なレポートの場合です。

3.レポートを提出する前の自己チェックを習慣化する

以上の評価基準を理解した上で、皆さんに要望しておきたいのは、レポートを提出する前に【1.課題把握】については、①レポート課題の意味は正確に理解されているか? ②レポートを作成する際に踏まえるべき考察条件を見落としていないか? ③考察の種類・タイプ(報告型か論証型か)の判別は正確にできているか? という3点を必ず自分でチェックする姿勢を習慣化していただきたいという点です。

4.引用文献の紹介と著者の略歴

さて、本稿で事例として使用した文献について簡単に説明しておきます。本稿において「仮のレポート課題」と「レポート課題解説」を作成するにあたっては、半世紀以上にわたって水俣病と関わり続けてきた、そして「水俣学」の提唱者としても有名な原田正純氏(以下,原田と略記する)の著作『“負の遺産”から学ぶ』(水俣学研究センターのブックレットNo.2、熊本日日新聞社、2006)を参考にしています。とりわけ、ブックレットNo.2から引用する際には、原田自身の水俣学に寄せる思いを率直に語った「水俣病の教訓を受け継ぐ」(pp.27~31)という箇所を中心に本文から抜粋させていただきました。
著者の略歴についても簡単に触れておきます。原田は、1934(昭和9)年9月14日に鹿児島県薩摩町で生まれ、熊本大学医学部(神経精神医学専攻)を卒業。その後40年以上にわたって水俣病と関わり続け、世界で初めて胎児性水俣病を発見して注目を集めました。原田は現場に出向いて徹底的に患者の診察を行い、現場から学ぶという姿勢を一貫して堅持してきました。これまでに熊本学園大学社会福祉学部教授、水俣学研究センター長などを歴任されています。本稿で引用した著書以外にも、『水俣病』『水俣が映す世界』『水俣 もう一つのカルテ』『金と水銀』『いのちの旅』など多数の著書を発表しています。

5.仮のレポート課題

「原田が『水俣学』を提唱した背景にはどのような問題意識と考え方があったのだろうか? 彼の論点を整理して『水俣学』の学問的性格を明らかにしなさい。」

6.仮のレポート課題解説

「①原田が提唱した『水俣学』の学問的性格を明らかにするためには、次の諸点について説明しなければならない。②すなわち、著者が水俣病を公害の原点と考える理由とは何か。③水俣病の教訓を“負の遺産”と呼ぶ背景には著者のどのような学問上の意図があるだろうか。④著者の学問観として『水俣学』の成立要件をどのように考えているだろうか。⑤著者は『水俣学』の研究目的と研究方法をどのように考えているだろうか。
⑥水俣はなぜ公害の原点といわれるのか。⑦それこそローマ時代から中毒の報告は存在しているが、原田が水俣病を公害の原点と考える理由はいままでとは違う水俣病事件の発生のメカニズムに注目したからである。⑧著者は、この水俣病の教訓を“負の遺産”と呼び、この問題をずっと受け継いでいく体制作りが必要だと考えている。⑨その理由の一つは、水俣病が公害の原点であり、人類史上初めての経験であるならば、足尾鉱毒事件のように、百年研究され続けることによって、そこに新しい学問のあり方が生まれる可能性を見ているからである。⑩もう一つは、水俣病が水俣地区に特殊発生した不幸な事件ではなく、それぞれの身の回りに水俣があり水俣を発見するために水俣病を学んでいくことが必要だと考えているからである。⑪原田は、二十世紀に起きた水俣病という環境汚染を通じて起こったミステイク(中毒)を徹底的に検証することによって、危機的な環境破壊の現状を乗り越えて、「環境の世紀」といわれる二十一世紀につなげていこうと意図している。
⑫とりわけ、原田が『水俣学』の成立要件として重視しているのは、バリアフリーの思想である。⑬『水俣学』は、学会や学問の分野、あるいは素人と専門家の壁、各大学の学閥、こういうものを一切なくした学問でなければならない。⑭しかも、国と国のバリアを取ってしまう国際的な学問でなければならない。⑮さらに、『水俣学』は「弱者の立場に立った学問」をスローガンとして掲げ、徹底的に現場から学ぶ姿勢を重視している。⑯そういう学問を、水俣病事件から学ぶ中で打ち立てていけば、“負の遺産”としての水俣から次の世代の人たちがいろいろなことを学んでくれるに違いない。」

7.【基本的なチェックシート】の作成

的確な課題把握のためには、基本的な問いの束からなる【チェックシート】を作成して、それに基づいてテキストを精査しそれらの問いに正対した適切な解答を示すことが大切です。レポート課題に的確に答えるためには、つぎの段階のどのような【問い】をもってテキストを読むのかという読書術とも密接に関係してきます。では、基本的な問いを掲げてレポート課題解説からそれらと関連した情報を読みとってみましょう。

【基本的なチェックシートの問いと解答】
  1. 「レポート課題の意味:何が問題なのか」➡課題解説文①
  2. 「レポート課題の意味:何を明らかにすればよいか」➡課題解説文②、③、④、⑤
  3. 「どんな考察条件を踏まえればよいか」➡課題解説文⑦、⑨、⑩、⑪、⑫、⑭、⑮
  4. 「どんな種類・タイプの考察か(報告型か論証型か)を判別する」➡報告型のレポート
  5. 「お宝情報はどこにあるか」➡以下の「テキストからの関連箇所の抜粋」を参照せよ。
  6. 「参考文献についての情報」➡本稿の「4. 著者の略歴」を参照せよ。
8.【テキストからの関連箇所の抜粋】= 原田正純著(2006)『 “負の遺産”から学ぶ』(水俣学ブックレットNo.2)からの抜粋。

▪水俣はなぜ公害の原点といわれるのか? ➡「環境汚染を通じて、しかも食物連鎖を通じて起こった中毒というのは水俣病の前にはありません。世界の人が水俣に注目しているのはそこなのです。それから胎盤を通って起こった中毒というのも水俣の前にはない。・・・この発生のメカニズムこそが公害の原点なのです。」(p.28)

▪病名の変更は妥当なのか? ➡「水俣病は有機水銀中毒だから、『有機水銀中毒とするべき』という意見もありました。それもまた事実ですが、重要な事実を見落としているともいえます。それは、水俣病が環境汚染による食物連鎖を通じて起こった有機水銀中毒であるという点です。水俣病を有機水銀中毒としてしまうと、その発病のメカニズムの特徴が消えてしまいます。」(pp.28-29)

▪『水俣学』の成立要件は何か? ➡「大事なことは、バリアフリーです。」(p.30)

▪『水俣学』の研究目的は何か? ➡「あくまでも研究の目的は弱者の立場に立つということです。これが大事なことで、水俣で嫌というほど思い知ったのが、何のために研究するのか、誰のために研究するのかということでした」(p.30)

▪『水俣学』が重視する研究方法とは何か? ➡「それから現場主義です。徹底的に現場から学ぶ。世界で初めての胎児性水俣病の発見は、お母さんの一言から始まったわけです。現場にこそ教科書があり、現場にこそ専門家がいる。」(p.30)

▪著者が水俣病の教訓を“負の遺産”と呼ぶ理由は何か? ➡「水俣学というのは、さまざまなバリアをなくし、しかも国際的な学問、そして現場を大切にして、何のためにするかということを明確にした学問、そういうものを水俣病事件から学ぶ中で、打ち立てていく。そうなれば、“負の遺産”としての水俣から次の世代の人たちがいろいろなことを学んでくれるでしょう。」(p.30)

【参考文献】
原田正純著(2006)『 “負の遺産”から学ぶ』(水俣学ブックレットNo.2)熊本日日新聞社

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学修支援だより【2023年10月号】

Foreword 1

対面でのスクーリング授業

副学長 西浦 昭雄

本年の夏期スクーリングは、4年ぶりの対面授業として開催されました。スクーリング期間中、キャンパスは再会や出会いによる喜びが溢れているようでした。私の担当した授業では、オンライン授業の時と比べて受講者の反応が一斉にわかり、グループディスカッションは活発になりました。それ以上に授業前後での受講者同士によるつながりが授業の理解や学びへの意欲の向上に貢献していることを実感しました。
オフィスアワーにも多くの方が研究室にきてくださり、かなり前に授業を受けられていた懐かしい方から現在受講中の方、さらには初対面の方が一緒にしばし団らんのひと時を過ごしました。対面スクーリングに入学して初めて受講された方にとっては驚きの連続だったようです。「正直なところ、通学することに面倒だと思いながら受講しましたが、これほどやる気がでるとはびっくりしました」との声もありました。他方で通教を長年経験されている方は「ようやくこの感動が戻ってきた!」と話されていました。
教える側にとってもスクーリングは大きな刺激を受けたようです。ある教員は、ご高齢の受講者が熱心に学ばれている姿に熱いものが込み上げてきたと語っていました。対面スクーリングを初めて担当した教員は、通教生の意欲の高さに感動したようでした。私はスクーリング授業を担当して25年あまり経ちましたが、今回の夏期スクーリングを通し、あたり前のように感じてきた通教の伝統の卓越性を再認識する機会になりました。
創立者池田先生は夏期スクーリングの開講式メッセージで「今、皆さんが励まし合って踏み出す英知と価値創造の一歩一歩が、21世紀の世界市民の平和と希望の大道を開くことを、私は確信します」と期待を寄せてくださいました。
もちろん、オンラインだったら参加できた方もおられるでしょう。利便性などオンライン授業の良さもあります。実際、秋のスクーリングでは2週連続の週末(土曜・日曜)に開催されることもあり、オンライン実施です。大切なのはスクーリングで「学ぶ心」を育むことだと考えています。対面とオンラインの両方の良さを上手く組み合わせることで、創大通教の新たな伝統が築かれていくことを願っています。

Foreword 2

後半の学修について

通信教育部 副部長 望月 雅光

ここ数年来、AI(人工知能)の技術革新により、社会に大きな変化が訪れる可能性が示唆されています。特に最近話題になっている生成系AI(ChatGPTなど)の大きな成果が示されてから、いろいろな議論が巻き起こっています。また、AIに仕事が奪われる可能性も指摘されています。歴史を振り返ると、技術革新やそれに伴う社会制度の変化により、無くなった職業も数多く存在します。そのかわりに、技術革新により新しく生まれた職業も数多くあります。
AIの進展により、無くなる職業の特徴を端的に言えば、単純な繰り返し作業を伴う職業、ルールが明確に決まっている、あるいはマニュアル化されている職業です。その一方で、AIが苦手とする創造性や人間力を活かす仕事は今後も必要とされてきます。AIを活用することを前提とした新しい職業もでてくるでしょう。10年以上も前の2011年8月に、キャシー・デビッドソン氏(米デューク大学)が、ニューヨークタイムズ紙において「アメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に今は存在していない職業に就くだろう」と予測されていたことを思い出します。
このような社会の変化に備えて、リスキリングなど、学び直すことの重要性が言われるようになってきています。しかしながら、実際に学び直そうとすると、かなりの困難が伴います。年齢とともに思考の柔軟さが失われる場合もあります。それ以上に本質的な原因として考えられるのが、学修習慣が身についていないこと、あるいは、学び方を知らないことです。通信教育部で熱心に学び続けていれば、学修習慣や学び方が自然と身についていきますので、心配しなくて大丈夫です。矢野(2009)《※注1》は、学修習慣の大切さを「教育に熱心に取り組む経験と継続の蓄積が、現在の所得を左右する。 変化の激しい時代に生きるサラリーマンは、毎日が勉強だ。 そうしなければ、生き残れない時代に生きている。 日々の学修を支えているのは、 長い間の学修の成果である」と述べています。学びを継続しないとマイナスに作用するとも言及されています。人生100年時代とも言われています。生涯にわたり学び続けることが大切であり、それができていれば、学修習慣や学び方が失われることはありません。
さて、夏期スクーリングも終わり、後半の学修が始まりました。後半の学修では、オンデマンド科目など、オンラインで学ぶ機会が増えます。そこで、オンラインで学ぶ際に大切なことをお伝えしておきます。
それは、計画性を持って学ぶこと、学ぶ意欲を維持することの2点です。特に、オンデマンド型の授業の場合、自分のペースで自由に学ぶことができますが、一歩間違えると忙しさを理由にして、先送りにしがちです。計画通りに学修が進んでいることを、定期的に確認することが大切です。また、学修の遅れを感じた時点で、遅れを取り戻す努力をしてください。働きながら学ぶことは大変です。大変さから、学ぶ意欲が衰えることもあるかもしれません。その時は、創立者が創大生に贈った指針「英知を磨くは何のため 君よ それを忘るるな」「労苦と使命の中にのみ 人生の価値(たから)は生まれる」を思い出し、自分の状況に当てはめてみてください。
この他、オンライン授業で学ぶ際には、ちょっとしたITスキルが必要になります。苦手意識を持つと、どうしても混乱しがちです。さらに、オンライン授業には、学生が困っていることに気がつきにくいという特徴があります。わからないことがあれば、通信教育部事務室や授業担当者に問い合わせるなど、そのままにしないことも大切です。
皆さんの今年度の後半の学修が充実したものになるように、少しでも参考になれば幸いです。

注1矢野眞和. (2009). 教育と労働と社会. 日本労働研究雑誌, 588, 5-15.

学修支援推進室コーナー

オンライン授業対策について

通信教育部 教授 劉 継生

創価大学通信教育部では、「誰もがいつでもどこからでも大学の授業を受けられる」という教育を目指しています。こうした取り組みを支えているのはオンライン授業であります。オンライン授業とは、コンピュータやインターネットを活用して実施される授業であり、教員の講義、学生の受講、質問のやり取り、最終試験などがすべてネット上で行われます。またオンライン授業は、時間的な特徴から見てみると「リアルタイム」と「オンデマンド」の2種類に分けられています。

1.リアルタイム・オンライン授業

リアルタイム・オンライン授業とは、教員と学生が異なる場所からネットとZoomを利用して同時に参加する授業であります。授業時、全員の顔が画面上に表示され、質問のやり取りもその場でできるため、空間的隔たりが感じられません。このような授業を受講するとき次のような対策が重要となります。
(1) 講義資料などをポータルサイトからダウンロードし、自分のパソコンに保存し、予習を行います。
(2) 授業の前日までに自分のパソコン、WEBカメラ、スピーカー、マイク、通信環境などを確認し、良好な受講環境を整えます。
(3) 遅刻や慌てる操作を避けるため、授業開始の10分前から余裕をもって顔認証による本人確認を済ませます。
(4) 授業開始後、マイクをミュートに設定します。カメラをOFFにしている場合は教員からの指示などに応じてONに切り替えます。
(5) 授業中の質疑応答については、直接発言しても構いませんが、授業の円滑な進行のため、質問をチャットに書き込むことが推奨されます。

2.オンデマンド・オンライン授業

オンデマンド・オンライン授業とは、教員が事前収録した講義映像をポータルサイトに設置し、そこで講義映像を視聴したり課題を提出したりして学習を進める授業です。お互いに顔が見えないという弱点があるかもしれませんが、時間や場所にとらわれず自由に学べるなどのメリットもあげられます。
オンデマンド・オンライン授業の学習には2つの大きな特徴があります。まず、「個別最適な学習」という特徴です。対面授業の場合、開始時間、終了時間、学習の進捗状況は画一化されますが、オンデマンド授業の場合は、開始時間、終了時間、個人の学習時間や進捗も一様ではなく、学生によって異なります。つまり、それぞれの学生が自分の理解度や都合などに合わせて学習を進めることができます。このような学習を「個別最適な学習」といいます。
次に、「主体的な学習」という特徴があげられます。オンデマンド・オンライン授業では、教員が目の前におらず、臨場感もないため、授業から何を学び、新しい知識や応用能力をどうやって獲得するかに対して、学生自らの力の発揮が必要となります。つまり、教員から受け身で教わるのではなく、学生たちの主体性が一層重要となり、学んだことを積極的・主体的に掘り下げていく努力が求められます。

3.主体的な学習を進めるための方法

オンデマンド・オンライン授業では、講義映像の視聴だけでは終わらず、理解できたかどうかを確認するための小テストも実施されます。つまり、「講義映像×小テスト」の繰り返しが、学習の基本的なスタイルとなります。以下が、学習を効率よく進める上で必要な方法です。
 

(1) まとまった時間の確保が難しい場合、ネット環境と情報端末さえあれば、いつでもどこからでも学習ができるという特徴を生かし、通勤や昼休みのようなすきま時間も活用できます。
(2) 講義映像を視聴する際に、教科書やノート、筆記用具などを用意しましょう。授業によっては、映像の途中で教科書何頁を開くようにという指示や、練習問題の実施もあります。授業のポイントや自分の解釈、気づきなどをノートに取ることも学習を進める上で大切になります。
(3) 講義映像には、速度調整の機能があります。自分にとって分かりにくい部分やついていけないと感じたら、遅い速度(0.8倍)で再生してみましょう。また、必要に応じて一時停止して理解を深めたり、巻き戻して繰り返し学習を行ったりすることもできます。
(4) 講義映像をただ漫然と視聴するのではなく、問題意識をもって積極的に学ぶ姿勢を心がけましょう。問題意識は、教科書を読んで理解できない箇所、疑問に感じる内容、自分の問いかけ、レポート課題などから生まれてきます。
(5) どうしても理解できない内容や解けない問題があった場合、ポータルサイトを通じて担当教員に質問をしましょう。質疑応答を通じて、学習の内容に対する理解を深めることができます。
(6) 小テストは、授業の理解度を確認するため、合格するまでステップアップできませんが、それは学生を評価するためのものではありません。小テストに合格することが終わりではなく、そこから内容に対する理解のズレや学習の効果を自ら精査することが求められます。理解の足りない点があれば、関連する内容をもう一度学んでみましょう。
 

情報社会の進歩とICTの普及にともない、オンライン授業は通信教育にとってメインの学習環境になっていると言えます。皆さまはオンライン授業の特徴や対策をしっかり理解された上で、主体性と積極性をもって効率よく学習を進めましょう。

教職指導講座

来年度の教員採用試験に向けて

教職大学院 准教授 大久保 敏昭

おおくぼ としあき
教職大学院 准教授
[ 職  歴 ] 山口県小学校校長,臨床心理士
[専門分野] 学校心理学,精神分析的心理療法,授業研究,教員養成
[担当科目] 教員研修実務研究、学習指導の方法研究Ⅰ・Ⅱ、人間教育事例分析研究、人間教育事例分析課題研究、教職課題研究Ⅰ・Ⅱ、教育課題実地研究(国内:富山)、実習研究Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ

私は創価大学教育学部1期生として学び、山口県で約40年、小学校教員を務めました。

定年退職時のエピソード

新任で受け持たせていただいた子ども達には、一生懸命に教育実践に取り組んだとは言え、今から振り返ると合わせる顔がない程冷や汗ものの実践でした。校長として定年退職を迎える年、この子達(既に40代を迎えていましたが)が、何と同窓会を開いてくれたのです。約40年前の出会いですし、顔や名前がわかるのかどうか不安もありました。しかし、出会った途端、顔と名前、当時の数々のエピソードが一人ひとりよみがえってきました。子ども達も、「あのとき、先生とこんなことして大笑いしたよね」など、当時のことをよく覚えていました。そのような子ども達の姿を見て、『ああ、この人達がそれぞれの人生を築いていくことに、私なりに何かしら貢献することができたのだな』と、しみじみと感慨を深くし、教職の醍醐味を実感することができました。

「私の人生を変えた」との涙

定年退職をあと一月残すばかりになった時、休日に開催されたある大会に出席しました。大会終了後、帰途に向かう私に近づいてくる一人のご婦人がいました。「先生、○○です、覚えていらっしゃいますか」私が初めての人事異動による転任校で担任した6年生でした。〈ああ、○○さん、よく覚えていますよ〉、「先生、私が算数苦手だったの覚えていらっしゃいますか」、〈え、その記憶はあまりないなあ、○○さんはユーモアがあって明るかったのは覚えているよ〉、「先生は、ウルトラマンとか大魔神を使って算数の授業をしてくださいましたよね」、〈それはよく覚えている〉、「私は6年生になるまで算数が苦手で」、「算数はできるできないがはっきりわかる授業なので、それがいやで、私は学校生活にすごく後ろ向きだったんです」、〈そうだったの〉、「でも、先生がおもしろくてわかりやすく算数を教えてくださって、私は算数ができるようになったんです」、〈それで、算数が苦手だったという記憶がないのかな〉、「それから学校生活が前向きになり」、「中学も楽しく行け、高校もスムーズに行け、就職し、今の主人と結婚することができ、今は子どもの学校でPTAの役員をしているんです」というようなお話をしてくださいました。そして、「先生は、私の人生を変えてくださったんです」と、言われ涙されました。

すてきで魅力的な教職という仕事

教師として出会う子ども達一人ひとりの人生を、それぞれの子どもにとってよりよい方向にかたちづくっていける教職という職業。みなさんが目指している教職は、このようにすてきで魅力的な仕事です。真面目に教育実践に取り組んでこられたみなさんの先輩教員の方々は、このようなエピソードを数限りなくおもちです。
ぜひ、教員採用試験を勝ち超えて合格し、このやりがいのあるすてきな職業である教職に就いていただきたいと願っています。

教員採用は、選考であること

教員採用試験は、正しくは教員採用候補者選考であり、「選考」、つまり教職を目指すあなたの資質や能力、教職を目指す志などが問われ、適任者かどうかが判断されます。
特にその判断の決め手ともなるのが、個人面接です。どのようなことが問われるかというと、例えば…。
・教職を志望した動機、目指す教師像、この自治体での採用を希望する理由
・教師に必要な資質能力、目指す児童生徒像、学級経営の方針、担当する教科の魅力
・あなたの長所や短所、これまでの経験や学び、そこから教職に活かせること
・不登校やいじめ防止の対策、具体的場面での保護者対応や危機対応
・喫緊の教育課題や時事問題への理解と取り組み方等々
ある問題状況を想定し、ロールプレイで教師としての対応を演じることが求められる自治体もあります。各自治体には、それぞれのよさと克服すべき課題がありますから、当然、個人面接では、その自治体に必要な選考のための様々な内容が問われることになります。
そこで、対策としては、各自治体の過去問題集などを参考にしながら、想定される質問に答えていく想定問答を作成していくことになります。

実は、シンプルな個人面接対策

想定される様々な質問に答えていくことは、それぞれの答え方を考えることになるので、たいへんそうです。しかし、想定問答を作成し面接練習を重ねていく内に、これが実にシンプルなことだと実感されるはずです。なぜなら、以下の3点が明確になれば、すべてそこから答えていけるようになるからです。つまり…。
・自分は、どのような教員になりたいのか
・自分は、どのような子ども(生徒)を育てていきたいのか
・自分は、どのような学級をつくり(中高では:どのような教科指導をし)たいのか
これらは、あなたにとっての教育信条、教育哲学になるものだと言ってよいでしょう。この教育信条は、あなたにとって教職の原点になるものです。しかも、毎年異なる子どもや保護者と出会うごとに、柔軟に更新されていくべきものになります。
そうです、教員採用候補者選考の個人面接対策は、じつはあなたの教師としての原点づくりなのです。
恐れることなく、困難さを負担に感じることなく、あなたの教師としての原点づくりに挑んで、選考を勝ち越え、ぜひすてきで魅力的な教職に就いていただきたいと願っています。

通信教育部の教員、教職キャリアセンターの講師陣も、しっかりとサポートいたします。

ブック・スクウェア

『半七捕物帳』

通信教育部 准教授 開沼 正

この作品は、半七という御用聞きを主人公にした捕り物話である。数ある時代小説・捕物帳シリーズの中でも先駆け的な存在であり、現代の推理小説の嚆矢でもある。もはや「古典」と呼ばれるようになってからも久しい。事件の謎解き(ミステリー)は、この作品の重要な要素であるのはもちろんだが、ところどころに怪奇現象(ホラー)的な味付けがされているのが特徴的である。
ここでは比較的手に入れやすい光文社の文庫本を挙げたが、大正時代から現代まで多くの出版社がこの作品を出版している。それほどの人気シリーズということである。戦前であれば新作社、春陽堂、平凡社など、戦後は河出書房、角川書店、早川書房、講談社、旺文社、筑摩書房など著名な出版社が手掛けてきている。

作品中では「わたし」と称する人物(作者の岡本綺堂がモデルといわれている)が、すでに御用聞きを引退した「半七老人」にねだって手柄話を語ってもらうというスタイルをとっている。6巻全部で72編の物語があるが、話をどのように分類するかによって数え方が異なる。その分類については、後掲の『半七捕物帳事典』(976ページ)には「以前は『白蝶怪』はわたくしの捕物話ではないとされていたので、六十八編でしたが、いまはそれも含めて六十九編ということでよいでしょう。『広重と川獺』など三編には二つの事件が入っていますので事件の数は七十二、そのうちほかの親分の手柄話や隠密話が『白蝶怪』を含めて五編ありますので、わたくしの捕物話は六十七ということになります」とある(この引用文は半七があたかも実在した人物であるかのように設定した「架空対談」の一部分である)。
もともとは雑誌『文芸倶楽部』(大正6年1月号)に「お文の魂」と題した作品を掲載したのが始まりである。以来、『文芸俱楽部』を中心に発表を続け、昭和12年2月号の『文芸俱楽部』に掲載された「二人女房」が最後の作品となる。20年にわたって執筆されたことになる。

岡本 綺堂 著

事件の起きた年代は、先述の「ほかの親分の手柄話や隠密話」の5編を除けば、天保12(1841)年3月から大政奉還直前の慶応3(1867)年7月までで、半七の年齢は数え年で19歳から45歳までの設定となっている。
この間、江戸の社会も随分と変わったが、作品では、そうした変化もたくみに描いている。ペリーが来航し、横浜が開港されると横浜を舞台にした作品が書かれたし、幕末に江戸の治安が悪化したときの社会状況も作品に反映されている。しかもそうした社会状況がお上(為政者)の目線ではなく、庶民の目線で書かれている。
この「庶民の目線」というのがこの作品のキーワードとも言える。作者が意識していたかどうかは別にして、庶民目線で描くことによって、作品は江戸情緒たっぷりのストーリーに仕上がっている。半七のしゃべる江戸弁、あるいは彼の礼儀正しさも魅力的である。そこには作者・岡本綺堂の生い立ちも大いに影響しているだろう。
岡本綺堂は明治5年に旧幕臣の家に生まれた。彼自身は明治の生まれだが、彼を取り巻く大人たちは江戸時代の生まれであるし、「東京」と名前は変わっても生活環境は江戸時代のままだった。つまり『半七捕物帳』のもつ江戸情緒は、作者の育った雰囲気そのものを反映している。作者が実際に見て、聞いて、臭いを嗅いで……という五感を通しての感覚である。
同時代に生まれた人なら、そうした雰囲気を経験しているはずだが、人間は自分にとって「当り前のこと」については意外と記録に残さない。したがって現代人が江戸の情緒を知りたいと思ってもなかなか資料が見つからないということになる。そうした意味でこの作品は江戸の雰囲気を知るための貴重な資料でもある。
この点は池波正太郎の江戸描写とは対照的である。彼の作品にも江戸の町がしばしば描かれている。しかし彼は江戸の雰囲気を実体験として知っているわけではない。自然と何らかの資料をもとにして江戸の町を描くことになる。彼が使用したのが切絵図(江戸の地図)である。地図をもとに町の風景を描くから、空からの視点となる。いわゆる「鳥の目」でみた江戸の町ということになる。
これに対して岡本綺堂の描く江戸の町は「地上からの視点」、「人の目」といえるだろう。掃き溜めの臭い、大ドブのカエルの声、路地裏のじくじくと湿った地面、竹藪、壊れた柵など、地図には描かれない風景が作品のいたるところに登場し、江戸情緒に彩りを添えている。

 

私は時々、1編や2編でも読み返して江戸の情緒にひたっている。一話完結なので、何巻からでも読むことができる。上質な時間を過ごしたという満足感が得られる。
文中には歌舞伎の演目にちなんだ表現などを含めて、当時の人には当たり前の知識だったものが、現代人にはあまり馴染みのない言い回しとなってしまったものも少なくない。そんな時に『半七捕物帳事典』(今内孜編著、国書刊行会)を参照すると詳しい解説が出ている。併せて利用すると面白さが何倍にもなる。また作品中の地名については『江戸情報地図』(児玉幸多監修、朝日新聞社)で確認しながら読むと、半七と同様の土地鑑が得られるかもしれない。

『半七捕物帳』(一)~(六)
著者:岡本 綺堂
出版社:光文社時代小説文庫
ISBN:978-4334732295 他
価格:680円+税

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学修支援だより【2023年11月号】

Foreword

“信”を“通”わせ、共に学びの秋を満喫!

文学部長 杉山 由紀男

通教生の皆様、こんにちは。史上最高の暑さの中で行われた今年の夏期スクーリングは、久しぶりの対面開催となり、共々に、そして文字どおり勉学に汗を流し合った夏でした。仕事や地域の活動など、お互いに忙しい中で時間を見つけて学んでいくことは、大変ではありますが、すがすがしく、気もちがいいですね。そのすがすがしさが今年の学光祭にも表れ、活動報告やパフォーマンスとして輝いていました。今、その夏も去り、学びの秋を迎えています。
創立者池田先生は、47年前の通信教育部開学式に寄せられたメッセージの中で、通教に学ぶ皆様が、年齢も幅広く、地域も全国に広がり、そして多くの方が職業に従事しながら学問の道を志されたことに触れ、「私はそこに、創価教育の原点ともいうべき学問の姿勢を見る思いがしてなりません」と語りかけ、通教に学ぶ一人一人を“創価教育体現の第一期生”と讃えられました。そして、御自身は学問の道を途中で断念せざるを得ず、かわりに恩師戸田先生にさまざまな学問を教えていただいたことを紹介され、「それは文字どおり、人生の師と弟子との間に“信”を“通”わせた教育でありました」と、師弟の絆はいわば“通信”教育によって築かれたものであると教えてくださいました。(創価大学学生自治会編『創立者の語らいⅠ』)
今、学びの秋を迎え、創立者の言われる“通信”の深い意味を共に学び、心に留めて、お互いになぜ学ぶのか、どう学ぶのかの原点にあらためて立ち返ってみたいと思います。私も通信教育部で授業を担当させていただいていて、皆様のご質問やご意見からだけでなく、レポートや表情や態度などからも、たくさんのことを学ばせていただいています。その意味で自分も通教に学ぶ者として、お互いに“信”を“通”わせながら、共に学び合っていきたいと思います。
他の大学も含めて通信教育に学ぶ方々は、しっかりした目的観に裏打ちされた立派な“信”をお持ちの方がたくさんいらっしゃることと思います。しかし、わが創大通信教育部には、これに加え、この”信“を“通”わせ、支え、励まし、高めてくれる「光友会」が全国にあります。なぜ学ぶのかという“信”を、共に学ぶという“通”によって共有し、その目的は自他の幸福にあることを確認し合いながら、共々に学びの秋を満喫していきたいと思います。

自立学習入門講座

自立学習入門講座69

通信教育部 准教授 清水 強志

【2 教材理解】評価における細目について
1.レポートにおける4つの項目別評価の「細目」の設定について

通教生の皆さんは、「レポートが返却された際にどこを確認されますか?」と聞かれたら、どのように回答されますか?おそらく、「??!この先生は何を言っているんだ!」と、回答する前にやや憤りを感じる方もいるのではないでしょうか^^

なぜなら、「総合評価に決まっている!」と考える方が少なくないと思うからです。他方、「総合評価はもちろん、さらに4つの項目別評価(1.課題把握、2.教材理解、3.論理構成、4.原稿作法・文章作法)、そして教員からのコメントに決まっている」と考えた方もいると思います。ここで私が強調したいのは、通教生全員が後者のように考えるようになっていただきたいということです。

参考までに、以下の図は教員による成績入力の画面です。コメント、総合評価、4つの項目別評価が入力される仕様になっています。

通信教育部で要求されるレポートとは、与えられたテーマ(レポート課題)に対して、教科書や文献資料を解読・整理したうえで、客観的な事実によって論理的に構成・展開し、また、解説・論評した「(自分の)学修成果報告書」のことですが(平井 2022 p.57)、実は、皆さんは卒業までの数多くのレポートを作成する学習を通して、読む能力(読解力)、考える能力(論理的に考える力、推論する力、クリティカル・シンキングなど)、そして、書く能力を向上させることも重要なのです。

そのため、提出した学習成果報告書としての自分のレポートが合格したか否かということと同じくらい、否、それ以上に、返却されたレポートの振り返り学習が非常に重要な学びになると私は考えています。そして、この振り返り学習に役立つのが、まさに4つの項目別評価と教員からのコメントなのです。

そこで、この度、通信教育部では、皆さんのレポート学習におけるサポートを強化するため、4つの項目別評価をより具体的にわかりやすく(何が評価されているのかを)伝えるために、具体的な細目(全13項目)を策定し、来年度より公開することになりました。

本稿では、来年度の「項目別評価細目」の公開・ポータルサイトでの運用に先立ち、【2 教材理解】評価における「項目別評価細目」(3項目)について説明します。

2.【2 教材理解】評価における細目

【2 教材理解】とは、「教材内容を十分に理解しているか」ということであり、あえて別言すれば、「教科書や文献資料を熟読し、かつ、正確に理解しているか」ということです。熟読していても、理解に誤りがあってはいけません。また、正確に理解するためには、熟読・精読が必須です。それゆえに、科目「自立学習入門」や「レポート作成講義A」では、正確に読むための「読書術」(大意をつかむ読書術、自問自答しながら精読、読書メモの活用、他)を学んでいます。

「教材理解」における評価の細目(3項目)は以下の通りです。

「教材理解」における評価の細目
1 教材の主張、専門用語、重要な論点など、【シラバスの学習範囲の内容】の理解
2 【レポート課題に必要なテキストの内容】の理解
3 テキスト以外の関係資料の参照

ここでいう「テキスト」とは、教科書のことですが、1つめの「【シラバスの学習範囲の内容】の理解」と2つめの「【レポート課題に必要なテキストの内容】の理解」の違いは、「シラバスの学習範囲の全体を理解しているか」、あるいは、「教科書のなかで、レポート課題に必要な部分を理解しているか」ということになります。とはいえ、皆さんが書かれたレポートを読んで、実際に教員がこれらの違いを判断することは難しいと思っていますが、皆さんにとっては、出題者(教員)の意図をきちんと理解できるようになることが大切と考えています。つまり、該当部分のみの理解で十分なのか、それとも、教科書全体を理解しなければならないのかという教員の「心」がわかるのです。

ところで、当然のことながら、すべてのレポートにおいて3つの項目別評価細目が該当するわけではありません。言い換えれば、レポート課題によって該当する項目別評価細目は異なります。そこで、来年度からは、レポートごとに、参照される項目別評価細目が設定され、ポータルサイトにて公開されます。つまり、【2 教材理解】に関して、1~3のすべての細目を選択する先生もいれば、いずれかのみを選択する先生もいるということです。

蛇足ですが、「理解」について『デジタル大辞泉』では、「1 物事の道理や筋道が正しくわかること。意味・内容をのみこむこと。『理解が早い』2 他人の気持ちや立場を察すること。『彼の苦境を理解する』3 『了解2』に同じ」とあります(「コトバンク」利用)。すなわち、意味・内容だけでなく、道理や筋道も含むということです。また、科目や教科書にもよりますが、教科書で書かれていることが必ずしも一般論や常識と一致するとは限りません。それゆえに、教科書を書いた著者の立場も理解する必要があるかもしれません。

なお、インターネットで情報検索すると、多種多様な説明・見解・解釈があり、なかには誤った説明もよく見かけます。それゆえに、難解な内容をインターネットで調べ、簡易に書かれた説明文をもとに理解しただけでは、教科書を正確に理解したとは言えません。教科書との齟齬があるかもしれないからです。あくまでも、インターネットなどで調べた内容をもとに、改めて教科書と向き合い、正しく理解することが求められます。

他方、3の「テキスト以外の関係資料の参照」が必要とされている場合には、他の関係資料を参照して「主題」(レポート課題)について多角的・総合的に考察する必要があるということです。

これまで、通教生からは「参考文献」についての質問がよく寄せられました。すなわち、「レポートを書く際に参考文献を読む必要があるのか」あるいは「教科書だけではAを取れないのか」という類のものです。私自身の回答は、「科目や教員によるので、『課題解説』から読み取るより他に方法はない」という趣旨でしか、回答できませんでした。しかしながら、来年度からはこの項目の該当/非該当を確認することで判断ができるようになります。つまり、例外はあるかもしれませんが、この項目が選択されている場合には、必ず教科書以外の関係資料を参照しなければならないということになります。逆に言えば、教科書以外の参考文献が必須でないレポートでは、この項目が選択されていないということです。項目別評価細目を設定した意図の一端を理解していただけたのではないでしょうか?


なお、参考文献について触れましたので、付言しますが、教員がレポートを書く際に参考文献を必須としていなかったとしても、自分の理解の促進などのためにインターネットなどを参照した場合には、レポートの「参考文献」の欄に必ずすべて明記する必要があります。誤解されている方もいますので、強調しますが、「参考文献」における「文献」には本、論文、新聞、雑誌はもちろん、インターネットやSNSなど、デジタル・データも含まれます。ちなみに、「参考」とは、「何かをしようとするときに、他人の意見や他の事例・資料などを引き合わせてみて、自分の考えを決める手がかりにすること。また、そのための材料」(『デジタル大辞泉』、「コトバンク」利用、下線清水)とのことですので、レポートを書く際に利用した「媒体」すべてを記載する必要があるのです(ただし、国語辞典を除くなどの例外はあります)。

3.演習

正確に理解するということについて、例を取り上げながらもう少し話をしたいと思います。アカデミックな文章には、科目特有の「用語」というものがあります。それゆえに、日本語を読んでいるのに、まったく理解できないということがあります。馴染みのない言葉の羅列に頭のなかのイメージがついてゆかないからです。それゆえに、キーワードとなっている専門用語は正確に知っている必要があるということです。これに関連しますが、たとえば、「アイデンティティ」や「カリスマ」という言葉を正確に理解していますか?最近では、日常的に使われている言葉ですが、その意味を正確に理解していない人がいます。もし、誤っていた場合、日常生活では支障はないかもしれませんが、教科書の理解の妨げになってしまいます。気になった言葉はすぐに調べる習慣をつけましょう。

ここで、演習として、夏目漱石の講演「私の個人主義」(大正3年)の一部を読んでみましょう。

それからもう1つ誤解を防ぐために一言しておきたいのですが、何だか個人主義というとちょっと国家主義の反対で、それを打ち壊すように取られますが、そんな理屈の立たない漫然としたものではないのです。いったい何々主義という事は私のあまり好まないところで、人間がそう1つ主義に片づけられるものではあるまいと思いますが、説明のためですから、ここにはやむをえず、主義という文字の下にいろいろの事を申し上げます。ある人は今の日本はどうしても国家主義でなければ立ち行かないように云いふらしまたそう考えています。しかも個人主義なるものを蹂躙しなければ国家が亡びるような事を唱道するものも少なくはありません。けれどもそんな馬鹿気たはずはけっしてありようがないのです。事実私共は国家主義でもあり、世界主義でもあり、同時に個人主義でもあるのであります。

出典:夏目漱石(2008)『夏目漱石』筑摩書房、pp.446-447。

どうでしょうか。まず、この文章を正確に理解するためには、本当は「私の個人主義」のすべてを絶対に読まなければならないというのは大丈夫でしょうか。また、昨今では、「個人主義」という言葉がよく聞かれますが、実は、個人主義にはさまざまな意味があり(ex. 〇〇的個人主義)、漱石の考える個人主義はなかなか興味深いのですが、今、世の中で語られるすべての個人主義が漱石の考える個人主義と同義である(あるいは、「これが個人主義の意味なんだ」)と誤解してしまうと、大問題になるということです。つまり、この文章を正確に理解するためには、引用された文章のみを正確に理解するだけでなく、全体像を知り、かつ、多様な個人主義の考え方も理解した上で、漱石の「個人主義」観を相対的に位置づけることが大切になります。

正確に文章を理解した上で、何を考え、どのように自分のものにするかというのは、人によって異なっていいと思いますが、たとえば、大正3年という時代に注目する人がいるかもしれませんし、あるいは、漱石が何歳のときに、どのような状況下でこのようなことを述べたのかと考える人がいるかもしれません。個人的には、文章の意味・内容だけでなく、その背景について知ることも「理解」に含まれると考えます。

もう1つ、紹介したいと思います。フランスの社会学者デュルケムが1895年に発刊したフランス語の書物『社会学的方法の規準』を翻訳した一部です。

社会的事実は、行動、思考および感覚の諸様式から成っていて、個人にたいしては外在し、かつ個人のうえにいやおうなく影響を課することのできる一種の強制力を持っている。したがって、それらの事実は、表象および行為から成っているという理由からして有機体的現象とは混同されえないし、もっぱら個人意識の内部に、また個人意識によって存在している心理的現象とも混同されえない。

デュルケム(1978)『社会学的方法の規準』宮島喬訳、岩波書店、p.54。

いかがでしょうか。はっきり言って、「これは日本語なのか!」と思った人は少なくないと思います。でも、実際、この本は私が大学1年生の時の教科書だったのです。この文章を正確に理解する方法はいくつか考えられます。もっとも効率的な方法の1つは、教員に直接質問するという方法です(その場合、自分なりにしっかりと調べ、「このように考えましたが、いかがでしょうか?」と質問することを心がけて下さい)。しかし、通信教育では質問の機会は多くありません。そこで、別のアプローチは、複数の専門辞書や専門書を通して「デュルケーム」と「社会的事実」を理解し、その上で複数の国語辞典を使って「非日常的な日本語」を丁寧に調べながら、この文章を読み解くという方法です。

先に述べましたように、学術的な書物は日常的な日本語とは異なることがよくあるので、遠回りのようですが、人物や重要な概念を理解してから読み直すという方法が近道ということもあります。なお、実は、フランス語の原文を読みながら理解するという方法もオススメなのですが、少しハードルが高いでしょうか。

ただし、長い文章、複雑な文章を読む際には、「主語・目的語・述語」を確認しながら、丁寧に読むということはとても大切な「読み方」になります。また、接続詞に注目しながら、文章の流れを理解していくということも大切です。例文では、「社会的事実は、強制力を、持っている」「したがって」「それらの事実は、(~と)混同されえない」となります。

参考文献

デュルケム(1978)『社会学的方法の規準』宮島喬訳、岩波書店。
夏目漱石(2008)『夏目漱石』筑摩書房。
平井康章編(2022)『自立学習入門[第3版]』創価大学通信教育部。

「コトバンク」https://kotobank.jp/2023年9月21日閲覧

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学修支援だより【2023年12月号】

Foreword

創大生の活躍光る秋のキャンパス

図書館長 池田 秀彦

通教生の皆さんこんにちは。日々、お忙しいなか研鑽に励まれていることと思います。
秋は、創大生の英知と不断の鍛錬が輝く季節です。10月7日から9日にかけて第53回「創大祭」、創価女子短期大学の第39回「白鳥祭」が開催されました。7日の「記念フェスティバル」での学生演目は、「希望」とは何か、の問いかけから始まり、希望を持った一人の行動は、周囲の人の希望を呼び起こし、平和の連帯を築いていくという強いメッセージが込められていました。次の時代を担う創大生の決意と素晴らしい内容に感動で胸が熱くなりました。
9日には、第35回出雲全日本大学選抜駅伝競走が行われ、本学駅伝部は3年連続3回目の出場で見事準優勝に輝き、創価大学の新たな歴史を築いてくれました。続く全日本大学駅伝、箱根駅伝でも選手、スタッフの団結で創大駅伝部らしい力強い走りをしてくれると思います。
中央図書館においても学生の活躍を抜きにその歴史を語ることはできません。全学読書運動(Soka Book Wave(SBW))というものがあります。2004年1月22日、創立者が中央図書館を訪問され、中央図書館の永遠の指針となる「読書は勝利者の源泉」などの数々の箴言を贈られたことを受け、「読書の波」を起こそうとの学生の熱き思いから、同年4月にSBWが開始されました。SBWにより来館者数及び館外貸出冊数が大幅に増加しました。ちなみに、AERA MOOK『大学ランキング2022』(朝日新聞出版)によると学生1人当たりの貸出数の指数評価において大学図書館ランキング第4位となっています(総合第8位)。この運営母体は、学生と図書館職員で構成する組織Soka Reading Project(SRP)で、日本語ライティングセンターの教員の協力を得て様々なイベントも開催し、現在、活動のウイングを読書運動にとどまらず、文章作成力向上の取り組みへと広げています。
本年は、1993 年 7 月 3 日の第 22 回滝山祭 記念フェスティバルの席上、創立者より「池田文庫」ご寄贈のお話を頂戴して 30 周年の佳節を迎えます。これを記念して、本年2023年11月16日(木)より12月15日(金)まで(図書館の開館時間内)、中央図書館1階ラーニング・コモンズにて展示会を開催します。
創立者は、この折りのスピーチの中で「一冊一冊の本に、私にとって多くの思い出がこめられている。どうか、読書と研鑽に役立てていただければと思う」と語られています。創立者の私たちへの思いを胸に刻み、読書と研鑽に取り組んでいきたいと思います。

学修支援推進室コーナー 1

レポート作成講義を担当して

通信教育部 准教授 開沼 正

今年の夏期スクーリング中(8月13日、18日18時30分~20時)に開催されたレポート作成講義(Cタイプ)について、簡単にご報告いたします。Cタイプの講義は8月23日にも開催されておりますが、私の担当は上記の2回でした。コロナ前までは本部棟内のМ402教室を使って開催してきましたが、今年は中央教育棟内のAE351教室での開催となりました。
初日の8月13日は17人、2期目の18日は7人の方が参加されました。多くの方が入門タイプから順に受講されるので、Cタイプの受講生については、最初は少なく期ごとに徐々に増えていくというのが例年の傾向ですが、今年は1期から2期にかけて受講者が減りました。ちなみに8月23日には22人の方が参加され、3期合計で46人の方が受講されました。
Cタイプは、レポート作成講義の中では難易度が最も高いものです(「自立学習入門」を学ぶ前段階のレベルと考えてください)。ただ、復習の意味も込めて「入門タイプ」から「Bタイプ」までで学んだことを確認しながら進めていきました。
まずは「レポートの構成」についてです。一般的には序論・本論・結論という三部構成にします。それぞれの部分では、どのようなことを述べれば論理的な展開になるのか、2000字のレポートの中で、どれほどの文字数が目安になるのかということを、パワーポイントを通して説明しました。
多くの科目では、レポートの最低文字数は1200字に設定されていると思います。もちろん最低文字数を超えたレポートであれば、添削・評価の対象となります。しかし内容的には薄いレポートばかりです。やはり制限字数をギリギリまで使ってレポートを仕上げてほしいと申し上げました。下書きの段階では制限字数の倍くらいの分量を書き、そこから制限字数まで絞っていく方が、いいレポートができることも伝えました。
レポートを書く際に、まずはレポートのアウトラインを描いてみることを勧めました。絵を書くときに、いきなり絵の具で色をつけていくのではなく、ラフな描写から始めるようなものです。「序論には、これを盛り込もう」、「本論は、このような展開にしよう」などと考えるだけでも、頭の中はずいぶんと整理されます。
次にレポートを書いていく上で注意する点について具体的に説明していきました。文の書き始めや改行した場合には行頭の1マスを空けるとか、句読点や記号にも1マス使う、2ケタ以上の数字は半角サイズにする……など、読みやすくするための工夫について紹介しました。また参考文献リストの書き方や、参考文献から引用した場合のルールについても紹介しました。この講義がレポート作成の一助になれば幸いです。

学修支援推進室コーナー 2

オンデマンドスクーリングだより -「刑法総論」-

法科大学院 准教授 佐瀬 恵子

通信教育部では、刑法を学習する科目として「刑法総論」と「刑法各論」の2つの科目が設置されています。通信教育部において「刑法総論」の科目を履修する際には、スクーリングによる方法とオンデマンドによる方法に分かれますが、今回は、オンデマンドによる「刑法総論」の学習の仕方をお伝えしたいと思います。
「刑法」とは犯罪と刑罰を規定した法規の総称をいいます。「刑法総論」の科目では、「刑法の機能」をはじめ、近代刑法の大原則である「罪刑法定主義」や「責任主義」、構成要件該当性が問題となる「不作為犯」と「因果関係」、正当防衛や緊急避難をはじめとする「違法性阻却事由」、有責性の問題と関連する「錯誤論」、共犯の諸問題の1つである「共謀共同正犯」といった内容を取り上げつつ、刑法の一般的理論を学習していきます。
「刑法総論」のオンデマンド授業は全般を通して講義形式で進行してまいりますが、試聴している通教生の皆さんが講義内容を理解しやすいように、パワーポイント資料や教科書を用いて講義を進めております。本学通信教育部は、オンデマンド授業においても、スクーリング授業においても、授業時間は1コマ90分が目安となっていますが、オンデマンド授業はスクーリング授業のように1コマ90分間にわたり、ずっと解説講義が行われているものではありません。1コマで学習する内容が3つあるいは4つのコンテンツに分かれており、1つのコンテンツが約20分前後の講義内容でまとまっているために、コンテンツごとの短時間学習も可能となっています。オンデマンド授業では、各コンテンツの終了後、コンテンツ内で学習した内容を確認する小テストが実施され、それに全て正答することで次のコンテンツに移ることができる形式となっておりますが、「刑法総論」で出題している小テストは各5問程度であり、ほとんどが正誤問題になっています。それ故、たとえば、小テストの解答を間違えてしまったとしても、間違えた問題の正答や解説をすぐに確認することが可能であり、オンデマンド学習に行き詰まって学習を進められないとの心配はありません。
「刑法総論」の科目は、オンデマンド授業の内容もスクーリング授業の内容も同一の内容を講義しておりますので、両者の学習量やレベルには大きな違いがありません。また、学習を進めていく上で教員に質問をしたい場合は、通教ポータルサイトを通じて教員に質問を送ることも可能となっています。このため、通教生の皆さんの中で、もしも、20分から25分の空き時間にこまめに学習を進めたい、また、自宅やプライペートな空間で学習を進めたいという方、かつ、オンデマンド授業を履修する上でのデバイスやウェブ環境の用意ができるという方は、「オンデマンドスクーリングを受講する」という選択をおすすめします。
さて、ここからは、オンデマンドに限らず「刑法総論」を受講予定の通教生の皆様に向けて、「刑法総論」の学習に関するアドバイスをお伝えしたいと思います。
刑法をはじめとした法律学を学ぶ際に共通することかと思いますが、まず、専門的学習の第一歩として、「教科書を読む」ということが大切です。しかし、刑法をはじめとする法律学の教科書は難解な用語が用いられており、通読することも困難かと思います。読み始めることすら億劫になってしまうかもしれません。そのような場合は、教科書をはじめから全部読むということはせず、「今、学習しているコンテンツの範囲内だけでも読む」とか、「自分が知っている単語・用語が載っている箇所から読む」ようにしてください。部分的にでもいいので、「教科書を読む」ことには繰り返し挑戦していただきたいと思います。
次に、「刑法」という科目の特殊性から、「刑法」の学習に際しては、可能な限り「教科書以外の学者の見解に触れる」ことにも挑戦してください。刑法学の中では、いかに刑法を解釈すべきかを巡って争点が多数存在しており、争点ごとに刑法学者が様々な学説を主張しています。1冊の「刑法総論」の教科書を読むだけでは、各争点にどのような学説が存在し、どういった理由から主張されているのかを十分に理解することができません。このため、教科書以外の刑法学者の執筆した「刑法総論」の基本書を用意していただき、教科書と読み比べてみることをおすすめします。
ただし、教科書に加え、その他の「刑法総論」の参考書をいくつも読むのは骨が折れるし、学者の学説を理解するのが難しい・・・と感じられる方もいるかもしれません。そのような方は、当該争点が問題となった「判例」を学習することだけでも挑戦してみてください。実際の刑事事件を参照することによって、刑法を適用する上での問題点が明らかとなり、その問題点に対し、裁判所がいかに解釈を行って結論づけたかを学習することが可能となります。また、判例と学説との相違点が明らかとなり、教科書や参考書に書かれている学説を深く理解することも可能となります。
通教生の皆様は、それぞれが自学自修の時間を工面して学習に挑戦されているかと思いますが、この「刑法総論」のオンデマンドスクーリングが、受講生の皆様の「刑法総論」の理解の一助となれば幸いです。今後の通教生の皆様のご健闘を心よりお祈り申し上げます。

教職指導講座

来年度の教職採用試験に向けて ~教職体験を踏まえて~

教職キャリアセンター指導講師 町田 千恵美

まちだ ちえみ Chiemi Machida
教職キャリアセンター指導講師
[ 職  歴 ] 小学校校長
[専門分野] 国語科、道徳科、特別支援教育

はじめに

「教育実習は教師としての資質を鍛える最大のチャンス」との決意で、緊張感と子供たちとの出会いへの期待をもって臨まれた教育実習、それぞれの経験が大きな学びとなったことと思います。
自分の経験を振り返っても、失敗ばかりで焦る私を忍耐強く支えてくださった指導担当の先生方と笑顔で応援してくれた子供たちには、今でも感謝しかありません。それでも実習期間を通して「今、自分にできることは何か」との問いとその具体的な実践課題が明らかになったことで、教員採用試験に向けた対策や自身の考えの根拠を確かなものとすることができました。
現在の教員採用試験でも、教育実習期間の経験や学びについて論文や面接、模擬授業で問われる場面が多くあります。まさに、それぞれが大切にしたい価値観や実践内容、そして自身の強みについて経験を通して伝えられる絶好の機会です。そのためには、「記憶」を「記録」としてしっかりと見える化し、相手に伝えられるよう準備をしておきましょう。

記録に残そう(見える化)
  • 子どもたちとのかかわりを通して気づいたこと
  • 教材研究や学習指導案作りで苦労したこと
  • 授業で失敗したこと、その原因と改善策について
  • 管理職や先輩教員の指導・実践事例から学んだこと
  • チーム学校としての役割について気づいたこと
  • 自分の良さや強みについて気づいたこと
  • 自身の教職への思い、目指す教師像について変化したこと
先輩の実践から

今年度の採用試験に合格されたSさんは、とにかく誠実に学ばせていただくという姿勢で、指導教諭の児童への声のかけ方、動き、板書、指導方法など、すべてメモに取り、実践されたそうです。授業参観や講話でも最初と最後に必ずお礼をし、指導やお話は、全て盗もうとの姿勢で、一つ一つ挑戦を重ねてこられたその成果が、参観させていただいた実習校の研究授業からも伝わってきました。授業中、児童が発言するたびに「よく気が付きましたね。」「大丈夫ですよ。」「素晴らしい。」「いいですね。」と暖かな笑顔で励ましの言葉をかけ、学級全体が安心して学びあえる学習環境となっていたことに感心しました。
Sさんは、これらの実践を整理し、自分の言葉にして面接の場面で伝えることができるよう取り組まれ、「自分が納得する言葉や表現ができるように」と最後まで面接の準備をされていた姿が強く印象に残っています。もちろん、失敗した経験も貴重な学びです。通教生の皆さんの強みは、何といっても社会で培ってこられたレジリエンスです。困難な状況にもへこたれずに立ち直ることのできる強さ、周りとの協力関係を築ける力、多様な考え方や視点など、これまで培ってきた力は、今の教育現場で必要とされる力です。

つながりを大切に

教育実習が終わっても、ぜひ、実習校でお世話になった先生方との出会いやつながりを大切にして頂きたいと思います。今後も、教員採用試験に向けての相談など、力強い応援団になってくださる方々です。
また、家族をはじめ職場の友人・上司、通教の仲間、教職キャリアセンター講師など、たくさんの方と支え合いながら、目指すゴールに向かって挑戦していきましょう。

ブック・スクウェア

『イングランド銀行公式 経済がよくわかる10章』

通信教育部 准教授 堂前 豊

著者と背景

本書は、イングランド銀行公式の経済学入門書(Can’t We Just Print More Money? : Economics in Ten Simple Questionsの日本語翻訳書)です。
イングランド銀行は、イギリスの中央銀行です。1694年に、「イギリス国民の幸福と便益に資する」ことを目的として創設されました。この理念に基づいて、イングランド銀行では、一般の人々が経済学について理解を深めることができるような活動も活発に行っているようです。
序文には、「多くの人々に経済学を知ってもらおうと続けた努力の最新の試みが、本書である。イングランド銀行は若い人たちに資産管理の基本と基礎的な経済学の考え方を解説する広範な教育プログラムを開発してきた。(中略)こうした教育プログラムの経験を活かして、『これ一冊読めば十分』と言えるような読みやすくわかりやすい経済学の入門書の出版をめざすことになった。(中略)国内のすべての公立学校に一冊ずつ本書を送る予定」(8頁)と記されています。

概要

序章「経済学はどこにでも」では、エコノミストの日常を題材にして「経済学はどこにでも転がっている」(23頁)ことや、なぜ経済学が大事なのかなどについて概説しています。そのうえで、「読者の身近なことを取り上げ、経済学の主な概念に親しめるようにすることがこの本の目的だ。」(40頁)としています。
経済学は、「個人や個々の企業の選択に関わっている」(40頁)ミクロ経済学と「個々の選択が積み重なった結果としてのシステムとして経済を捉える」(41頁)マクロ経済学に大別されます。
本書では、第1章から第3章までがミクロ経済学、第4章から第10章までがマクロ経済学の領域に対応しています。
第1章「食べたい朝ごはんを選べるのはなぜ?」では市場について、第2章「経済学は気候変動問題を解決できる?」では市場の失敗とその解決策について説明しています。第3章「どうすれば賃金は上がる?」では、経済学では労働をどのように考えるかなどについて説明しています。
第4章「ひいひいおばあちゃんの代より私たちのほうがゆたかなのはなぜ?」では経済成長について、第5章「私の服の大半がアジア製なのはなぜ?」では貿易について、第6章「どうしてフレッド(注)はもう10ペンスでは買えないの?」ではインフレーションについて説明しています。
第7章「そもそもお金って何?」では、お金の歴史、機能や未来について、第8章「タンス預金が好ましくない理由は?」では、銀行の役割について説明しています。
第9章「どうして危機が起きると誰もわからなかったのですか?」では、経済危機の歴史と要因について、第10章「中央銀行がどんどんお金を刷ることはできないの?」では量的緩和などの金融政策や財政政策について説明しています。
終章「あなたも経済学者」では、本書で行った「経済学の旅」を振り返っています。

イングランド銀行、ルパル・パテル、ジャック・ミーニング 著
特徴

本書では、どのような問いを立てて、いかなる答えを導いているかを、容易に確認できます。章のタイトルを問いの形で示すだけでなく、付録で「経済学に関する51の質問」とそれらの答えに相当する本文のページも紹介しています。
問いを眺めるだけでも、問題意識が喚起されます。例えば、第9章のタイトル「どうして危機が起きると誰もわからなかったのですか?」は、「女王陛下からの質問」(328頁)です。2007~08年のグローバル金融危機について、エリザベス女王がロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで居並ぶ経済学者に対して発した言葉として知られています。本文を読む前に、私は、イングランド銀行がどのような答えを示しているかについて、思わず想像を巡らせました。
なお、第10章「中央銀行がどんどんお金を刷ることはできないの?」では、バブル崩壊後の日本の金融政策についても、多くの紙幅を割いて、わかりやすい説明をしています。

イングランド銀行のアンドリュー・ベーリー総裁は、序文の最後に、「経済学は、期待通りの結果が得られなかったときなどにしばしば批判されて嘲笑されるけれども、世界をよりよい場所にすることに貢献できる学問だと信じている。本書を読んで、私がそう信じる理由をわかっていただければ幸いである。」(9頁)と述べています。
私は、その願いが多くの人に届く内容になっているのではと感じました。ぜひ、お薦めしたい一書です。

注:フレッドについて、本文では、「どんどん値上がりする人気のお菓子」(214頁)、「大手菓子メーカー、キャドバリーのアイコンとも言えるカエル型の緑のチョコレート」(214頁)と紹介しています。

『イングランド銀行公式 経済がよくわかる10章』
著者:イングランド銀行、ルパル・パテル、ジャック・ミーニング
訳者:村井章子
出版社:すばる舎(2023/8/26)
ISBN:978-4-7991-1152-9
価格:1,800円+税

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学修支援だより【2024年1月号】

Foreword

ノヴォグラッツさんの問題提起 —「成功」を再定義する

経済学部長 高木 功

「私たち人間は地位を求める存在です。認められ、尊重され、愛されたいと心から願っています。私たちの現在の経済・政治・社会システムは金、権力、名声に基づいた『勝ち』(成功)の定義を増強しています。何を与えるかによって報われるより、何を手に入れたかよって確認されることがあまりに多い」—J. ノヴォグラッツ『倫理革命宣言』(2021)、邦訳タイトル『世界はあなたを待っている』(2023)。
私たちは財と権力と名声を奪い合う競争とその獲得したものの大きさによって人の優位性を確認する「競争・優位社会」に生きています。世界をより良く変えるために社会起業家を支援する非営利組織「アキュメン」を設立したジャクリーン・ノヴォグラッツさんはこの「成功」の意味の転換を主張しています。私たちのこの「成功」の観念、定義こそが「不平等と搾取と不公正な世界」をシステムとして支えていると考えるからです。
彼女にとって「成功」とは何か—「成功は私たち自身の内にあり、私たちが自身の内を探求して生きることを待っています。私たちが創る美と私たちが提供する善意の中にあり、私たちが広げる理想と私たちが掲げる大義の中にあり、私たちがその転換を助ける人々の生命の中にあります。子どもたちや地域社会の健康と豊かな生活の中に、そして世界を愛し、お互いを愛する中に立ち現れるもの」です。
「豊かな生活」を表す言葉として、彼女は「well-being」(よく生きていること) と共に「開花」を意味する「flourishing」という語句を頻繁に用いています。もともとは「花を咲かせる」という意味で、「繁栄」と「成功」の意を含みます。転じて「人間性の開花」あるいは「人間の潜在力の実現」を意味する言葉になります。したがって「成功」は、私たちの内なる豊かさの探求と自他の人間性を開花することの中にあるというのです。多くの人々から潜在力を開花する機会を奪う「不平等と搾取と不公正な世界」の転換にこそ成功はあると解することができます。
人が世界から奪い、得たものを成功の証とするのではなく、「世界から得たものより、多くのものを世界に与えよ」との黄金律を私たちの生き方の原則に加えるべきだと彼女は提案します。多くの人がこの言明に忠実に生きれば、世界はゆっくりでも「包摂と公正と尊厳の世界」へと変化するに違いないと信じるからです。ただし、そこには小さな自己を超える「勇気」と自身のあり方を支えてくれている愛すべき人々への深く素直な「感謝」の思いがなくてはならないでしょう。そのような生き方において「成功者」でありたいと願うものです。

自立学習入門講座

自立学習入門講座70
「論理構成」について

通信教育部長 吉川 成司

1.論理的なレポートとは

そもそもレポートを作成するのは何のためなのでしょう。
この点について戸田山和久氏(名古屋大学教授)は、『最新版 論文の教室』(2022,NHKブックス)で次のように述べています。
(大学でレポートの指導をするのは、)それは民主社会の担い手になるため、ということ。解決すべき問題をきちんと述べ、それに対する自分の答えを主張し、それをデータや論拠でサポートする、というのは、「みんなに関係することがらはみんなで議論して決めましょう」という社会、つまり民主主義社会の担い手に求められる最も重要なスキルだ(下線箇所は筆者による)。

この見解については改めて触れることにして、下線を引いた箇所について解説するのが本稿の主目的です。それでは早速始めましょう。

レポートは、読み手を意識して書かれていることが基本的に重要なポイントです。自分だけがわかっていればそれでよいというわけではなく、読み手に理解してもらえるように論述することが求められます。そのためには、順を追って、論拠をふまえて、納得してもらえるように、つまり論理的なものでなくてはならないのです。
論理的なレポートとは、読者が議論や主張の展開を理解しやすくするために情報やアイデアを整えて論理的な構造を持っているレポートです。この「論理的」ということには、いくつかの意味が含まれています。以下、論理的なレポートとはどのようなものであり、またそれらがどのように効果的であるかについて説明します。

(1)順序をふまえてこそ論理的
論理的なレポートであるためには、筋道の通った順序で提示する必要があります。序論、本論、結論を基本として適切に整理し、読者が論旨の展開を追いやすくなっていてこそ論理的なレポートなのです。

(2)論拠があってこそ論理的
論理的なレポートであるためには、主張や議論を支持するために適切な論拠が必要です。信頼性のある情報源からの引用文やデータなどの論拠に基づき、論理展開を強化して読者に説得力を持った論述を提供してこそ、論理的なレポートなのです。もちろん、引用され論拠となる各種資料の正確性や信頼性が重要であることはいうまでもありません。

(3)結論まで筋が通っていてこそ論理的
論理的なレポートの結論とは、設題を適切にふまえて根拠を示すことで、首尾一貫した論旨を展開した上で、報告や論証などをまとめることです。結論は、読者に向けて設題に関する最終的な見解をまとめ、提供するものなのです。

以上のように、論理的なレポートにはいくつかの意味があり、それらによってさまざまな効果をもたらしてくれます。まず、論理的なレポートであることによって「説得力」が出てきます。論理的な構造と適切な証拠により、読者は見解について納得しやすくなります。また、「理解しやすさ」も論理的なレポートの効果です。論理的な構造により、読者は情報の流れを追いやすく、複雑な見解でも理解しやすくなります。さらに、論理的なレポートであることによって「信頼性」が出てきます。すなわち、適確な論拠は、レポートの信頼性を高め、読者に情報の信頼性を示すのです。
加えて、論理的なレポートを作成に取り組むことを通して、「論理的な思考の訓練」になることも大切なポイントです。論理的なレポートの作成は、論理的思考力の向上に寄与します。学生は情報を整理し、効果的に伝える方法を学ぶことができます。論理的なレポートの書き方は、大学生として学ぶべき重要なスキルであり、民主主義の担い手に求められる資質なのです。この点、改めて冒頭の戸田山氏の見解が明確になるところです。

2.論理構成のポイントとは

論理構成のポイントの一つは、「レポート課題に対応した結論」です。すなわち、与えられた課題や問題に対して、適切な結論を導き出していることがポイントになります。
次のポイントは、「パラグラフの作成方法」がどの程度適切か、そして「論旨の一貫性」がどの程度できているか、ということです。これは、文章構造と論理の一貫性に関連しています。パラグラフの適切な構造と一貫性は、読者にとって理解しやすい文章を作る上で非常に重要です。そのために、パラグラフを題目(トピック)文と補足(サポート)文の両者が呼応するように作成し、さらに、パラグラフ間が論理的につながっているかどうかがポイントになります(パラグラフ・ライティングについては後述します)。
ポイントをより具体的に分節化すると次のようになりましょう。

  • 1パラグラフに1主題の原則を踏まえて、適切な長さで書かれているか
  • パラグラフで最も述べたいことが題目(トピック)文の中に書かれているか
  • パラグラフの中の文と文は概ねスムーズにつながっているか
  • パラグラフ間がスムーズにつながっているか

もう一つのポイントは、説明・論証に必要な「データと論拠」がどの程度踏まえられているか、ということです。これは、論文やレポートが適切なデータや論拠を提供しているかどうかに関するものです。主張や議論を支持するために十分な証拠が提示されているか、信頼性のある情報源からのデータが利用されているか、論拠が明示的で妥当なものであるかがポイントになります。
これら3つのポイントは、レポートや論文を作成する際に一般的に使用されるものであり汎用性が高いものです。

3.論理的な文章とは

論理的な文章の例を見ながら解説を進めましょう(「レポート作成の手引き 2023年度版」 レポート作成の手引き2023 年度版編集委員会)。どのような箇所が論理的かを見つけることができるでしょうか? 以下、解説します。

子どもの貧困の現状

日本は先進国の中で、子どもの貧困率が高いだけでなく、貧困の度合いも深い。厚生労働省(2016)によると、子どもの貧困率は2012年に16.3%と過去最高を更新している。その後減少傾向にあるものの、2015年時点でも依然13.9%となっている(厚生労働省2016)。この数値を国際的な観点から見ると、「OECD加盟国34か国中10番目に高く、OECD平均を上回っている」(内閣府 2014)と報告されている。日本は2020年GDP世界第3位であり、経済大国であるが、国民の生活については、世界の国々と比較して豊かであるとは言い切れない。また、阿部(2016)によると、日本の相対的所得ギャップ(所得階層の下から10%の子どもが属する世帯の世帯所得を、中位の世帯所得の子どもたちと比べた差の指標)によると、所得階層の下位10%目の世帯所得は、中位の子どもの40%に満たず、またこの差異は、先進諸国41か国中8番目に大きいという。このことは、日常生活に支障をきたす環境での生活を強いられている子どもたちがいる可能性を示唆している。これらのことから、日本は子どもの貧困率が高いだけでなく、貧困の度合いも深いことが分かる。

(1)パラグラフ・ライティング

上記の文章が論理的であるのは、パラグラフ・ライティングというスキルが用いられているからです。パラグラフ・ライティングとは、一つのパラグラフを3種類の文章で組み立てる方法です。
その一つが「題目(トピック)文」です。
これは、言いたいことを述べる文で、パラグラフの内容を一文で要約した文ともいえます。要約した文ですから、トピックの内容が端的に伝わるように書く必要があります。例文の冒頭「日本は先進国の中で、子どもの貧困率が高いだけでなく、貧困の度合いも深い」が題目文です。題目文がパラグラフの内容を適切に要約できていれば、パラグラフ全体の主旨が分かるはずです。
もう一つは補足(サポーティング)文です。補足文は、題目文続けて書き、そこで述べた見解を論証する文です。論証とは、題目文で述べたことがなぜそう言えるのか、根拠を挙げて証明することで、先行研究・事例・データ等を指します。論拠が具体的で、信憑性があるほど全体の説得力が増します。
客観的な論拠をふまえた上で、その論拠がなぜ見解を支えることになると自分は考えたのか(理由付け)を説明することが必要です。題目文をサポートする上で必要な論拠は何であり、なぜ必要なのかを考えて、適切に理由付けましょう。この理由付けが思考の道筋を表し、レポートの良し悪しに繋がります。補足文のスキルを使うことで、1で述べた、論文やレポートが適切なデータや論拠を提供することができるのです。補足文によって、題目文と、次に述べる結論(コンクルーディング)文を適切につなげることができると、論旨の一貫性は確実なものとなります。
さらに、パラグラフ・ライティングでは、必要に応じて、結論(コンクルーディング)文を書くことがあります。結論文とは、トピックセンテンスの内容を言い換えるなどしてまとめる文です。まとめですので、パラグラフの最後に書きます。パラグラフで要するに何が言いたかったのかをまとめるので、トピックが強く印象づけられます。
例文の最後をご覧ください。「これらのことから、日本は子どもの貧困率が高いだけでなく、貧困の度合いも深いことが分かる」とあります。このように、補足文を間に挟んで題目文と結論文が呼応していることにより、1で述べた「論旨の一貫性」が成立することになります。

(2)一文一義でわかりやすいレポートに

「一文一義」とは、一つの事柄を一文で書くことです。このように書くとなると、当然その文は短めのものになると思います。つまり、思いついたことを長々と書くのではなく、一つの文で述べることを考えながら書きましょう。「この文ではこれ、次の文ではこれ」というように整理しながら書くことで、書き手の頭の中も整理されていきます。思考が整理された文章は読み手にも分かりやすいものです。一文を区切る際、「どこからどこまでが一文になっていると読み手に伝わりやすいか」を基準にしましょう。例文を改めてご覧ください。一文が短く、一つの文で一つの事柄が述べられています。また、文同士の関係が読み手に伝わるよう、接続表現も積極的に使いましょう。
次の文章をご覧ください(「レポート作成の手引き2023年度版」レポート作成の手引き2023 年度版編集委員会より)。最初はよくない例です。

新型コロナウイルスの流行によってテレワークが普及したが、新たな問題として浮上したのが社員の孤立であったが、このチャットツールを導入し社員同士の交流が進み孤立は解消された。

読んでみるとわかりますが、一文が長めで、「…が、」が続いていることもあり、文意がつかみにくくなっています。そこで、こうしてはどうでしょう。

新型コロナウイルスの流行によってテレワークが普及した。だが、新たな問題として浮上したのが社員の孤立であった。そこでこのチャットツールを導入した。その結果、社員同士の交流が進み孤立は解消された。

どうでしょうか。一文が短く、接続詞が適切に使われています。

(3)接続詞を適切に使うと論理的になる

先の例文のように接続詞にはさまざまあります。その一部を見てみましょう((「レポート作成の手引き 2023年度版」 レポート作成の手引き2023 年度版編集委員会より))。

○順接Aの内容がBの原因・理由になっている
1992年にバブル経済がはじけた。そのために、経済状況が悪化した。

○逆接Aの内容に対して、Bが逆または予想外の内容になっている
諸外国では、法律で夫婦別姓が認められている。しかし、日本では、結婚に際して夫婦は同姓にしなければならないと民法で定められている。

○理由Bの内容がAの原因・理由になっている
日本においても、ベーシックインカムに関する議論を進めるべきである。なぜなら、雇用の不安定化は近年ますます進んでいるからである。

○並列・列挙二つ以上の内容を並べたり、順序づけたりする
日本食品添加物協会によると、食品添加物の安全性を確認するために大きく分けて二つの動物実験が行われている。第一に一般毒性試験で、第二に特殊毒性試験である。

4.結び

この原稿では、まず論理的なレポートとはどのようなレポートであり、どのような効果があるかについて解説しました。
次に、論理構成を焦点として、レポート作成のポイントを解説しました。すなわち、的確な結論、論文の一貫性、適切なデータと論拠の提供が重要であるということです。
さらに、例文を挙げて、論理的なレポートを作成するために、パラグラフ・ライティングとともに、一文一義と接続詞について解説しました。これらを理解し、実際のレポートに応用することで、自身のレポートの質を向上させることができます。これらのポイントを意識することで、より優れたレポートを作成できるようになるものと期待しています。

以上についてのより詳しい説明は、次の資料で読むことができます。

①『自立学習入門講座』の第3章「論理的なレポートの書き方」
※「学光ポータル」のデジタル副教材で見られます。

②『自立学習入門新訂第2版』の第6章「文章をいかに書くか」(6-1 論理的なレポートを書くためのアカデミック・スキル、6-2 文章をいかに書くか)
※「学光ポータル」のデジタル副教材でも見られます。

③『レポート作成講座(Bタイプ)』の(3)レポート全体を明確な論理に基づいて執筆するためのスキル
※「学光ポータル」のWEBレポート作成講義で視聴できます。

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学修支援だより【2024年2月号】

Foreword

カントと人間主義の倫理

経営学部長 栗山 直樹

人間主義とは倫理的な命題です。哲学者イマヌエル・カントは、尊厳性をもつ人間を尊重することが、道徳の普遍原理であると唱えました。人間は価格がつかない何ものにも換えがたい尊厳性を持っているとし、それを敬うことが、人間が生得的にもつ理性が命じる倫理基準であると説きます。
そして、カントは、それが普遍性を持つかどうかをチェックするために、定言命法の定式を示します。その中の第2の定式は、「人を単なる手段として扱わず、常に目的として扱うべきである」という基準(人間性の定式)を提示します。この定式は、「人を単なる手段としない」ことと、「人を目的とする」ことの2段構えになっています。
このことは組織にとって重要な倫理的指針を提供します。「人を単なる手段としない」ためには、何をすればよいでしょうか。一つは、無理に何かを強制しないことです。権力や借金で人に何かを強要すれば、人間性に反します。また、うそをついて人に何かをさせることも人を手段にすることになります。詐欺や隠ぺいや偽装は現代的な問題であり続けています。これらは、法律やルールを制定し、遵守を促し、違反を取り締まり、罰則を与えることによりある程度対処できます。強制労働は今もはびこっていますし、現代において人への強制は、過労死や各種ハラスメントとして、また各種の詐欺行為は大きな罰を受けます。このことから、人間を手段として扱わないために法的な規制と適用である程度対処できるような気がします。カントは、消極的自由という言葉で、何かに依存しない自由の確保が、手段にされないために重要だと言います。

問題は、第2段階めの、人間を目的とするためには、どうすればよいかです。カントは、このためには自分のことだけでなく、他者の幸福を考える視点が重要になると指摘しています。他者の幸福のために何ができるか。人間が本来もつ、自律的に考え実行する自由の中での創造的な行為が重要となると述べています。カントは、人間を手段にしないためには、消極的自由である量的自由を確保することで実現できるが、「人を目的とするためには、積極的な質的な自由で可能になる」と言っています。誰からも何にも拘束されない自由だけでは、自由を持て余してしまう可能性があります。一段上の質的な自由とは、自己利益をだけを考える自由ではなく、他の人や環境も考える責任を伴う自由のことです。
人の幸福を実現する目的を果たすためには、それぞれの状況にあった「一人ひとりを大切にしてゆく」発想が必要です。カントは、人間主義のために、自由と責任を伴う自他ともの価値創造を目指していたと言えます。

学修支援推進室コーナー

今年度の学修支援を振り返って

学修支援推進室 室長・文学部 教授 髙橋 正

はじめに

2023年の5月に、新型コロナが感染法上の部類が2類から5類に変更され、季節性インフルエンザと同じ部類になりました。夏には、感染対策を講じながらも、対面で夏期スクーリングを行い、学光祭もディスカバリーホールで開催できました。コロナ禍の期間を通じて、日常の当たり前のことがいかに重要であったかを知ることができたと思います。

レポート作成講義の開催

今年の3月から6月にかけて、5回にわたって、創大や主要都市で新入生ガイダンスを行い、その後でレポート作成講義を開催しました。創価大での講義は、対面とオンラインで実施されました。対面での受講者は全国で113名、オンラインでの受講者は312名でした。講義の後のアンケート調査では、「レポート作成の構成が理解できた」(70.4%)や「教科書の読み方が分かった」(47.2%)などの声が聞かれ、新入生にレポート作成への意欲を高めることができたと言えます。半面、「どちらともいえない」や「満足していない」受講者が27%余りいるので、今後も推進室としては、この講義の改善に努めていきたい。
久しぶりに対面で行われた夏期スクーリングでは、各期に1回ずつ、8月13・18・23日に4つのタイプの作成講義を行い、受講者の合計は305名にもなりました。この4つのタイプの講義はオンデマンドでいつでも映像で学べるので、対面のこの講義では、質問の時間を多くとるように講義内容を短縮しています。対面での受講生がそれなりに多いのは、それぞれの先生の独自の解説や説明が、受講生にとっては理解を深めるきっかけになることや質問を直接に先生に聞くことで日頃の疑問や不安が解消されることにあると思われます。そのことは、受講後に行ったアンケートに現れており、「大変に満足」と「満足」を合わせると84%にのぼっております。84%の人が「レポート作成の構成が理解できた」と答え、「レポート作成について、一層レベルの高い講義に参加したい」という学生が49%もいました。半面、16%の学生が不満に思っているという結果も重く受け止めて、各担当教員はさらに充実した講義を心がけていきたいと思います。

自立学習入門講座の充実

これまで発表されてきた入門講座の縮約版を「自立学習入門セレクション」として、昨年度につづき、機関誌『学光』に掲載してきました。春夏号の「パラグラフ・ライティングの技法」では、レポート作成における比較・対照の役割について学んでいます。秋号では「-パラグラフ論②=『数字に語らせる』」技法」を掲載して、データを基にしてパラグラフの補足文を充実させる方法を学習しました。
学光ポータルの「学修支援だより」に掲載されている「学修支援推進室コーナー」では、次の科目の「オンデマンドスクーリングだより」が閲覧できます(5月号教育学部「生徒・進路指導論」、9月号文学部「比較文化Ⅰ」、12月号法学部「刑法総論」)。今後、これらの科目の履修を考えている方はぜひ参考にして、よりよい成果で得られるように、オンデマンドスクーリングに取り組んでください。
「学修支援推進室コーナー」には「自立学習入門講座」があり、レポートの内容・質を高めるために、あるいは、オンライン授業の受講のために、様々な観点から説明がなされています。そのいくつかを紹介します。

レポート作成講義にある4タイプの違いがよく理解できていない人にはお勧めです。

夏期スクーリング以外のスクーリングは、オンラインで行われています。オンライン授業を受けるスキルや受講の心得を解説しています。来年度のオンライン授業に向けて、再度、読んで確認しておくのもいいでしょう。

オンデマンドスクーリングでは講義映像の視聴だけになり、能動的な学習が難しい面があります。 それを改善していかに主体的に、効率よく学習するか。 この疑問を解決してくれるヒントを学ぶことができます。

教員による学修相談

今年度の上半期では、相談の申込が58件ありました。相談内容としては、日本語教育に関するものが多くありました。また、同じ学生が複数回相談を申し込むという傾向があります。教員ごとに、それぞれの先生が対応できる質問項目をあらかじめ明示して、質問に的確に回答できるようにして実施しています。一人最大30分の時間をかけることができるので、納得がいくまで質問できるようになっています。今後も、多くの学生の相談をお待ちしております。

パソコン操作の向上

オンライン授業の恒常化によって、パソコンの操作がうまくできない人が受講の際に大変苦労したり、うまく受講できない場合が散見されます。また、キーボードからの入力が苦手で遅い人がWeb試験では、時間内に解答できないという場合もあるようです。通信教育部では、ICTサポートデスクを設置したり、パソコン操作等に関する説明動画を視聴できたりできるようにしています。また、提携パソコン教室を特典つきで利用できるように案内しています。支援室では、パソコン能力の向上のためのこれらの施策を今後さらに啓蒙していきたいと思います。

教職指導講座

教員採用試験に向けての具体的取組

教職キャリアセンター指導講師 小堂 十

こどう つなし
教職キャリアセンター指導講師
[ 職  歴 ] 東京都小学校校長
[専門分野] 社会科、総合的な学習の時間、環境教育、放送教育
[担当科目] 教職概論、教職実践演習

最も強い者が生き残るのではなく、
最も賢い者が生き延びる訳でもない。
唯一生き残るのは、変化に対応できる者である。

これは、ダーウィンの有名な言葉です。私自身も多くの人と接してきた中で、「強さ」「賢さ」だけでなく、「しなやかさ」を兼ね備えた人は自分自身の人生の充実感を味わえているように感じます。
OECDのEducation 2030プロジェクトが2019年に提示した「ラーニングコンパス2030」には、学習者自身が手に持ったコンパスを活用しながら、「well-being 2030」という到達目標に向けて歩もうとする姿が描かれています。
「well-being(ウェルビーイング)」とは、直訳すると「幸福」「健康」という意味があり、幸福で肉体的、精神的、社会的すべてにおいて満たされた状態をいいいます。
子供たち一人一人のウェルビーイング確保をするためには「変革をもたらすコンピテンシー(資質・能力)」を獲得していくことが大切であり、これのサポートをするのが教師の役割であり、学習者と伴走者としての関係が常にテーマとなります。つまり、「学ぶ」「教える」の立場でなく、互いにアクティブラーナーとして、「学び続ける」ことが求められています。これは冒頭で述べたダーウィンの言葉と符号するように私には感じます。また、日々の仕事や学業の中で、自分自身のウェルビーイングを目指す通教教育学部生の姿に相通じるものがあります。
既にみなさんもご存知のように、本年度採用試験より一部地域では3年生での前倒し受験の実施が行われ、来年度はさらに多くの地域で前倒し受験が予定されています。それと同時に受験日程も地域によっては1ヶ月ほど早まり静岡県(静岡市・浜松市も含む)では5月11日、茨城県では5月12日に実施予定をしています。このような時代の変化に主体的に対応していくことは、私たちにとって、まさにウェルビーイング確保していくことになります。

早めのスタートが鍵 ~合格のための土台づくり~【1月~2月までの取組】

教員採用試験は「筆記試験」「論文」「面接」等を経て、受験者の適性を見て合否が判定されます。「筆記試験」は、過去問題に挑戦し自分の苦手分野を見きわめくり返し学ぶ計画的学びを進めていくことが最善の方法であり、これを地道に取り組むことが大切です。
しかし、「面接」「論文」等については、どんなことから手をつけていけばよいのか分からない方も多いのではないでしょうか。そこで、最初に取り組みたいのが「自己分析」です。
受験自治体によって、「エントリーシート」「面接票」と呼び方も違ったり、提出時期も違いがあったりしますが、今、「自己分析」をしておくことは、有効な受験対策となります。
それでは、早速「自己分析」として、以下の項目について考えてみましょう。

  • なぜ教師をめざすのか?(目指すようになったきっかけ、教師としての使命感等)
  • なぜその教科か?(選択した教科を通じて、どんな子供を育てていきたいか)
  • 自分の長所・短所(自分自身の強みや弱みを自覚したうえで、自己の課題を考える)
  • 教職に生かせる自分の性格(自分の性格から、教師としての素養を考えてみる)
  • 今まで取り組んだこと(これまでの経験を、教師の仕事でいかにいかしていけそうか考える)
  • 自治体志望の理由(自治体で求める教師像を理解した上で、志望動機を考える)

早速書いてみた「自己分析」はいかがだったでしょうか。ほとんどの人が浅い内容になっていませんか。そこで、大切なのが、一つ一つの項目の深掘りです。面接においては、面接官は受験生の言葉を受けて、詳細について質問することが考えられます。
その対策として、「個別エピソード」を振り返ってみましょう。例えば、「アルバイト」や「仕事」などの経験については、①活動を始めた動機・目標など②失敗や苦労、そう乗り越えたか③工夫したこと④周囲からの声⑤活動から学んだこと⑥教師の仕事にどう生かせそうか等の視点から考えてみましょう。
また、「自分の価値観」については、①好きな言葉とその理由②人と接するときに気を付けていること③憤りを感じること④嫌な行動をする人への対応等の視点から考えてみましょう。
「教師になりたい理由」「志望教科とのかかわり」については、自分自身の小中高の変遷をたどっていくことで整理できます。
「志望自治体との関わり」については、①自分自身のこれまでの自治体との関わり②自治体の印象・魅力を整理した上で、志望自治体の③教育施策④求める教師像等をしっかり理解したうえで、考えを整理していくとよいでしょう。
この作業を終えたら、もう一度、最初に行った「自己分析」をしてみると、面接のイメージが膨らんでくるはずです。しかし、面接時間は限られています。長々と話せば、自分自身のすべてをPRできません。その対策として、自分の軸・核になる「キーワード」を考えておきましょう。
まずは「自己紹介」。そこから、教員採用試験の挑戦は始まります。

ブック・スクウェア

『日本語はしたたかで奥が深い くせ者の言語と出会った<外国人>の系譜』

通信教育部 教授 山本 忠行

日本語教師を目指す人にはぜひ読んでいただきたい一冊である。日本語教育史を人物という視点から捉えなおすことができる。歴史の話は、つまらない事実の羅列となりがちである。しかし、本書は日本語を学んだ外国人のエピソードでまとめられている。大量の文献をもとに、これまであまり知られていなかった事実がいくつも紹介されている。しかも古代から現代まで幅広く扱っている労作である。他に類例を見ない日本語教育史の本である。これから日本語教育史を研究しようとする人にとって、大きな示唆を与えてくれるに違いない。

日本語教育史では外国人の日本語学習というと、通常は朝鮮で15世紀に作られた日本語教科書のことから始まるが、本書では古代の国際交流から始まっている。考えてみれば、学習書や文法書などない時代から朝鮮半島や中国などとの交流があったわけで、そこには日本語学習が行われたはずである。文字がなかった日本に関する最古の記録としては、魏志倭人伝に「邪馬台」や「卑弥呼」などの記述があることが知られている。日本に漢字を伝えたのは百済から渡来した「王仁(わに)」という中国系の人物であるとされているが、『古今和歌集』の「難波津の歌」の作者とされるほど、日本語に精通していたようである。どのように日本語を学んだのかという記録はないが、異言語・異文化との接触の中で日本語が形成されてきたことがうかがわれる。『日本書紀』や『続日本紀』には中国や朝鮮以外の来日外国人のことが記されており、「畝傍山」を「うねめ」と発音して、誤解を受けたこともあったといい、日本語の発音で苦労していたことがわかる。

河路 由佳 著

外国人がどのように日本語を学んだのかが詳しくわかるのは16世紀以降の文献からである。よく知られているのは、西洋人宣教師と朝鮮通信使に関することである。1549年にやってきたフランシスコ・ザビエルたちは苦労しながら日本語を学び、キリスト教の布教を行っていく。彼らがまとめた辞書や文法書は、当時の日本語を知るための貴重な資料となっている。豊臣秀吉の朝鮮出兵により日本に連行された康遇聖が帰国後に著した日本語学習書『捷解新語』は司訳院で200年以上通訳官養成に使われることになった。いわゆる「鎖国時代」になると、来日するヨーロッパ人はオランダ人だけとなったが、日本人との交流は制限され、オランダ通詞を介さなければならなかった。それでも、日本語を研究する人もいた。その中で特筆すべきはシーボルトである。シーボルトはドイツ人であるが、オランダ商館の医師として来日し、日本に関する大量の資料を収集し、持ち帰った。その資料はヨーロッパにおける日本研究の発展を促すことになった。幕末のころになると、さまざまなヨーロッパ人が来日し、日本研究を行ったり、日本語の教科書を執筆したりするようになる。最も知られているのは、ローマ字表記法を考案し、『和英語林集成』という辞書を編纂したアメリカ人宣教医ヘボンであろう。外国人が日本語について書いた本も多数出版されている。外国人の日本語研究から、標準語が生まれる前の日本語の実態が垣間見える。身分による話し方の違いもあれば、「横浜ことば」と呼ばれる、横浜にやってきた外国人が話す日本語の特徴なども記録されている。神田駿河台に大聖堂を建てたニコライは優秀な日本語の使い手だったようで、日本の古典や仏典にも精通していたという。他にも多数の人物が取り上げられているが、詳細は本書を読んでいただきたい。


その後は日清戦争後「侵略的日本語普及の時代」に入ることになるが、これについては多くの論文や書籍が出ている。本書で興味深いのは、国定の国語教科書に関する分析である。外地で暮らす日本人の様子、日本語普及の状況なども国語教科書の内容に反映されている。一方、アメリカやイギリスでは対日戦争に勝利するための軍事戦略として日本語教育が行われ、ドナルド・キーンなどが日本語を学ぶことになった。戦後はその人々が日本の文化や文学を海外に紹介し、国際理解を広げていくことになった。あまり知られていないが、中国の八路軍でも同様に日本語教育が行われていた。しかも、八路軍では一般兵士にまで「武器を捨てろ」などの日本語を覚えさせていたという。
日本の敗戦は、大きな価値観の転換をもたらし、それが国語の教科書の内容に影響している。海外への日本語普及の話は姿を消し、文字を3種類も4種類も使う国はないとして、ローマ字は世界的な文字だとして、ローマ字化を推奨するような文章まで国語の教科書に採用される。
今では日本語を使いこなす外国人がテレビに出ない日はないと言ってよいが、突然こうした外国人が登場したわけではない。戦前に身につけた日本語を使って戦後も活躍した外国人のことも知っておく必要がある。このようにして築かれた基盤の上に、外国人の小説家、漫画家、歌手など活躍する範囲も広がっているのである。異言語・異文化の人々をつなぐという日本語教育への理解を深めることができる本である。

『日本語はしたたかで奥が深い -くせ者の言語と出会った〈外国人〉の系譜』
著者:河路由佳
出版社:研究社 (2023/7/24)
ISBN:978-4327377519
価格:3,200円+税

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学修支援だより【2024年3月号】

Foreword 1

卒業を祝して

学長 鈴木 将史

通信教育部での学業を見事に修了され、晴れて卒業の栄冠を手にされた皆さん、ご卒業おめでとうございます!これで皆さんは、創価大学卒業生という栄えある資格を得たことになります。今後はさらに新たな可能性を目指して、大いに前進していただくことを期待します。
皆さんの在学中には、世界を巻き込んだ新型コロナウイルスの蔓延と、それによるスクーリング授業のオンライン化という大きな変化がありました。通教生にとって全国や世界の友と出会う最大の好機である夏期スクーリングも、2023年度にようやく再開されるまでオンライン開催が続きました。また、急激な円安や海外での紛争を契機とする物価高により経済的に圧迫され、学業の継続が困難となった方もおられたに違いありません。
こうした数々の困難を乗り越え、努力と忍耐を積み重ねてつかみ取られた卒業は、皆さんそれぞれにとって、かけがえのない価値を持っていることでしょう。皆さん一人一人の頑張りを、最大に讃えたいと思います。

さて、昨年11月15日、創価大学の創立以来通信教育部を最も大事にされ、常に通教生を激励してくださった創立者池田先生が、残念ながらご逝去されました。皆さんは、創立者ご逝去後初の卒業生です。そこで、創立者のお言葉をいくつか振り返りつつ、皆さんの卒業の意義について考えてみたいと思います。

(1) 創価大学設立構想の実現

創立者は、創価大学の設立構想段階から次のように言われていました。

最初からは無理かもしれませんが、通信教育や夜間部もできるだけ早く始めたい。(中略)通信教育ならば、年齢、職業、居住地等に関係なく、あらゆる人が勉学にいそしむことができることになります。

(1969年5月3日 創価大学設立構想)

こうした考えについて創立者は、その後も様々な場面で繰り返し述べられています。創立者が、あらゆる人が入学して勉学に励むことができる通信教育部を、いかに大切に考えておられたかがよくわかります。
今回の卒業生も、20代から80代まで幅広い年齢にわたっています。当然ながら職業も様々で、海外在住の方もおられます。まさに創立者が望んだとおりの姿です。皆さん一人一人が創立者のご構想の実現者であり、ご卒業を創立者も心からお喜びのことと信じます。

(2) 市民に開かれた大学の実現

創立者はどこまでも、大学を閉じた組織ではなく、市民に開かれた存在とすることを希望されました。

市民と一体になった創価大学の伝統を作るために、彼は、勇んで原稿を書き、市民のなかに飛び込んでいったのだ。
伸一は、開学前に、創価大学に通信教育部を設置する構想も発表している。
この夏季大学講座と通信教育という二本の柱を打ち立て、市民に開かれた大学を実現したいと、彼は念願していたのだ。

(小説『新・人間革命』第15巻「創価大学」の章)

日本では、大学はどうしても18歳の高校卒業生が通うものという意識が強く残っています。そのような大学は、ともすると周辺の市民社会から隔絶した存在となりがちです。しかし老若男女が勉学にいそしむ通信教育部は、まさに現実社会に生きる市民のための、市民に開かれた大学です。
最近では大学にも地域社会への貢献が強く求められるようになってきました。創価大学は現在、地元八王子との連携にも積極的に取り組んでいますが、幅広い世代がともに学び、誰でも勉学を修めて卒業できる通信教育部の存在が、地域連携活動でも大きなプラスになっています。

(3) 教育革命の実現

創立者は、通信教育部の意義について次のようにも語っておられます。

ご存じのように、私もほとんど夜学で学びました。名もない夜学であれ、通信教育部であれ、そういうところから社会に貢献できる人物が出てきたときに、これが本当の教育革命であると思います。

(1979年11月3日 第2回全国通教生大会)

一流大学で教育を受けた限られた人々だけではなく、社会生活を営みながら自発的に学んで卒業した人が社会貢献するようになるとき、大学教育が革命的に変わるとの宣言です。最近では社会人を対象とした「リカレント教育」「リスキリング教育」などが注目され、政府も補助金を出して推進しています。まさに創立者が語った「教育革命」が起ころうとしています。
創価大学通信教育部からは、これまで博士や企業の重役、校長などが次々と誕生しています。今回卒業された皆さんも、通信教育での学びを活かして、社会の様々なところで力を発揮しようと考えておられることでしょう。皆さんの大活躍により、創価大学がまさに「教育革命」の最前線に立つようになることを期待しています。
残念ながら分断と対立がますます深刻化する世界にあって、人々を結び付け平和を実現する創価教育が、強く求められています。晴れて卒業された皆さんが、創価教育の智慧の担い手として、社会の向上を目指して大いに力を発揮されることを願ってやみません。

Foreword 2

卒業を祝して

通信教育部長 吉川 成司

“信”を“通”わせた深き学び

昨年は、4年ぶりに夏期スクーリングを対面で実施することができましたが、それまで、コロナ禍でのさまざまな制約がありました。それらを乗り越えて卒業の栄冠を勝ち取られた皆さんの地道にして真摯な学びの姿勢に深く敬意を表します。コロナ禍でなくても、通信教育における最大の課題は卒業が難しいということにあります。小説『新・人間革命』の「学光」の章では、通信教育部開設前から、創立者・池田先生がこの点に誰よりも心を砕いておられたことが語られています。
これについては、2022年8月16日開催の「第47回学光祭」において、の塩原將行氏(池田大作記念創価教育研究所客員研究員)による講演が行われました(『学光』Vol.3掲載「第47回学光祭記念講演:創立者・池田先生と通教生、そして、私にとってのレポート課題」)に語られています。塩原氏は、第一回卒業生229人が誕生の背景には、創立者と“信”を“通”わせた 一人一人の奮闘があったと論じています。同じように、今回卒業される皆さんお一人おひとりにもかけがえのない、“信”を“通”わせた奮闘のストーリーがあったことでしょう。
通信教育部開設40周年に、創立者が寄稿してくださったメッセージに次のようにあります(2016年5月 通信教育部開設40周年特別寄稿「『信』を『通』い合わせ人間教育の大道を」)。
「牧口・戸田両先生も、私も、学びたくとも思うように学べない青春を過ごしました。だからこそ、けなげに学ぶ人々と力強く「信」を「通」い合わせて、「学は光」の大道を開きたいと願ってきたのです。(中略)今、わが創大の通信教育部の皆さん方が、この誉れの系譜に真っすぐに連なってくださっています。(中略)通教の皆さん方が、これから無数に続く学友たちとも、限りなく「信」を「通」い合わせてくれる未来を、私は思い描いております」。
特に、「…限りなく『信』を『通』い合わせてくれる未来を…」とのお言葉をかみしめるとき、“信”を“通”わせる重要性は、その永遠性にこそ意味があるのだと思います。

「充電」と「発電」絶やさぬ人生の勝利者に

さて、創立者が、創価大学の開学と同時に通信教育部の開設を構想しておられたことは、皆さんよくご存じのことと思います。しかし、それは前例がないという理由で、一度卒業生を出してからということになりました。
その一期生の卒業式(1975年3月)に際して、創立者は次のように述べられました。
「大学を出れば、今度は、自分で自分を教育する生涯教育のコースに入るわけであります。それには何歳になろうとも、向学心が衰えないこと、これが条件です。そして必要に応じて学び、仕事のうえと教養に役立てていく。それが理想的な態度であります。学ぶのは充電であり、役立てるのは発電であります。」
「一生、この充電、発電を絶やさずに繰り返していけるようになったならば、その人は必ず人生の勝利者になっていくことは間違いないでありましょう」と。
その1年後の1976年、創価大学通信教育部が開設されたのです。
通教卒業生の多くの方は、創立者のご指導通り、すでに自らを教育し続け、充電と発電を繰り返してこられた、人生の勝利者であると信ずるものです。そして同時に、卒業してもなお、この往復作業を続けられますよう念願しております。

2026年の通教開設50周年に向けて

昨年の12月3日、通教を卒業されて20周年の節目を飾る、通教24期生大会が大学構内で開催されました。その記念品のカードに創立者のお和歌(うた)がしたためられていました。

「わが心一生涯いな永遠に君の勝利へ君と走らむ」― いつまでもお元気で!充実した晴れやかな栄光の人生を祈りつつ ―。

2026年の通教開設50周年に向けて、皆さんに続く後輩への励ましを宜しくお願いいたします。最後に重ねて、皆さんの栄えあるご卒業をお祝いいたしますとともに、益々のご健勝をお祈り申し上げます。

自立学習入門講座71

「原稿作法・文章作法」について

通信教育部 准教授 堂前 豊

1.「原稿作法・文章作法」の評価項目とは

レポートは、公的な文書です。提出にあたっては、下書きしたレポートを体系的に手直しして、完成された作品へとブラッシュアップしなければなりません。その作業を進めるには、どのような点に留意する必要があるでしょうか。本稿では、原稿作法・文章作法の評価項目について、一つのレポート例に即して、いくつかのチェックポイントを具体的に確認してみたいと思います。
原稿作法・文章作法の評価項目は、次の4つです。
①「論理構成の観点」から全体を俯瞰してどの程度推敲ができているか
②「文章作法の観点」から分かりやすい文章になっているか
③「原稿作法の観点」からアカデミックなルールや型をどこまで順守しているか
④「引用参考文献」(本文中と文末のリスト)の推敲がどの程度できているか

2.今回のチェックポイント

今回は、経済学の理論モデルに関するレポート例を紹介します。人文・社会・自然科学の基本的な手続きは、吟味された仮定のもとで演繹的推論を行うこと、データ(先行研究、事例、統計データなど)に照らして主張の妥当性を帰納的に検証することです。理論モデルでは、仮定(前提条件)を設けて、仕組みの本質を簡潔に説明します。今回のレポート例は、演繹的推論の表現方法について、一つの例を具体的に示すものです。

( 1 )論理構成

理論モデルを用いる場合には、まず、採用するモデルと仮定を決める必要があります。仮定を決めると、モデルの内容が定まります。また、主張が妥当性を持つ範囲も決まります。この手続きが、レポートの論理構成を規定します。
そのうえで、論理展開が明瞭になるように書き進めることも大切です。論理的と評価されるレポートを書く手だてとして、本学では、パラグラフ・ライティング(パラグラフを使って文章を書くこと)を推奨してきています。
今回は、創価大学学士課程教育機構が発行している『レポート作成の手引き2023年度版』(レポート作成の手引き2023年度版編集委員会編、2023年)に準拠して、次のようなレポート構成を考えます。

 

序論 : テーマの背景 ⇒ 問題提起(問い)⇒ 本論の予告と主張の提示
本論 : 題目文       ⇒ 補足文⇒ まとめ文(省略することも多い)
結論 : 主張の再提示 ⇒ 本論のまとめ   ⇒ 今後の課題・展望

 

序論と結論のパラグラフの構成は、本論のパラグラフとは異なります。この点には、注意が必要です。なお、序論・本論・結論はレポートの主題・解説・まとめと言い換えることができます。この趣旨に合致している限り、書き方については、柔軟に考えることもできると思います。ただ、標準的な書き方を認識しておくことは大切なことです。

( 2 )文章作法

レポートでは、学術的な文章に適した表現を用いる必要があります。客観性、正確性、中立性に留意します。「です・ます」調(敬体)ではなく、「である」調(常体)で書きます。話し言葉ではなく、書き言葉で書きます。

( 3 )原稿作法

書き出しと行替え時には、一文字空けます。句読点など行頭禁則文字は、行頭に来ないように工夫します。

( 4 )引用・参考文献

参考文献リストは、著者名の 1 文字目の五十音順で列記します(英語文献の場合はアルファベット順)。一つの文献情報の文字数が 2 行以上になる場合は、2 行目以降の文字を下げて書きます。書籍等の発行年は、増刷になっても初版の発行年を記載します。

3.レポート例と演習問題

以下、仮のレポート課題、課題解説とレポート例を提示します。レポート例が課題解説の要請と2節で示したチェックポイントをクリアーしているかを確認してみてください。その一助として、演習問題も併記しています。なお、専門的な内容を理解するためには、別途、相応の学習が必要です。今回は、あくまでも、文章作法・原稿作法の観点に注意を払ってもらえればと思います。

課題文   変動相場制のもとで、国境を越えた資本移動が活発に行われている状況を想定する。貨幣供給量増大の効果は、海外との金融関係によって、どのような影響を受けるであろうか。IS-LMモデルを開放経済に拡張して論じてみよ。

課題解説

<教科書の対象範囲>
第〇章第△節に関する応用問題です。

<出題の意図>
授業で学んだ内容を、標準的なレポート構成に従って、整理して表現できるかを問うています。このレポートにおける主張は、あくまでも授業で学んだ一般的な主張に限定してください。

<考察の条件>
( 1 )「はじめに」で序論を書いてください。本論は、「モデル」、「貨幣供給量増大の効果」の順で書いてください。「おわりに」で結論を書いてください。
( 2 )序論では、テーマの背景、問題提起(問い)、本論の予告と主張の提示を書いてください。
( 3 )結論では、主張の再提示、本論のまとめと今後の課題を書いてください。
( 4 )議論の筋道が明瞭となるように、曖昧で余計な解説は書かないようにしてください。
( 5 )図に紙幅を取りすぎないようにしてください。図は丁寧に書かれていれば、手書きでも構いません。
( 6 )貨幣供給量の増大が「一時的」と予想される場合と「継続的」と予想される場合の異同が明確になるように、論じてください。

【演習問題】

次に示すレポート例の網掛けとアンダーライン(3節では図を加える)が示す箇所に対応する最も適切な語句を、次の語群から選んでください。

 1 節:網掛け()アンダーライン()
 2 節:網掛け()アンダーライン()
 3 節:網掛け()アンダーラインと図()
 4 節:網掛け()アンダーライン()

 (語群)
 ア:テーマの背景イ:問題提起(問い)ウ:本論の予告と主張の提示
 エ:題目文オ:補足文カ:(パラグラフの)まとめ文
 キ:主張の再提示ク:本論のまとめケ:今後の課題・展望

<レポートの例>

1.はじめに
国境を越えた資本移動が活発に行われている場合、海外との金融関係は自国経済の動向を左右する重要な要因となる。経済政策の効果にも何らかの影響を及ぼすと考えられる。例えば、貨幣供給量増大の効果は、海外との金融関係によって、どのような影響を受けるであろうか。本レポートでは、IS-LMモデルを開放経済に拡張して、モデルの定式化を行う。そのモデルを用いて、次の結論を導いている。貨幣供給量の増大は、自国通貨安を引き起こして、純輸出を増大させる。これが、貨幣供給量増大による均衡産出量増大効果を増幅する。この増幅効果は、貨幣供給量の増大が「一時的」と予想される場合よりも「継続的」と予想される場合のほうが大きくなる。

2.モデル
物価P一定、予想物価上昇率ゼロ、資産効果を考慮しないIS-LMモデルを開放経済に拡張する。議論の単純化のため、租税Tは一定とする。また、自国の動向が、海外の物価P*、産出量Y*、利子率r*に影響を及ぼすことはないものとする。
生産物市場では、産出量Yが総需要(消費C+投資I+政府支出G+純輸出NX)と均衡するように調整されると考える。消費は可処分所得(産出量-租税)の増加関数、投資は利子率rの減少関数、政府支出Gは政策変数である。純輸出NXは実質為替レートeP*/P(したがって自国通貨建て為替レートe)の増加関数、産出量の減少関数、海外産出量の増加関数である。以上から、生産物市場均衡式(IS曲線)は、Y=C(Y-T)+I(r)+G+NX(eP*/P,Y,Y* )と表現される。
貨幣市場では、マネーサプライMが政策変数で、実質マネーサプライ M/Pと実質貨幣需要Lが均衡するように利子率が調整されると考える。実質貨幣需要は、利子率の減少関数で産出量の増加関数である。貨幣市場均衡式(LM曲線)は、M/P=L(r,Y) と表現される。
自国と海外の債券は完全代替的で、先物カバーなしの金利平価式 r=r*+(eE-e)/e  もしくは e=eE/(1+r-r*)が成立すると考える。予想為替レートeEは、来期の均衡為替レートを合理的に予想して決まるものとする。貨幣供給量増大が一時的と予想される場合、来期の均衡為替レートは貨幣供給量増大前の水準e(前期)に戻ると考えられる(eE=e(前期))。継続的と予想される場合は、来期の均衡為替レートは貨幣供給量増大前の水準よりも高くなると考えられる(eE>e(前期))。もし、長期的に継続する(恒久的)と予想される場合には、来期の均衡為替レートは今期の均衡為替レートに等しくなる(eE=e>e(前期))。

3.貨幣供給量増大の効果
2節のモデルを用いて、貨幣供給量増大の効果について考察を行う。 
貨幣供給量増大が「一時的」と予想される場合、貨幣供給量の増大は、利子率の低下と自国通貨安を引き起こし、均衡産出量を増大させる。貨幣供給量の増大は、LM曲線を下方にシフトさせて当初のIS曲線に沿った変化を引き起こす。利子率の低下によって投資が増大し、均衡産出量を増大させる効果を持つ。国境を超える資本移動が活発に行われている場合には、自国利子率の低下は資本流出を引き起こして自国通貨安(eの上昇)を引き起こす。自国通貨安が純輸出を増大させるのでIS曲線は右にシフトする。これが、均衡産出量を増大させる効果を増幅する。これら動向の概要を均衡点の変化で示したものが、図1である。
貨幣供給量増大が「継続的」と予想される場合、貨幣供給量の増大は、「一時的」と予想される場合よりも自国通貨安を進めて、均衡産出量を一層増大させる。貨幣供給量の増大が、来期の均衡為替レートについての予想を自国通貨安(外国通貨高)へと変化させるからである。来期の自国通貨安が予想されると、今期の自国通貨売り・外国通貨買いが促される。金利裁定式を成立させる為替レートは、任意の利子率のもとで、より自国通貨安となる。自国通貨安は純輸出を増大させる。したがって、IS曲線の右へのシフト幅は拡大する。これが、均衡産出量を増大させる効果を増幅する。これら動向の概略を(貨幣供給量増大が長期的に継続すると予想される場合に即して)均衡点の変化で示したものが図2である。

4.おわりに
以上から、次の結論を得た。国境を越えた資本移動が活発に行われている場合、貨幣供給量の増大は、自国通貨安を引き起こして、純輸出を増大させる。これが、貨幣供給量増大による均衡産出量増大効果を増幅する。この増幅効果は、貨幣供給量の増大が「一時的」と予想される場合よりも「継続的」と予想される場合のほうが大きくなる。本レポートでは、IS-LMモデルを開放経済に拡張して、モデルの定式化を行った。そのうえで貨幣供給量増大の効果が、海外との金融関係によってどのような影響を受けるかを検討した。
貨幣供給量増大の効果は、やがて物価にも及ぶはずである。この点を射程に入れて考察を行うことは、今後の課題である。(1880字)

参考文献
佐々木百合(2017)『国際金融論入門』新世社
藤井英次(2013)『コア・テキスト国際金融論』新世社
ブランシャール,オリヴィエ(1999)『マクロ経済学(上)』鴇田忠彦・知野哲朗・中泉真樹・中山徳良・渡辺慎一(訳)、東洋経済新
報社

【解答】1節:(イ) (ウ)、2節:(エ) (カ)、3節:(エ) (カ)、4節:(キ) (ケ)

4.注意点です。

原稿作法・文章作法の評価項目は、次の4つでした。
①「論理構成の観点」から全体を俯瞰してどの程度推敲ができているか
②「文章作法の観点」から分かりやすい文章になっているか
③「原稿作法の観点」からアカデミックなルールや型をどこまで順守しているか
④「引用参考文献」(本文中と文末のリスト)の推敲がどの程度できているか

 

今回は、各評価項目について、一つのレポート例に即して、いくつかのチェックポイントを具体的に確認してみました。
チェックポイントについての網羅的で詳しい説明は、自立学習入門の教科書やレポート作成講義の『講義資料』に示されています。レポート作成に際しては、それらも、ぜひ、参照してください。
なお、大学で学ぶ学問領域も科目も多様です。学習成果の報告書であるレポートの書き方についても、担当教員が、さまざまな配慮の下で考えられています。授業や課題解説で示される方針や要請にも、十分な注意を払ってもらいたいと思います。

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