「新しい経済」に求められるもの-「慈愛」という価値
経済学部長 高木 功
人の経済活動には、必ず3つの価値の実現が含まれています。「自由」「正義」「慈愛」という価値です。これはアリストテレスの哲学を研究しThe Values of Economics(2001)(『経済学における価値』)を著したアイリーン・スタヴェレンの主張です。ここでいう「価値」は、何かのために役に立つような手段的価値ではなくそのもの自体に価値があり、人間らしく生きるために実現すべき「本来的な価値」を意味します。私たちの日常的な経済活動はこの3つの価値へのコミットメントからなります。
「自由(freedom)」の価値は自己の能力によって実現される「個別的/個人的価値」であり、「市場」における自由な交換によって実現されます。「正義(justice)」は全ての人に等しく保障されなくてならない「公共的価値」です。主に「国家」による資源の再分配機能によって実現されます。「慈愛(benevolence)」はケア(care)、愛、慈善、他者への責務という「人間と人間の間に生まれる価値(interpersonal value)」です。家族や地域コミュニティに見られる相互扶助、贈りもの、贈与による人と人の繋がりによって実現される価値です。
現代は「自由」な市場に過度な価値をおく「自由市場経済」か、国家による資源の配分に正義と平等の実現を見る「社会主義経済」の間で揺れてきました。実はもう一つの価値「慈愛」と「必要」が原動力となっている「ケア経済」の可視化と制度化がなおざりにされてきました。新しい経済に求められるのは、「ケア経済」の活性化と「慈愛」という価値の実現です。他の人々のお世話(care)になって初めて人間として自己の存在が保障されていることに気づけば、他者への感謝と責務が生まれます。他者の幸福を支えることを使命とする「慈愛」という価値の実現と制度化が新しい経済には求められています。
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