自立学習入門講座61
「論の組み立て:報告型と論証型」
レポートは、「報告型」と「論証型」に大きく分けられる。「報告型」は、ある特定の話題に焦点を当てて、参考資料を調べ、整理して解説するものである。それに対して、「論証型」は、あるテーマ(論点)について、必要であれば複数の資料を調べ上げ、自分の意見はどうなのか、判断を下す。データをもとに根拠を示し、自分の意見の正しさ・確からしさを主張するのが、「論証型」である。
たしかに報告型と論証型とでは、論の組み立て方や執筆における作業の優先順位が異なる。論としての基本はおなじであっても、報告型であれば、事実関係の収集と整理に重点が置かれる。論証型であれば、問題を明確に提起することが重要であり、問題提起を中心に現状分析や仮説の設定などを試行錯誤する。したがって、レポートを執筆するときの構成も異なってくる。
ここではまず、レポートの課題をいくつかのパターンに分けてみよう。自分に与えられた課題がどのパターンのものなのかを知ることが大切だ。課題のパターンによって、レポートの目的や構成が決まってくるし、レポート執筆作業の段取りも変わってくる。
(イ)読んで報告するタイプ
例えば、梅棹忠夫『文明の生態史観』中公文庫の「生態史観から見た日本」を読み、要約しなさい。
(ロ)調べて報告するタイプ
例えば、ポストコロナを見据えた働き方改革の現状と課題について、調べて報告しなさい。
(ハ)問題が与えられたうえで論じるタイプ
例えば、憲法改正の何が問題なのかについてあなたの考えを自由に展開しなさい。
(ニ)問題を自分で立てて論じるタイプ
例えば、国連改革・安保理改革にかかわるテーマについて自由に論じなさい。
この中で最も大変なのは、もちろん(ニ)だ。つまり問いを自分で立てて論じる論証型の課題である。でも、どんなレポートを書くにしても、自分の主張の論拠には、いろいろな資料や統計を調べたり、先行研究や批判しようとする相手の主張をまとめたりする作業が不可欠である。
このように論の組み立てを検討するうえでは、報告型と論証型の二分類が基本である。ただし、実際にレポートを執筆するときには、これらのタイプのどれか一つで決着がつくわけではない。ここに示したタイプは、あくまでも基本型として覚えておくべき型である。
以下、ここの基本型を示してみよう。
大学の教養課程で書かされるタイプのレポートでは、文献調査報告型が多い。これは要するに、何らかの事項を文献的に調べてまとめるタイプである。とはいっても、ただ単純に調べて出させる場合は少ない。それだと、それこそインターネットのコピペで済んでしまうからである。
文献調査報告型には、次の論証型に近いものも多いかもしれない。自分の考えを求められることもよくある。そのような場合は、ある程度調べたうえで、自分の意見を加えなければならない。ただ自分の感想を書くのではいけない。テーマに関する代表的な議論を踏まえて、それを分析・評価する形で自分の意見を述べなければならない。
そこで、報告対象となる調査(あるいは考察)の問題設定は当然必要なので、それを含めて次の4パートが基本となる。
1.調査テーマの概要 ①テーマの概要 ②テーマの歴史・語源 ③テーマの基本概念
2.テーマの構造説明 ①テーマの構造 ②テーマの構成要素説明 ③主要議論紹介
3.調査テーマの考察 ①主要議論の分析評価 ②テーマに対する自分の考え ③分析結果の総括
4.調査文献一覧
これは論の基本「序・本・結」の3部構成の変形である。1.の調査概要が現状分析と問題提起である。調査の目的が問題提起にほぼ相当する内容だ。2.の構造説明は主張に対応し、3.の考察は総括そのものである。論を形成する以上、内容的な展開は論の基本3部構成と一致するのは当然だ。
さらに、報告型レポートを記述するときに最も留意する点は“FAO” とよばれる3要素の区別である。このタイプのレポートでは、自分が調べた事柄、調査結果をもとに分析した事柄、考察した結果たどりついた意見などを記述する。なにが事実でなにが意見なのかを区別しておかないと、報告内容が正確には伝わらない。逆に、この区別を意図的にあいまいにした表現が、一般には「詭弁」と呼ばれるレトリックの代表例だ。論証型でも同様だが、正確に記述するためにはFAO の区別は不可欠である。FAO とはすなわち次の3要素である。
“F” 要素 :客観的な事実(Fact)
“A” 要素 :事実にもとづいた分析(Analysis)
“O” 要素 :自分自身の意見や感想(Opinion)
市販のレポートを書くノーハウ本では「事実と意見」の区別を明確にするようにと教えている。事実とは、客観的に真偽が判断できる内容を指す。意見とは、客観的に真偽が判断できない内容を指す。すなわち、意見は主観的なものだ。意見に客観性を持たせるためには、「事実」を根拠として論理的に述べる必要がある。また、他人の意見は出典を明記し、自分の意見と区別するようにする。出典がなければ、誰の意見かが分からなくなる。そして論の組み立てにおいては、根拠のない一方的な意見表明を排除するのが当然の態度であるから、意見=理論にもとづいた合理的な結論、すなわち分析結果と見なすことができる。つまり、FAO のうちのA とO を一つの要素として取り扱うのだ。
FAO の区別を理解するために、ひとつの例をあげて説明してみよう。
「現在、地球には200以上の国家が存在する。それぞれの国家で異なった文化や宗教が存在すると考えられる。文化や宗教には優劣がなく、全てを同一の物差しで推し量ることは不可能である。」
一文ずつ事実か意見かを検討していく。
・現在、地球には200以上の国家が存在する。
→ 事実であり、断定表現なので適切。
・それぞれの国家で異なった文化や宗教が存在すると考えられる。
→ 事実であるが、断定表現になっていないので不適切。
・文化や宗教には優劣がなく、全てを同一の物差しで推し量ることは不可能である。
→ 意見であるが、断定表現になっているので不適切。
よって、以下のように校正する必要がある。
「現在、地球には200以上の国家が存在する。そして、それぞれの国家で異なった文化や宗教が存在する。本稿では、文化や宗教には優劣がなく、全てを同一の物差しで推し量ることは不可能だと考える。」
FAO は文体によって区別をつける。通常、文末は次のように表現する。
“F” の文 「だ・である」調で言い切る。
“A” の文 「……と考えられる」のように受動態表現を基本とする。
“O” の文 「……と(私は)考える」のよう意見の主体を明示し能動態で表現する。
事実は推測の余地が存在しないのだから、「だ・である」で言い切る。「……であろう」「……のようだ」といった推測を示唆する表現は不自然だ。不確定の部分が存在するときは、断定できないという事実を明確に表現すべきである。
分析をあらわす文では「……と考えられる」と受動態で表現する。「……と考える」と記述した場合、「考える」主体は執筆者自身だ。このような文は書いた人の主観を示したと解釈できてしまう。分析である以上は、誰が考えてもおなじ結論になるはずなので、このような解釈はさけなければならない。「……と考えられる」という表現は、「誰もが……と考える」の受け身のかたちでもあるが、日本語の論述では「誰もが……と考える」という表現を客観的分析の文にはあまり使わない。ゆえに、主体を省略可能な受け身の表現によって客観性を示唆するのである。
意見の提示では、「(主体)は……と考える/ 推測する/ 提案する」のように、主体を明示し行動を能動態で示す。意見では、誰が主張するのかも重要なメッセージとなるので、主張の主体を明示しなければならない。そして主体=主語に対応する結びの語で文を終える。
実際、読み手がFAOを意識すれば、それが事実なのか意見なのかを区別するのは可能だ。正確さが最優先される論文・レポートでは、FAO の区別は厳密におこなわれなければならない。意見であれば、かならず主体を明記するのが鉄則である。
なにかを論じるときの基本は、設定した問題に論証を加えて結論に導くことである。これは論文であろうとレポートであろうとおなじだ。章立てによって細かな構成に違いが出てくることはある。しかし、その基本線にかわりはない。問題設定の明確さ、検証の的確さが論の構成には不可欠だ。
どのようなテーマであれ、論の内容は次の4つのパートで構成される。
1.現状分析 :問題をとりまく背景と現状
2.問題提起 :設定された問題の詳細
3.主張 :証明すべき主張(仮説)とその根拠
4.総括 :論の総括と意見
1.の現状分析と2.の問題提起パートによって論ずるべき問題を明確に設定する。問題提起とはすなわち、テーマに関して書き手が注目する問題点を示すことにほかならない。しかし、なにが問題であるのかを示すには、現状の批判的な分析が不可欠である。ここでは最低限、次のことをやっておかなくてはならない。★で示しているのは必須項目だ。
★ 問題の提示、つまりどういう問題に取り組むのか。
★ 問題の説明、その問題がどういうものであるのか、もう少し詳しく説明する。問題に含まれる用語や概念を解説することも含まれる。
・ 問題の背景、どうしてその問題が生じてきたか、その現状分析。いつからその問題があるのか。自分が見つけた問題なら、どうしてそのことが問題だと気付いたのか。
・ 問題の重要性、その問いに取り組むことにどんな意義があるのか。
・ 問題の分析、つまり、問題が大きなときはいくつの問いに分ける。
3.の主張パートでは、提起された問題に対する書き手の主張を論証する。主張とは、自分の意見や持論を他に認めさせようとして、強く言い張ることである。ただ、レポートの場合は、主張にはきちんとした根拠がなくてはならない。自分の主張とは、自分の中にある明確な問題意識が前提にあってできるものなのだ。そのため、レポートにおける主張とは、先行研究の熟読の中から出てくるべきものなのである。単に自分はここが問題だと感じていてこうすれば解決すると主張するだけでは意味がないのだ。
ここでは、次のようなことをする。★で示しているのは必須項目である。
★ 問いに対する自分の答えを論拠を挙げて論証する。
・ 論拠に何らかの調査結果を用いたら、その調査の方法、調査の結果として得られたデータ、データの分析方法、分析結果の解釈などを説明する。
・ 論拠に他の人の研究結果や論文を使ったなら、引用、その人の見解の要約、その人の見解の妥当性の検討、さらにその検討のための論拠などを示す。
・ 自分の見解とほかの人の見解との比較をする。
・ これまでの研究の流れの中に自分の主張を位置付ける。
ここでいう要約は文章を一様に短くすることではない。むしろ、文章を「問い+答え+論拠」の形で再構成すると言ったほうがいい。特に読んで報告する報告型の課題に取り組むとき、①筆者はどういう問題を立てているのか、②筆者はそれにどう答えているか、③筆者は自分の答えのためにどのような論証をしているのか、の三点だけをおさえて報告すればよい。
4.の総括パートでは、それまでの総括として現状と問題をまとめ、自分の主張を再確認する。この部分では、あたらしい事実や分析を加える必要はない。主張の裏付けは、前のパートで終わらせておくのが基本だ。結論部分で述べることは、主張の意義、場合によっては自分の主張だけでは解決しきれない課題、今後取り組むべき事柄などである。総括パートの最大の役割は、主張の意義や位置づけを明確に評価することだ。
ここまでは報告型と論証型の基本型について説明した。いずれにせよ、レポートの基本構成は序論・本論・結論である。実際の章立てはテーマによっても書き手の方針によっても異なってくるが、大枠はこの3部構成が基本だ。この構成はレポート一般に適用される書式なのである。両パターンの論の基本4パートとの対応は次のとおりだ。
序論:現状分析・問題提起、主張の概略
本論:テーマの構造説明、主張の詳細、理由・根拠、例証、論証
結論:総括
引用・参考文献一覧
また、レポートは、原則としては、パラグラフ構造で書く。ここで、『自立学習入門』第6章「レポートをいかに書くか」で学んだレポートの論理構成を思い出してみよう。レポートの本文は、序論にレポート全体の概略が示され、書き手がこのレポートで主張したいことが示されるのだ。つまり、この部分はレポート全体の導入パラグラフである。そして、本論では序論で書いた自分の主張の根拠を示す。簡単にいうと「序論部分で自分の主張を書いたんだから、その主張を読み手の教員を納得させる根拠を本論部分に書いて!」である。形式上は5~8のパラグラフで構成する。そして、結論は、結論パラグラフだ。序論で述べた主張が、ここでもう一度整理した形で示す。
(参考文献)
江下雅之研究室(2009)「パラグラフ・ライティング」、www.eshita-labo.org/seminar/(2022/5/1閲覧)
戸田山和久(2013)『新版 論文の教室―レポートから卒論まで』NHK出版
+.――゜+.――゜+.――゜
新しく学光ポータル「学修支援だより」が
開設されました!
皆様の感想をお寄せください。
Email:tk-gakkou@soka.ac.jp
+.――゜+.――゜+.――゜
Search-internal-code:faculty-profiles-2017-